時光代理人-LINK CLICK- II 第11話を見る。
いよいよクライマックス、いつも以上に色んな事が起きて情緒もメチャメチャにされているが、チエン弁護士と李兄妹に絡んだ事件は決着の形が見えてきた感じ。
いやまぁ、可哀想が過ぎるティエンシーちゃんのみぞおちに穴が空くのは、全く望んでいない決着なんですけども…。
今週もメチャクチャ泣きじゃくってたし、なーんも悪いことしてないのにずーっと嫌なことばっかり降り掛かってきて、本当にティエンシーちゃんを見ていると辛い。
こういう人こそ幸せになれないのが時光だとは思うが、なんかこー…なんかくれよ何もいいことなかったティエンシーちゃんによー!
さておきお話の方はアバンに前回の知略戦の種明かしなど仕込みつつ、劇場爆破のその先へとお話が進んでいく。
異能を前提として相手をやり込める策を主役サイドが講じ、それを上回る手筋を敵が用意して敵味方が対峙する状況が整っていくのは、最後まで緊張感が保たれていて良い。
こんだけ悪知恵が働いたって、全ての悲劇の根源が自分にあったと受け止められなきゃ、何もかも不幸にして破滅を撒き散らすだけなんだから、愛や勇気や絆といった、なんにもならないはずの形のない力こそが真実強い作品ではある。
ティエンシーちゃんが真実伝えてくれたのも、リンちゃんが焦らず優しくした結果だしな…。
爆破余裕なチエン弁護士の、暴力のタガは完全に外れちまってて、それを示すべくシャオマーが速攻撃たれたのにはビビった。
やっぱ劇的に見せる部分とあえてあっさりやる部分の緩急が良くて、チエン弁護士の手に握られた凶器がヒリつく対峙を支配しうる切り札なのだと、無情に教える演出は大変冴えていた。
『アレが絶対の支配者なんだ…』と視聴者に思い込ませた上で、復活のシャオマーが銃取り返して場の支配権を握る様子でもって、『やっぱ借り物の力はダメだな!』ってなるの、作品の軸になってる価値観を見せるのが上手いアニメである。
どんだけ異能があっても書き換えられない、全ての不幸の中心。
あんだけ裏切りを忌避していたチエン弁護士こそが、妻への愛と信頼を裏切って全てを終わらせていたという真相も悲惨ながら納得だったし、養子縁組しつつも子どもを殺戮の凶器にしてた男が、全部の真実を知ってたお兄ちゃんにそれを隠されていたのも、陰惨な真実味があった。
何もかもボタンの掛け違いというか、トキとヒカルを結び合わせている強い絆の因果で、お互いを最初から信じられなかった家族が、それ故に破綻していくお話だったなぁ…。
妹の異能を借りて見届けた真相を、義父に伝えられる関係や倫理をお兄ちゃんが保っていれば、事態はもうちょいマシだった…はずだ。
しかし妄念と殺意に満ちた親子関係は、それを遠ざけた。
こうして真実が明かされてみると、ティエンシーちゃんが自分の意志を伝えるのが難しいキャラになってるのも、すげー納得なんだよな。
こんだけ悲惨な状況に置かれつつ、凄く普通の(つまり得難い)倫理観をもってたあの子が、ちゃんと自分が見たものを伝えられたのなら、義父もお兄ちゃんもここまで狂っていなかったはずではあってね…。
状況がヤバいくらいの拗れるためには、ティエンシーちゃんに”声”が備わっていては困るし、それが外に飛び出すための絆を作れるかが、実は二期で一番大事な勝負だったのかもしれない。
それに勝ったんだからさー…奇跡の大逆転ハッピーエンドマジ頼みますよーッ!!
