全くもって奇妙奇天烈摩訶不思議、コタツが走り宇宙から押しかけ女房がやってくる友引町に、極彩色の愛が降る。
ボケっぱなしのオフビートな味が冴える、令和のうる星第29話である。
前回はいかにも”うる星”、テンション高めのドッタンバッタン騒がしいエピソードであったが、今回は奇妙にしんみりと不条理、このお話の別の顔をじっくり眺めるような話数となった。
何故こんな事になっているのか、ツッコミを置いてけぼりに状況だけが転がっていく不思議な味わいは、今回急に生えてきたわけではない。
そもそもの始まりからして、虎柄ビキニの宇宙美少女が唐突に当たり前の日常をぶち破り、ダーリンのありきたりな日常を自分側に引き込むところからスタートなわけで、条理を蹴っ飛ばしてとにかく面白い方へと突っ走っていくスタイルは、作品の通奏低音でもあるわけだ。
落ち着いて”生活”なんぞやっとる場合じゃないのに、コタツがある日常、あるいはラムちゃんとテンちゃんが過ごす日々のスケッチが丁寧に積み上げられて、異常事態に誰も吹き上がらない異常性が、より際立ちもする。
その静かさが、ラムが牛になろうが一緒にいようと、ラブコメとしての”答え”を明らか出すべきじゃないタイミングであたるが吠えちゃう場面の感動と、奇妙な化学反応を生む回でもあった。
どう考えてもウルっと来るタイミングではないのだが、ずーっと逃げて追いつきスカシて交わし、ラブコメの”LOVE”に腰を入れないで進んできた物語の主役が結局、奇妙な同居人にかなり本気だと解る瞬間は、やはり心に響く。
俺はあたるが年相応に純情ボーイである所が好きなので、ズレてイカれた状況であってもそういう、ピュアな一面が表に出てくると嬉しいのだ。
つーわけで第1エピソード、あんま主役になることのないコタツネコが極めて奇妙な追いかけっこに、ヌルヌル動く炬燵と勤しむ回である。
令和うる星は色んなこと頑張ってくれてる大変良いアニメだが、今回は作画面での奮戦が血圧低いエピソードと面白く噛み合い、セクシーですらある”動き”でもって炬燵の猫足が暴れる絵面は、大変良かった。
動くはずのないものが動き、その奇妙さをツッコみつつも世界が正気に変えるわけでもなく、むしろもっととぼけた方向に全力で突っ走っていく、心地よい理不尽。
コタツネコという主演のチョイスから始まり、まーたイカれた要素の発生源として便利に使われている面堂家とか、奇妙奇天烈な”炬燵橇”のオチとか、徹頭徹尾イカれていて、しかし奇妙に心地よい味の在る、良いエピソードだった。
るーみっくなSF的発想力……てのともまた違う、どっか落語っぽさのあるトボケがふわふわ浮かび続ける気持ちよさは、前回のような血圧上げているエピソードの底を支えている、作品全体の空気感とも通じるものがある。
妖怪から宇宙人まで、面白ければ理由原因問わず何でもあり。
そういうバーリ・トゥードな世界設定は、面白くもない生真面目で八方破れな作品世界をほじくり回さないからこそ生まれている部分があり、デカすぎる猫と走る炬燵の奇妙なやり取りは、どんな異物たちをも『面白いからOK』で許容する、懐の深さあって始めて成立する。
トンチキでも、ヘンテコでも、皆そこにいて良い。
そういう鷹揚な優しさが、やりたい放題アイデアを投げ込む笑いの闇鍋には確かにあるなぁと、不思議な納得を得る回だった。
ある種パレード的というかカーニバル的というか、正気を保った場所ならばはじき出されそうな異形達がごくごく普通に、ぼんやり過ごしていられる心地よいヌルさが、俺は好きなんだろうな。
そんな不条理で奇妙な優しさが、第2エピソードでは凄まじい気合で暴れまくっていて、大変に良かった。
牛に噛まれて牛になる。
まったくイカれたスタートであるけども、ラムちゃんにとってもあたるにとってもマジのマジの大騒ぎであり、それが恋であるのか、ラベルは横において愛は確かにそこにある。
