イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

わんだふるぷりきゅあ!:第20話『二人ならこわくない』感想

 羽化の時を迎えても、広げた翼で新たな空へ。
 変身したとてまだまだ続く猫屋敷サーガ、ユキの孤立主義に切り込むわんぷり第20話である。

 

 今回のエピソードを見て、人に交わるのが上手くなく、社会的な自分を上手く想像できずに怖がってしまうのは、ユキもまゆちゃんも同じなんだな、と感じた。
 ユキは気高く強がりなので、怖かったり震えていたりする自分をめったに他人に見せない(だから『あの時寒かった、寂しかったの』と第17話で言葉にしたのは、非常に特別なことだと思う)キャラクターだ。
 今回も自分がどんな気持ちなのか、明確に言葉にして素直に伝えることはない。

 しかしだからこそ、変わっていく自分に戸惑い今まで通りの孤高を貫こうとして、まゆに『仕方なく』付き従う形でニコガーデンに連れて行かれる体験は、変化を促す大きな刺激に満ちていた。
 まゆだけがいれば良い、他の連中はどうでもいい。
 自分に言い聞かせる呪文のようにユキは家族第一主義の価値観を繰り返すが、しかし言葉にならぬ思い出の中で、自分の拳が何を傷つけたのかをしっかり覚えていて、無言の内に考え込んでいる。
 キラリンコジカが切実に語る、ガルガルとなって憎悪と無明に突き動かされている時の苦しさにも、しっかり耳を傾け、寒さに震えまゆに庇護された自分の過去を共鳴させている。

 

 まゆを求め守ろうとする思いが表に立って、なかなか見えにくくなっているけども、やはり猫屋敷ユキはかなり優しい人であり、その優しさをユキとの狭く強い絆以外に銅使ったら良いのか、なかなか答えが見えない人なのだと思う。
 イエネコとして二人きりの部屋に閉じこもり生きていける時代が、幸福にして健全に前回リリアンの覚醒をもって開かれて、ユキはニコガーデンや学校に赴き、”妹”以外の声を聞くようになる。
 孤高で強い存在(だから、何かと危ういまゆを守れる”姉”)という自己認識の奥に、まゆはもっと優しくなっていきたい自分を確かに見ていて、しかし見知らぬ自分はなかなか恐ろしいものであり、時にどうでもいいと遠ざけてもしまう。

 この未知への怯えは、物語が始まった時の猫屋敷まゆと極めて良く似ていて、未だ臆病な部分を残しつつも、他ならぬユキがいてくれればこそ共に飛び込める、新たな変化の苗床でもある。
 まゆちゃんのなりたい自分への一歩は、いろはちゃんやすみれさんや様々な人との出会いや支えに助けられ、おずおずと時間をかけて進みだされた。
 そんな彼女が超常の力で優しい糸を紡ぎ、キツネビームを跳ね返す盾にも出来るプリキュアへと、ニャミーとともに”変身”することにどういう意味があるのか。
 初の猫キュアWアクションを描く今回は、そこにニャミーを守るために強くなれるリリアンだけでなく、実はリリアンに守られるだけの弱さや不安や不器用を抱えたニャミーをも、照らしていたように思った。

 

 サブタイトルにある『二人ならこわくない』は、”姉”たるユキに守られ強くなったまゆちゃんからの言葉に一見思えるけども、実はツンと澄ました態度の奥で自分の行いに悩み、(まゆのように)強く優しく他人と触れ合うにはどうしたら良いか悩んでいる、ユキ自身の思いではないのか。
 イエネコを代表して人と交わるユキの、気高い孤高をキャラクターの美質として切り崩さないために、早々簡単に内心を言葉にしないミステリアスな描かれ方を、このお話は選んでいる。
 だからなかなか見えにくいのだけども、しかし確かにユキがプリキュアとなることで否応なく広がった社会からの刺激に、それに反応して湧き上がる見知らぬ仁愛に、戸惑っている様子は作中既に、しっかり描かれている気がするのだ。

 次回の学園回で、学校という社会の中でまゆちゃんがどういう難しさを抱え、アニマルタウンまで一人震えながら流れ着いたかが描かれるようだけども、そういう上手くやれなさ、不器用な傷つきやすさは、実は猫屋敷姉妹共通なのだと思う。
 ここでこむぎのとびきり無邪気で幼い、だからこそ明瞭に人間の真実を射抜く言葉が迷いを払ってくれている描写が、心地よく響きもする。
 あの子は自分の中にある『大好き』が、触れ合う全ての存在に共通していることを疑わない。
 それは裏切られたことのない幼子の、とても愚かで無防備な世界への信頼かもしれないが、しかしその信をなくしてしまったら、僕らはどこにも進めなくなってしまうだろう。
 自分には好きな人が沢山いて、その人達も自分と他の人を好きで、世界は素敵な(Wonderful)愛に満ちているという、期待と希望に満ちた事実。
 これをこむぎから注入されることで、何かと心配性で不器用な猫屋敷姉妹は自分があるべき場所を見つけ直し、世界が『こわくない』場所だと思い直すことも出来るのだ。
 そういう無邪気で大事な仕事を、こむぎに任せてもらえているのが、彼女がとても好きな自分としては嬉しい。

