イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

僕の心のヤバイやつ:第22話『僕は山田に近づきたい』感想

 新学期にクラス替え……変わりゆく環境から湧き上がる、新たな激震の予感!
 鵜の目鷹の目で初恋を弄ばれそうな予感に、僕らの適正距離を探る僕ヤバアニメ第22話である。

 と言っても、女性陣は新キャラ交えつつほぼ続投、男衆が丸ごと別クラスに流れる形になったわけだが。
 話の中軸である山田と関わり深い人達が相変わらず周囲を固める中で、無責任な恋の賑やかし大好きヒューマン・カンカンに警戒度を高めたり、不思議美少女・半沢さんとの間合いを探ったりする、懐かしくて新しい手応えのあるエピソードとなった。
 元登校拒否の激ヤバ少年から、山田に惚れて自分を変えていった京ちゃんが手に入れた、同性の友人との変わらぬ友情なんかも垣間見え、相変わらず強張りつつ迷いつつ、他者に極力誠実に向き合おうとする、市川京太郎くんの学校生活を堪能した。
 気づけば明るい充実オーラ垂れ流している”陽”の人間を、呪うようなことも全然口にしなくなってて、あそこら辺の言動は身の内から湧き上がる薄暗くドス黒いモノとどうにかやっていくための、思春期の予防接種みたいなもんだったのかな……などと思う。
 登場当初の京ちゃんだったら、カンカンは最悪に苦手な相手で強めに押しのけていたと思うのだが、コッチの都合お構いなしなビカビカ加減に慄きつつも、なんとかやっていこうと手立てを探っている姿が、小さく積み上げてきた成長を感じれて良かった。

 

 

 

 

 

画像は”僕の心のヤバイやつ”第22話より引用

 というわけで、要警戒度数の高いヤバ女と同クラにぶっこまれつつ、京ちゃん最後の中学生活が始まる。
 お互い好き合いつつも、大事にしすぎてなかなか決定機を得れない主役二人を前に推し進めるべく、『ぜってぇコイツに、素手で初恋触ってほしくない……』と思えるようなノンデリ人間を隣に置いたのは、なかなかタクティカルな配置と言える。
 ここら辺の仕掛けが生き始めるのは今後の話として、俺がこの作品でいっとう好きな場面がちゃんと描かれていて、大変に安心した。
 自分が変われるキッカケになった存在と、同じクラスになった幸運の裏に、教師の、大人の気遣いを感じて、少しツンと背筋を伸ばして”大丈夫”な自分を見せる。
 学園主任と前担任のやり取りは、京ちゃんが釘を差した通り先生たちが、色々難しい袋小路に入りかけた彼らの生徒をしっかり気にかけて、どうにかいい方向に進んでいってくれないか気をもんでいたことを、サラッと描写する。
 京ちゃんもそういう人達に見守られながら、人生良くも悪くも変化しうる可塑性の高い季節を自分が歩いていることを、気づけば意識するようになった。
 こっから話は青春ラブコメらしく、ドタバタ騒がしくもときめく方向に当然進んでいくわけだが、そこからちょっと離れた、当たり前で大事な優しい学園生活の1ページがちゃんとあるのが、僕は好きだ。

 そんな暖かなものに守られつつ、山田と京ちゃんは今日も今日も今日とて苦しいごまかしとエッチなハプニングに包まれ、幸せな日々を過ごしている。
 ここでパンツ見られるのが少女・山田杏奈ではなく、少年・市川京太郎なところ、このお話らしいヘンテコな平等で大変好きだが、カンカンのハチャメチャ提案に目を輝かせつつも、色々防壁張ってくれる萌子の存在がありがたい。
 傍から見れば超バレバレ、ラブラブオーラ垂れ流しで山田も京ちゃんも日々を過ごしとるわけで、恋愛ハイエナがクラスに混じった最高学年、望む方向に進みたいならちっと気は使わなければいけない。
 ……のだが、二人共スーパーピュアなので嘘つくのは下手だし、小器用に人間関係を乗りこなすのも無理だしで、どうやってもギクシャクドタバタ、大変愉快な感じに転がっていく。
 この力みと強張りが、生来の善良さから出て可愛らしくも滑稽な所が、このお話のチャーミングさを支えているのだと思う。

 

 女性陣とは同じクラスになれたが、男衆とは離れてしまった京ちゃん……なんだが、花見にも行った同性のダチとは良い距離感を保っている。
 ガサツで遠慮がない……ように見えて、色々ナイーブな足立くんの善さやありがたさを京ちゃんがちゃんと解っていて、変に誤魔化したり嘘ついたりしたくない、マジの友情で繋がろうとしている姿が、やはり愛しい。
 山田への恋慕を起爆剤に、京ちゃんは自分を変え(あるいは失いかけたものを取り戻し)前に進み、自分を包む小さな社会の中での立ち位置と、繋がり方を変えてきた。
 時にうっかり失言も飛び出すが、笑ってメンゴですむいい関係をこうして掴めているのは、縁と幸運に恵まれ、それを活かせる自分を京ちゃんが作ってきたからだ。

