イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

となりの妖怪さん:第11話感想

 となりの妖怪さん 第11話を見る。

 前回衝撃を込めて、異能世界の家族絵巻を描いた筆が結末にたどり着くより早く、小学五年生の大人びた世界認識が描かれ、当たり前に日々を重ねていくはずだったそんな場所に、大きすぎるヒビが入る終幕開始である。
 あまりにも切ないむーちゃん家の今後が、虚無に食われ記憶を失い妖怪として新生したお父さんと深く関わっている以上、次元の歪みが具現化する大災害が、そこに深く切り込んでいくのは間違いない。
 のんびり田舎の妖怪ライフをだらりと描くように見えて、異能が当たり前に存在する世界の多彩な厳しさに切り込んできたお話が、最後に次元破断という”災害”に踏み込むのは、まぁ納得。

 

 次元破断の前フリとしても機能していた、たくみくんの自由研究。
 ぶちおくんと二人、地域の歴史を掘り下げつつ真実に近づいていくありふれた幸せが、ふとした一言で爾来踏み抜いて気まずい空気になるのも、まぁこのアニメの名物ではある。
 妖怪と隣り合うこの世界、座っているだけで幸せが舞い込んでくる”優しい世界”では全然ないので、だからこそ行政もキッチリ異能を前提にしたシステムとして駆動しているし、人と人の触れ合い方もそういう厳しさを踏まえた上で、自分たちなりやれること、やるべきことを探って頑張る感じではある。
 今回の衝突と和解も、そんな人々を着実に前へ進めるための大事な一歩…で終わらないのも、また作品の味だ。

 もっと興味本位で浮っついたものになるかと思いきや、たくみくんの調査と編集はかなり本腰入っていて、それが映像制作に携わって生きていく少年の夢がどんな温度か、良く教えてもくれた。
 むーちゃんを見てても、『子どもって外側から勝手に思い込んでるより、全然強いし賢いなぁ…』と新たに思わされるこのお話、地道な調査で世界の在り方を学んでいくたくみくんの書き方が、変わらず誠実で良かった。
 そして生真面目に本腰入れてるからこそ、人間の柔らかな部分と直結しているのが”夢”というものであり、色々ありつつも結構順風満帆に、妖怪人生を進んでいるぶちおくんへの反発が、たくみくんからも溢れてくる。

 

 好きなんだけど、大事なんだけど、だからこそ踏み込まれると痛みが走る領域ってのが人間にはあって、親しいからこそそこに踏み入る瞬間を、人は避けえない。
 だから思わぬ一言からメチャクチャ気まずくなった二人の歩みも、色んな人と妖怪が触れ合って生きてる物語に嘘がないからこそ、描かれるのだろう。
 それが間違いでも悲しいことでもないからこそ、りょうくんやワーゲンさんがたくみくんの悩みには寄り添ってくれて、ちょっとガクついたぶちおくんとの繋がりが戻り直すよう、手を貸してもくれる。
 不都合なペシミズムをリアリティと勘違いして、何かと酷いことばかり起きる”現実的”な話とは、少し違う語り口がやはり良い。

 親友の夢を嗤わず、新たな友の人生を真っ直ぐ見つめられるりょうくんの人間力が、マジ凄い事になっていたが。
 小五だろうがああいう生き方出来る人はそういう人だろうし、そういうヤツがたくみくんの間近に居てくれるのも、幸運の一言では片付けられないのだろう。
 ぶちおくんなりの賢明な努力が、未来を拓いていると正しく見据え、たくみくんに伝えてくれたりょうくんとの縁は、時折屈折しつつも極めて真摯に、自分の物語を切り開いてきたたくみくんの人格が、引き寄せたものだ。
 そういうモノが自覚しない内に、持ち主を助ける話運びは、色々ヤバいことも起こる世界の中で何を支えに生きていくべきか、大災害の前にちゃんと描いてた。

 

 その大災害の前景となる、尊い犠牲を以て未来を守った歴史。
 太善坊若かりし500年前、自爆覚悟の超天狗タツマキでもって隕石を砕いた先人の決意が、今回の大災害にも必要とされるのか。
 山里の守護者として、時に自分を殺し頑張ってきたジローの総決算にも関わってきそうなネタで、なかなかに興味深い。
 怪異が当たり前に存在するこの世界、こっちだと”伝承”になりそうなものが確固たる”歴史”なのは、この作品らしい味わいでメチャクチャ良かったな…。
 あんまドヤ顔しないけど、異世界の日常を細やかに構築している所は、沢山あるこのお話の好きポイントの一つだ。

 

 んで終幕を飾るに相応しく、大カタルシスがウワッと襲いかかってきたわけだが。
 一人間の小さな課題を幾重にも折り重ね、妖怪と人間が隣り合う人生絵巻を編んできたこの物語が、相当にデカいヤバさの上に乗っかっている様子は、百合さんの異世界転落とか、むーちゃんのお父さんの顛末とかで、既に示されていた。
 だからまー、『来るべきものが来たなぁ…』って感じと『マジすかッ!?』という驚きが入り混じって、なんとも独特な面白さがあった。
 過去にも戦争だの地震だの、人間の幸せを不条理にぶっ壊す色々が起きて、それでも乗り越えて生きている様子も、何度か書かれていたしね。

 遠い”歴史”でしかないものが、当たり前に続いていくはずだった生活の中にはみ出してきた時、今を生きる人間はどう戦うのか。
 次元災害の只中、それを描くことがアニメの終幕になっていくのは、自分的にはかなり納得がいく。
 大変だけど学びがある研修を終えたり、友達の助けを借りて気まずい衝突を乗り越えたり、色んなことが当たり前に起きて大変で、その全部が眩しい日々。
 それが当たり前でも永遠でもない事実を見据え、それでもなお尊いのだと色んな角度から描いてきた物語を決算するうえで、この”災害”は極めて適切だと思う。
 まーそういう事も起こり得るリアリティで、話は進んできたよホント。

 

 起こってはいけない惨劇が、不意に降り掛かって大事な日常を壊しに来る事態は、別にモニタの中の絵空事ではない。
 我々の物語だってそういう、理不尽で強烈な一撃に揺さぶられて時に壊れ、時に守られて続いていくモノだと思う。
 そういう現実との連続性を、悲喜こもごもな妖怪人生絵巻をしっかり描く中作り上げてきたお話が、”災害”に何を奪われ、何を守り、何を学び取って進んでいくのか。
 しっかりと1クールの答えを出してくれそうな状況になってきて、なかなかに興味深い。
 …っていう気持ちと、懸命に小さな幸せを守って生きているあの世界の人たちが、誰も傷つかねーでくれよッ!って気持ちが両方あるーッ!

 ぶちおくんとたくみくんが共に進む人生の、小さな凸凹をしっかり描き、なんか良い所にたどり着けたホッコリをいつも通りの良い手触りで描いてくれたからこそ、それを一気にぶっ壊しかねない”災害”の怖さも、より際立った。
 そういう試練も当たり前の顔で、望んでもないのに降り注いでくるのが人生の普通というもので、そこに必死に抗って、傷つきながら生き延びていくのもまた、険しくも尊い普通の人生…なのだろう。
 そういう誰もが知ってるお題目を、骨身に染みる物語として語りきれる力を、このアニメは確かに持っていると思う。
 最終局面、何を見届けられるのか。
 とてもとても、楽しみです。