烏は主を選ばない 第8話を見る。
早桃の遺骸から溢れ出した毒が、華やかな桜花宮に溢れて死と狂気を押し広げる…あるいは暴き立てていく回となった。
ドミノ倒しのように最悪に最悪が重なっていく末端、ぶっ壊れた白珠様のおぞましさと哀れみが凄いことになっていたが、何がどうなって誰を信じればいいのか、さっぱり読めないこのゾワゾワした感じは大変心地いい。
桜花宮に集う后候補は軒並み、人を好きになる気持ちが形を得る、自然な婚礼とは程遠い家名と権勢の駒。
そういう腐った地金がようやく表に出てくる、暴露のカタルシスがこの悲惨には確かにある。
所詮救われぬ禽獣の群れ、これが性根…か?
滝本は早桃の死と一巳の侵入を、卑しい生まれの賊がカネ目当てで浅慮に走った…と結びつけていたが、浜木綿はこれを否定して白珠の懐へと優しく踏み込んだ。
滝本が用意した階級差起因のストーリーは、自分たちが選ばれた貴種だと思いたい連中には便利な衣であるけども、どうやら真相はそこにはないようだ。
ここら辺は雪哉サイドの政争を通じて、『この選良気取りのクズカスども、腹黒い足の引っ張りあいしかしてませんよ!』と、さんざん告げられていたからぼんやり感じる印象かもしれない。
身分の高さが優れた人品を保証しないとしたら、桜花宮殺人事件の真相はパッと見よりさらに腐った、ロクでもない地獄にはなりそうだ。
早桃の死に藤波が責任を感じている様子、彼女の遺体に握られていた分不相応な櫛をあわせて考えると、彼女がこの事件の巨大な静脈瘤っぽい匂いはある。
女人禁制の桜花宮に漂う、身分違いの恋の匂いは幸せなロマンスに結実することなく、数多の死体を積み上げていく。
この裏に何があるのか、次回炸裂するだろう白珠の告解が教えてくれそうだ。
あの狂いっぷりを見るだに相当エゲツない爆弾が埋まってそうで、今から戦々恐々ではある。
どーもあの狂い方は、政争の道具として桜花宮に送り込まれて、期待される役割と白珠自身の心が乖離した所に、一巳の死がとどめを刺した感じに見えるが…単純に想い人を殺された以上のヤバさも香る。
早桃と一巳、両方に共通するのは山烏という卑賤な出身…を、過剰に嫌う貴族階級の差別意識だ。
華やかな桜花宮ばかり見ているとなかなか可視化されない、格差と収奪で成立しているだろう山内の政治体制は、例えば敦房を張り飛ばす南家当主からも感じられる。
この世界の貴族、めっちゃナチュラルに階級外の連中蔑んでいて、時代的にはそれがスタンダードなんだろうけども、当たり前に人間の心を持っちゃってて、恋もすれば哀しみも抱き、怨みも呪いもする平民の気持ちってのを、何も汲まない冷血で世の中が回ってる。
『そういうもんだ』と飲み込む気持ちと、『そらー腐るわな』と納得する気持ちと、半々くらいでどっちも最悪の気分だ。
四家がお互いに麗しい駒を出し合い、仁義なき婿取り合戦を繰り広げる、桜花宮の婚礼闘争。
そこにはあらゆる禁じ手がなく、どうも下層から”勝てる”駒を用意するのも当たり前っぽい。
白珠の言い草を聞くだに、彼女がそうやって裏口から送り込まれたビーンボールな感じだが、心根の方は至極真っ当で、狂った差配に馴染みきれないから壊れちゃった感じがある。
ここら辺、浜木綿が颯爽毅然と振る舞いつつ気にかけてくれていて、現代人の感性が抜けきらない自分としてはありがたかった。
(現代の倫理基準に照らすと)人非人(になる連中)が、フツーに多すぎんだよな山内…出家者名乗りつつ鏡拝んでる、仏性無き畜生界がよー。
誰が”人間らしい”真心の持ち主で、誰が美麗な顔した鬼畜なのか、なんとはなしに嗅ぎ分けられるようでいて、香と腐臭が入り混じって判別がつききらない、不鮮明な情勢。
ここに切り込む一つのヒントとして、あばた貰ったはずなのに極めて美しいあせびの双子…本来東家が桜花宮に貼るはずだった駒の双葉が、盤上から降りた真相は気になる。
若宮本人が身分を偽り、メッセンジャーとして告げている気がかりは、思いの外本心じゃないかなぁと思ったりもするが、そんな若宮にのみ告げる一生モノの秘密とは、一体何か。
あせびに近い登場人物なので、この真実がぽわぽわ砂糖菓子女の地獄を暴く…ともなりそうだなぁ。
色々ヒントは見せられつつ、なかなか真相へ踏み出すには証言が足りていない状況になってきて、なかなか心地よく居心地が悪い。
急に地獄が映えてきたというより、分厚い白粉で隠してきた腐敗が、華やぎの許容量を越えて溢れてきた…って手応えなのは、桜花宮の外側を並走して描いてきたアニメ特有の感覚だろうか。
まーこんなロクでもない場所のハレムなんだから、そらー当然ロクデモナイよね…。
若宮の威光をたすき掛けにしてた雪哉の時は、ちょっとコメディ調子ですらあった桜花宮侵入が、そういうの無しだとマジで惨殺される今回の対応、後ろ盾のあるなしで明確に生死が別れるヤダ味凄かったな…やる気満々過ぎるだろ藤宮連。
しかしまぁ、その胎が未使用であるという”品質保証”で駒に高値がつく最悪の婚礼市場において、オスが迷い込んで処女雪に足跡つけたとなれば、問題は一個人の恋愛なんぞに当然収まらず、家の浮沈を賭けた極めて生臭い政治問題になる。
その重たさと狂いっぷりを考えると、超音速でぶっ殺しにいく対応も一応、納得は行く。
社会の上層と下層はけして交わらず、生まれてしまった想いは形をなす前に堕胎するのが当たり前の、誰もが檻の中にいる世界。
積み上がった死体はその犠牲なのか、さらなる狂気の告発者なのか…次回、純白の姫君が語るだろう一つの真実を、楽しみに待ちたい。
…楽しくねーよ、山内死に過ぎ狂い過ぎッ! って言いたいところだが、限界越えて人間の最悪を掘り下げ続けて、そこで溢れるだろう何かを期待してるのも、また事実である。
こういう方向に舵を切ったのならばヌルいブレーキ一切踏まず、ガンガン容赦のない最悪を叩きつけて、ヘロヘロになりながら行き着くところまで行ってみたい気持ちが、僕の中にはずっとあった。
なのでこの死穢と狂気に満ちた全速力、待ってたものが来た気持ちよさが確かにある。
次回も楽しみです。