イマワノキワ

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異世界失格:第4話『自殺は、いけない』感想ツイートまとめ

 異世界失格 第4話を見る。

 チートな精神操作能力で街を蹂躙するスズキを前に、遂に先生の固有能力が唸りを上げる!
 タイトル回収もバッチリ決めて、主役の秘められし異能が冴えに冴える、異世界失格アニメ第4話である。
 ここまであらゆる状況を”凄み”で押し切ってきた低スペック転移者が、発動条件の厄介な転移者特攻異能持ちであり、魔王が倒された後の異世界での勇者足り得る状況が、街ボーボー燃やしながら説明された。
 人格を腐らせるチートの害悪、他人の人生に深く踏み込まなきゃ発動しないセンセーの力、多分もっとロクでもない他の転移者。
 出落ちで終わらない壮大な使命も見えてきて、なかなか良い感じだッ!

 

 ウォーデリアに対峙したときもそうだが、世の中一般の価値観ではクズだの悪だのされてしまうどす黒い連中を、本人より解ってやれる存在として太宰が描かれているのは、なかなか面白い。
 悩み多き思春期、世の多くの人が『太宰だけがオレを解ってくれる!』とのめり込んだと思う。
 みすぼらしく恥多い、人間存在の複雑怪奇な本性を真っ直ぐ見据え、文学として必要な強度を筆にこめて、様々に描いてきた筆に人は、勝手な共感と期待を寄せる。
 太宰なら、胸の中にたゆたう汚いドロドロ、全部分かって言葉にしてくれる。
 そういう信頼感を、確かに生み出せる文豪である。

 全てを焼き尽くす憤怒、過剰な力に潰される弱さ。
 太宰はそれこそが傑作を生み出す”人間らしさ”だと、肯定し深く踏み込み、手前勝手に傑作に書き上げていく。
 社会にも他人にも預けられない、自分の中の泥に汚されて狂っていく被験者たちは、そのカタルシスに救いを見出すわけだが、作者にとってはあくまでただの取材対象、興味深くはあっても一緒に死ぬほどではない。
 『理解する、されてしまう』という行為の暴力性を、チート能力に変換して描いているのはかなり面白い。
 この前のめりな陶酔と、作家に必要な客観の乖離が、太宰という存在を面白くもしているわけだが…センセーの方はシニカルな態度の奥に微かな人情味があって、その湿り気が太宰っぽくもある。

 徹底して客観的に、世の中の悲惨や醜悪を高みから見下ろし書く。
 そういうクレバーな遠さに浸りきれないからこそ、太宰は(極めて手前勝手に)深く傷つき死にかけ、その作品には得難い妙味が生まれてくる。
 好き勝手絶頂に、いかんともしがたい惨めさに身悶えしている誰かを弄んだかと思えば、抑えきれない共感で間近に近寄り、過剰に思い入れて熱く入り込む。
 『太宰はオレのために血を流してくれてる』という錯覚を、凄まじい数の人間に湧き上がらせる力があればこそ、彼の作品は今でも読みつがれ、『ほんっとクズだな太宰!』と叫びながらページを捲らせているのだ。
 冷たく遠く離れたかと思えば、熱く近く勝手に踏み込んでくるその文学的運動が、色んな角度と現れ方でもって作品をきらめかせるからこそ、太宰の作品は面白いし、不安定な季節に身を置く青少年に、アホみたいにぶっ刺さるんだと思う。
 あと、そういう時代を卒業できない厄介な人間にな!(目の前に鏡を置く。流れてくる脂汗)

 

 太宰は心中相手や借金相手や文壇バーで殴り合った相手に、共感せず便利に使い潰して、自分の中のドロドロを少し気楽にしていた冷血漢なのか。
 はたまた天使のような共感性をもって、世界の誰も顧みないようなクズに親身に寄り添い、その陰りを文学に昇華した救済者なのか。
 読者によって百万の答えがあり、だからこそ太宰を読むのはやめられない、魅力的なパラドックスであろう。
 今回スズキくんの人生に”凄み”全開で踏み入り、勝手に作品にした挙げ句地上に送還した有り様を見ていると、太宰治の表層だけでなくもうちょい奥深いネトネトに、このトンチキチート物語が踏み込もうとする意気込みを感じられた。

