イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ゆびさきと恋々:第1話『雪の世界』感想

 親切のように静かに降り積もる恋が、暖かく繋がり燃え広がる。
 日曜日はスーパーときめき胸キュンタイム!
 少女漫画の超王道を全力で突っ走る、美しくも力強い純愛物語の第一話がズドンと着弾。
 ハンディキャップ・パーソンを主人公に据えるということで、正直かなり構えて見始めたのですが、圧倒的な地力でこっちの心臓を高鳴らせてくる素直な強さだけでなく、聴覚に背負った障害をヒロインがどう受け止めているのか、それが彼女の人格をどう練磨し世界と繋げているのか、構えることなく自然に……美麗ですらある筆致で削り出してくれていて、大変良かったです。
 主人公である雪ちゃんのナイーブでチャーミングなキャラクター性もとても好きになれたし、俺の前頭葉にある少女漫画野から直接えぐり出したような逸臣さんのスーパー色男っぷりも、ド直球故に力強く胸を打った。
 運命の出会いから始まる恋と、それに胸焦がすうちに変わっていく景色に強い期待をいだける、とても素敵な第1話でした。

 

 つうわけで年が明ければ万人に湧き上がる、『心の底から、純少女漫画テイストを吸い込みてぇ……ときめきてぇ……』って願いに、フルパワーで答えてくれる今作。
 ちょっとぶっきらぼうで心の底から優しい、乙女の夢を削り出し加工して生み出されたようなナイスガイとの偶然の出会いから始まるこのお話は、細やかな仕草の付け方、心理の揺れとシンクロする演出、繊細な色彩と光の表現、素敵な日々を彩るファッションと風景などなど、アニメの全領域がしっかり作風に合わせてチューンナップされており、高い品質がが有機的に繋がり、作品に生きている感じを受けました。
 乙女のときめきを一心に吸い寄せる、特別な男と出会った時世界は一瞬でスローモーションになり、美しい光が眩しい輝きを強める。
 ベタな表現といえばそうなんですが、それがありきたりではなくその瞬間の特別さを切り取るように、個別にひねり出されて差し出されている手応えを、しっかり感じることが出来ました。
 やることスタンダード(だからこそ面白い)話だとは思うので、どんだけベタにやってどんだけ新奇な風通すかのバランス感覚はかなり難しいと思うのですが、さすがの村野監督&亜細亜堂、ココしかないというバランスにしっかり落とし込んでいました。

 とにかく色彩が良いアニメで、ふわっと柔らかいトーンで全体をまとめつつ、障害故に世界に壁を感じている雪ちゃんの内心を反射して、ナイーブに冷たくやる部分も抜かりなくまとめてくれていました。
 音響にも気が使われていて、トキメキが高鳴る場面ではロマンティックな劇伴を生かしつつ、けして言葉になることはない雪ちゃんの内面を切り取るときは、モノローグが映えるよう……彼女が身を置いている世界を感じ取れるよう、精密に静寂を生み出してくれてもいました。
 雑音を吸い込む雪の季節に物語が始まるのが、主人公の名前と合わせて大変良い滑り出しで、静かで孤独な場所に立っているようでいて、かなり気をつけて周りの音を”見ている”雪ちゃんの世界が、しんしんと降り積もる雪の音と重なり、シンクロ率が高かったです。
 静かな場面が印象的だからこそ、逸臣さんのスーパーイケメンムーブで胸高鳴る瞬間、雪ちゃんがどんだけ体温上げているかを見てるこっちも感じられて、ここら辺のメリハリも凄く良かった。

 

 雪ちゃんを障害に呪われた可哀想な犠牲者とも、聖痕を刻まれた特別な存在とも描かない、力みのない描き方も好きで。
 彼女自身が語っているように、同年代の少女と同じようにおしゃれと友だちと勉強に夢中で、素敵な出会いを求めている当たり前の女の子……でありながら、確かに聴覚にハンディがあることは彼女の在り方に、大きく影響してもいる。
 雪ちゃんがとってもオシャレなことが、ただ見ているものの目を楽しませるアクセサリーではなく、自分の特性と社会の対応に日々悩みつつも、前髪鏡の前で整えて好きになれる自分を作ろうと頑張っている、等身大の前向きさを照らしてもいました。
 この力まないけど確かにハンディとともに生きている感じが、逸臣さんがその差異に細かく気づき、スルッとケアし、発生言語以外の豊かな言葉を持っている(からこそ、ときめきを過剰なまでにモノローグする)雪ちゃんの世界へ、ジェントルに踏み入っていく姿勢ともよく響く。
 ぶっきらぼうに見えて、逸臣さんが雪ちゃんの障害に偏見持たずするりと対峙して、一人間として優しく接している感じは第一話から既に見て取れていて、可愛い主人公が惚れ込む男の子が、素敵な人でいてくれてよかったです。
 ここがハマらないと、色々キツイからなラブロマンス……。

 逸臣さんが言語に興味と適正の高い人だっていう設定が、”手話”という新たな言語に興味を持って、雪ちゃんの静かな世界へと入っていく鍵になっているのが、キャラが背負った要素をドラマに活かしてる感じでした。
 明るく前向きに生きようとしている雪ちゃんが、しかしナイーブに自分が異物になるしかない社会の様子、そこに身を置いている他人の顔を見ている様子もしっかり描かれたので、顔を上げさせてくれる誰かをずっと待っていた健気な女に子に、待ち望んでいた運命がやってきた感じが強くして良かった。
 ここら辺、劇的にやりすぎるとクドくなっちゃうんですが、ベタにやるからこその強さを最大限ぶん回しつつ、胸焼けしない絶妙なバランスと爽やかさを随所に保ってくれて、めっちゃ素直に体温上がりました。
 聴覚にハンディがあるだけの、等身大の19歳がどう考えても普通ではないスーパーロマンティックに出会い、飾りすぎないけど素敵な物語が始まっていくんだという、作品特有のサイズ感と雰囲気、しっかり伝わるスタートでした。
 雪ちゃんの音のない世界が、内面を言葉に綴り潜っていく少女漫画的繊細さとしっかり噛み合って、作風を初手から伝えてくれる第一話になったのも良かったなぁ。
 あと親友りんちゃんがスーパーチャーミングであり親身に雪ちゃんを手伝ってくれる人で、辛いことが多いだろうこの子の人生にいてくれてありがとう過ぎる人だったの、ほんと良かった。
 かわいい人、いい人がたくさん出てくれるアニメを見れると……嬉しいッ!!

 

 というわけで、欲しいところに欲しい物をブチ込むべく、素晴らしい仕上がりで最高のアニメを叩きつけてくれる第1話でした。
 『コレコレ、こういうの!』と小躍りできるようなお話は、フツーにありもの並べて出来るもんじゃ絶対なくて、メチャクチャ気合い入れてしっかり仕上げた上で、その力みを見せないよう角を取った上でトータルバランスを整える、奇跡の産物なんだなぁと思い知らされる、とても良いアニメでした。
 雪ちゃんがどうなっていきたいのかとか、物語に関わる他の人達とかは先の話として、主人公とその憧れがどんな世界に生きていて、どんな難しさと幸せをお互いの視界に入れ、豊かな音と色を生み出しながら恋をしていくのか、しっかり教えてくれたのが、作品との出会いとしてとても良かったです。 

 超王道ときめきストーリーの、真ん中を背筋を伸ばして堂々進む。
 『その資格我に在り』と、作品自体が証明するスタート……こっから先も期待するしかねぇ!
 とても面白かったです。
 次回も楽しみッ!!