イマワノキワ

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時光代理人-LINK CLICK- II:第12話『いいお兄ちゃんがいないと生きられない』感想ツイートまとめ

 時光代理人-LINK CLICK- II 第12話を見る。

 数多の犠牲を生んだ遠隔人格交換殺人事件は、新たな悲劇を生みつつ一応の幕を閉じた。
 『お家が一番』なハッピーエンドの奥に潜む、不穏な気配が『三期はよ!』の気持ちを加速させる、クリフハンガーな時光二期最終回である。
 まー深夜アニメというより海外ドラマの文法で動いている作品なので、最後までヒキたっぷり! 終わったけど終わってねーわよ!! なのは、ある意味予測の範囲内ではある。
 一期もありえんほど強力なヒキで興味を掻き立てられて、その余波で二期最後まで走りきれた感じもあるしな。
 いやマジ、三期も日本での放送、お願いします。

 


 というわけでみぞおち思いっきりぶち抜かれたティエンシーちゃんは、最後までお家に帰りたいと泣きながら死んでしまった。
 人格交換殺人のアダプターに使われたのも、家族が悲惨極まる血みどろに沈んだのも、彼女何も悪くなくて、この無辜なる最悪がいかにも”時光”っぽいなぁ、と思ったりする。
 思わず書き換えたくなる理不尽な悲劇に、かすかな希望を探し前を向き続ける一期のオムニバスが、それでも干渉可能な他人事として遠ざけていた領域に、二期はトキ達を当事者として、現在進行系で引きずり込んでいった感じがある。
 ティエンシーちゃんの人生と死は、時光代理人が向き合うべき悲惨の最新版…

 とか思ってたら、無事お家に帰ってきて病み上がりをお世話されつつケーキモグモグ、全力でお姫様されてたトキこそが悲劇の当事者であり、それを回避するべくヒカルが禁忌に踏み込んだ可能性を示唆してきたんだから、やはり”時光”は一筋縄ではいかない。
 ティエンシーちゃんの記憶読解能力が、死の間際リンちゃんに継承されたのか、一時の奇跡だったのかはまだ判別がつかない。
 だが同じ現象が異能者の死に際に起きるとすると、トキが死んだ世界線で能力を引き継いだヒカルが、客観の状況把握と主観の運命操作を同時に使って、彼が生存するルートを掴み取った可能性は十分あると思う。

 と、すれば。
 一期で描かれた沢山の悲劇や、『俺と妹を助けろ』と写真を預けたお兄ちゃんの願いを、跳ね除けて運命の流れを守らせてきたのに、最愛の男を救うために世界を書き換えてしまったヒカルは、自分自身を裏切ったことになる。
 その力を求めて暴走したチエン弁護士と、どこか同じ存在に堕ちてしまった危惧を、最後の最後でねじ込んでくるのはなかなか凄い。
 何もかも仮説でしかないし、トキが生き延びたことで世界がどう揺らいでいくかも描かれていないので、ヒカルの決断をどう判断したかは、非常に難しいのだが。
 しかしあれだけ倫理的だった彼が、激情家の相棒より早く一線を越えたとあらば、なかなかショックだ…。

 

 ティエンシーちゃんの能力混線は、未来の可能性を覗き見るだけではなく、事件の真相を最後に暴きもする。
 母の体を乗っ取って”正義”を行い、反撃で母を殺されてしまった無惨が、決定的にお兄ちゃんを壊してしまった様子。
 それでも最後に自分を抱きしめてくれた母の愛と、”いいお兄ちゃん”であることを約束してくれた兄との絆を、彼女がずっと覚えていたこと。
 だからこそチェン刑事を殺す時、流れ込んでくる父としての愛と無念に耐えきれず、涙ながら駆け出してしまったこと。
 今際の際に描かれるには、あまりに重たく複雑で苦しい、痛みの記憶。
 ホントティエンシーちゃん、何も悪いことしてなさすぎる…。

 『妄執に支配された暴力に立ち向かえば、自分がヒーローになって幸せがやってくる』という幻想に、突き動かされてお兄ちゃんはお母さんを操った。
 でも握った暴力はおぞましい敵ばかりではなく守りたかった家族を傷つけて、しかも乗っ取りの異能はその痛みを共有させない。
 他人を便利な乗り物に変えてしまう、お兄ちゃんの異能の長所が、真実が明かされてみると与えられるべき罰から彼を遠ざけ、より苦しませる原因になっていたのは皮肉だ。
 ティエンシーちゃんはそういう痛みを、兄の乗り物にされる度に強く感じていて、だからチェン刑事が死ぬ間際、泣きながら逃げ出した。

 裏切りに思えたその痛みを、妹を殺されその妹に未来を守られて、ようやく泣きじゃくりながら感じられて…でもお兄ちゃんは、ティエンシーちゃんとの思い出が詰まった携帯を置き去りにして、シァオの手を取った。
 悲劇に翻弄され、死に際に心を重ねた兄妹を鮮烈に描く演出の中で、ティエンシーちゃんを縛る鎖として”写真”がでてきたのが印象的だが、『いいお兄ちゃんでいる』という祈りが刻まれた”写真”は、異能の殺戮者を救うことはなかった。
 それは打ち捨てられた思い出になってしまって、更なる荒廃へお兄ちゃんは進む。
 つーかなんなんだよあの花江夏樹イカレ弁護士が退場しても極悪ハンサムメガネがまた出てくんだけど!

