イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

真夜中ぱんチ:第10話『 暴走×因縁の対決!』感想ツイートまとめ

 100万人登録の重荷に耐えかねての勇み足が、招くは嵐か輝く未来か。
 待ってましたのゆき個別回…に、ここ数話ジリジリ詰んできた真咲表舞台復帰を絡め、マヨぱんらしい手応えで展開していく第10話である。

 りぶにゆき、元はりシスの三人と、パッと見組み合わさったら何か熱い爆発が起きそうな面々が、イマイチ弾けない低体温ですれ違い絡み合い、その”なんとなく”な感じが極めてこのアニメらしいという、面白い回だった。
 蓋を開けたら想定以上に面倒くさかったゆきから、一方通行にりぶちゃんに飛んでる感情が全然跳ね返されず、ツンデレというにはあまりに塩っぱい対応で受け流され、しかし加入自体はスルリと為される。
 あるいは真咲のグーパンで人生メチャクチャにされた元仲間が、キツい敵意なり捻れた執着なり見せつけるかと思いきや、むっちゃ大人なナァナァ感でぎこちなく向き合い、酒の力を借りて強張りをほぐし、ずっと逃げてきた夢へとウキウキ飛び込む助けを得る。

 フツーの話ならもうちょい分かりやすい感動と感情をねじ込む所で、奇妙な噛み合わなさと不思議な共鳴を盛り込み、熱を上げすぎず醒めて終わらせすぎず、二組の関係に共通の「流れる時が許していくもの」を静かに照らして、ラストスパートに向けて波乱と飛躍の準備を果たす。
 初見奇妙なズレを覚えつつも、噛み締めていくうちこのアニメらしいコクを感じるところ含め、面白かったな。

 

画像は”真夜中ぱんチ”第10話より引用

 今回のお話はりぶが好きすぎて頭がおかしい…ワリに、その強い感情を上手く当人と接合することが出来ず、メチャクチャズレて居心地悪い感じでハマリどころを見つけていく、ゆきを主役の一人として転がっていく。
 「い、嫌だ…こんな激ヤバ面倒くさ女に萌えたくないッ!」と思いつつも、茅野さんの剛腕に問答無用でねじ伏せられた感じも凄かったが、あのブリブリした感じはダイナシ集団真夜中ぱんチには確かに欠けてる人材で、いい塩梅にニッチを埋めてもいるんだよな…。
 登録者数に100倍の差があるのに、当たり前のように対等な大型追加メンバーと自分を疑わない所とか、生っぽいヤバさがビシバシ出てくるのが凄い。

 片や自由の権化、片や秩序の使徒
 美味しい感じに対極に分かれた古きヴァンパイア、もっと濃い目の因縁と感情がりぶちゃんとゆきを結びつけてるかと思ったが、蓋を開けてみると思い込み激しすぎるくせに超受け身の姫気質女が、散々から回ってうっすい関係性の上に感情拗らせてるだけだった。
 りぶちゃんが体温低いのも当然なペラッペラな関係性を、気合い入りまくりのレゲー作画でこってりカロリー付けて、パワーで飲ませる演出は凄く好きだ。
 反則な飛び道具でウケ取るってだけじゃなく、レゲーマニアなキャラに合わせて雰囲気あるところ、このアニメらしい真面目さで良い。

 

 女と女の感情炸裂としては正直肩透かしながら、ゆきが萌え声レゲー配信者をやってみようと思ったのが、マヨぱんに影響されてだったのは凄く良かった。
 単独ではイマイチハマリどころが見えなかった第8話、堂々世間の表舞台に立って自分の”好き”を体現する仲間たちを見て、自分もかつてマザーにぶっ壊された”好き”で、世界と繋がってみたくなった。
 前回さくらちゃんを鏡に描かれた、顔の見える誰かの人生を前向きに動かす力がある、感情の発信源としての真夜中ぱんチの存在感が、また一つ分厚くなった感じ。
 秩序最優先な吸血委員長としての顔をずっと見てたから、この逸脱がどんくらいの意味を持つか、ちゃんと分かるのも良い。

 登録者数がブチ抜けているわけじゃないけど、ゆきりんこのゲーム配信は雰囲気も良く、心底好きなことやってる時特有の温もりと風通しがある。
 ひたすら身内で大騒ぎし、チーム内部での絆を太くする感じで描写されてきたマヨぱんが、いったい世界にどういうインパクトをもたらしているのか示す相手が、ゆきになったのは良かったな、と思う。

 

