イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ダンジョン飯:第14話『シーサーペント』感想

 仲間との絆を確かめて、往くぞ新章後半クール!
 ……って勢いを横に逃すように、カブルーとシュロー、二つの新規パーティーが新たな物語の扉を開ける、ダンジョン飯アニメ第14話である。

 

 魔物にしか興味がない男と、人間に興味がありすぎる男。
 ライオスとカブルーは全く真逆の存在として描かれていて、しかしマニアックなまでに興味対象を観察し戦いに活かすスタイルは良く似ている。
 ここまではダンジョンの中、魔物相手のバトル&グルメにぐぐっと焦点を絞って描かれてきた物語だが、今後はカブルーが体現する迷宮の外への視線に乗っかって、色んなものが描かれることになる。

 多彩なパーティー、それが体現する価値観が世界観を立体視しだすと、主役として作中唯一の主観的視座を担当してきたライオス達の歪さが、相対的に客観視されていくことになる。
 タイトルにある”シーサーペント”を食べようとするタデの提案は、もってのほかのゲテモノ食いであり、今まで慣れ親しんだ魔物食が本来どういうポジションにある行為なのか、描かれないことで顕にもなっていく。
 ライオスが興味を持たなさすぎて、カブルーが興味を持ちすぎている”人間”の世界は、欲と悪徳に塗れて破滅的で、複雑怪奇な関係性の鎖に縛り付けられ、色んな推察が成り立つ、とても複雑なものだ。
 主役パーティーだけに光があたっていたときには見えにくかったが、ライオス一行は皆どこか、社会の中心からはぐれたアウトサイダーであり、ダンジョンを中心として広がり、またその外側により大きな社会を成立させている常識から、外れたところに立っている。
 そこでは人間がモンスターとなって襲いかかってくることも、人間専用の殺しの技芸が役に立つこともある。
 真逆の立場から見つめてみれば、世界は転倒した新たな形をさらけ出し、もしかしたらそちらこそが世界の真実かも知れないと、新キャラたちが元気に動き出した物語は静かに告げてくる。

 

 ライオスのマニアックな魔物知識が、敵として興味の対象を相手取る時大きな武器になっていたように、カブルーの人間への興味……それが生み出した洞察力や統率力、大人殺傷技術は、人間の世界を生き延びる強い味方だ。
 前半クールでは全然理解らなかった地上の政治や経済が、今回一気に開示されていくのは、物語がライオス一行の火竜退治から複層的な群像劇へと舵を切り替え、変人たちが興味を持たなかった(あるいはあえて話題に出さなかった)現世のよしなし事を、迷宮に潜る目的と据えている”マトモな”連中が話の真ん中に立ったからだ。
 カブルーが気に掛ける、欲を飲み込んで肥大化する迷宮経済と、その果てにあるカタストロフは、『人間に興味がないだけ』の善人達の視界には入らず、そういう意味ではライオス達も、クズ以下の死体漁りとそこまで違いはない。
 というか世の中全体の行く末を気にかけ、一攫千金の我欲ではなく衆生救済の大望のために迷宮に潜るカブルーのほうが、数の上では異常な少数派なのだろう。

 それもこれも、カブルーが善悪清濁全部含めて、”人間”なるものの営為に強い興味を持っているからで、しかしそれは彼が果たすべきダンジョン踏破のミッションとは、奇妙に噛み合わない。
 人間が殺すのがどれだけ上手くても、シーサーペントの頸動脈がどこにあるかはわからないし、魔物退治にフォーカスして進んできたこれまでの物語において、カブルー一行は”死ぬ役”だった。
 人間を視ることを遮るくらいに、魔物に強い興味があるライオスこそが、魔物で埋め尽くされた狂気の迷宮においては真実に近い場所に近づき、そこで得られるはずの大きな力を正しく(正しすぎて苛烈なほど)求めているカブルーは、人間が好きすぎて魔物退治が上手く行かない。
 そんなジレンマが、第二の主役を描く中で浮かび上がっても来る。

 

