かくして、旅は続く。
北へ進む許可を得るための一級魔法試験にも無事合格し、出会いと別れを繰り返しながら、永生者と仲間たちは天国を目指す。
その『またね』が叶わぬこともあると深く知りつつ、あっさりと今生の別れを果たす瞼の奥に、もういない君の顔が浮かぶ。
未来へ歩みを進めるほどに、過ぎ去った思い出が生き生きと蘇る旅路を越えて、それぞれの物語が動き出す。
フリーレンアニメ、旅立ちの最終回である。
放送後半を長く引っ張った一級試験も、フィナーレはごくごくあっさりしたもので、ゼーリエ様がザクザク合否を出して残りの時間は、じっくりと旅立ちの叙情を描いてきた。
スゲー作画でバリバリバトルしつつ、戦いはあくまで物語の添え物、重要なのは時の定めと綾なす人生……という作品の持つ味わいを、最後まで大事にしてくれた語り口かと思う。
ありふれて下らないと世界が断じる、生活に密接したよしなし事をこそ何より尊いと寿ぐ作風は、細やかな仕草や風景を丁寧に描ききる筆致に支えられていたのだなぁと、冒頭フリーレンのあくびを見て思う。
第1話、未だ後悔を知らざる彼女が、勇者との最後の逢引に赴く前に見せていた表情をここでリフレインし、28話分彼女を知った今の僕らがどう感じるか、静かに確かめさせてくれるような、粋な出だしであった。
フリーレンは子ども通り越して、動物めいた純粋さを仕草に宿す所が可愛いと思うね、俺は。
ゼーリエ様の人間診断はサクサク進むが、デンケンとヴィアベルが二人共世界最強の魔道士の力を値踏みし、勝てないなりに戦い方を探ってしまう業を背負っているのが、少し悲しかった。
バクバククッキー食べる孫(ついこの前出会った)横において述懐されるように、デンケンにとって権力も戦いも二の次、本当に欲しかった妻との幸せな日々はとっくに壊れてしまっている。
軍属に慣れ親しんだ身の上が、思わず探ってしまう『相手を殺す可能性』も、本来いらない習性だったのだと思う。
愛妻の墓参りという、あまりにロマンティックな夢のために命懸けの試練に挑んだデンケンは、それを通じて憧れの大魔道士と直接出会い、魔法が楽しいものであることを”思い出す”。
”知る”でないということは、元々デンケンは魔法とそういう向き合い方をしていて、戦塵に汚れて忘れかけていた……ということだ。
そういう年輪全部ひっくるめて、ゼーリエ様が合格出すのは好きだ。
最後の特大デレで大いにバレたが、あの人人間好きすぎなんだよなぁ……。
作中示された、『魔法とはイメージであり、人生をかけた祈りである』というテーゼに基づけば、それを『好きも嫌いもない、ただの道具』と言い切れるヴィアベルは、だいぶ乾いた人生を送っているように思う。
しかしババァ呼ばわりに迷わず手助け、最後の最後にあざとさが過ぎる善良さを見ていると、道具でしかない魔法にプライドはなくとも、それを用いて闘ってきた己の在り方には、いささかの愛があるように思う。
『勇者、遂に斃れる』の一報を聞き及び、好き勝手絶頂に村焼き始めたクソ魔族をぶっ殺して、故郷の村を守る。
青雲の志は返り血に汚れたが、しかし誰を殺すべきなのか最後まで迷い判断する理性と、ブツクサボヤきつつも戦友となったものを見捨てない強さは、傭兵暮らしにも煤けていない。
歴史書に残る偉業ではなく、日常に積み重なる下らない親切をこそ、勇者の伝説と大事に抱えて、ヴィアベルはここまで流れ着いた。
そしてこの試験で得たもの、見つけたもの、思い出したものをひっそり大事にして、彼だけの物語へと新たに進み出していく。
別に旅を同じくしなくても、触れ合った時間が短くても、そういう風に色んな人にそれぞれの時の刻みがあり、そこから生まれる物語があり、交わって生まれた何かには、大きな意味がある。
お話がずっと大事に追いかけてきたものを、別れ際もう一度丁寧に思い返す、いい最終回だった。
ヴィアベルがしみじみ偉大と胸に刻んだ、ちっぽけで身近な勇者の伝説が、彼の生き様を継いで民間魔法を収集してきたフリーレンの旅路と、豊かに重なり合うの良かったな……。
