忘却バッテリー 第12話を見る。
全てを忘れ去ったクソド素人、九回表ツーアウト一打逆転のバッターボックスに立つッ!
作品の中心に立ちつつ、自分を消し去った忘却事件の真相を伏せ続ける大きなミステリでもある要圭の、輪郭を丁寧に描く最終回となった。
僕は圭ちゃん凄く好きだし、野球大嫌いボーイが野球楽しいボーイに変化していくダイナミズムが、このアニメにおいて作品を躍動させてもいた。
だから最終話、彼の過去と現在と未来に焦点を合わせて終わるのは凄く良いなと思う。
そここそが青春のど真ん中であり、球児殺人事件の現場であるのなら、何度立ち戻ったとしても、そこから始め直してしまう。
圭ちゃんの逃れがたいカルマを最後に、魅力的な謎として削り出すことで、作品が持ってる奥行きを未来に投げかけるような終わり方になってて、かなり好みだった。
まー意味深な謎ばっかりブンブン投げつけられたんで、”解答編”をアニメでやってくれにゃ片手落ちなフィナーレにもなったが、マジで頼むよ…めっちゃ面白かったからよーMAPPAの”忘却バッテリー”!!
圭ちゃんに焦点を合わせることで、なかなか自分を見せない葉流火の、笑うと可愛い素顔がようやく見えたのも良かったな。
智将が死んだことで子ども時代に戻った二人は、ようやく対等な迷子に戻れて、夢殺しすぎて歪になっちゃた野球道、肩並べて歩き直すんだ。
というわけで氷河戦はじっくり圭ちゃんの緊張と自信を掘り下げて、一打逆転の奇跡を順当に掴み取って決着。
ポンコツチームが初勝利の実感を掴む話として、良い充実感のフィナーレだったと思う。
一人だけジャージのクソ先輩(大)が、『オッス、オラガラ悪いけど面倒見の良いパイセン!』みたいな顔で、当たり前にチームに馴染んでるの面白かったなぁ…。
ボーッと楽してるとあっという間に追い込まれる、巻田攻略の難しさを圭ちゃん視点で描くことで、前回千早くんが掴み取ったフォアボールがどんだけの偉業か、改めて分かるのも良かった。
その上で、フィジカルに長けた圭ちゃんは過去の遺産と今の努力を合わせて、見事に打つ。
ブーブー文句たれてたクソガキが、仲間を見つけ屈辱に塗れ、ブーブー文句言い続けながら続けた努力が結果に結びつく瞬間は、やはり最高に気持がいい。
このシンプルな努力・友情・勝利の快楽がゴールではなく、その裏にある罪深さと業をえぐり出して終わっていくのが、今回の最終回でもある。
みんなで自由にやる野球は、最高に楽しい。
白紙になった圭ちゃんは、かつて”智将”もそう感じて、だからこそ”野球”に全霊を捧げ対戦相手を殺し、呪われ自分も殺した。
その歩みを、阿呆になった圭ちゃんは幸せに忘却している。
だが逆転の一打を撃たせたのが、アホになった後の努力だけでなく、智将時代の財産込であるように。
圭ちゃんが圭ちゃんである限り、”野球”が持つ祝福と呪いは彼を手放さず、追いかけてくる。
再び追いつかれてまた殺されるか、今度は違う結末になるのか。
ある意味ループものめいたサスペンスが最終回、ドワッと押し寄せて終わるのもなかなか凄い造りであるが、この不穏な陰りがあってこそ、現在進行系の青春スポ根の眩しさが際立つ、良い対比でもある。
とびきりのアホとして笑い(と洒落になんないスベリ)を生み出し、部の空気を良くしてくれていた”いい奴”が、罪悪感まみれの球児殺害犯だって暴かれていくの、ほんとイイ裏切りだよなー…ヒキが強くて、先見たくなる。
聞いてますかMAPPAさん集英社さんッ!