 

 最後の最後までスーパーアクション満載、今期一番格闘戦描写が冴えていたアニメでもあったが。
 よくよく考えれば元刑事、そらーステゴロもつええわな…って感じのチエン弁護士の暴れっぷりは、爽快感の欠片もない生っぽい狂気と暴力に満ちてて、大変良かった。
 余裕ぶった大物ヅラが後半になるにつれどんどん剥げていって、猜疑と妄想に凝り固まったどす黒いものが顕になったけども、その醜悪はどっか、主役たちの鏡にも思えた。
 一歩間違えれば、どんな善人もこうなっちまいかねない怖さや危うさを、改めて主役と物語に突きつける爆弾として、チエン弁護士というキャラクターはいい仕事をしていたと思う。

 李兄妹の父親もそうだが、愛を謳いつつ支配を押し付け、信頼を口にするくせに誰も信じない猜疑が、何もかもを壊していく。
 あるがままの姿を信じられない歪さは、自分が今どんな事をしているのか、客観的に把握する力を奪う。
 結果身勝手な理屈と最悪の暴力を振り回して、弱い人を傷つけ死に至らしめる怖さから、写真の中の悲劇を何回も書き換えようとした時や、実際書き換えたかも知れないヒカルは完全に自由なのか。
 シャオ刑事怒りの鉄拳が遂に炸裂し、一応事件は決着を見たものの、失われたものは多すぎ、明白な答えは出ない。
 このモヤモヤがしかし妙に気持ちよくて、続きを見たくなっちまうんだから怖えもんだよ…。

 

 色々酷いことが山程置きたけども、『世の中そんなもんだよね』という冷笑や諦観で作品を塗るのではなく、そういうどうしようもないことに満ちた世界でどう、人を信じ未来を願うのかを、このお話はずっと考え描いているように思う。
 それが全然簡単じゃないことは、ティエンシーちゃんの死が何より雄弁に語っているが、それでも善く在ることを諦めてしまったら、人間は簡単に怪物になってしまう。
 そしてトキとヒカルの異能は、その一線をとても簡単に飛び越えさせてしまう危険なモノで、だからこそ人としてあるべき姿を探り続けるのは、この作品の中核に在る大事な問いかけだ。
 三期にモロ続いてんですけどこの問いかけッ!

 そういう意味では、一期では傍観者的立ち位置だったリンちゃんがガンガン事件に噛んできて、最後までティエンシーちゃんの血を止めようとしてたのは、結構大事な描写かなと思う。
 結果だけ見るならティエンシーちゃんは死んじゃって、あの場で唯一戦うより命を繋ぐ事を選んでいたリンちゃんの善意は、何にもならなかった。
 でもあの取調室で焦ることなくティエンシーちゃんに寄り添って、心を繋いでいたからこそ、彼女は死に際泣きじゃくるだけじゃなく、『ありがとう』と言えた。
 そのかすかな光にどれだけの意味を見出すか、作品は明白な答えを出さない。
 それを見届けた僕らが考えるべき要素で、大変いいと思う。

 

 

 というわけで時光代理人二期、全話無事終了です。
 異能人情オムニバスだった一期からガラッと色合いを変え、ハードな暴力描写とシビアな展開がノンストップで暴れまわる、アクションサスペンスとなった二期。
 冴えたセンスと独特の画作り、スタイリッシュでテンポの良い描写は更なる加速を見せ、日本製深夜アニメとは少し違った面白さを、毎週与えてくれました。
 とにかく要所要所の絵と演出がありえんほど冴えてて、最高の映像を浴びる快楽がグツグツ煮立っていたのは、シンプルで一番偉いところだった。
 第6話を筆頭に、苛烈で悲惨な暴力から欠片も逃げることなく、全力で書ききったのも凄かったな。

 全てをやり直せる奇跡を求め、暴走を繰り返すチエン弁護士の真実が、ひどく卑近な不信と妄想に塗られていたのが、スタイリッシュな作風に似合わぬ泥臭さで、その対比もまた良かった。
 特別な異能を描きつつも、極めて普遍的な人間性への問いかけを忘れずやり続けているのが、一期からのこの作品の良さだと思っているが、12話続けて一つの事件に挑み続けた二期も、どうにもやりきれない世界の理不尽、人間の悲惨に真っ向から向き合い、そこに宿るかすかな光を必死で掴みに行く熱に、力強く満ちていた。
 冴えわたるスタイリッシュに溺れず、血生臭く泥臭い人間の業を『もう勘弁してください!』と思うほど積み重ねていたのは、大変いい。

 

 この地に足がついた…というか泥に腰までハマった作風があればこそ、トキとヒカル、そして李兄妹を翻弄し苦しめる特別な力が、あくまで”人間”の可能性なのだという納得が、作中に生まれていく。
 それは希望や連帯の方向だけでなく、苦悩や絶望にも繋がっている、不安定な力だ。
 だからこそ正しく使う道を探し続けなければいけないし、それを諦め身勝手な”正義”にしてしまったときには、誰も救われない悲劇が拡大していく。
 それに飲み込まれて、ティエンシーちゃんは死んでしまった。
 つくづく、無念である。
 イヤホンっとさー、あの子ずーっと泣いてばっかで、お家に帰りたい帰りたいってさー…辛すぎるよホントッ!

 惨劇を生き延びた”時光代理人”たちは、『Welcome Home』と描かれた我が家に返ってくることが出来た。
 しかしそこが本当に待ち望んだ”家”なのか、不穏な疑念を残す強烈なヒキを叩きつけつつ、エマの死に端を発する連続異能殺人には、一つのケリが付いた。
 それが全然スッキリせず、何の答えも見えない無明に微か、灯火が見え隠れするような読後感も含め、大変いいセカンドシーズンでした。
 やっぱおもしれぇな…”時光代理人”。

 

 サードシーズンが本邦でも放送されることを強く願っていますが、今はこの強烈な作品を描ききってくれたことに感謝を。
 ありがとうございました、楽しかったです!