そしてエルフのロリババァに狂わされた、かつての紅顔の美青年は、悪名を以て歴史に名を刻まんと大魔道士に勝負を挑む。
『戦いだけに人生を捧げてきた、不器用な男』という要素は、それとの付き合い方を人生使ってなんとか身につけてきたデンケンやヴィアベルと同じなのだが、レルネンはお師匠様への純愛が過ぎた上に、分かりにくい発破を真正面から受け取っちゃったから……。
『不甲斐ない弟子でも、なんとか最高なお師匠様の名前を歴史に刻まないとッ!』と思い詰める真っ直ぐさ、しわくちゃのジジイになってもピュアさが削れてなくて、めっちゃ萌えるぜ。
この思い詰め方をいなせるほどに、フリーレンの実力が卓越してるから気楽に萌えられもするんだが、魔族をぶっ殺すために鍛え上げてきた力が誰かの人生を受け止めるためのブランケットにもなるのは、このお話らしい優しさだ。
子どものまんま長く生きてしまったのは師匠も同じで、極めて分かりにくい愛情を弟子に注ぎ、ムッツリ顔で『失敗作』と暮らす下らない日々がとても楽しかったのだと、ゼーリエは素直に伝えられない。
目の前にある大事なものに、相手が棺に入るまで気付けなかったからこそフリーレンは、物語の最初で(だけ)大粒の涙を流した。
かつての自分に、あるいは素直でいる大事さを教えてくれた彼女の勇者に、どこか似ている老成した少年にゼーリエの本意を手渡したのは、二度目の後悔はゴメンだという思いが、どっかにあるのだろう。
かつて自分の目の前を通り過ぎていった思い出を、ただ消え去っていく幻と手放すのではなくて、今目の前にある物語をより良く先に進めていくための鍵として、しっかり活かす。
そのために必要な共感と知恵が、やっぱり人間と魔族を分ける決め手なんだと思う。
平和をイメージできなかったゼーリエであるが、自分を置き去りにすぐ死ぬポンコツ共が個性と尊厳をもった一個の生命であり、自分もそれと寄り添いながら生きているのだということは、しっかりイメージ出来たのだ。
だから彼女の弟子、弟子の弟子は長い時を経て世界を変え、平和をもたらす奇跡にたどり着けた。
魔法に浪漫を取り戻そうと歴史の表舞台に顔を出した大魔術師が、一番強く夢見た魔法は既に叶い続けていて、それは魔王を倒してしまったフリーレンも同じかなと感じる。
ある意味、永生者の余生なんだなこの時代……。
それでも人生という物語は続き、歩幅の合わない永遠をフリーレンは厭わない。
全ての願いが叶う特権を、フローラルな洗濯魔法に使ってしまった弟子の頭を撫でくり撫でくり、笑いながら明日へと進み出していく。
その出会いも別れも、下らないと誰かが嗤う人生のすべてが花のように輝いていると、誰かに教えてもらったから、思い出を愛しく葬送していく旅はいつだって、新しい喜びへと開かれている。
そうして進んだ一歩が、誰かの伝説を芽吹かせていくことは、勇者一行の物語に憧れてここまで自分を運んできた、デンケンやヴィアベルの生き方が良く伝えている。
そういう風に、連祷のごとく繋がっていく数多の人生をとても美しく描いての最終回は、凄くこのお話らしくて良かった。
願わくば是非、旅路の続きをアニメで見たいものだ。
そんな祈りを彼方に手渡しつつ、今はお疲れ様とありがとうとを。
とても素晴らしいアニメで、優れたアニメ化でした。
というわけで、葬送のフリーレンのアニメが終わった。
大変良かった。
原作が持つ独特の人生観、死生観を落ち着いた筆致でアニメに焼き付け、作中世界が持っている豊かで美しい風景をたっぷりと、アニメだからこその色彩と匂いで描いてくれた。
極めてリッチな筆先で描かれる、ファンタジックな風景を四季折々、景色豊かにたっぷり食べさせてくれて、毎週ありえないほどの眼福でした。
”下らない”日々の思い出こそを大事にする作風と、目の前に広がる情景から説得力を作る演出がしっかり噛み合って、背景がよく喋る作品になったのは、そういうの大好き人間としては大変ありがたかった。
こんくらいのレベルで、アニメに再構築された美しい自然を延々と摂取できるチャンスがあってくれると、生き延びられて嬉しい。
