イマワノキワ

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真夜中ぱんチ:第4話『次の企画の主役はWho?』感想ツイートまとめ

 真夜中ぱんチ 第4話を見る。

 長い前髪の奥に隠した思いを、五十年の時を超えて解き放つまでの旅路。
 主人公がひとつ屋根の下に越してきて、作品の腰も据わってきたところでの個別回一発目、”スキップとローファー”の出合監督をコンテに迎え、エモーション満点でお送りする第4話である。
 ここまでの下世話で騒々しい手触りを少し収めて、陽光に焼かれ時に置き去りにされるヴァンパイアの哀しみを、表に出してきた今回。
 羊宮ヴォイスが秘める反則級の実力も最大限活かし、真っ直ぐで早いタマを投げてきた。
 …Mygo!!!!!だけじゃなく結束バンドのボーカルもいるので、そのうち真咲も歌うな…。

 

 

 静かで影のある譜風のキャラ性に引っ張られて、急にエモーションが暴れた印象も与える回だが、下世話で騒々しい展開の中ヴァンパイアが持つ寂しさを描いてきたアニメでもあるので、自分としては唐突には感じなかった。
 ヴァンパイアが本来もっている、生粋のエンターテイナーとしての資質を、夜の掟と陽光の激しさに遮られてなかなか発揮できない様子は、ここまでの物語で既に描かれている。

 望むと望まざると、真夜中世界の片隅で生きることしか出来ない生物たちが、それでも惹かれた眩しい光を、”動画”という新しいテクノロジーが蘇生させるまでの物語。
 旧態依然とした”マトモ”な働き方から、少し外れた配信業だからこそ、 人間と吸血鬼の合わない歩調をなんとか重ねて、ちったぁ救いと実りのある明日へ進み出せる可能性。
 それをどうにか掴み取ろうと、数字にしか興味を持てなかった真咲Pが譜風の内心や過去に分け入り、バズ以外の価値を新しい同居人、チームの仲間と作り上げていく手応えも良かった。

 

 歌という分かりやすいフェティッシュがあることで、スレた露悪に染まりかけてる真咲の純粋な部分が表に出やすくなって、正反対に思える譜風の清純と共鳴する形で新しいが生まれたの、大変良かった。
 シコシコ地道に調査し、環境整える様子も”真夜中ぱんチ”に本腰入れたからこそで、真咲のクリエイティブが再生していくエピソードでもあったね。

 あと気弱ながら健気な譜風を気づかい、真咲が動くより早く再生の一歩目を先取りしていくりぶちゃんの優しさ、頼り甲斐が見れたのも良かった。
 化け物屋敷のリーダーとして、部下を引っ張る立場にあるりぶちゃんは、血に狂ってる以外は大変良い子であり、変な遠慮がない陽の吸血鬼だ。
 あの子がグイグイ元気に前に出てくれることで、真咲の後ろ向きな所が補正され、”真夜中ぱんチ”がより自分たちらしくいられる場所に道が開くのは、見ていて気持ちがいい。
 同時にこの陽性の魂が、吸血鬼の宿命から逃れられていない描写も随所にあって、いつかこの矛盾が爆裂する瞬間が楽しみでもある。
 ぜってー来るよなースゴいのが…。

 

 

画像は”真夜中ぱんチ”第4話より引用

 50年前の取り返せない過去と、傷だらけ後ろ向きな現在が交錯する今回。
 家にいづらい不良少女と、素性を語れぬヴァンパイアの人生が交わった場所には確かな光があって、しかしそれがお互いを焼く誘蛾灯であることを、画面は雄弁に語る。
 表舞台の陽光に焼かれれば、身を焦がし燃え上がってしまうと知りつつ、実際そうなってみるまで立ち止まることが出来なかったのは、夢を見たから。
 影に潜むことを強要される種族の哀しさが、これまで以上にダイレクトに、詩的に削り出されていくエピソードである。
 やっぱこのアニメは、こういう寂しさが随所にあるのが良い。

 譜風も望んで前髪の奥に願いを隠しているわけではなく、50年前の癒えぬ古傷に自分の立場を思い知らされたからこそ、後ろに下がって生きていく道…”ヴァンパイアらしい”生き方を選ばされている。
 しかしそれを全部飲み込めているのなら、思い出を記録したカセットテープも捨て去っているわけで、『好きなもの』を素直に書けないアンケート用紙は、ある種のSOSでもある。
 これを受け取ってこそ”真夜中ぱんチ”のプロデューサーなわけだが、真咲自身も自分の『好きなもの』がどこにあるかを見失ってるわけで、二人の距離はなかなか思うようには近づかない。
 そして前髪の奥、秘められたものをちゃんと見なければ、譜風の歌は世界に響いてくれない。

