妹を冥府から取り戻すべく、魔物を喰らい辿り着いた深き廃都。
想像以上の火竜の実力に、用意した算段が全て瓦解してなお、腹をくくって進むしか無い土壇場に、血みどろの死闘が咲き乱れる。
食うか食われるか、”ダンジョン飯”が安全なグルメ観光ではない証明を赤い色で描く、ダンジョン飯アニメ第11話である。
というわけで1クール目クライマックス、旅の最初から追い求めてきた火竜との決戦である。
序盤はややコミカルに転がる戦いは、センシ渾身の『腹をくくれ!』を呼び越えに作画もケレンを帯びて心地良く崩れ、片足食わせることで命を貰う、ライオス覚悟の秘策で決着していく。
最初からTRIGGER味全開というわけではなく、このお話らしい軽やかな味わいから決戦を始めたことで、逆にマジで生きるか死ぬか紙一重な強敵との戦闘が、ピリッと引き締まった感じもある。
前回色々用意していた算段は総崩れ、仲間たちが命懸けで作った活路を何とか駆け抜け、新たにひねり出した秘策で勝利をもぎ取る展開も、この迷宮で行われている闘争がどんなものであるのか、そこで生きて死ぬことの手応えを生々しく伝えてきて、大変良かった。
楽観混じりに組み立てた予測が全部裏切られたとしても、足一本龍の口に突っ込むとしても、成し遂げなきゃいけないことがあるからライオス達は冒険者となり、この戦いに挑んでいるのだ。
美味そうな飯をドタバタ楽しい冒険のなかかっ喰らっていた物語が、実はずっと取っ組み合っていた『食うこと』の深奥へ、更に一歩踏み込むようなバトル……素晴らしかったです。
アダマント鍋で炎を防ぎ、建物の下敷きにして動きを封じ、ケンスケでとどめを刺す。
先週あんだけ準備して組み上げた作戦は、実際火竜と向き合ってみると全部上手く行かず、しかしそのままならなさが、逆にダンジョン稼業のシリアスな重たさを巧く教えてくれてもいた。
思わぬところでおっ死ぬし、大成功ばかりが待ち受けているわけではないが、それでも知恵と勇気と覚悟を絞り出して、どうにか死地を越えていく。
そういう経験を既に経ているライオスにとって、算段が全部崩れる窮地は確かにピンチであるが、我を忘れて泣きわめくものではない。
そういう危機に食らいつき、牙を立てて、噛み砕いて飲み干す貪欲さあってのダンジョン暮らしであり、朗らかな人柄でここまでの冒険を楽しくしてくれたセンシも、戦士としての逞しさを全面に出す。
『俺を戦闘要員に数えるな!』と言っていたチルチャックも、逸るライオスを切り札に温存するべく前に出て、龍の目を潰す殊勲を立てる。
男衆の覚悟に比べると、数字の上では長く生きてるはずのマルシルは全くどんくさくパニクっていて、しかしその感情豊かで脆い所も彼女らしさだと、僕らは既に知っている。
仲間を思うからこそ混乱してしまう気質を、なんとか飲み込んで仲間の元へ駆け出し、爆裂魔法をロケットジャンプに使う機転で、勝利への道を切り開いてもくれた。
何しろファリン復活という、旅の大目的がかかった大一番なので、パーティー全員が死力を尽くし、自分のやれることを全部やりきって勝利に近づいていくのが、見応えがあって良かった。
先週は一か八か過ぎると却下してた、『竜の首に飛び乗って倒す』って案が結局決め手になる所とか、予測通りには転がらず命懸けのギャンブルも時には覚悟の、冒険野郎らしさが良く出てました。
大ボスとの激震バトルということで、今回は魔物グルメなし! ……と思いきや、ライオスが己の骨肉を竜に喰わせるという、食べる側と食べられる側が逆転した”料理”が描かれていた。
喰われる側が負ける側というわけでもなく、足を食わせて逆鱗を貫く一撃は見事のクリティカル、勝敗の天秤もまたギリギリで逆しまに傾いて、ライオス達は血みどろで勝利を掴み取る。
赤龍の鱗、燃え盛る炎、流れ出す血しぶきと、”赤”が鮮明な回であったのは、実はシャレになる範囲でダメージ描写を抑えてきたこのお話が、一つギアを踏み込んで火竜決戦のシリアスさを演出していたのと、巧く歩調を合わせていたと思う。
センシの獅子吼が思い出させたように、ここまでの旅で行われた”料理”は、相手の命を奪う”戦い”でもあって、明るく楽しい食卓には常に、死力を尽くして屠られた魂が乗っかっていた。
