イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

てるみな 1

Kashmir白泉社。「Kashmir先生ね、今度ウチ新しい雑誌作るんですよ。全編読み切り描きおろしでね、自由に描いて欲しいわけ。だからこう、Kashmir先生もさ、普段つけてる枷みたいのをね、破っていただきたいわけですよー」とか言う打ち合わせが楽園編集部とあったかどうかは知らないが、Kashmir先生が媚びとか受けとかそういう余計なもんを全てパージして、自分のやりたいことだけやってるネコミミ幻想乗り鉄巡礼猟奇漫画。
お話のフォーマットとしては、ネコミミが鉄道に乗ってどっかに行く、という展開が基本になります。が、Kashmir先生の乗り鉄漫画なので、電車という移動する密室から見える風景は、異常に巨大で密度が高く、粘液と粘膜と狂気に満ちてます。Kashmirファンの方々には「黒ナオコサン回でくろナオコサンが出てこない感じ」といえば伝わるでしょうか。ボッスやつげ義春植芝理一の系譜でありながら、オブジェクトの選択と演出の仕方に独特のセンスがある。まぁそうじゃないと、幻想譚を描きたいとは思わんのでしょうが。
電車という乗り物が持っている「旅感」と、風景の皮を一枚剥いで世界の内臓を見せてくる「迷い込み感」が非常によくシンクロしていて、テーマの組み合わせに妙があると感じます。相当濃い鉄ネタも投げているんですが、それが浮いておらず、濃厚な悪夢めいて流れ過ぎていく風景の中でスパイスになっているのもイイ。感性と欲望を過加速させているんですが、そこら辺を微妙にコントロールして、本として発行されて読者に読まれる形に仕上げているのは流石です。
ネコミミとか幼女とか狐耳とか、萌え要素っぽいのも出てきて可愛らしいんですが、この漫画「今宵のKashmir、加減なし」という感じで軸が猟奇にいっている。ネコミミになる所に一切説明がない所とか、萌え記号の調理もガロ寄りというか……こりゃいつものことか。個人的には、遊郭描写とか、二話の女子高生とか、エロスな描写に加減がないのがいいですね。深層心理を絵にしたような話なので、リビドーも剥き出しにしないとな。あと唐突な百合。ルルイエ線の展開とかマジ素晴らしい。
眼鏡をかけた青年作家の「私」がサブ主人公として用意されていて、彼が見てる世界は結構普通というか、ネコミミ編の圧倒的な物量質量に比べると落ち着いています。そのせいか五話辺りから姿が見えなくなっていくわけですが。個人的には、ネコミミの見てる世界の、瘧のような震える熱は凄まじく魅力的なので、軸がブレない方が良いかな、と思います。
どう考えても毎回終わった後ネコミミ死んでるよねとか、京急油壺からルルイエ行けんのかよこええなぁとか、雑感様々ありますが、とにかくゴロッとした異様な質感のある漫画です。やはり漫画の説得力は絵にある、とつくづく思う読書経験でしたな。P64のモツビルとか、P45からの色街とか、セリフ無し長回しの風景描写、マジ爆弾級の破壊力ですよ。ぜひ。