イマワノキワ

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小市民シリーズ:第2話『おいしいココアの作り方』感想ツイートまとめ

 小市民シリーズ 第2話を見る。

 前回穏やかな日々に不穏なサインを織り交ぜて、最初の挨拶を終えた”小市民シリーズ”。
 シンクを濡らさず美味しいココアをいかにして作ったか、いかにも”日常の謎”な知恵働きを通じて、小市民を目指す知恵の獣たちの表情をスケッチする第2話である。
 堂島くんも訝しむ小鳩の変貌は、小佐内さんとの妙に影と棘のある繋がり方と、一体どんな関係を持つのか。
 どんだけ抑えようとしても羊のきぐるみの中に収まってはくれない、知恵者の牙の静かな鋭さが生き生きしたキャラ描写に冴えて、なかなかに楽しいエピソードだった。
 ガサツでズボラながら憎めない、堂島の人柄が良く解る回だったね。

 

 

画像は”小市民シリーズ”第2話より引用

 ケーキの食べ方一つにも、つくづく”人間”というものは出る。
 慎重に慈しむようにフォークを入れて、しっかり最後まで食べきる少女。
 包み紙に包まれたままわしわしと、フォークを突っ込んで豪快に食べる青年。
 一見整っているようでいて、いちごショートの最下段までちゃんと取り切れないその姉。
 誤魔化しきれない人間の在り方を照らしてしまう”食べる”という行為を、作中クローズアップされる形で見せない謎めいた主人公の性格は、つまり彼が堂島くんに自白したように自然でも率直でもないと、描写が積み上げる状況証拠から、考えることが出来る。

 ありのまま素直に振る舞えば、堂島くんが知る小鳩くんのように、知恵のトゲを出して敵を作る厄介な性分。
 それを乗りこなし平和な小市民を目指すべく、小佐内さんと小鳩くんは同盟を結び、当たり前の日常に埋没しようとする。
 しかし生来の知恵者にとって、そこは読みがいのある細やかな情報が行き交うホットな現場であり、謎に刺激された心は勝手に動き出し、探偵仕草を少年から引き出す。
 そうして引っ張り出された性分が、爆弾のように平和な日常を壊さないかと、小鳩くんは危ぶみ油断しないよう、人前でモノを食べない。
 そこに思わず反射する、自分の形を目撃されないよう、『自分は小市民です』というアリバイを崩さぬよう 朗らかな笑顔と率直な心根を演じながら、警戒を怠らない。

 このうさんくささを堂島くんが見抜いて、ずずいと率直に踏み込んでくる歩みがまた面白いわけだが。
 なにかいいたげな空気を察して場を外し、二人が対峙できる環境を作ってあげた小佐内さんが言い出さなければ、小鳩くんはケーキをおみやげに持ってくることを思いつかなかった。
 小佐内さんが一段階上の自然さで鎧っている、隣人に敬意と愛情を示す小市民の処世術を、小鳩くんは完全には体得できていない。
 その身じろぎが堂島くんにも伝わって、一回腹割って話すかと呼びつけられもする。
 ガサツで荒くれた態度ながら、わざわざ堂島くん良いやつだな…。

 

 戸の閉め方、ケーキの食べ方、初対面の客人への応対。
 堂島くんがどういう人物なのかは、彼を/彼が語るセリフよりも彼の仕草に色濃く、リッチな作画に助けられて匂わされている。
 この語らずに描き、読み取らせる表現法は、普通人なら思わず見落としてしまいそうな不思議に目を向け、楽しみつつ解きほぐす”日常の謎”という作品ジャンルのやり口と共通していて、心地よいハーモニーを生み出している。
 想像の壁をヒョイと乗り越えて、場面に揺らぎを生み出しながら色んな仮説を試してみる作中の名探偵たちと、同じ視線で物語を見てみたくなる、映像的誘惑。
 それは詩的でエロティックで、大変いい。

