イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ダンジョン飯:第2話『ローストバジリスク/オムレツ/かき揚げ』感想

 愛妹救済の大義はあれど、旅路の途中は美味しく楽しく!
 命がけの激闘も罠も、料理に活かしてハッピー冒険者ライフ、ダンジョン飯アニメ第2話である。
 導入も終わって冒険本格始動、手際よく原作を料理して展開を圧縮しつつ、パーティーメンバーの尖った個性と優れた能力を、賑やかに明るく見せる回となった。
 イカれてるようで魔物生態学と剣捌きは確かなライオス、どんくさいし空回るが一生懸命なマルシル、クールながら血の通った罠のスペシャリストチルチャック、食に真剣すぎてヤバいセンシ。
 ドッタンバッタン忙しい運命に導かれ、運命共同体(パーティー)となった面々の何が得意で、どこがダメなのかを、僕らに改めて教えてくれる短編三話である。

 人間が四人集まれば軋轢やら衝突もあるわけで、お互いをよく知らない寄せ集めならなおさら。
 『魔物食い』という異文化も混ざってきて、ともすればシリアスなぶつかり合いになりそうなところを、明るく楽しく……そして美味しく描くのは作品の良さである。
 ”飯を食う”という、人間が生きている以上必ずついて回る営み(あるいは喜び)を物語の真ん中に据え、それが食卓に上るまでの過程を含めて美味しそうに描くことで、仮想のダンジョンを進むパーティーに活気を与える。
 奇怪な魔物に危険な罠……迷宮の挑戦者たちに立ちふさがるアレソレもしっかり描くことで、冒険者稼業がどういう日々を過ごしているのか、作品の分解能も細やかになっていく。
 魅力的で力強い導入でもって、ダンジョンに引きずり込まれた視聴者を豊かに歓待してくれる、とてもいい第2話だった。

 

 というわけで、いろんな魅力があるこのアニメ。
 キモである食事シーンに目が行きがちだが、その周辺にあるよしなし事を蔑ろにしているわけでは勿論なく、むしろ迷宮探索に付きまとう色んなアレソレを丁寧に、手際よく描くことで、飯を食う人間、人間に食べられる食事も輝きを増していく。
 今回で言えばバジリスクやマンドラゴラ、大コウモリといった魔物たちの危険な生態とか、ダンジョンを埋め尽くす罠とか、相当命がけでダンジョンを進んでいる手応えが、グルメコメディの中にしっかりあった。
 バジリスクに蹂躙される初心者冒険者を出すことで、その生態学的特徴を逆手に取り、阿吽の呼吸で斬り伏せる戦士チームの頼もしさなども際立つ。
 随分イカれた角度からダンジョンに挑んでいるが、そもそもライオスたちは火竜と対峙できるほどの強者であり、しかし殺気立って殺し殺されしてるだけで終わらない、人間味も有している。

 ここら辺の、一般的な冒険者像からの逸脱は誰かが用意した迷宮攻略のスタンダードを、堂々ハックしていく力強さにも繋がる。
 モンスターは殺すだけ、罠は踏み潰すだけ。
 そういう殺伐とした迷宮とのコミュニケーションから、魔物を食い罠を調理道具に変えるライオス一行は外れた場所に立っている。
 今描かれている明るく楽しいドッタンバッタンが、リアルな迷宮経済においてはむしろ例外であって、もっと生臭く血腥い”人間らしさ”が面白くもなく、ダンジョンには漂っていると、次第に書かれていく。
 そのイヤ~な現実を乗り越えていく頼もしさの前奏として、人殺しの罠を最高のフライヤーに変え、命がけの闘争をありがたく胃に収めるヘンテコ冒険者の姿が、今回は鮮烈だった。
 フェリン救済という一大事にせっつかれつつも、魔物メシをただの栄養補給で終わらせず、より美味しく楽しく頂こうとする余裕と野心がしっかり描かれているの、人間性を無自覚に保ちながら進んでいる感じがあって良いんだよな……。
 マンドレイクの下処理で味が変わると、グルメっ面で論評してるの『やっとる場合か~~』なんだけども、目血走らせて目的のためだけに迷宮駆け下るお話は、見ててもあんま面白くないだろうしね。

 

 そんな逸脱車中の逸脱者が、過酷な迷宮を逞しく生き残っていくためには、お互いのダメな部分も顕にして毒抜きし、美味しく食べていく必要がある。
 人の心がわからないライオス、熱意が空回りしがちなマルシル、クールな距離感を保とうとするチルチャック、ドワーフらしい頑固が顔を出してきたセンシ。
 性格的に尖った部分がある連中が、アタマ突き合わせて一つの探索有機体としてお互いの機能を組み合わせ、ダンジョンを踏破していく。
 彼らが”パーティー”である……あるいは”パーティー”になるためには、ドタバタ騒がしい迷宮事件を共にくぐり抜け、時にぶつかり合い本音を吐露しながら、お互いをわかり合っていく必要があるのだ。