 センセー第二の生はスズキがいなくなったこの異世界で続くのであり、コンビニバイトから走りなおすスズキ第三の生は、あくまで彼のものだ。
 ベタベタ間近に触れ合うだけが人の繋がりではないと、シニカルに突き放すようでいて、その孤独にこそ自由を見出し、餞別と手渡す。
 矛盾しているようでいて一貫性があり、極めて太宰的だとも言える能力発動を通じて、『なんで主役が太宰なの?』つう問いに、結構良い感じの答えをもらえた感じがあった。

 浅ましい欲望を投射され、都合よく成功が降り注ぐ転生者ポルノに、文豪が転生者殺しとして切り込むという、メタ・ジャンル作品としての切れ味と説得力。
 転生する前からチートな文才とドクズな性根を与えられ、誰よりも転生者的だった太宰治を主役に、チート野郎どもによってズタズタにされたファンタジー世界を、斜めから描いていく。
 そういう画角がしっかり機能するかは、今後センセーが挑む転生者狩りの旅をどう描くか次第だとは思うが、スタートとしてはかなり良いと感じた。
 最初に接触するクズカスとして、スズキくんがかなりいい味出してるのが良かったな…シャルロット姫もそうだけど、『この話こういうコトやります!』という提示が、めちゃくちゃ上手い印象がある。
 話が収まるフレームの基本形を、ちゃんと示してくれるとやっぱ食いやすいわ。

 

画像は”異世界失格”第4話より引用

 絶対支配の能力たる”ペット”をアネットが打ち破るときも、先生の圧倒的な異能が発現するときも、主役サイドは傷を負い赤い血を流している。
 彼らの”凄み”に圧倒される、降って湧いたチートに調子こいてただけの凡人クンは、傷つきたくないがゆえに他人を踏みつけにし、最初に能力を使うときもその手を布で包み、血を流さない安全圏を守っている。
 センセーは毒飲んで狼に自分を食わせて、それ故スズキの切り札を一瞬で上回ったのに、だ。
 血を流さないやつ、傷から逃げるやつは弱い。
 本人が向き合うのを逃げてる傷に、本人より深く踏み込んで血を流せるから、センセーは作品の主役として勝つ。
 それがおそらく、このお話のルールである。

 チートで魂腐らせたクズ入門者として、スズキは自分の中にあるどうしょうもうない部分に、しっかり目を向けられなかった。
 恥が多すぎる前世において、文学にまとめて売るほどに人間の醜悪を見つめ続けたセンセーは、クズのベテランとしてスズキを圧倒し、彼の代わりに生身の血を流しさえする。
 『剥き出しの心を刺されて、傷つくことには慣れている』と、金銭でも恋愛でも友情でも山盛り厄介事を抱え、血みどろになった挙げ句玉川上水に身を投げた超絶クズ人間は、堂々異世界に己を晒す。
 いやまぁ、そういう開き直りに突っ走れきれないから、修ちゃんはみっともない身じろぎを生まれて死ぬまで…死んでからも暴れさせるんだが。

 

 とまれこの作品がそう解釈し、キャラクターとして定位させた”太宰治”は、スズキが向き合いきれなかった魂の赤い血を、その必然的な腐敗を、極めて人間的な文学として全肯定する。
 そこにこそ人間の自由があり、尊厳があるのだと、刃ごと抱きしめ流れた血をインクに、彼の物語を書く。
 そうして対象化され理解されてしまうと、この物語における転移者は転移者たる資格を失い、面白くもない現世へと帰還させられてしまう。
 太宰が自分の代わりに理解ってくれるから、語ってくれるから、ゴミみたいな世界でもなんとか生きていける。
 そういう浄化作用を、狙わず果たしていくのだ。

 これはつまり、センセーが興味を抱くに足りる魅力的な取材対象…腐りかけの匂いがプンプンするドクズに、前のめり興が乗らなきゃチートが発動しない、ということでもある。
 センセーのスランプ気質は既に描写されているし、命の危機ですら彼に何かを強要できないとも描かれているので、グダグダ理屈こねて執筆≒能力発動渋るセンセーを、どうにか書かせる偏執奮戦記的な物語が、今後飛び出してきても面白そうだ。
 取材対象の奥底に潜る取材のめんどくささと合わせて、超絶クリティカルなチート能力を発現させるのに、色々ハードルあるのが良い感じだ。
 ここら辺の面倒くささが、全部『だって太宰だし』で飲み込めるの、マジ凄い。

 

