イマワノキワ

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忘却バッテリー:第7話『面白いやつら』感想ツイートまとめ

 忘却バッテリー 第7話を見る。

 藤堂葵の野球人生行き直し後編ッ! というわけで、小手指ナイン一丸(クソ先除く)となって、藤堂くんのイップスに向き合っていく回である。
 藤堂くん自身の辛さと頑張りも熱があっていいのだが、各キャラクターが”らしさ”を生かして彼の復帰を助け、最高の遊撃手を取り戻していくチームワークの描写が、このお話がどんな味わいなのかを、初めて明確に教えてくれる手応えがある。
 指導者不在、生徒中心のガチだけど楽しい、他人に自分を否定されない野球。
 仲間と野球をすることで、本当の自分を取り戻していけるような野球。
 そういうモノを、小手指は追いかけていく。

 

 日本のキング・オブ・スポーツとして、数多の名声とカネを生み出し才能を引き寄せる野球には、綺麗事ですまない残酷が当たり前に転がっている。
 藤堂くんのエラーとイップスも、悲惨だけどもありふれた残酷劇の一幕であり、彼が所属していたチーム…名門への推薦をもらって野球経済を回すエリートのレールは、その心身を救ってくれなかった。
 ズタボロの彼が運命に出会い直すまで、誰がケアしていたかを如実に語る姉妹の描き方が、優しく可愛くて大変好きだ。
 こじんまりとした団地でギリギリ守られてきた彼の魂を、クセの強い仲間たちがチームとして抱きしめる様子を通じて、それぞれの人格や個性も良く見えてくる。

 アタマパーになっちゃった圭ちゃんは、野球続けていくために必要だった意地の悪さも真っ白になって、極めて素直で善良なド素人として、思わぬアイデアを出す。
 重たい絶望に飲み込まれそうになった藤堂くんに、気楽に理由のない前向きさを笑いと一緒に手渡す場面には、コレまで滑り気味のギャグしかパナシてなかったパイ毛野郎が、野球経験者の誰も出来ない奇跡を、気軽に引き寄せる気持ちよさがある。
 重たいシリアスさを笑い飛ばせる、バカだからこその強さをこのお話の主役は持っていて、これが長年出口のなかった闇を照らす、決定的な光になる。
 今回のエピソードは、要圭の唯一性、主役力を可視化する回だ。

 

 もう一人の主役である葉流火は、圭ちゃんが忘却と一緒に取りこぼしてしまったガチゆえの厳しさと正しさを体現する。
 それは人間関係のビーンボールで、加減のない正論が人間を壊すヤバさを認識しないまま、ただただ葉流火は強くて正しい。
 そういう風に”智将”が削り出した真っ直ぐなヤバさは、受け取る側が相当人間出来てないと敵しか造らない危険球だけども、藤堂くんはそういう人だったので、その正しさがむしろエールになっていく。
 簡単には他人を認めない、誰よりもまず自分に厳しいスーパーエースが認めてくれるからこそ、『ショートは藤堂だろ』は胸に深く突き刺さる。
 いやまぁ、マジギリギリの危険行動だとは思うけど…。
 葉流火がここで無神経に厳しい、でも正しいことを真っ直ぐ突き出すことで、トラウマ持ちの傷をペロペロ舐め合ってるへんな甘みがスッキリ抜けて、ある種の必然としてみんなでエースを取り戻してる硬い手触りが、エピソードに宿っとるからな。
 大事な描写だ。

 葉流火が超高校級の野球マシーンでいられるのは、かつて”智将”が目論んだ通り、余計な荷物をなんにも背負わず、野球以外何も見えていないクソガキのまま、ガタイだけデカくなった結果だ。
 その歪で真っ直ぐな育ち方が生んだ葉流火の個性を、彼にぶっ飛ばされた経験を持つ小手指ネームドは受け入れている。
 最悪な性格と最高の性能を併せ持つ、友達にするにはピーキーすぎるがチームメイトなら頼もしい、ダイヤモンドに過適応した正論の獣。
 その牙が味方に突き刺さらないのは、バカになっても…なったからこそ人を和ませる圭ちゃんが、『他人の努力否定すんな』とか極めて大事な所、きっちりキャッチしてくれているからでもある。

 このメインバッテリーに、冷静な分析力と闘志を燃やさせる鋭い皮肉を使いこなす千早と、柔らかな人当たりと確かな鍛錬でガッチリ受け止める山ちゃん、頼りないけどとにかくいい人な先輩たちを加えて、チームはかなりいいバランスで駆動していく。
 圭ちゃんの思いつきが持ってる可能性を、野球を愛し野球に傷つけられ、それでも野球をやめれない野球バカたちが検討して広げ、実際に練習(あるいは治療)を重ねて一歩ずつ、出来なかったことが出来るようになっていく。
 そういう小手指の強くなり方、生き直し方が、藤堂くんをクランケにしてようやく、鮮明に見えてくる回である。
 これが”7話”なの、結構ムケルのが遅いお話よね…。

 