 

 

画像は”真夜中ぱんチ”第4話より引用

 50年前は難しかった覆面匿名でのボーカルデビューを、情報技術の発展は可能にしてくれた。
 正体を明かさぬまま武道館埋めたり”徹子の部屋”に出たりする、モンスターアーティストが多数出現している令和の現実が、あの時叶わなかった真夜中の光を、譜風に届けてくれるエピソードでもある。
 吸血鬼には暴力的な炎になってしまうメジャーな光以外にも、真夜中に灯る優しい輝きを広げていけるくらいには、50年で世界も変わった。
 そんな変化を、カセット→CD→動画と移りゆく、音楽メディアの変遷に重ねて描く筆致は、とても素敵だった。

 記憶媒介が変わってもそこには確かに音楽があって、消えず保存されていた思いがある。
 かつて誘蛾の炎に焼かれて諦めた繋がりは、時と死を越えてもう一度譜風の元に戻ってきて、あの時叶わなかった共演を可能にしていく。
 綾と生きて再開する未来を殺したかに思えた時の残酷さ、吸血鬼と人間の間にある埋まらないギャップは、時が流れても変わらないもの、流れればこそ変わっていくものに、優しく埋められていく。
 音楽を乗っけるメディア50年の変遷を、上手くエピソードに盛り込むことで、独自の哀切と救いが削り出されているのが面白い回だと言える。

 

 変わっていく媒介、変わらない歌。
 モニタの向こう側手が届かない過去の哀しみと、そこから取り出されて動きなおす新しい歌。
 譜風と綾のすれ違いと再生を通して、極めて”ヴァンパイア”的な死と再生の物語が、リリカルに歌い上げられるエピソードだと言える。
 この譜風の変化に重ねて、真咲との関係性の変化、真咲自身の変化が共鳴していくのが、なかなかに良い。
 再生数稼ぎのためだけに動き出した企画は、歌い手の心に踏み込むことで、バズの亡者に数字より大事なものを、思い出させもする。
 譜風の再生に重ねて、真咲もまた己を蘇らせていくのだ。
 そしてこの共鳴は多分、譜風だけでは終わらない。

 真咲は譜風だけのプロデューサーではなく、”真夜中ぱんチ”全員の叶わぬ夢を、真夜中にしか生きられない生物の哀しみを、自分自身の新たな挑戦に重ねて世の中に突き出す仕事をしているからだ。
 今回真咲が譜風の長い前髪を上げさせ、誰かのために(つまり自分のためにも)情報集めに企画づくりに頑張ったことで、吸血鬼と人間、配信者と運営の距離は縮まっていく。
 そういう共鳴と変化の可能性が、同じ屋根の下で暮らすことになった”真夜中ぱんチ”には確かにあって、今後もクセの強いメンバーごと、面白く描き出され、豊かに重なっていくだろう。
 そういう期待感を高めてもくれるエピソードで、大変良かった。

 

 

 

画像は”真夜中ぱんチ”第4話より引用

 真咲と譜風、50年ぽっちで死んじゃう人間と永遠を生きる吸血鬼の間にある壁は、今回かなり鮮明に描かれる。
 事情も知らずに勝手に部屋に上がり込み、他人の過去を勝手に来て、数字稼ぎのために便利に使う。
 ”真夜中ぱんチ”を歪んだ承認欲求の燃料として、情を遠ざけて”活用”しようとしている真咲に、譜風は心を開かない。
 同時に遠くNYに足を運んで、綾の痕跡を必死に探しても、生き死の境目が残酷に立ちはだかって、譜風は過去を取り戻すことが出来ない。
 彼女一人きりでは、だ。

 立ちはだかる壁を壊して、お互いの光と影を近づけていくこと。
 プロデューサーと歌い手がそれぞれ抱え込んだ、頑なな臆病さの奥に少し踏み込んで、秘めた思いをぶつけ合うこと。
 それこそが譜風と真咲の距離を近づけて、あの公園…あるいは野外音楽堂で掴めなかった絆を、もう一度取り戻していくためには必要なのだ。
 綾の足跡を探り当てるきっかけが、50年前にはなかったSNSの情報収集能力なのが、譜風を置き去りにしたはずの時の残酷さの、ポジティブな側面を照らしていて好きである。
 それは欲望を加速させる危うさで真咲を誘惑もするが、こうして譜風が少しでも明るい方へと、自分を進めていく助けにもなる。
 明暗はいつでも、畏しくも優しく同居しているのだ。