 なんだかんだ顔見知りだったけど、ずーっと相容れない存在かと思ってた奴が、真咲のプロデュースで世界とつながる手段を得た仲間に憧れて、自分の”好き”を世界に問うた。
 そんな変化が…まぁこのアニメらしいトンチキとダイナシには満ちつつ、生まれついての被差別種族に生まれていたわけだ。
 ここら辺、超暴力で夜の秩序を強要する”母(マザー)”が是とするものから、娘たちが巣立っていくスタンダードな成長物語としても読める所が、このアニメらしいベーシックな強さだと思う。
 つーか吸血鬼を徹底して日陰者として扱い、世間に自分を出していくマヨぱんの”仕事”を押しつぶしにかかっているマザーからすれば、今回ゆきが突っ走った大暴走は裏切り以外の何物でもねぇからなぁ……そういう意味でも、秩序への善き反抗を描くアニメなんだわな。

 クッソ捻れて上手く伝わんない、ゆきからりぶちゃんへの思いを、独りよがりの大暴走とはいえちゃんと伝えて、釣り合わなかった感情の天秤が少し動く契機としても、マヨぱんの配信は大きな仕事をしている。
 そらー晩杯莊に培われた絆と、舞台裏から見上げた星の眩しさを思えば、新メンバーは真咲に決まってんだけども、愛されたいけど素直になれない独りよがりのお姫様が、ダチといっしょに遊びたい気持ちを表に出すきっかけは、苺子の勇み足にこそある。
 常識外れのトンチキが、ズレたまんま奇妙にハマるこの作品の心地よさを思うと、その一方通行が妙にしっくり来て、可愛く思えた。
 可愛いのは大事よ、やっぱ。

 

画像は”真夜中ぱんチ”第10話より引用

 ゆきりんこの図太い根性に巻き込まれる形で、クソボケの思いを聞き届けた真咲にとっても、萌え声配信者の襲来は何かを動かす契機になっていく。
 苺子の暴走の背中を押したのが、真咲がツンツン気にしてない素振りで隠してる表舞台への憧憬…それをちゃんと感じ取ってるりぶちゃんの愛だったの、俺は凄く好きだ。
 りぶちゃんリビドー赴くままに大暴走系かと思いきや、かなり良くLOVEな相手の顔見て冷静なところ好きだ。
 ゆきへの誘惑が効かなかった描写で、あくまで真咲の”血”はりぶちゃん限定の特効だってのも解ったしねぇ…。
 終盤戦に向け、地道にLOVEが溜まっていく……炸裂させてくれッ!

 時の流れのなかでなんかビミョーな塩梅での繋がりに落ち着いた吸血鬼に比べて、青春を動画配信に費やし、最悪の別れを経た元はりきりシスターズの三人は、気まずさも根っこでの繋がりの太さも、もうちょい太くて分かりやすい。
 動画配信という”仕事”を一通りこなし、酒も飲めれば人生も間違えるお年頃になってる人間らしく、最悪の決裂も過ぎゆく時間の中で落ち着きどころを迎えて、あとは手を取るキッカケだけが足りてない三人。
 ポワポワしてるようでいて芯が太い乙美が、押し出し強い割に弱気な二人を繋ぐ鎹になっていたのが、往年の関係性を思わせて面白かった。

 

 気まずい別れから偶然の再会、もうちょい温度高い衝突と和解になってもおかしくなさそうだけども、あくまで三人の現状を大事にしつつ、コラボ相手くらいの距離感で繋がり直すのも、ベタつかない納得感が静かに香って良かったと思う。
 こういう落ち着いた、しかし手応えのある関係再構築を描かれるほどに、ずーっとブラックボックスとして描かれる殴打の背景…「なぜ真咲は己の人生を殴りつけたのか?」が、ミステリとしての魅力を増していくのは面白い。

 最初は数字に呪われた限界女だった真咲は、マヨぱんのド素人共をプロデュースし、家族となる中でその本性を僕らに見せてきた。
 地道にシコシコ裏方仕事に勤しむ生真面目、クソボケ共の熱い涙に黙ってられない熱量、吸血鬼に足りてない自己実現と社会への接点を買って出る侠気。
 ワイワイ騒がしい配信者成り上がりストーリーの中で、真咲は確かな優しさと強さ、それを上手く使えなくなった擦れっ枯らしを、ちゃんと僕らに見せてくれた。

 そういう女が、なんであの時ブチギレ殴打に突っ走っちゃったのか。
 これは意図して吐露されない真実であり、最終盤でりぶちゃんが踏み込むべき重要課題なんだろうなと思うけども。
 今回はりシスと飲んで喋って、笑顔で許しあえた実感が、真咲を縛っていた後ろめたさを溶かしてもいく。

 