 さておき、一塁送球以外は守備も仕上がっている藤堂くんの野球力を、しっかり作画してくれるアニメの良さも助けになって、小手指イップス治療はチームの確かな手応えと、それが生み出す絆を物語に刻んでいく。
 最初はただの捕球がノックになり、ランナーを背負い、だんだん高度になっていく傾斜のかけ方が、前回描かれた重苦しい希望が出口を見つけ、ちょっとずつ希望が生まれていく手応えを描き出していく。
 プレーの作画がいい感じなのは、ダメダメだったところからちょっとずつ良くなっていく藤堂くんの心境に、しっかり視聴者をシンクロさせていく力があって、大変良かったと思う。
 語らず描くからこその説得力…というか。

 事情も知らされずノンキなモブ顔してる先輩たちも、まーとびきりいい人ではあって。
 彼らなりの苦悩と輝きは今、原作の方でアホみたいに爆裂しておる真っ最中だけども、いつかヒーローになるかもしれない人の助けを借りることで、小手指は最強のショートを取り戻し、彼の復活を助けることで、小手指はチームになっていく。
 性格と能力の凸凹が噛み合って、皆が出来ることをして、出来ないことがあるなら別のやつが補って、一つの有機体として”野球”をやっていく資格を、色んな形で示していく。
 この手応えがちゃんとあることが、単なるキャラエピを越えた手応えを藤堂くんの掘り下げに与えているんだと、アニメで改めて感じた。

 藤堂くん自身は何も悪くないのに、彼自身の責任感と最悪な大人にぶっ壊された感じの話運びなので、野球止めようと流れ着いたクソ都立が壊れかけの自分を奮い立たせてくれる、最高のシェルターだった幸運も眩しい。
 ”智将”殺しちゃった圭ちゃん含め、みんな”野球”に傷つけられてそれでも愛しているサバイバーばっかなんで、負け犬が生き直すの物語としての色合いもかなり濃い話なんよな…。
 その舞台となる、野球世界の端っこがどういう空気で満ちているのか。
 その最初のサンプルとしても、藤堂葵再生の物語は凄く仕上がりが良く、飲み干して心地よい。
 『コイツラになら、勝って欲しい』と思えるようになるエピ、マジ大事。

 

画像は”忘却バッテリー”第7話より引用

 そしてあんまりにも神ってる、再生の後のエピローグですよ…。
 緻密にバッティングセンターの美術を書き起こし、複雑に絡み合うフェンスだとか、結局ボールが一つに集まる様子だとか、背景にメッセージを託す演出が、とにかく良く冴えていた。
 MAPPA美術部の確かな腕前を、適切に演出し切るプランがしっかりアニメであることが、要所要所で効いてる作品だと思うのだが、その真骨頂を見た感じがあった。
 先輩が出てくるタイミングもいいんだよね…”今”藤堂くんと一緒に戦う仲間が、希望を自分たちの手で引きずり出した後、その報酬のように過去が追いついてくる。

 イップス治療に希望が見える前に、先輩に声かけられても藤堂くんは向き合えなかったし、泣けなかったと思う。
 素直に傷を見せれる仲間と出会い、自分の諦めを土足で乗り越えてもっといい未来へと手を引いて、チームとして課題を乗り越えていける。
 そういう自分…自分たちを信じられる立場になったからこそ、ただただ自分を責め、そのことで地獄をギリギリ生き延びてきた藤堂くんは、先輩の優しさを受け止めれるようになった。
 それが最後の決め手になって、小手指一のパワーヒッターは快音を響かせて、その日一番のホームランを打つ。
 飛行機雲の軌跡は、彼がこの後かっ飛ばす幾本もの夢を先取りしていく。

 金髪になった後輩を見て、先輩がややビビりして慎重に隣に立つのが、俺は好きだ。
 彼だって無敵の聖人ではなく、レギュラー取ったり取らなかったりの当たり前な高校球児で、だけど…だから野球を続けている。
 そんな波風のなかで気にかけていた後輩が潰れていないと、野球やめていないと探るように言葉をかけるとき、彼らはバットを手放さない。
 キツくても恵まれない環境でも、運命に裏切られても”野球”し続けてしまう呪いはしかし祝福でもあって、ダイヤモンドで再び出会い、”野球”で競い合って魂の本当のところを、熱くぶつけ合える希望を生み出しもする。
 そう思えるから、彼らは打席に立ち続ける。

 

 そういう場所に藤堂くんは、チームメイト(と家族)の助けを借りてようやくたどり着けたし、そこに立ち続ければいつか、大好きな”野球”が笑ってくれると思える、とても良いエピソードでした。
 このお話はあくまで”治療”であって、古傷癒やしたエースがどんだけかっ飛ばすのか、ワクワクした期待が今後の試合にきっちり残っているのも、大変いい。

 なによりやっぱこの二話で、藤堂くんと小手指が大好きになれたのが一番偉い。
 優しいからこそ傷ついた子どもに、バカいいながら優しくしてくれる連中ほど、嬉しいモノないもんな…。
 葉流火のガチっぷりで甘さも適度に絞れてて、凸凹噛み合っていい感じの小手指人間関係を描きつつ、次回も楽しみ!