 

 今回のエピソードは孤高主義なユキをプリキュアという集団に、それが是とする受容と慈愛の価値観になじませ、四人で活動していく下地を整える回だ。
 ある意味今後の段取りをスムーズにするための基礎工事みたいな話なんだが、そんな中でも『孤高』というユキの(現段階の)個性を尊重し、あくまで自発的な参入として『仕方ないわね』という形を作ったうえで集団への一歩を踏み出したのは、僕には良かった。
 守られ慰められてばかりに思えたまゆちゃんが、ユキなりの難しさを誰よりもしっかり理解し、それを尊重して欲しいと友達にちゃんと言えていたのも、二人の絆と彼女なりの変化を感じた。
 物語が始まる前のまゆちゃんだったら、自分が感じていることを言葉にして伝えるのはかなり難しかったと思うし、今でも犬飼姉妹以外のメンバーには言い出しづらい気はする。
 しかしそれでも、愛するユキのために今自分がいうべきことを、まゆちゃんはちゃんと見つけて言葉にしたのだ。
 それはとても立派な、わんぷりがゆったり丁寧に人間が”変身”していくことを描くアニメだからこそ照らせた、猫屋敷まゆの一歩なんだと思う。

 ユキが今後、色んな人に優しく出来る/優しくしたい見知らぬ自分とどう向き合い、プリキュアやっていくかは解らない。
 しかしそういう変化を、変身する前と変わらずじっくり描こうとする姿勢は、今回ユキに内心を語らせすぎず、彼女なりのプライドを守った描写から感じることが出来た。
 リリアン変身までのサーガを力強く、非日常のきらびやかさで描いた前回までに比べると、物語全体のペースが落ち着き、ユキとまゆ……そして彼女たちと触れ合ういろんな存在が生きてる日常を、改めてゆっくりと描き直す筆も鮮明だ。
 やっぱわんぷりは、隣り合う人たちが心を触れ合わせながら親しく生きていく時間の切り取り方が、鮮烈かつ独特でいい。

 

 僕はプリキュアにおける日常と非日常の書き分け、あるいは交流と相互変化に興味が強い視聴者だ。
 穏やかにゆっくり積み重なる日々のある幸福を丁寧に描けばこそ、それを脅かす存在に立ち向かう戦いが際立つ対比/融和は、わんぷりはバトルを排除した筆致を活かして、かなり独特ながら鮮明な色合いで描いているように思う。
 帰るべき日常、保つべき自分を持っているのに、流し込まれた憎悪でそれを奪われてしまう被害者/患者として描き続けているのは、救済者/治療者のヒロイズムを際立たせる意味でも重要だし、現実にあふれかえる憎悪扇動への密やかなワクチンでもあるのかなと、思ったりもする。
 そういう視線で今回の合体浄化技お目見えを見ると、まゆちゃんが掴み取った誰かに手を伸ばす強さに導かれる形で、ユキが誰かに日常を取り戻させてあげる優しさを形に出来たのが、とても良かった。

 あの雪の中、自分を包みこんでくれた温もりが世界で一番特別なのだともう解っているユキは、今までの自分を強制的に見失わされるガルガル化の辛さが、かなり身にしみて解るんだと思う。
 積み重なる幸せの意味を、それが奪われる怖さを。
 本当は解っていたのに、それに手を差し伸べるのではなく殴りつけてしまった体験を、ユキは今あらためて噛み締めて、今後どうしていくべきかを考えている。
 そこに彼女を支え、彼女に支えられて新しい自分を掴みかけているまゆちゃんがいてくれることの意味が、とても眩しい回だった。
 こうして姉も妹もお互い様、支え合い教え合ってどんどん善くなっていくのだと公平に描いてくれるのは、凄く嬉しい。
 いろはちゃんが一方的に”答え”を教えているように思える犬飼姉妹も、かーなりこむぎに助けられ教えられている部分多いからな……。

 

 というわけで、ニャミーとリリアンの”今”を鮮烈に描き、なりたい自分への一歩を手助けする思いの結晶として新アイテムが形になる、合体浄化技お披露目回でした。
 キツネが高い知能を活かしてヒトを騙し、”化ける”動物として社会に認知されてきた生物史を、うまーくキツネガルガルに反射させて面白く描いていたの、このアニメらしいクレバーさだったな。
 弱った様子を見せて隙を作り反撃に転じるのは、突拍子もない行動で相手を油断させて狩りをする”チャーミング”っぽかったしね。
 でもビームは出さないと思うよッ!

 ユキが集団行動の条件として差し出した条件は、人間としての通学。
 制服ユキ様の輝くお姿を堪能したい側とすれば願ったり叶ったりだが、やっぱこれは学校という社会に上手く馴染めなかった”妹”を心配してのこと……っぽいんだよなぁ。
 僕は猫屋敷まゆというキャラクターを通じて、モニタの外側の戦いを必死に生き残っている子ども達に共感できる、身近な怖さや弱さ、強さや変化を描く筆が、とても好きだ。
 次回ツンツン心配性な”姉”の華麗なる転校を描く中で、どんなエールが飛び出してくるのか。
 とても楽しみです!