 

 

画像は”真夜中ぱんチ”第4話より引用

 真咲が柔らかな初心を忘れ、数字に踊らされた人を便利に使う”人食いの怪物”になりかけてしまっている様子は、ここまでも描かれてきた。
 今回も最初はバズ狙い、勝手に他人の過去に上がり込んでかき回したわけだが、しかし持ち前の生真面目で企画に勤しむ中で、不器用ながら実直な優しさを再生させてもいく。
 非常に悪い意味で吸血鬼的になりかけていた真咲は、譜風との新たな関係、自分がなすべき仕事に向き合う中で、かつてあったはずの光を自分の中に取り戻しても行く。
 その再生が譜風に届いて、前髪の奥にある瞳をのぞかせ、隔たりのない場所へと二人を連れても行く。

 真咲がツンツン突き出したアドレスを受け取って、譜風ははるばるNYまで足を運ぶ。
 綾の思い出が残るライブハウスは、吸血鬼を焼く強い光のない夜の領域であり、光と影はそこで同居している。
 そこは招かなければ入れない吸血種を拒むことなく、Welcomeと迎い入れてくれる。
 人と同じ場所には立てない、同じ歩みで進められない悲しみを確かめるだけに思えた旅は、断絶を越えてたしかに手渡される音楽を譜風に託して、新しい光の中でもう一度出合いなおす奇跡への道を、確かに開いてもくれる。

 そうやって譜風が、50年止まっていた時間を前に勧めていく手助けをすることで、真咲の優しさも少し再生していく。
 ここまで毎回、メラメラ踊ってた外野の呪いは今回、真咲の前に立ち上がらない。
 数字ばっかりを気にして、本当に大事にするべきものを遠ざけている真咲は、数字を越えたところにある新しい繋がりに、死に絶えたはずの音楽に宿る命に、目を向けることでちょっと別のものを、自分の中に見いだせる。
 その光こそが、利用し利用するために繋がってる奇妙な同居人たちが、ちゃんと大事にしなきゃいけない仲間なんだと、頑なな思いを超えて真実を照らしていく。
 それは大事にするべきものを自分の手で殴りつけて、一回ぶっ壊しちまった女がどう、自分を蘇らせていくのか…善き吸血鬼的存在になっていくかを、雄弁に描く。

 

 僕は今回のエピソードが、譜風が前髪上げて可愛い笑顔を見せてくれるまでの物語であると同時に、真咲(と仲間たち)がそんな笑顔を蘇らせる話な所が、とても好きだ。
 譜風と綾を引き裂いた時の残酷が、発信メディアの変化となって新しい輝きを彼女に届けもするし、譜風を通じて真咲が壊れて諦めてしまったモノたちと向き合うことで、何も終わっていない事実を確認もする。
 遠く離れているようでいて、間近に隣り合っている光と影の描き方は、人間と吸血鬼をメインテーマとするこのお話の核心を、鮮烈に照らす詩情に満ちていた。

 こういう歩み寄りと衝突を繰り返して、”真夜中ぱんチ”は自分たちなりの表現をつかみ取り、取り戻し、 それをプロデューサーとして手助けする真咲は、見知らぬ誰かの再生を通して、真実の自分を蘇らせていくだろう。
 死からの復活は極めてヴァンパイア的な要素でもあって、『夜の公園しか居場所がなかったスケバン』というもう一人の”真夜中ぱんチ”をゲストに迎えることで、作品全体が何を描いていくのか、改めて鮮明になったとも思う。
 いつの間にか殺してしまっていた自分を、こんな風に仲間とぶつかり合いながら、真咲はもう一度、蘇らせていく。
 自分を焼く眩しすぎる光じゃなくて、夜の種族を優しく照らす明るさで誰かを照らすことで、自分を見つけ直していく。
 そういう話…オレはすごく好きだ。

 ここまでの3話に特徴的だった下世話さが、逆に今回のエモーショナルな味わいを際立たせ、深く染みさせた感じもあって、ここら辺の緩急も気持ちよかった。
 騒がしさ一辺倒でパワフルに押し切るだけでなく、エモーションを精妙に操って静かで力強い音楽を奏でられもする、多彩な面白さ。
 そういうモノをこのアニメがもっていると堂々示す、大変優れたエピソードでした。
 めちゃくちゃ良かったです。

 

 個別回一発目の仕上がりがとびきり良かったことで、今後続くだろう他メンバーの掘り下げにも、モリッと期待が高まる。
 どんなタマが来てもおかしくない手札の分厚さを示し、ナメた視聴態勢をぶん殴って、次回もますます楽しみ!