 転生者固有の生きづらさ、醜さ、面白さを勝手に読み解いて描き下ろし、勝手に消費して退散させる、作家の身勝手。
 それもまた太宰らしさではあるが、スズキとの対峙で流した血と傷が、手前勝手に他人の人生を玩弄する(それこそ転生者的な)ヤバさから主役を少し遠ざけているのは面白い。
 センセーは肉体的な危機をものともせず、勝手に他人の内側に踏み込んで、殴り返されて血を流し、しかしひるまない。
 不自由なカゴから解き放たれた、無頼の自由意志をこそ尊ぶ彼の精神は、前世の文豪修行でみっちり鍛え上げられ、”凄み”で他者を圧倒する。
 太宰は異世界においても揺らぐことなく太宰で、チート程度で人間失格しないのだ。

 クズの大先輩としてそういう強みを持つセンセーだが、第二の生を遠くから観察するわけではなく、なんだかんだ親身に現地人に寄り添い、道を間違えたクズ初心者に寄り添い、赤い血を流す。
 この奇妙な親切にコロッとやられちゃったアネットの熱狂が、同じく血を流すくらい本気であり、その狂った愛は不敗なはずのチートを打ち破るくらい強いのだと、改めて描く回ともなった。
 アネットくんが面白くイカれつつ、メチャクチャセンセーのこと愛してるの好きだなー…そんぐらいの引力が、”太宰治”にはやっぱりあるのだ。
 そしてどこに出しても恥ずかしい太宰マニアになることで、無力なはずの現地人は超強くなれる。

 

 作品の中において何が正しく、何が強いのか。
 スズキくんを溢れる”凄み”で圧倒し、完膚なきまでにその物語を終わらせきったことで、お話を安定させる軸が見えてきた感じもある。
 つまり太宰が正しく、太宰が強いのだ。
 太宰が転生して無双する話として、これ以上の説得力はないだろう。
 …『んなワケねーだろただのクズがッ!』という反論を、青空文庫に山盛りある太宰作品の”実在”がぶん殴ってくる構造になってんの、ズルいし強いな。
 ただのクズだったら、こんなに作品残ってないし読まれてないし狂ってないんだよ!
 転生チート物語というクズ文学の新参に、無頼派の古強者が殴り込みをかけてくる構造なんだなコレ。

 まー揺るがぬ無双ぶっ込めるほど、太宰がクズとして完成された存在かってのは、議論と読解の余地があるところだと思うけども。
 センセーの無双物語はある種、『”異世界失格”は太宰をこう読んだのか~』という、作品とのコール&レスポンスとしても読める面白さがあって、個人的には大変楽しい。
 『オレの太宰はそんなコトしないッ!』という反発含めて、太宰治性の違いで視聴解散しそうな危うさもあるが、流行りのジャンルに乗っけて古いネタを引っ掻き回す、気合の入った挑戦を見ているのは楽しい。
 もっとナメてるかと思ったら、かなり本腰入れて”太宰”だったのが嬉しいんだな、オレは。

 センセーの強キャラポジは、他人を一方的に理解し執筆し自分は理解されないアンバランスに乗っかっている。
 常人のスケールを遥かに超えた無頼派の”凄み”が、矛盾に満ちたセンセーの生き様を腑分けし、読解し、上から書き直す身勝手を遠ざけている。
 つまり(スズキに対してセンセーがしたように)彼を理解し許してしまえる誰かが出てくると、センセーのチート主役としての優位は大きく揺らぐわけだが…その仕事を一番うまく出来そうなのが、一緒に転生してきただろう山崎富栄なのめちゃくちゃ面白いな。
 探し求めていた天使が、傲慢の悪魔を唯一殺せる魔剣なんだもんなー…おまけにチート殺しの対象である転移者でもある、と。

 

 無能力低スペのハズが、世界を揺るがす無敵存在を唯一殺せる、圧倒的な絶対存在。
 蓋を開けてみたら極めて転生モノっぽい、主役の異能と立ち位置も明らかになって、しばらくはセンセーの”凄み”無双は続きそうです。

 自分自身血を流し、敵であるはずの存在を間近に引き寄せて、理解と執筆で殺す文豪無双。
 あまりにも強烈な”太宰性”を柱とする物語を、どう暴れさせ揺らがせていくか。
 基本構造が見えてきたからこそ、次の変奏が楽しみになる第4話でした。
 個人的に”凄み”と対極にあるへなちょこっぷりも、”太宰”の魅力だと思うので、そういうのどういう風に描いていくかがメチャクチャ気になるんだよなー。