至近距離で夢が殺される顔を幾度も見続ける拷問は、智将から安らかな眠りを奪う。
もともとアホだったのに、葉流火に相応しい自分であるために、最強バッテリーとして”野球”を続けるために、峻厳な己を作り上げてきた少年の過去が描かれると、あんだけベタベタ仲間にひっつき、『嫌われること』を何より恐れていた今の圭ちゃんの、見えなかった行動理念が答え合わせもされる。
葉流火と二人きり、色んな連中を殺して殺して、その罪を幼いままの葉流火に背負わさないように、進めた重い足取り。
それに耐えかねて自分を殺した青年は、仲間と一緒に頑張る楽しい”野球”を、殺人犯である自分が恨まれない”野球”を、ずっと望んでいた。
圭ちゃん以外に興味なし、すがるようにキャッチボールを今でもねだる葉流火の”狭さ”に対し、アホになった圭ちゃんは誰とでも友達になれて、風通し良くムードメーカーやっている。
孤高の”智将”が、そんな少年が作り上げた嘘であるのなら、大人の押しつけも傷つけ合う痛みもない小手指のハッピー・ベースボールは、心の奥底で望みつつ諦めてきた、要圭の夢そのものだ。(広さと方向性は違えど、怯えながら『嫌だったか』とボールを投げかけてくる葉流火もまた、幼く幸せな夢を未だ望んでいるわけだが)
そういう夢が形になるように、二度目は”野球”を呪わなくてすむように、白紙に思えて血みどろの地金を白く塗りつぶしたキャンバスに、アホが汗塗れ必死に書いた絵空事。
それが嘘っぱちじゃないことを、氷河戦の頑張りと充実は確かに語る。
同時に根源を忘れてしまっていては、真実には向き合えない。
密室を開けて死体を発見し、凶器と犯行手段を暴いて動機を指摘しなければ、ミステリは決着しない。
目覚めて涙に記憶を溶かし、どこか他人事な過去の自分に嫉妬すらしながら、それを乗り越えるべく日々頑張る要圭の日々は、自分自身の死体が埋まったマウンドの上に成り立っている。
ならば智将殺人事件に、名探偵の資質なんて欠片もないアホが挑まなければ、物語は至るべき場所へとたどり着くことが出来ないだろう。
今回の最終回は、そんなミステリの出題編…というかサワリであり、頼む全部が明かされるまでアニメでやってくれホント!
智将が身を置いていた血なまぐさい暗闇と、TVの中の萌え萌えフワフワハッピーライフを対比して演出するために、わざわざ当代随一のガールズマスター・斎藤敦史引っ張ってくる気合にひとしきり爆笑したが。
バッターボックスに夢の死骸を置き去りにすることでしか、前に進むことを許されない厳しすぎる世界に、かつて要圭は身を置いた。
その残酷以外に、清峰葉流火と”野球”する道はなかったからだ。
『本当に?』という問いかけを、二度目の野球人生でひどく幸せそうに、頑是なくキャッチボールする姿は投げかけてもいる。
本当に、それが”野球”の全部なのか。
夢の中回想される二人の原点が、作中の異物、届かない夢として描かれていたゆるふわアニメと、非常に似通った色彩と筆致で描かれているのは、とても面白い。
智将が遠い夢と諦めていたものは、もう忘れ去ってしまっていた(から残酷な殺戮を一人繰り返せる)過去と、全てを忘れ去ってなお続く今の”野球”に、確かに色を伸ばしている。
その幸福が世界の全部を塗りつぶしてくれるほど、甘くないからこそ要圭は”智将”を捏造ったわけだが、それでも確かにその淡い色合いはそこに在ったし、今も在る。
努力して勝利して最高に幸せな夢の裏側、確かに埋もれてる敗者の死体。
グロテスクでシビアな、野球のリアリズム。
この軋みに耐えきれなくなって、智将は自分を殺したのだと今回示唆もされるわけだが、彼が殺したと思いこんで✕を付けた連中は、彼自身の引力に引き寄せられクソ都立でチームメイトとなり、一度は投げ捨てかけた”野球”に戻ってくる。
何度でも、”野球”の巨大な引力圏に引き寄せられて歩き直してしまう呪いは圭ちゃんだけの特権ではない。
それぞれの地獄を背負ってなお、面白い連中に出逢ってしまったら蘇ってしまう宿命と合わせて、既に描かれている。
藤堂くんと千早くんの過去を掘り下げ、仲間がいればこそ傷を乗り越え新たに進み直せる感動を描いたのは、圭ちゃんが孤独ではなく、野球が個人スポーツではないと示すためだ。
あるいは要圭がぶっ殺したと思い込み、罪悪感に苛まれる犠牲者達が死んだまんまで終われないしぶとさと、殺しされてなおその才能に憧れる輝きが、智将の死角に置かれていることを描いておくため……でもあるか。
同時に人を孤独に追い詰める険しさも、”野球”の真実なのだと描くために、球児たちの苦悩は重たく、色濃く、嘘なくしっかり削り出される。
この陰りがあればこそ、パイ毛野郎のおバカな日々が実は、安らぎを奪う悪夢から必死に逃れるために、記憶を失ってなお/失ったからこそ求める、微かな夢だと色合いを変えてくる。
