イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

わんだふるぷりきゅあ!:第6話『こむぎ、いろはとケンカする』感想

 人の姿を得、言葉で繋がれるようになったからこそ顕になる、焦りと未熟。
 すれ違う心に降りしきる涙雨は、少女たちの未来を閉ざすのか。
 まさかまさかの前後編、犬飼姉妹バチバチのぶつかり愛が描かれる、わんぷり第6話である。
 大変良かった。

 バトル要素を大胆にカットしたわんぷりは、空いたスペースをどっしり活用して、焦ることなくアニマルタウンの日常、いろはちゃんとこむぎが過ごす時間を積み重ねている。
 高ストレスなすれ違い展開を、あえて話数またいで描いて行く筆致もまた、そういう長尺の語り口の一つだと思うが、それ故細密に、丁寧に、自然に積み上がっていくものが多い話数で、とても良かった。
 生活空間を同じくし、お互いの個性を至近距離でぶつけ合わせる暮らしの中で、まだ未熟な精神を抱えた子ども達がぶつからないのも不自然であるし、衝突の根源にはお互いを思う愛があると、いがみ合いの中にしっかり描いてくれる回でもあった。
 人間の形を手に入れ、お話したり道具を使ったり、出来ることが増えたはずのこむぎはだからこそ、自分が出来ないことに衝撃を受けて、それをどこに持っていったものか、良く分からない。
 それは言葉を得た獣の姿であると同時に、変化していく心身に戸惑いながら成長していく子どもたちの似姿でもあって、自分の気持ちを上手く言葉に出来ない所とか、制御できずお姉ちゃんにぶつけちゃう所とか、メチャクチャ生っぽくて良かった。

 そういう失敗……であり、変化と成長に従って必然的に起こるアクシデントを受け入れるだけの成熟が、こむぎよりは人生経験豊富でも、未だ子どもでもあるいろはちゃんには足りていない。
 だからこそこむぎとの間柄が難しくもなっていくわけだが、それは『こむぎと人の言葉でお話したい!』という夢が叶ったからこそ、人という形を得たからこその、新しい摩擦熱でもある。
 だからこのケンカには悲しさばっかりではなく、成長痛にも似た切ない必然と、思いあ言えばこそすれ違ってしまう寂しさと、愛し合ってんだからどうにかなんだろ! という前向きな希望が、色濃く混ざっている。
 子どもらしい思い詰め方からいろはの元を去り、雨に濡れて一人トボトボ歩いていくこむぎの未来が、ケンカする前よりピカピカ眩しくなってくれるのだと、信じられる前編で凄く良かったです。

 

 つーわけで、色々良いところある回だったが。
 幼いこむぎが気持ち先行で突っ走って、色んな事情を飲み込めているいろはちゃんとぶつかる構図が、一回”入る”と周囲が見えなくなる特性を持ったまゆちゃんを、姉猫であるユキが気ままに良く見て補佐してあげている様子と、面白い対比をなしていた。
 まゆちゃんの過集中気味な気質は、既に示されているように短所ともなり長所ともなりうる、彼女だけの武器だ。
 服飾やメイクにひたすら一本気、脇目を振らず邁進できる特性は、職人として彼女を高みへ連れて行くだろうし、そこで見落とす色んなモノが彼女を孤独にもするだろう。
 こむぎがいろはお姉ちゃんにワガママ言って迷惑かける犬飼家のあり方に対し、ユキはそういう困った妹が周囲に目を向けれるよう、いいタイミングでストンとキャットタワーから降りてきて、集中を解いてあげる。
 犬/猫、妹/姉という対照的なキャラクター性を、こむぎとユキがそれぞれ背負う中で、動物と人間の関わり合い、家族としてのあり方も一面的ではなく多彩なのだと……そのそれぞれが面白く、個別に魅力的なのだと、しっかり書けていた。

 今回のお話はこむぎの未熟な振る舞いで色々厄介なことが起こるが、しかし彼女が”悪い”とは描かれていない。
 いろはの役に立ちたいのも、ずっと一緒でいたいのも、人間の形を得たばかりのこむぎにとって必然の感情であり、幼い彼女はその気持をどう制御していくのか、まだ学んではいない。
 というかこの衝突から、今まさに学んでいる真っ最中なのだ。
 それはやはり、真っ白なキャンバスにそれぞれの人生を刻んでいる子ども達のあり方を、こむぎに重ねて描いて行く、野心的で独創的な試みなのだと思う。
 ”犬である”という属性を付与することで、幼く身勝手なこむぎの振る舞いに創作的エクスキューズが入って受け入れやすくなり、人間のガキをあるがまま描くなら必ず生まれるノイズを、飲み込みやすくする工夫。
 それが、”わんだふるぷりきゅあ!”の主役(そう、成熟したいろはお姉ちゃんではなく、間違えまくり好き放題なこむぎこそがこの話の主役である意味は、相当デカいと感じている)には施されていると思う。

