イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

僕の心のヤバイやつ:第19話『僕らは溢れ出る』感想

 嫉妬、焦燥、比較……色んなモノに背中を押されながら、あくまで自分の足で、自分たちの歩幅で、眩い場所まで一歩ずつ。
 お互いの気持にそれぞれの行いがなかなか追いついていかない、もどかしくも愛しい春を描く、僕ヤバアニメ第19話である。

 前回卒業式に宿るエモーションに背中押され、かなり決定的なアレソレがズバンと決まった……と思いきや、京ちゃんと山田のもどかしい間合いはなかなか縮まらず、先輩おらずとも学舎の時間は先に進む。
 部活の打ち上げを思わずストーキングしたり、原宿Wデートにヤキモキしたり、ホワイトデーのお返しをズバッと決めたり、京ちゃんなりのフラフラした足取りでもって、自分が今どこにいるのか、山田杏奈をどこから見つめていたいのか、手づかみ確かめるようなお話であった。
 『もう……出てるだろ”答え”がッ!』と、外野から観測していると言いたくもなるが、心も体も不定形な季節を揺らめいている少年少女にとって”それ”に踏み込むのはなかなかに難しく、しかし確かに手応えはあって、初恋はなかなかに距離感の難しい難問である。
 心が逸るあまりのキモ暴走とか、恋人にはなり得ない異性との対話とか、デートとかプレゼントとか、ここまでの物語でも幾度かあり、しかし今回のようではなかったイベ


ントが積み重なった先に、待っている”答え”。
 ウロウロ迷いながら、確かにそこに近づいていると感じさせる輝く熱量と、まだまだ遠いと思わされる甘酸っぱい迷いが、同時にあって、とてもこのアニメらしかった。 
 前回に比べると肩の力が抜けた日常スケッチだったのもあって、ラブコメの”コメ”が強いのも良かったな……。

 

 

 

画像は”僕の心のヤバイやつ”第19話より引用

 というわけで論を立てる前に、山田杏奈スーパー百面相をまとめてみたッ!
 感情の起伏が激しく、嫉妬や激情をなかなか制御しにくい幼さを、もはや京ちゃん相手に隠そうともしてない山田の色んな顔が、今回はたくさん見られて面白かった。
 モデルとして仕事している時、あるいは家族にすら(家族だからこそ)見せない顔ってのも沢山あるわけだが、そういう自分に出会えることもまた、彼女にとって市川京太郎を好きになった大きな喜びなのだと思う。
 独占欲はつえーわ人の話は聞かないわ、結構めんどくさい人ではあるのだが、根が善良で育ちが良いのでそういう黒い部分が悪い芽の出し方しないというか、周りが事前に摘んでくれるというか……色んな意味で、山田杏奈は幸せな子どもである。
 京ちゃんも山田に出会ってから、自分も知らなかった自分の顔を引っ張り出され、それを気恥ずかしく思いつつも見られて構わない……むしろ見て欲しいと思える特別な誰かが、自分を照らしてくれる体験を重ねてきた。
 万華鏡のごとく光の中、クルクル移り変わる喜怒哀楽は彼らに、自分の心がどこに在るのか、誰とどんな未来に進んでいきたいのか、教える鏡になっていく。
 泣いたり笑ったり圧出したり、色んな顔をする自分たちを、山田杏奈は結構好きだと思う。

 

 

 

画像は”僕の心のヤバイやつ”第19話より引用

 『光学と恋の物語』と書くと大変ゲーテ的だが、前回の送辞にもあったように京ちゃんにとって……というよりこのアニメにとって、光は大変重要なモチーフだ。
 ”陰”キャだった彼は図書館での触れ合いを通じて山田と親しくなり、だからこそバスケ部男子と何をするものか、気になって後をつけ暗い場所で隣の声を聞く。
 しかし孤独で暗くてヤバい場所から、ヤバい一撃を勝手に投げ込むような距離感は既に通り過ぎていて、結構近かったリア充共の眩さに背を向けているようでいて、足を運んで馴染めぬ自分に気付き、住処たる暗さに彼の光を呼び込んだりする。
 山田が明かりのない、がらんと広い京ちゃんの居場所に踏み込んだ時、一人で盗み聞きしていたときよりも部屋が少し明るく感じるのが、心理を具象に反射させる心理主義の演出で、やっぱり好きだ。