アウラ一派との激闘、あるいは一級魔法試験で作品の潮目が変わりつつも、根本にあるのは過去と響き合う現在、思い出に照らされて眩しい未来であり続けた。
死と時間に無情に引き裂かれていくように思える、虚しき人の定めがしかし、愛と祈りに満ちて全てを超えていけるほど眩しいものだと、様々な出来事、様々な出会い、様々な人々から描く。
人間讃歌の綴織のような作りを、どっか達観した透明感を維持し続ける画風と芝居、そこに生きる喜びを宿す細やかな配慮が支えて、静謐なんだけどスケールがデカい、独特の伽藍が組み上がっていました。
年経た賢者たるフリーレンが頑是ない童女の趣を残し、フェルンにお世話されながら踏み出した新たな旅路が、楽しく喜びに満ちたものであると色んな場面で感じられたのが、大変良かったです。
旅物語として色んな景色を見て、色んな出来事が起こって飽きない事が、フリーレンがその旅に見つけ大事にしているものの意味を自然と気づかせてくれて、しみじみワクワク出来たのはありがたかったね。
その旅は人類の宿敵である魔族との、激しい戦いの記録でもある。
要所要所でスーパーバトル作画が暴れ狂い、いい具合にスパイス効かせてマッタリだけで落ち着かせなかったのは。アニメ独自の味わいで非常に良かったです。
魔族という歪な鏡があればこそ、同じように達観し同じように永遠を生きるフリーレンがどうして”人間”なのか、より鮮明に見えた感じもある。
魔王を倒してなおその脅威が残る、厳しい世界を舞台とすることで、フリーレンだけが魔族と闘ったわけでも、戦いという生き様を誇り高く駆け抜けたわけでもないと、作品の横幅を確保できたのも良かった。
大魔法使いフリーレンが、どんだけの規格外かを作画の説得力で伝えてくれた、複製体戦の大迫力、ファンタジックな想像力は、やっぱアニメーションだからこその面白さに満ちてて素晴らしかった。
とはいえ戦いの中にも生きる意味を忘れず、というか戦えばこそ照らされるものを大事にしつつ、作品の特色である静かな温かさを積み上げていってくれたのは、凄く良かったです。
この落ち着き、アニメという動きと音がついて派手になりがちなメディアだと取りこぼされそうな部分だったのですが、徹底的にハイクオリティに勝負し続けることで、ともすれば原作以上に研ぎ澄まされた形で描かれたと思います。
まーあまりに質が高すぎた結果、原作が持つどっかポンコツなトボケが薄れた感じもあるが、張り詰めすぎないチャーミングさはしっかり随所に溢れていて、ラヴィーネ&カンネもイチャイチャしたおして、大変良かった。
感情表現が全体的に控えめな作風の中で、アイツラだけスロットルの開け方がきららだからな……その異質もまた良しッ!
あとアニメになってみると、ヒンメル無限の愛がとんでもない破壊力になっていて、『そ、そらアンタは勇者だぜ……』と黙っちまう迫力があった。
あいっっつマジ純愛なんだけどッ!
回想と現実がシームレスに重なる語り口でもって、花見ても雲見てもヒンメルを思い出す状況になったこと、その思い出が大変美しい色合いで描かれ続けることで、勇者の愛を天地が祝福し続けているような味わいがあったの、ロマンティックで良かった。
もはや今生で報いることが出来ない後悔を、追いかければこそフリーレンは天国への旅を続けているわけで、その起因たるヒンメルをいっとう好ましく、凄まじい男と描けていたの、大変良かったです。
というわけで、大変素晴らしいアニメをたっぷりと味あわせてもらい、ありがたい限りでした。
初手四連発、金ロー枠で思い切りぶっ放すという大胆な戦術もきっちりハマり、盛り上がった力こぶに負けない大ホームランを、盛大にぶちかます快作でした。
こんだけ盛大に打ち上がると是非、旅の続きをアニメで見たくなるわけですが……齋藤監督、ぼざろも場外までぶっ飛ばしちまったからな……。
定かならぬ未来に楽しい夢を見つつ、今はこうして素晴らしいアニメを届けてくれたことに感謝を。
とても楽しく、感じ入るものの多いアニメでした。
ありがとう!!