忘却バッテリー 第10話を見る。
復活の智将に率いられ、小手指が挑むはベスト4の強豪・飛河!
アニメ版ファイナルエピソードとなる練習試合が、ややコミカルな味わいで幕を開ける第10話である。
ネームド以外はダメダメ、練習環境も顧問の指導も整ってないクソ都立が食らいつくには格上が過ぎる相手だが、智将補正でなんとかなりそう…って所を、アホが戻ってきて台無しにする大ピンチ。
おまけにどんな状況でも揺れず曲がらず、クレバーな姿勢でチームを支えてくれてた曲者二塁手が、昔の馴染にぶつかられることでグラグラ揺れ出して、さーどうなる! という状況で。
プレイの細かい作画が良く仕上がってて、雰囲気があったね。
帝徳との練習試合はある種の懲罰登板というか、野球ナメてワーワー騒いでいる(ようにしか見えない)圭ちゃんに現実教えて、敗北から新たな姿勢で取組直す意味合いが強かったと思う。
今回の氷川戦は一進一退のプレイそれ自体を楽しめる、小手指初めての”本番”という感じもあり、五番まで才能を並べたバッティングと、120%の集中力で投げれる怪物投手の本気でなんかイケそう! …というムードが、一瞬盛り上がって智将の死とともに消える感じだ。
山田くんの緊張も巧く手のひらで転がし、先制点をお膳立てする人心掌握力も、葉流火に本気出させるキャッチャーとしての強みも、きっちり三番の仕事する打撃力も。
なんもかんもアホの復活で押し流されてしまったが、このピンチを小手指どう乗り越えるか。
千早の不調と合わせて、なかなかいい感じの試練である。
率先して勝てるムードを作ってくれてた智将に対し、アホはベンチでグータラ過ごすわ他人に面倒見られる側だわ、全く頼りない。
しかしアホなりにゼロから積み上げてきたものが確かにあるはずで、朗らかな笑顔で他人をコントロールする智将スタイルとは違った何かを、このピンチに差し出せるかが問われていく。
もう一人の要圭の影響力を頼もしく描いたからこそ、今の圭ちゃんに何が出来るのか、しっかり削り出せる形といえるか。
とにかく葉流火の剛腕に頼ってるチームなので、キャッチャーが智将からアホにすり替わったことで大崩れする未来も簡単に予想できる。
マウンドの外側はなんにも考えない、120%の集中力で投球の三昧境入れる葉流火の強さが序盤描かれただけに、『アホ相手じゃ、あのテンションで投げれねぇよなぁ…』感も強い。
普段の練習だと優しくない俺様要素ばっかがピックされるが、こうして本気の試合に借り出してみると、智将が作り上げたピッチングマシーンがどんだけ特別製か、良く分かるわな。
眼の前のミット以外は、何も見ない。
そういう余計な荷物を何も積まないからこそのピーキーな強さを、彼は削り出したのだ。
とはいえそれは今は亡き智将がミット構えるからこその強さであり、アホが戻ってきておんなじ調子では戦えない。
何を忘れて、何を考えるべきか全部教えてくれる存在が消えてしまった今、清峰葉流火は要圭をどう見て、どう受け止めているのか。
この後のピッチングには、そういう関係性も色濃く滲むだろう。
それは誰か一人に強く依存して、それ以外を切り捨てて生きてきた二人の歪さを、望むと望まざると是正していかなければいけない現状も照らす。
狭い世界で生きてこれた幼年期が破綻し、それでもなお世界が続いてしまっている残酷にどう向き合うか。
そういうアフター・ジュブナイルの味がするのが、俺は好き。
軟球派の先発ピッチをいてこまし、葉流火と巻田くんのゴリラっぷりを強調しながら、スコア的には小手指に傾いてる序盤戦。
まだまだシリアスな重さが煮出されず、アホが智将殺してババーンと復活を果たすかどうかのコミカルなハラハラで、場を満たす余裕もある。
圭ちゃんの記憶喪失がどんだけシャレになってないか、意図して真芯を外してきた感じもあるので、今回の出たり入ったりコメディも成立するわけだが。
やっぱここら辺は一番大きな伏せ札として、じっくり煮込みながら真相への道を作ってる感じがあり、サスペンステイストが濃い。
このジョーカーがめくられる瞬間、アニメでも見てーよなマジ…。
というわけでアニメ化の範疇でめくる最後の伏せ札、クールな二塁手の重たく暗い過去ッ! …は次回、超ガッツリやるとして。
クッソ感じ悪いゴリラ投手が過去を当てこすり、他人の選んだプレイスタイルを大声で貶しまくって、印象最悪なところからスタートする回である。
魅惑の健吾ヴォイスで容赦なくツッコむ、霧島パイセンがベンチ入ってくれててホント良かった…。
あの人がいなかったら、巻田くんの喉から湧き出す毒ガスで空気悪くなりすぎてて、なんもかんも死んでたと思う。
オメーの好きな野球の話は何億回やってもいいけど、そうじゃない誰かが同じ重さで選んだモンを、ガーガー言葉で殴りつけるのマジやめなッ!
まぁ言うたかて、巻田くんのフィジカル信奉は極端になった”野球の常識”ではあって、だからこそ千早も初手からドン曇りなんだが。
才能を秘めた天才たちが、なんでクソ都立に集ったのか?
藤堂くんの場合は誠実さ故のイップスが伏せ札だったが、千早がぶち当たって壊された壁がどんなモノかは、これから描かれる。
小手指でプレイする今が、それをぶっ壊せるかどうかも。
千早の過去のトラウマを乗り越え、選手として一皮剥けれるかどうかが勝敗に直結するピンチが、コミカルで残念なアホ復活劇を足場にしっかり組まれて、気づけば切迫感のある状況になってきてるのはいい感じだ。
野球少年の無邪気な笑顔をぶっ壊し、野球の現実教える厳しい挫折を本腰入れて描くことで、作品の陰影がどれだけ濃くなり、面白くなるか。
藤堂過去編でそれをしっかり証明した今、千早の纏う重たい空気には不思議な期待感が付きまとう。
お前にゃ無理だ。
”野球”にそう告げられ叩き潰されたから、クソ都立で何もかも諦めようとして、もう一度”野球”に出逢ってしまった青年たちの、再起と復活の物語。
千早の過去にフォーカスすることで、そういう作品の芯が際立ってアニメがまとまりそうなのも、いい感じだ。
それは重たい影をちゃんと描いてこそ成り立つお話で、つまりは次回の仕上がりが全てを決める。
次回も楽しみだ。