 このお話において光は常に主観で描かれ、人生が明るくなったと感じられる場面において、現実よりも強烈な眩しさでそれは瞳を焼く。
 ドッタンバッタン大騒ぎな原宿Wデートを終えて、ちょうど同じ場所で真心を送りあったヴァレンタインデイの続きをする時、世界はロマンティックに眩い。
 山田の気持ちを込めたマフィンと、同じだけの釣り合いで差し出された”お返し”に埋め込まれた、ロマンティックな仕掛けが表に出てくる時、『山田なら犬、犬なら骨だろ!』と京ちゃんなり考えて贈ったアクセサリが、キラリと輝いているのが好きだ。
 眩い光と出会ってしまって、それによって照らされる自己像に向き合い続けて、眩しい何かを愛しく思っているのは、(既に幾度か確認したように)京ちゃんだけではないのだ。

 

 このお話は光との出会いを通じて、暗く思え遠くに打ち捨てたはずの幼い自分と出会い直し、柔らかな願いを未来へ引っ張っていく成長譚でもある。
 京ちゃんにしても山田にしても、”幼さ”というのはとても大事なものであり、それが反射する鏡としてお互いの身長、体格差はかなりの胸キュンポイントとして、大事に演出され続けている。
 抱きしめる/抱きしめられるという関係性が一方通行ではなく、長い体を折りたたんで……あるいは必死に追いすがるように背伸びをして、歩み寄りながら断絶が埋まっていく様子も、ここまで幾度か描かれてきた。
 山田杏奈の恋心にリードされているタイミングでは、少女はまるで巨人のように少年から遠い場所に立っているのだけど、今まで確かに積み上げてきた体験とか、今日という日を楽しく過ごした手応えとか、消えたように思えてまだまだ元気な自意識の囁きとかに背中を押されて、京ちゃんは引っ込めようかとも考えていた”お返し”を、自分の手で手渡す。
 この時二人の身の丈は平らに均され、あるいは逆転し、溢れ出す思いを導き抱きしめる側へと、京ちゃんは立ち直していく。

 そうやって入れ代わり立ち代わり、自分が眼の前の相手に何をしてあげたいのか……そう考えることで、どういう自分になりたいかを確かめさせてくれる相手の尊さを抱きしめて、一歩ずつ光の在る方へと進む。
 そういうことをずっと続けていたお話であり、これからも続けていくわけだが。
 夕焼けに眩い虹が、少し背伸びして思いやる距離感が、今の自分たちなのだと噛み締めて今日を終えていくまで、迷ったり嫉妬したり比較したり、等身大の笑えるモゾモゾも山程在るのが、楽しくて良い。

 

 

 

 

画像は”僕の心のヤバイやつ”第19話より引用

 渋谷での初デートでは、そらー散々な強がりと背伸びに引っ張られて楽しむどころじゃなかった京ちゃんが、今回の原宿Wデートでは力みを抜いて、周りに立つ人の顔をよく見れている姿が、僕には嬉しい。
 過剰な自意識でもって自分を縛り、頑なで突飛な行動に出る”ヤバいやつ”だった京ちゃんが、恋愛相談まで出来てしまう異性の友達と自然な距離感でもって、豊かに向き合えているのは大きな変化だろう。
 そうさせてくれる手助けを原さんはしてくれていたし、わざわざヤバいやつの人生にかずらって見届けようと思える何かを、京ちゃんは小さな勇気を振り絞って自分の中から引っ張り出しても来た。
 傍から見ていればバレバレな恋愛事情や、雪深いあの日に犬のストラップがなくなり、好きな人のために力強く自分を前に押し出す姿を、原さんはときめきつつ見届けてくれていたのだ。
 そんな、山田杏奈とはまた違った向き合い方と蓄積があって、私服可愛い原さんをごくごく素直に見届け、暖かく隣り合う関係も生まれている。
 そういうモンが、色んな角度と繋がり方で物語にあるのが、俺は好きなのだ。