 このお話はラブコメディだから、山田との関係性を中心に話が組み立てられていく。
 でもそれだけが世界の全てではなくて、中学3年生になりたての少年を見守り、繋がっている人たちの表情も、色んなところで描かれる。
 逞しさを増した京ちゃんに安心した表情を見せた先生たちや、クラス別れたってダチな足立くんたちや、ヘンテコな部分もあるけど優しい家族とも、縮こまらず世界に手を伸ばせるようになった京ちゃんは、確かに繋がっているのだ。
 中学受験失敗という、どこにでもありふれているからこそ切実な挫折からなんとか這い上がって、手放しかけていた自分の善さをもう一度取り戻して前に進んでいく、当たり前な思春期の戦い。
 京ちゃんが立ち向かう平和な戦場に、色んな人がいてくれるのがやっぱり、僕は好きだ。

 

 

 

 

画像は”僕の心のヤバイやつ”第22話より引用

 そんな市川京太郎の世界に、新たに迷い込んできた不思議な闖入者、半沢ユリネ。
 感情表現が下手くそで得体が知れない、どっか京ちゃんと似たオーラをキレイなお顔に包んで、なかなか距離感掴むのが難しい相手である。
 話してみるとぽわっと柔らかな内面を持っていて、どこか幼いトコロ含めて共通点も多いのだが、知らぬ同士が集まるクラス替え直後、ぎこちなくも微笑ましく、探り探りの時間が続く。
 カンカンがド派手に鳴り物かき鳴らしながらイヤ圧力をかけ、反発でストーリーを先に進めていく仕事をしているとすれば、半沢さんは素朴で柔らかな好奇心から恋する二人に近づいて、お互い抱えているものが何なのか、改めて問い直すようなキャラである。
 ここら辺、新しい関係性が構築されていく新学年だからこそのうねりであり、なかなかに面白い。

 二人のラブコメ固有結界と化しつつある図書室にも、半沢さんはスルスル迷い込んでカーテンを開く。
 布一枚垂らせば、息遣いすら感じ取れれる密着距離感が衆人環視の中確保できると思い込んでるあたり、京ちゃんも山田もどっかズレているわけだが、そこがあくまで誰かと繋がった”社会”の一端であることを、半沢さんはペロンとベールを捲って教えてくる。
 学校という社会が小さいながら、他者と隣り合って成立している場所な以上、『二人きり』と二人が勝手に定めた場所は開かれて危うい場所であり、カーテンの向こう側にはいつでも他人がいる。
 いる上で、『二人きり』がとても大事な京ちゃん達はどういう距離感を選び取り、どういう繋がり方をするべきなのか。
 下手くそな文字で書き綴った手紙の中、もう隠しようのない気持ちが溢れかえっているこの状況で、そういう事が問われている。

 

 無論半沢さんは悪意も揶揄もなく、ぽやーっと純粋に『恋とはどんなものかしら?』を知りたがっているだけだ。
 そういう人だから、『忘れていった図鑑に、手紙を挟んで返す』という、どっか幼いアプローチが心の波長にピッタリあって、山田はあっという間に至近距離へ滑り込む。
 カンカン相手にグイグイ間合い詰めた時もそうだが、山田生来の毒気のなさがスペックの高さを巧く打ち消して、妬まれず憎まれないベストポジションに彼女を押し上げている感じあるね。
 半歩間違えれば色々敵を作りそうな造形なんだが、ここの釣り合いが精妙だからこそ、善良な人達が集う前向きな作風が維持されていると、山田杏奈が新しい友達を作る過程に刻んでいくエピソードとも言えるか。

 自分がどれだけ市川京太郎を好きになって、これからの未来を大事にしたいか。
 山田が手紙に綴った真心を、無下にしない善良さが半沢さんにはあって、こじれるかと思った不思議少女との接触は、とても良い距離感で落ち着いていく。
 ナチュラルに近いパーソナルエリアに、強い顔面がガッチリ噛み合って、ちっと体温上げすぎたがそれはそれだッ!

 ここら辺の関係構築の外野に立ちつつ、新しく出会った他者がどんな人なのか、おっかなびっくりちゃんと見ようとしてる京ちゃんも描かれていて、そこも良かった。
 やっぱこー、他者と向き合い繋がり、面倒だけど孤独でもない自分をどうしていきたいのか、どう他人と向き合っていきたいのか……不器用に一歩ずつ、適切なコミュニケーションを学んでいく季節の手応えが確かなのが、俺は好きだ。
 『コイツはこういう奴!』とすぐさま決めつけず、相手の顔見て向き合い方を決めれる、当たり前と思われているけどとても難しい、だからこそ心の奥底で望んでいた、ヤバくない自分に京ちゃんも、ゆっくり近づいていっている。
 そういうコミュニケーションの真ん中に、山田杏奈への慕情が熱く燃えているのが、作品の力強いエンジンになってるのが、凄く良いなと思う。
 山田杏奈が好きでいることで、市川京太郎はどんどん、善い人間になっていく。
 そうなれるような恋は、やっぱ素敵だ。

 

 という感じの、波乱の新学年開幕でした。
 ニューカマーとの向き合い方に悩みつつも、22話分しっかり成長している様子も感じ取れ、でもまだまだ自分をより善くしていく真っ最中な半煮え感も、ぷにぷに愛おしい。
 桜の季節が終わり、爽やかな風が吹いてくる物語がこの後、どういうクライマックスに向けて加速していくのか。
 次回も楽しみです。