うる星やつら 第42話を見る。
騒々しくも楽しく物語の舞台を彩ってくれた連中に、花束を手渡すように個別エピソードを積み上げてきた令和うる星第4クール。
ファイナルエピソードになる”ボーイ・ミーツ・ガール”を前に、テンちゃんを末っ子にした家族の景色と、宇宙由来の不思議アイテムでメチャクチャになる定番話を描く回である。
終わらない物語が終わる前の、最後の日常のスケッチとして、騒がしいのにどこか寂しいのは、既に一回決着を見届けているからか。
そういう感傷は横に置いて、ワーワー騒がしくてとても可愛らしい、すごく”うる星”らしい回だった。
第1エピソードはあたるとテンちゃんのいつものケンカから始まり、ふよふよ街をさまよってどう謝ったもんかクソジャリが思い悩み、セーターの可愛らしいお詫びでまとまる流れ。
令和うる星のテンちゃんはよちよち感が程よく強調され、メイン張る旅めちゃくちゃ可愛かったが、悪たれな部分もありつつ根っこは善良な可愛げがたっぷり接種できて、今回もとても良かった。
ケンカしつつも結局仲が良い、あたるとの血縁のない兄弟関係もずーっといい感じだったので、それが今でもこれからも続いていくのだと思える、温かな手触りを受け取れたのは嬉しい。
思い返せばあのケンカも、”いつものうる星”を彩る大事な一幕だったなぁ…。
ラム手製のマフラーが燃えたことで始まるこのエピソード、あたるはラムへの気遣いをテンちゃんへの当てこすりにしか使っておらず、それゆえラムの気持ちの真芯を外す。
形になるような証より、自分をあたるが気にかけてくれることにラムは喜びを感じるわけだが、そういう純粋でピュアな思いを真っ直ぐ受け止めるのはあたるには気恥ずかしく、ガキとのガキみてーなケンカの火種に当てこすってしまう。
こういう不器用な幼さが、ラムとの関係、そこに宿る感情を直視させないまんま、終わらない狂騒を続ける前提になってきた。
話が続く限り、あたるは誰かの気持ちに気付けない、ずーっと残酷な子どものままだ。
逆を返せば、あたるがラムの気持ちとラムへの気持ちに気付いてしまえば”うる星”は終わってしまうわけで、それが出来ない不自由を終わりの始まりを前に、新たに描く回でもあったのだろう。
そんな風に、プレイボーイを気取りつつ女の子の気持ちを全然考えられず、残酷なガキだから相手にされなかった少年がちょっとだけ大人になる契機が、面堂くんや竜ちゃんと同じく”許嫁”なのは、ある種の”文法”を感じて面白い。
素直な気持ちにたどり着くまでの長い回り道を終わらせるには、親の勝手な約束が生み出した強制的な恋愛関係をテコにするのが一番便利で、繰り返すだけの価値があるモチーフだ…って話になろうか。
あたる相手にはあんなにバリバリしてるラムが、テンちゃん相手にはどうしてもダダ甘になってしまって、騒々しいラブコメではなかなか見えにくい、彼女の穏やかな気性…そこから外れる特別なダーリンの存在感が、より際立つ回でもあった。
あたるとあたる以外で、全然対応が違うのがラムというキャラクターの面白さだと思うけど、第2エピソードでハートを盗まれた時も、『愛情表現ーッ!』と叫びながらあたるにだけ、ビリビリカマシとったからな…。
工学に才能を発揮する、かなり大人びた少女であるラムが普段とは違う自分を見せたくなる甘えが、あたるとの間には存在してるわけだ。
ハートを物質化して盗み合う、宇宙由来のトンチキ物品物語もおそらく、今回で最後。
キャラよりガジェットを中心にして、ワーワーうるせぇ騒動をドタバタ楽しむお話も、このアンソロジーに複数収録されている。
当たり前の日常じゃ起き得ないぶっ飛びが、楽しく青春を弾ませていく”うる星”らしい手応えを与えるのに、良い物語フォーマットだったなぁ、などと思う。
話数が多いので、こうして”うる星”恒例行事の送別会をしっかりやれるの、一回完結した後4クールのアニメにしているからこその味で、結構好きだ。
やっぱ自分は令和うる星を、”うる星やつら”とは何だったのか再考するためのアンソロジーとして読んでるな…。
というわけで最後の日常が騒々しくの穏やかに収まって、終わらない物語の終わりが始まる。
こっからのシリアスなドタバタをどう描いて、アニメなりに『”うる星やつら”とは何だったのか』を語り切るかが、始まった時からずっと楽しみだった。
それは原作とも初代アニメとも、違う語りになるだろう。
ここまでどの話をどのタイミングで流し、どういう印象を与えるか積み上げてきた4クールの意思が、結実するエピソードになっていく。
終わり良ければ全て良し、となるために、終わるまでに積み上げた狂騒と情感にちゃんと向き合って、一個一個のエピソードを磨いてきた。
そんな令和うる星が、どう終わるのか。
楽しみだ。