 気持ち優先で突っ走ったら、やりたいことも上手く行かなくなってしまう。
 児童特有の万能感をくじかれ、自分を包囲する世界には色々ままならないことがあるのだと、傷つきながら学んでいく普遍的な旅を、今こむぎは必死に進んでいる。
 そこには怖いことも出来ないことも沢山あって、そのままならなさを抱きしめ噛み砕いていくことで、幼い自分なりに出来ること、やりたいことも見えてくる。
 そこにやる難しさやややこしさ、面倒でイラガっぽい幼年期の手触りもひっくるめて、こむぎの気持ちとふるまいを丁寧に描いていこうという姿勢が、今回の前後編にはあったと思う。
 こむぎはとにかくいろはが大好きで、ずっと一緒にいたいし役に立ちたい。
 しかし学校に通い家業の手伝いをする社会性を持ったお姉ちゃんは、こむぎだけのいろはではないし、まだ幼いこむぎには出来ないことも沢山ある。
 それはつまり、いろはちゃんにとってもこむぎが本当に大事で、役に立つ/立たないを超越したいてくれるだけで尊く大切な価値を、彼女が持っていることと裏腹だ。
 そんなお互いの関係の真芯を、いろはちゃんはまだ上手くこむぎに伝えられていないし、こむぎもまた解ってはいない。
 それが伝わり解るのは、雨上がった後の仲直りになるのだろう。

 

 こむぎの幼さと同じくらい、その幼さを適切にいなせないいろはちゃんの幼さが描かれていた今回、しかし僕は見てて苛立つよりも安心した。
 感情そのまんまに突っ走る動物/子どもとしての顔が濃いいろはを、飼い主として姉として人間として導く立場にあるいろはちゃんは、大人びた物わかりのよさ、周辺視野の広さとコミュニケーション能力の高さが強調されて、ここまで描写されてきた。
 しかし彼女もまた、間違いを繰り返しながら様々なことを学び、新しい自分を作り上げていく幼い存在であり、まだまだ至らない部分があればこそ、可能性を豊かに広げるキャンバスを自分の中に持っているはずだ。
 だからこむぎのワガママに正面衝突してしまう幼さが彼女にあると、今回しっかり描いてくれたのは、年相応の未熟を作品が許し、一年間の物語を通じていろはちゃんだって、ドンドン学んでドンドン善くなっていけると、伝えてくれた感じがした。

 この成長の余地は、とにかく自分の気持ちしか見えていないこむぎの、世界の狭さにこそ色濃い。
 まだ何者でもなく、自分がどんな存在で周りに何が広がっているのか、人間としての視野が狭いこむぎの、だからこそ純粋でまじりっ気のない愛。
 まだ使い方がわからないから、社会と衝突して色々問題も起こるけども、その真っ直ぐな思いは間違いなく尊いもので、より良い使い方を身につけられるよう、皆が教え見守らなきゃいけない。
 こむぎの必死さが良く伝わる作画が生きて、見ていると自然にそういう気持ちになってくるのは、大変に良かったと思う。
 ほんっっっとこむぎはお姉ちゃんが大好きで、大好きだから上手く行かないことがあって、んじゃあ上手くいく大好きってどういう事なのか、雨に打たれながらも学んでいくしかねぇだろッ! ていう回であった。
 こむぎ……お前は全く、役立たずでも間違ってもいねぇ。

 

 今回は犬飼姉妹が感情と未熟に迷う回なので、全体のバランサーとして悟くんがいい仕事をしてもくれた。
 ライオンガルガルと向き合い、戦いの本質……”恐怖”を識るワンダフルの描写は大変良かったが、これを理性的に解説し、恐れを飲み込み戦いに挑むための外形を整えてくれてるありがたさとか、かなりいい感じだった。
 こむぎは人の話聞かないし難しいこと解んないガキなんだが、今噛み砕けなくても悟くんが見つけてくれたもの、伝えてくれたことがこの後、難しさを乗り越えていく助けには絶対なってくれるわけで。
 子どもの間近に、そういうアシストをしてくれる存在がいるのは、本当に大事で大切だ。
 ただの解説役で終わらず、犬飼姉妹の良きサポーターとして人格的にも補佐してくれているの、メガネ男子の株がギュンギュン上がる描写で、俺は嬉しい。