 ヒロイックなケレンが爽快だったライオスの魔物退治に対し、カブルーが人を殺す技術はシャープでスピーディー、とても効率的で実務的な暴力として描かれた。
 ここのアクションの味わいの違いは、それぞれが向き合っている敵の性質、その向う側にある願いや視座の違いを、上手く可視化してくれていた。
 嘘つきの犯罪者に気前よく金をくれてやる、ライオスの”善行”は、人間なるものの表層に何が隠れているのか見ない……そのかわり、自分が見たい魔物たちに視線を固定することで成立している。
 そこでは血生臭く複雑な利害関係や、嘘も残酷もあって当たり前の人間社会は視界の外側、遠くにある。

 カブルーにとっては自分が身に着けた暴力は、人と人が相争い騙し空い、それでも少しはマシな社会を築こうとあがいている現世を生き延び、願いを叶えるために最適化されている。
 幻術に惑わされず、太刀筋やふるまいから仲間を見分け、口づけで詠唱を止めるという極めて”人間的”な知恵を使って窮地を乗り越えた後、リンシャへのフォローも忘れない。
 その無神経さで変人たちをもドン引きさせているライオスとは、人間存在への解像度が大きく異なっている。

 ではカブルーの見据えているものだけが正解かと言えば、既に狂った迷宮が姿を表し、島の経済と政治の中核に居座ってしまっているこの世界において、そうではないから彼らは何度も死んでいる。
 人の条理を超えたところで、謎めいて力強く回転するダンジョンの真理はある意味、どっかがぶっ壊れたアウトサイダーにしか見えないものであり、その親和性がライオスをカブルーより優秀な”冒険者”足らしめてもいる。
 そんな現状をカブルーはかなり冷静に見据えつつ、島ごと何もかも飲み込みかねない破滅の運命をどう乗り越えていくか、確かな絆でつながった仲間たちと挑んでいる。
 ここら辺、あくまで身内の蘇生のためになりふり構わず死地に挑んでいるライオスたちと、公益を見据えて”正しく”闘っている(けど結果が出ない)カブルー一行で、面白い対比だと言える。

 

 狂っているからこそ迷宮に愛される主人公と、真人間過ぎて迷宮と魔物に馴染めないもう一人の戦士の運命が、今後どう交わっていくのか。
 その鎹になるのが、かつてライオスと肩を並べて迷宮に挑んだシュローだ。
 東方のエキゾチックな戦士たちを従えた彼が、どんな人物なのかは来週以降描かれるとして、カブルーは親しげな仮面をつけて痩せこけた侍の懐に滑り込んでいく。
 ごくごく一般的な(面白くもない!)冒険者用携行食をツマミに、色々他人の内情を推測していたのはただの興味本位ではなく、情報的アドバンテージを握って今後の交渉を有利に進めるための、極めて実際的な情報分析だったわけだ。
 これは魔物への興味をダンジョン攻略に役立て、戦略的に冒険を進めていたライオスの鏡写しで、彼が苦手な対人交渉をカブルーは、持ち前の人間への興味で乗りこなしていく。
 そこに観察に溺れ人としての分を踏み外す危うさが滲むのも、正反対に思える二人の男達の、歪な鏡写しか。

 カブルーが大望を抱いて正義を為す男であると同時に、そのためなら冷酷な決断も躊躇わないタフさを持っていることは、死体回収業者への対処でも良く分かる。
 ”人間”を興味深く見据えつつ、その全てを愛して許すわけではない冷静さは、果たして人間と向き合う時に武器となるのか、仇となるのか?
 心通わし、同じ釜の飯を食う行為の意味を重く(楽しく、ポップに)描いてきた物語において、カブルーの計算高さはどこか脆さを感じさせる。
 だからといって悪食ライオスが正しいってわけでもなく、つーか作中一番アンバランスでヤバいのはアイツなわけで、どっちもどっちな二人の戦士がどう、迷宮の深奥へ踏み込んでいくか……なかなか面白い状況になってきた。
 まーまずは、シュローへのアプローチをどう乗りこなして、気になってるライオスの情報を引き出し近づいていくか……って所かなぁ。

 

 というわけで、正反対の黒と白、”人間”に魅入られたもう一人の戦士のスケッチでした。
 高徳のヒューマニストのようでいて、苛烈な危うさも秘めたカブルーが体現する、ライオスには見えていない世界とそのルール。
 これが狂気の迷宮にどう関わって、群像を絡み合わせていくのか。
 今後の展開が益々気になる、良い後半戦開幕でした。
 次回も楽しみッ!