チエン弁護士は異能の対象になっていたわけでもなし、惨劇の真実を覚えていたはずなのに、何もかもやり直せると信じて見て見ぬふりをしていた。
自分が信じきれなかったもの、壊してしまったものとしっかり対峙しない弱さこそが、数多の犠牲者を生み出しながら彼を破滅させていくと考えると、なかなかにやりきれない結末だ。
この真相開陳が効くのも、一期で散々『この主人公、因果改変能力者としては優しすぎますよ!』と示し、何もかもを変えうる絶大な力を扱うための資質と責任を、オムニバスの中でしっかり問うてきたからだと思う。
チエン弁護士は、自分を保ってくれる糸を自分で切り捨てた、もう一人の時光代理人だったのだろう。
息子として、狩人の後継者として、そういう絆をチエン弁護士と作り得る立場にあったお兄ちゃんは、自分が見た真実を彼に伝えず、都合の良い凶器として利用されつつ、彼を利用して血みどろの復讐心を満たす道を選んでしまった。
チエン弁護士が選んだ道具扱いが、あるべき信頼を損ねて地獄を生んだわけだが、これと全く同じ扱いをお兄ちゃんはティエンシーちゃんにしてるってのが、意地の悪い皮肉である。
ヒカルは過去に潜るトキに何をするべきか伝える言葉を持っていたけど、お兄ちゃんは自分をせき止める命綱を、殺戮の刃で切り裂き、あるいは切り裂かれちゃったキャラだったんだな…。
ここにも、もう一人の”時光代理人”がいる。
今回は運命の皮肉がたくさん炸裂する回なんだが、凶行に突き進みつつも救いを求め、ヒカルに写真を託したお兄ちゃんの過去改変の願いを、阻んだのがお兄ちゃん自身の異能だってのが、まーなんとも言えない…。
トキは眼の前の凶行を黙って見ていられる男じゃないし、遂に禁忌の領域に踏み出して幼子を守る決断をしそうでもあった。
けども、他人を言いように操るお兄ちゃんの手が、そういう運命からトキをはじき出してしまった結果、彼の願いは叶わない。
未だ罪を犯していない悲惨な過去において、沢山の犠牲者を生んだ罪の生産を求められたかのような、条理を越えた辻褄合わせだった。
チエン弁護士の復讐は蓋を開けてみれば、妻を愛しきれなかった己の弱さとの対峙を求めたし、お兄ちゃんが救済を求める祈りは、過去のお兄ちゃん自身が跳ね除けてもいた。
自業自得…というにはあまりに複雑に捻れて、しかし確かに強くあり続けられない人の業が深く滲む、なんとも重たいクライマックスだった。
これが解っても『みんな可哀想だねぇ…』とはならず、犯した罪の重さ、条理を捻じ曲げる異能の介入なんかが絡み合って、シンプルに結論出ないズッシリ感があるのは、めっちゃ”時光”っぽくていい。
真実可哀想なのは、マジティエンシーちゃんだけだからよォ! 許せねぇよ!
…俺は、何が許せないんだろうな…。
そして傷ついたヒカルを人質にとって、誰かのいちばん大事なものを踏みにじることで願いを叶えようとしたお兄ちゃんが、ティエンシーちゃんが泣きじゃくて『おうちに帰りたい、おうちに帰りたい』って何度も言うのを、無視できず悪に徹せられない姿に…あの子が撃たれた時ヒカルを手放して、妹の方に駆け寄ったことに、もうなんとも言えない気持ちにされてしまった。
それはお兄ちゃんが自分の痛みを上手く表せない妹のために、教えてあげた大事な言葉だ。
そこにあった優しさがお兄ちゃんに戻ってきて、完全な修羅道に落ちるのを塞ぐわけだが、でもその奇跡はティエンシーちゃんの命を守らない。
ヒカルを人質にトキを道具のように扱おうとする時、彼は人間が人間らしく生きていくものを決定的に投げ捨てようとしてしまっていて、しかしギリギリ、彼と同じ姿かたちの妹が鏡となって、本当の望みを告げてくれる。
彼の”時光代理人”はずっと側にいた妹であり、そんな彼女に優しく出来ていた彼自身だった。
でもその真実に飛び込むには、あまりに遅すぎる。
そんな理不尽な悲惨を巻き戻す力がトキにはあって、眼の前現在進行系の惨劇を果たして、厳しすぎる定めに縛られた”時光代理人”はどう決着させるのか。
ここで禁断のリセットに手を伸ばしたら、今までの話全部オジャンだが…ティエンシーちゃん助けて欲しい気持ちが強い
でも己の弱さ故に…って上から断じるには、あまりに人間臭い業に絡め取られた連中が、積み重ねた罪もまたリセットされてしまうのも、なんか違うと感じる。
この何選んだら正解になるのかさっぱりわかんない複雑なコクは、一期で過去に潜ったトキと一緒に僕ら視聴者が身悶えしてた時の感覚とかなり似通ってて、『二期は一期では写真の中の過去として描かれていた複雑さが、現実に飛び出してきて主役たちを飲み込んでいく話だったんだなぁ…』などと思った。
写真の向こう側の観察者から、悲惨な現実の当事者となったが故に、暴力にねじ曲がってさらなる悲劇を生み、抜け出せない螺旋に呑まれた者たちを前に、”時光代理人”は何を思うのか。
二期劇終を目前に、このアニメがどういう物語だったか自分的に納得できる話が来て、大変いい感じのエピソードだった。
それはそれとして、本当にティエンシーちゃんが可哀想すぎるのでどうにかしてください…。
この無念、どうにかする能力があるトキの倫理的ジレンマとか、どうにかしていた過ぎて狂ったお兄ちゃんの思いとか、色んな感情に視聴者をシンクロさせる妙手で、上手いからこそ許せねぇよ…。
次回も楽しみッ!(やけっぱちの絶叫)