 あとフレンディがぶっ飛ばされて一瞬、ガルガルに憎々しげな視線を送るんだけども、そういう”敵”もワケのわからねぇ呪いに苦しめられている被害者であり、助けるべき動物なのだと見つめ直して、居まいを整える描写があったのも良かった。
 動物をメインテーマに据える以上、絶対ゆるがせにはしてほしくない仁愛の視線が強くあって、暴れるガルガルを安易に悪者にしない姿勢が徹底されているのは、見ていてとてもありがたい。

 今回ガルガルを描写できなかったので、木はなぎ倒され世界は傷ついたまんまで痛々しい。
 その荒廃はガルガルの責任ではなく、なんもかんもプリキュア力で許して癒やしてハッピーエンド! ……とは、なかなか行かない難しさを描く回でもあった。
 ガルガルとちゃんと戦えないと、浄化も復興も出来ず世の中悲しいまんまなわけで、『早くタクトを使わなきゃ!』というワンダフルの焦りには、個人的な感情だけではなく一定以上の道理がある。
 しかしプリキュアの力は心の力、大好きな相手も自分自身も見えなくなってしまっている今のこむぎでは、タクトは答えてくれない。
 こういう現状を丁寧に積み上げた上で、”ふたり”が力を合わせるからこそ奇跡が生まれ、バンダイ様謹製のスーパーアイテムが爆売れする未来も、力強く近づいてくる。
 新アイテム販促としても、丁寧に時間を使って足場を組む作りで、隙がないなぁと思った。
 というより、販促ノルマを冷たくこなして空から新アイテム降ってくるのではなく、迷いや悩みも全部ひっくるめてちゃんと描いて、ドラマのうねりが作中の必然として奇跡を生み出す形のほうが、しっくりくるし面白いからな!

 あと前回辺りからハードさを増しつつあるガルガルバトルで、命がかかったヤバさが加熱していることで、ワンダフルとフレンディの絆があぶり出されてきたのも良かった。
 言うこと聞いてくれない困った妹と喧嘩してる状況なのに、立ちすくむこむぎの盾になる時、いろはちゃんは一切躊躇わない。
 それは今ワンダフルが初めて向き合い、飲み干し方がわからない”恐怖”への処方箋を、フレンディが既に得ている証明だ。
 悲しいこと、怖いこと、苦しいこととどう向き合うのか。
 子どもが解らねぇ(から、今必死に学んでいる)人生の苦さを、一歩先征く姉貴はしっかり解っていて、だから足がすくむ土壇場でも正しい行いが出来る。
 こういう強さを描く上で、バトルってのは一番いいキャンバスなので、独特ながら適切な使い方してんなーと思った。
 プリキュア定番の肉弾戦を大胆に変奏しつつも、戦いに描くべきもの、闘うからこそ描けるものをちゃんと見据えて、わんぷりらしく描いているのは、凄く良い。

 

 

 というわけで、衝突のち涙雨、犬飼姉妹初のケンカ前編でした。
 ガキ特有の世界の狭さと思い詰め方で、『自分は役立たずで、いろはの隣にいられない!』と雨の中一人進み出してしまうこむぎの姿が、あんまり淋しく悲しく、また泣いてしまった……。
 そんなことはねぇ……ねぇのだ、こむぎ。

 そういう寂しい場所へ心ならずとも愛妹を送り出しちまった責任を、”姉”としては果たさなきゃ嘘だろーが! という状況だが。
 犬飼いろはは”人物”なので、そういう人間が絶対に間違えちゃいけない問題に関して、最高の解答を叩きつけ、こむぎを胸に抱いて人生へと力強く一歩、踏み出してくれると信じております。
 人間生きてりゃ、ぶつかることだってある。
 そんな真実を丁寧に刻みつけ物語は、当然『ぶつかったからこそ、解ることだってある『ぶつかったって、愛があれば大丈夫』という、もう一つの真実も描いてくれるでしょう。
 それを描けばこそ、プリキュアプリキュアなのだ。
 次回も、とっても楽しみです。