 ここら辺のメッセージが悪目立ちすると、情報過剰でノイズが多い画面が前に出過ぎるとも思うのだが、ここら辺の抑圧がしっかり効いて、一見素直な青春物語の味になっているのも、見事な味付けだと思う。
 僕は原作既読なので、ある意味あんちょこを見ながらの読解なわけだが、自転車もタルトもメチャクチャにされた小佐内さんが向き合うべき”春季限定いちごタルト事件”の伏線なども丁寧に埋めつつ、微かな衝突もウィットと知性に満ちた楽しい時間と思える、岐阜の情景は徹頭徹尾心地良い。
 この爽やかな喉越しに、微かなイラガっぽさを遺して違和感を演出する手法が、上品かつ周到で良い。
 米澤穂信のアニメだなー、って感じがする。

 

 

画像は”小市民シリーズ”第2話より引用

 日常の仕草に遠慮と悪意のなさを滲ませ、ガサツに力強く境界線を越えてくる堂島くんに対し、小佐内さんは気弱かわいい小市民ヒロイン面の奥に、遠さと陰りを相変わらず滲ませる。
 そう思われるよう複数予防線を張り巡らせている、ただの可愛いマスコットではありえない緊張感と重たさを、彼女はときおり鮮烈に身にまとう。
 この底知れなさが知りたいと思う誘惑に転換されて、青春ミステリを加速させていく燃料になるわけだから、こういう冴えた画作りはとても大事だ。
 素直な青春キラキラLOVEストーリーなら、こんな絵造らねぇし見せねぇんだよなぁ……。
 毎回良い絵見れて、とても助かってます。肌潤うなぁ…。

 バキバキに尖った牽制球投げまくって維持してくる、二人をつなぐ小市民の誓い。
 どんだけ意識しても知恵者の訳知り顔が表に出てしまう小鳩くんに対し、小佐内さんは極めて的確な偽装と自己抑圧を積み重ねて、自分たちを謎と事件に関係ない”小市民”の範疇に収めようとする。
 その抑圧が壁ともなって、一見恋仲とも思える親しさで過ごしている小鳩くんとの間に、確かな遠さを生んでもいる。
 それを小鳩くんが埋めたいと感じつつ、同じ岸にはなかなか立てないカルマが、一体何に結びついているのか。
 無邪気で楽しい”日常の謎”を解く今回は、そういう主人公の心臓を鮮烈にスケッチもしている。

 

 小説媒体では文字を追う中で没入できる地道な推理に、アニメ的なうねりを足すべく大体な表現にたどり着いているのは、スタジオの前作”アンデッドガール・マーダーファルス”とも通じる部分か。
 あっちは人死に上等の大伝奇絵巻であったけども、こっちは平和な岐阜に罪のない謎が踊る日常ミステリ、描き方も大きく変わっていく。
 …と言いたいところだが、この小佐内さんの底知れなさと面の皮の厚さだと、『いや、ぜってーなんか起こるだろ…』と、適切な疑念を視聴者から引き出してくる感じにもなっている。
 その座りの悪さが、なんか良いなと思う。
 彼女もこのお話も、可愛いだけで終わるわけがないのだ。

 とはいえ小佐内さんが可愛いのも事実で、アニメで動いて羊宮さんの声がつくと、より強調もされる。
 可愛いんだけども可愛いだけでは収まらない、冷えた知恵と毒を隠したチャーミングなヒロインと、知恵働きを抑えきれない自称”少市民”の物語は、まだまだ続く。
 その隣に、ガサツで遠慮も嘘もない好青年が並び立つ嬉しさを、今回のエピソードは穏やかに、的確に削り出してくれた。

 

 非常に”小市民シリーズ”らしい仕上がりと話運び、アニメの強みを生かした画作りと見せ方になっていました。
 こっから更に、頭が良くて性格が悪い描写をモリモリ積み上げ、岐阜の町並みに青春の陰影を深く深く刻み込んでいく物語、続きが楽しみです。