ここら辺のシリアスのバランス、対比と融和の上手さは、この作品の活力を支えるいちばん大事なところかなぁ、と思っている。
重苦しいだけだと、こんだけ深く野球少年たちの苦難がぶっ刺さんない感じあんだよね。
一作品に色んな要素、色んな顔があるから、バラエティ豊かに飽きずに見れるてのもある。
ここら辺の多面性を、演出のテンポと作画の豊かさでしっかり”アニメ化”し、メディアの違いを活かして表現してくれていたのが、やっぱ良かったなと思う。
リッチなクオリティをぶん回す力みを、パロディとか競技場面とか重たい回想とか、色んな見せ場にしっかり活かして、作品の良いところが最大限加速するよう、適切に使いこなせていた強み。
それがこの最終回、モニターの中の淡い夢と押しつぶされそうな思い出、それを越えて今立っている場所を描く筆にとても元気で、最後まで”らしく”やりきっていた。
ここら辺の多面性、智将とアホ、過去と現在に分裂してる圭ちゃんにフォーカスしたからこそ、最後に描けた感じもあるな。
アホの圭ちゃんが新しく造ったマメも、覚えていない夢から溢れた涙も、消えたはずの過去の自分が未だ確かに己の中にある証拠だ。
それを無自覚に掴み取る瞬間の筆致が、叶わぬはずの夢と重たい現実のちょうど中間点…このアニメがずっと”野球”を描いてきた色合いになるのが、凄く良かった。
ここが要圭の現在地であり、忘却に押し流された流刑地であり、友情に支えられて努力を重ね、更なる勝利を目指す未来への第一歩だ。
クソ寒いギャグと甘ったれた寝言とブーブー垂れ流す文句まみれのアホが、何も解んないなり”野球”に向き合って、出会い直してたどり着いた場所だ。
それを描かれてしまった以上、この先に広がる苦難と栄光を、この奥に広がっている罪と業を、アニメで見たくなってしまうのも無理はない。
二期切望の燃え盛る炎は、一期をしっかり演りきったからこそ生まれるものであり、”忘却バッテリー”のアニメ、大変良かったです。
おバカ高校生がキャッキャしまくるコメディ、ド素人がクソ都立に集って頑張る王道スポ根、”野球”に殺された連中の過去を抉るミステリ。
作品が持っている魅力を、多彩な表現法と見事なクオリティでしっかりと駆動させ、連動させ、最高のポテンシャルを引き出す見事な”アニメ化”でした。
動くからこその気持ちよさが、シンプルに競技作画にあったの偉い。
やっぱ作品のベースとして、身体を動かしプレイを磨き上げる”野球”の身体的な面白さを、しっかり作画しきる足腰が強かったと思う。
1プレーに別格の凄みを宿し、『コイツラ色々在ったけど、本当に凄いんだぞ!』と絵で解らせる表現力が根本にあったことで、”野球”に呪われ砕かれた子どもたちが、自分たちなりの”野球”を掴み直していくドラマに説得力が宿った。
軽快なおバカを呼び水に、重たく暗いキャラの過去、”野球”が持ってる残酷と怖さもしっかり掘り下げられて、だからこそそれを乗り越えて未来へと進み出していく眩しさも、より際立った。
あと美術がバチコンあんまりにも良すぎて、その強さを最大限活かす演出もマジで冴えて、背景の良いアニメ大好き人間としては全く持って最高だった。
全体的に、何を描いてどう活かすか、良く考えられたアニメだったと思います。
僕は原作の、記憶喪失ミステリとしての側面がかなり好きなので、予告編とはいえそれを扱い切れる腕力をMAPPAが持ってると、しっかり示してくれる場面がちゃんとあったのも嬉しい。
智将に何があって死んだのか、それがジリジリ明かされていくサスペンスも良いんだが、それを踏まえたうえでアホになった圭ちゃんが自分なりの”野球”を掴み取り、仲間に手渡してチームが生き直していく”今”との響き合いが、本当に好きなんだな。
そういう共鳴が藤堂くんや千早くんを救っている様子を、彼ら主役の傑作エピソードにしっかり刻んでくれたのも、大変良かった。
非の打ち所がない”智将”のリーダシップが、取りこぼしてしまう何か。
それを白紙のアホになってしまった圭ちゃんは確かに持っていて、あるいはいつしか失った輝きから取り戻していて、でもそれは過去の自分を、その罪と業を忘れたままでは、真実掴み直せない。
”野球”の残酷さと正面から向き合い砕けた、かつての自分と新たに向き合うこと…”忘却”を超えることでしか、要圭は真実要圭になれない。
そういう構造の端緒が最終回に示され、マージで全部やり切るまでアニメで見せてよ! って気分が凄い。
オレはこのクオリティ、この絵筆でもって、二人の要圭の過去と現在と未来…”野球の呪いと祝福が行き着く先”を見届けたいの!
”忘却バッテリー”、とても面白かったです、ありがとう。
二期、マジで待ってます!!