 あの衝突をキレつつもなんとか飲み干し、クソアマ率いる商売敵を「面白い!」と素直に認められる橘花姐さんの度量が、まずスゲェわけだけど。
 ”今”隣りにいるマヨぱんと一緒に表舞台に立ちたい気持ちはありつつ、後ろめたさと間違えちゃった痛みに二の足踏んでいる真咲は、三つ目の怪物としか思えなかったカメラに、自分が想像しているより素直に笑えている事実を教えられる。
 流れ行く時は、決定的に間違えてしまった自分のことも許してくれるし、傷ついてなお誰かのために必死になっていた日々が、自然と笑える幸福と強さを、真咲に取り戻してもくれた。
 晩杯莊での騒がしい日々は、ヒビが入ってた真咲を確かに直していたのだ。

 これは”我が家”の外側、心残りのど真ん中に教えてもらわなきゃ見えなかった自分の肖像画だ。
 ぎこちなくしか笑えない、心の壊れた怪物として自分を見ていた真咲に、客観的な”今”を届ける仕事が、かつて確かに大事なもので繋がっていた仲間に委ねられるのは、凄く良いなと思った。
 そういう再生力が人間にはあるし、そこに写った自分が強すぎて鏡を見れない吸血鬼性を、真咲が乗り越えていくエピソードとしても良い。
 さくらちゃんからこっち、顔が見えて声を聞けるリアルな相手との繋がりを太く描いてきた物語が、極めて生っぽい居酒屋泥酔トークでもって、真咲の現在位置をスケッチする回でもあるか。

 

 乙美が差し出した笑顔は、ルンルンで帰宅し表舞台復帰に踏み出した後の、コメント欄大炎上でボーボー曇らされる事になる。
 しかし確かに、逃げたかった過去が照らしてくれた自分が幸せに満ちていたことは嘘じゃない。
 ワケのわからねぇ数字の塊に呪われ、大事なもんをぶん殴っちまった過去に引きずられて、また同じ過ちを繰り返すのか。
 それとも運命に翻弄されるまま家族になったボケカス共と、手の届く場所に確かにある”好き”の実感を信じて、傷だらけのまま進み直せるのか。
 そういう戦いに、物語はこっからの終盤戦突き進んでいく。
 その時帰るべき場所、嘘じゃない事実として、鏡の中の笑顔は真咲を定位する。

 バズに踊らされて誰かの生き血をすする吸血鬼じゃなくて、結構いい顔で笑えている”人間”なんだと、自分の現在地を確認出来る大事な答えを、真咲は今回既に手に入れている。
 今後どんだけ道に迷うとしても、いざとなったらそこに戻ってくれば良いモノが見えているのは、今後の波乱を乗り越える上でとても大事だ…し、それが急に生えてきたものではなく、真咲自身の頑張りが作り上げ、”今”隣りにいる仲間がいてこそ生まれた奇跡なのだと、このアホアニメはずっと描いてきた。
 答えは既に、騒々しい馬鹿騒ぎの中に確かにあるのだ。
 あとは散々に迷って、それを両手でちゃんと抱きしめるだけだ。

 

 この行って迷って戻って来る動きは、表舞台への復帰を望む真咲の気持ちをりぶちゃんが解っていて、はりシスとの再会を経て一回は跳ね除けたその結論へ、真咲がスキップで飛び込んでくる足取りとも重なる。
 自分一人では見えなくなってしまうものを、鏡となる誰かが見つけてくれるからこそ人間は生きていけるし、他者の視線によって初めて自分の輪郭を確認する、非・吸血鬼的存在として自分を確立できる。
 そういう話をずっとやってきたアニメなので、ここで一回冷水ぶっかけられて、弱さや身勝手に真咲が溺れるのは大事だなぁと思う。
 それこそが真咲を狂わせ、大事なものを殴りつけさせた元凶だからだ。

 物語が始まったときには乗り越えられなかった、顔の見えない怪物。
 コメント欄を炎上させる世間の反応に、それに踊らされる弱く乱れた自分に、真咲は勝てるのか。
 闇に閉じ込められる以外の道がなかった吸血鬼を、光の当たる場所に引っ張ってきてくれたプロデューサーの迷妄に、ボンクラ共はどんな助けを出せるのか。
 主役の現在地をしっかり描いたことで、今後物語がたどるべき道が鮮明になる、最終盤一個手前でした。
 こういう手堅い地固めと並んで、ゆきの魅力をギュギューと絞り出す個別回を走り切るの、やっぱ”巧い”アニメでもあると思いました。
 ここからどう迷いどう翔ぶか…作品全体の出来を占う終盤戦、楽しみです!