 ここら辺の関係構築のドラマが、今回はさり気なくも大変元気で、ただただ映えるメシ食うだけのフードポルノとは一線を画す、食事を中核として人間を描く視点がいきいきしていた。
 このアニメの食事作画、実際に出来上がった料理だけでなくそれを作り上げるセンシの手際、あるいは皆で協力して食材を得る奮戦なんかが、よりご飯を美味しくする隠し味としてしっかり効いている。
 単独のメシが孤独なモノとして食卓に上るのではなく、命の簒奪含めた苦労や工夫があって料理が出来て、それを一緒に食うことで形にならない何かが生まれて、人と人を繋いでいく。
 命がけの冒険の只中で魔物を食うという、ファンタスティックな基本線が、何かと当たり前だと思いこんでしまいがちな食事行為に、一体何が内包されているか異化してくれてる感じもある。

 DEXもCONも明らかに一桁、どんくさエルフのフィジカル弱者っぷりも可愛く描かれ、だからこそマルシルがなんであんなに焦るのか、仲間に自分を認めさせたいのかも理解ってくる。
 罠と料理、お互いの職分を冷徹に切り分けているように見えて、隣り合った生と死は切り離せないものだと、地獄のかき揚げづくりから見えても来る。
 マンドレイクの生み出す錯乱、罠に満ちた危険な場所……命を脅かす脅威にしか思えないものが、分別や気恥ずかしさに邪魔され、なかなか顕にならないものを表に出してもくれる。
 潜って殺して奪って、ハック&スラッシュの王道を行くフツーの冒険者じゃ見えない、厄介で楽しい”隣人”としてのダンジョンそのものを、パーティーがパーティーになっていく様子とともに描いていくのも、また楽しい。
 『ダンジョンは征服するべき敵ではなく、対話するべき隣人』ってライオス一行のスタンス、リーダーが魔物食うイカレじゃなきゃ成立してない視座で、この特異性が主役が唯一迷宮の真実に迫り、事態解決の決定権を握る当事者性にも繋がっているの、面白い作劇だよなぁ……。

 

 何しろ描くものはたくさんあるので、手際よく原作を省略などしつつ三話分駆け抜けたわけだが、センシとチルチャックがブツブツ文句言いつつ隣り合って、お互いの顔と領分を見つめていく場面はむしろ分厚くなってたりした。
 『コイツラ、面白い奴らだな……』と、魔物やダンジョン含めて作品に手を伸ばしたくなるような魅力を、ぐいっと見てる側の襟首掴んで引き込んだ直後、第2話というタイミングでしっかり作れたのはとても良かった。
 どんくさいけど一生懸命、仲間を思って大暴れするマルシルのひょうきんな可愛さはガンガン燃えていたし、センシとチルチャックの凸凹が衝突の後うまーくハマっていく感じも、ホカホカ暖かくてよかった(180℃の煮え油に親指ツッコミつつ)

 パーティーメンバーそれぞれの人間味に、鋭く切り込んでいく手際からライオスだけが取り残されている感じもあるが、まぁアイツはなかなか共感できない魔物狂いであること、主役なのに一番異物ってのが大事なキャラだからな……。
 それでもバジリスクを仕留めた知恵と腕前はいい感じに描かれ、なんだかんだ優秀な戦士なのだとしっかり示しているのは、命がけの冒険譚でもあるこのお話において大事であろう。
 迷宮は隣人ではあっても仲間ではなく、賢く利用し命がけで立ち向かうからこそ、命の現場として迫力を持って立ち上がってくる。
 そこでヌルい関係に堕ちないためにも、戦闘シーンがしっかりしているのは大切なのだ。

 

 というわけで、ライオス一行の珍道中がどんな塩梅で、降りかかる困難を共に乗り越える中でどんな風に絆が育まれていくのか、テンポ良く描いてくれる回でした。
 原作既読者としては、スピーディだけど焦っていないこの語り口で原作を料理してくれると、アニメで見たいものいっぱい見れそうで、大変にワクワクしております。
 短編三話をアニメ一話にまとめて、パーティーメンバーそれぞれの性格や能力、個性の噛み合い方を”第2話”として叩きつける料理法は、大正解だったと思う。
 この後もどんどん面白く、美味しくなっていく迷宮探索を、アニメが一体どんな風に描いてくれるのか。
 次回も楽しみ!