『友引町にこんな場所ねーだろ!』という、スーパーおしゃれ&ロマンティックな雨景色のなかで、ヴィヴィッドな色彩が溢れ出す感情を包んで、ドタバタ置いかけっこしている時はなかなか見えない、ダーリンの純情が濡れそぼる。
海外中心に一大ムーブメントになっている、80’sリバイバルのある意味震源ともいえる”うる星やつら”本家が、改めてあの頃の色彩、表現を今の自分たちの筆で描き直すならどういう形になるのか、しっかり示した回としても、結構大事かなと思う。
いやー……めちゃくちゃ良いよ、ここの色彩と撮影……。
ラムちゃんが隠してた秘密が、スローモーション雨垂の中に囚われて暴かれていく瞬間のドラマティックもいいし、そうして思いが溢れた街の鮮やかな原色と、溢れる涙も熱い。
ちょっと離れたところから俯瞰で見れば、全く馬鹿らしい思い込みとすれ違いの産物でしかないのだが、当人にとっては欠片も洒落にならない永遠の別れであり、そういうモンが目の前に突きつけられた時、諸星あたるは何にしがみつくのか、結構シリアスに描かれてもいる。
ラムの尋常ではない様子に居住まいを正し、空に飛んで逃げようとする恋心をガッチリ無様に捕まえて、どんなに姿が変わろうとも同じ心を、覚悟とともに抱きしめる。
なんだかんだあたるにとってラムはもうとても大事な存在になっていて、彼はそういう相手に結構マジになれる少年なのだと、笑い話が土砂降る中でも笑えぬ純情が、五色に眩しい。
たいへん”うる星”らしい、ボケボケな展開の中に凄く体温のある、キャラの真心を力強く刻むやり方が、またこのお話らしいロマンティックだなぁ、と思ったりする。
こんなに熱く抱擁しても、庭に牛小屋立てるほどの本気を見せても、話数が変わればダーリンはいつもの浮気な顔を取り戻して、迫りくるラムからスルスルと逃げる。
ラムもここで示された本気はあくまで例外とばかり、自分たちの間に確かにある”答え”を作品に打ち込んで、お互いを不自由に束縛することはない。
一瞬の気の迷い、理不尽の中の生真面目、あってはならぬ本気。
終わらない祝祭を延々と続けるこのお話において、この涙雨はそういうモンだと思うけど、しかし確かにここに在るのだ。
思い込みだろうが気のせいだろうが、洒落にならない永遠の別れは確かに二人の前に立ちふさがって、そいつを前に主役とヒロイン、一体どうするのか。
そういうモンが見れるから、僕はこのお話好きなんだろう。
作品世界を破綻させかねない、洒落にならない感情と関係を、かなりの剛腕で洒落にした第26話に対し、一話限りの美しい夢として終わるからこそ、洒落じゃない思いを眩しく描けるエピソード……とも言えるか。
つうわけでふよふよ掴み所がない導入と、奇妙で温かな心地よさが同時に味わえる、大変”うる星”お話でした。
全体的にテンション低く進むせいで、テンちゃんがぼんやり日常を泳いでいる姿がたっぷり見れて、そういうの大好きな自分としてはありがたかった。
令和のテンちゃんはクソジャリ味が薄めになって、どっかぷわぷわ浮世離れした、妖精さんみたいな味するの嬉しい……。
今後も姉とぼんやり仲良く、どーでもいい日常を過ごしているカットを過剰供給し、俺の心に潤いを与えて欲しいもんだ。
あとねー……やっぱあたるがマジになる回はええなッ!
ラムが追ってあたるが逃げる基本形で成立している物語が、ラムが逃げてあたるがしがみつく逆転を切り取るってことはまぁまぁな一大事であり、そんなシリアスさから主役が逃げず、大ボケに振り回されているとしても当人は常時真顔という、ズレた構図にも熱さと面白さがあった。
プレイボーイを装いつつ、宇宙から来た居候がなんだかんだ大好きなあたるが、俺はやっぱ好きだ。
次回も楽しみッ!!