ならば躊躇いつつも盤上この一手、竜に食い殺された妹の痛みを思って恐怖を乗り越え必勝の一撃に賭ける決断は、ダンジョンに確かにあった日常の延長線上にある。
あそこでライオスがちゃんとビビってて、それでも自分の命も妹への情も飲み干して踏み出す描写があるの、俺凄く好きなんだよな。
あいつ確かに激ヤバイカレ人間だけど、自分や家族や身内に何も感じていないわけじゃないし、だからこそ妹救うために逆風の中迷宮に潜り直すことを、選んだわけで。
そういう決意があるから、人間の”普通”ってのが巧く飲み込めない彼の不自然さや不器用さ、不気味さが消え去るわけじゃないけど、何かがズレてる変人だって、人間の一番弱くて強い部分を、持っていないわけじゃない。
ギリギリの所まで追い詰められてなお、諦めず逆転の秘策を編み上げる戦術家としての才も含めて、彼が英雄の器、主人公の資格を持っていると伝わる、良いクリティカルでした。
いやまぁ、思いついてもアレやれちゃうのは、どっかぶっ壊れているなと俺も思うけどさ……。
かくして強敵を打ち倒し、荒っぽい治療魔法で傷を癒やした後は、火竜の腹を探ってファリンの遺体を探索することになる。
常識外れの竜の巨体を探る時、ミスリル包丁をツルハシにした炭鉱掘りの様相を呈しているのが、”ダンジョン飯”だなぁという感じでいい。
火竜の身体はファリン復活の可能性を奥深くに隠した、一つのダンジョンなのであり、試行錯誤を繰り返しながら、時に血に濡れながら自分の手で探っていくことで、求めていたお宝を手に入れられるのだ。
同時に火竜は屠殺され解体されることで”食材”にもなっていき、”食”の色んな側面を切り取ってきたこの話は、腸引きずり出して肉を裂く、屠畜の実情からも目を背けずちゃんと描く。
踏みつけられかじり取られ、逆鱗ぶっ刺して命を奪う、お互い様の血みどろを描いた後だからこそ、何かとタブー視されがちな『命をいただく』ことの一番生臭い部分も、スッと見ているものに入ってくる感じがある。
瓦解しかけたパーティーを立て直した、センシの咆哮に感じ入るものがあった視聴者ならば、臓物の臭気漂うドラゴンバラしもまた、迷宮の中で人が生きていく一つの事実なのだと、受け止められる語り口だった。
キレイなことも汚いことも、全部ひっくるめて問われる迷宮の厳しさと面白さが、二転三転する火竜との戦い、そこで輝く人間の弱さと強さに照らされて、とても鮮明な回だったと思う。
火竜炭鉱に分け入り、探し求めてきたファリンの遺骸が見つからなくてマルシルが凹む後ろで、ライオスが自慢の魔物知識を思い出して、道を拓く描写が好きだ。
人間社会に馴染むのを妨げるほど、彼の魔物への偏愛は度が過ぎているわけだが、それでも知恵は知恵であり、火竜を殺すときにも妹を蘇らせるときにも、剣で切り開けないところを突破する鍵になってきた。
ただただバトル一辺倒というわけではなく、古き良きRPGテイストをふんだんに盛り込んで面白いこのお話、こんな風に機転や知恵が助けとなる場面が多くて、見ていてとても面白い。
そもそもただ闘う動物として冒険者を書きたいのなら、”ダンジョン飯”なんてやらないわけで、食って迷って闘って見つけて、人生の全部を迷宮に問う人間絵巻として、鼻につかない活きた賢さが強みと描かれているのは、大変いい。
そんな知恵と勇気が探り当てた、愛しき人のされこうべ。
命懸けの勝利に一瞬微睡み、思い出した自分たちの原点において、ファリンがあくまで『死者の声を聞くもの』として描かれているのも、プリーストという存在がどういうものか、このお話らしく書いてて好きだ。
その特出した才能は村落共同体から兄弟を弾き出して、流れ流れて冒険者稼業、生きるも死ぬも勘定のうちなロクデナシとなったわけだが、そういう存在だからこそ輝かせる光が、確かにある。
そんな作品の力強さが、迫力満点のアクションに元気に踊る回でした。
大変良かったです。
つーわけでボスモンスターはぶっ倒したけども、現実は厳しくファリンはお骨に。
こっからどうハッピーエンドを引き寄せるのか、はたまた新たな危機が訪れるのか。
まだまだ続く冒険を、アニメがどう画いていくかを楽しみに、来週を待ちます。
次回も楽しみ!