 この複雑で幸せな人間関係の編み方は、『おめ~マジよ~』と言いたくなるヤバさを炸裂させている神埼くんにも向いている。
 素直で直球すぎるがゆえに、メリハリつかず本気が伝わらない彼のスタイルは、奥ゆかしくも慎重に山田杏奈との距離感を図り、時折キモくなる京ちゃんとは真逆である。
 そこに”男として”の劣等感を煽られたりもするが、素直に尊敬できる気持ちも持ち合わせて、黒い感情渦巻きつつも笑える感じで昇華されていく休日は、あくまで明るく楽しく転がっていく。
 隣り合って本音で喋れる友達が、京ちゃんに出来たのも山田きっかけで生まれた変化の一つであろうし、誰か一人を好きになって、それに向き合える自分でいるために色々頑張るってのは、心地よい副産物を生むものだと、このお話は描く。
 そういう恵みは主役たちに独占されるものではなくて、原さんも神崎くんも京ちゃん達の行いをその目で見て、心を動かされて、誰かをもっと好きになっていく。
 山田と原さんがニコニコ、楽しく原宿を歩いている姿が見れたのは、今回とても嬉しかった。

 

 

 

 

画像は”僕の心のヤバイやつ”第19話より引用

 同時に原さんとの心地よい敬愛に満ちた……しかし特別な光として彼女を選ばないからこそ成立している適切な”遠さ”が刻まれることで、山田杏奈にしかしない、出来ない”近さ”も際立ってくる。
 手を引く/引かれる、手渡す/手渡される、触れたいと望む/望まれる、溢れる気持ちを間近に伝える/預けられる。
 京ちゃんと山田はもはや”友達”に収まらない様々な交流を、相互侵犯的に……また極めて公平に繰り返し重ねていて、お互いの立ち位置を複雑に入れ替え、明け渡しながら向き合っている。
 四人での原宿から二人のホームタウンへ、進み出す時は山田が京ちゃんの手を引っ張り、『何度あっても嬉しい』二人きりが更に親密な距離感へと、勇気を振り絞って手渡してくれたものに報いようと踏み出すときには、京ちゃんがその手を導く。

 直接その掌で、あるいは心を込めてラッピングしたプレゼントでもって、豊かに体と心を叩く間合いの近さは、山田杏奈だけに発露する。
 色んなものへのガードが低い山田だが、触れて良い相手は確実に選んでもいて、誰よりも親密に特別に選んで欲しい相手として、京ちゃんは彼女の瞳に、いつだって眩しい。
 これ以上傷つけられたくないと、心を閉ざした”ヤバいやつ”になることで自分を守っていた京ちゃんが、無防備に素直な気持ちを溢れさせるきっかけは、いつだって山田だ。
 そういう特別な相互照応の中に彼らはいて、世界は光で満ちている。
 それがあんまり眩しいから、山田は京ちゃんの前で良く泣くのだろう。
 思わず泣きじゃくってしまう弱さや柔らかさを、心の奥から溢れ出るものをせき止めなくていい幸せを、引き出し抱きとめてくれる誰かに出会えたのは、やっぱり稀有な奇跡だ。

 

 でもそれは高く遠い天上にではなく、手を伸ばせば触れる身近な実在として目の前にあって、だからこそどう触れあえばいいのか、もじもじと迷いながら一歩ずつ進んでいく。
 そういう二人の距離感が、今週もロマンティックに描かれていて、凄く良かったです。
 時に卑近な笑いも交えつつ、それがすごく透明で眩しいものと同居し、混ざり合ってるからこそ楽しいのだと伝えられるのは、ラブとコメディが隣り合うジャンルだからこそ作れる、とても凄い面白さだと思う。

 小さく、精一杯の勇気と誠実さを振り絞って、前へ前へ。
 まだまだ、京ちゃんと山田の……彼らに隣り合う人たちの青春は続く。
 次回も楽しみだ。