イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

灰と幻想のグリムガル:第1話『ささやき、詠唱、祈り、目覚めよ』感想

"魍魎の匣"の中村監督がお送りする異世界召喚ファンタジーは、無双も俺TUEEEも一切無し、っていうか金勘定とダメ人間たちの当惑だけで一話が終わるという、北野映画で言うと"キッズ・リターン"みたいな出だしでした……"アウトレイジ"や"ブラザー"ではなく。
『最近の若い子にゲーム召喚系ファンタジーってバカウケなんでしょ? スーパーな主人公様が現代由来の無敵パワーで大暴れなんでしょ?』とかいう偏見を真正面から粉砕する、水彩画調の色彩とじわっとしたお話、穏やかな音楽とゴブリンの生活。
ヘンテコなアニメだ……ヘンテコなアニメが始まったぞ!!(ヘンテコアニメ大好き人間)

もはや正当ファンタジーのサブジャンルとはいえないほど作品数が出ている、『何の取り柄もない俺がゲームの世界に!?』系ラノベですが、そっちで主流になりそうな欲望充足要素は全然なくて、記憶も生活基盤も失った元現代人達が、世知辛いファンタジー世界で辛気臭い冒険未満を送るという、生活臭満載の出だしとなりました。
突然強制的に集められ、化物殺し以外の選択肢を奪われて話が始まるところは、ラノベというよりはソリッド・シチュエーション・スリラーの手法ですね、"SAW"とか"CUBE"とかの。
一般的な無双系ファンタジーに時々感じる『よくもまぁ、そんなに順応性あるな』『異世界ルールの飲み込み早いな君ら』という疑問を真ん中に据えた展開は、なかなか面白いカウンターだと思います。

無論、順応性と判断力のあるキャラもいるけれども、それは主人公たちではなく、主人公たち人生劣等生を置いてけぼりに勝手に先に進んでいってしまう。
まるでラノベの主人公のようにアツいセリフを吐き、作中唯一血を流して優秀さを証明したレンジは、マトモそうな連中を引き抜いて自分の物語に突き進んでいってしまうわけです。
残されたダメダメ六人組はゴブリン一匹殺すのにも必死で、現代知識でチートしようにもそんなものは思い出せず、雁首揃えて殺しの一つもできねぇ一般人ぶりを晒し続けます。
その当惑と無能っぷりが逆に『まぁ、普通はこうだよね。俺達も記憶消去で異世界呼ばれたら大変だよね』という親近感に繋がっていて、なかなか面白い切り口でした。


今回は『異世界ファンタジー四畳半奮戦記』ともいうべき、冒険者未満の日常がゆったりと流れるお話です。
盗賊の主人公はドン臭く、吉野声はお調子者でウザく、狩人は天然で、魔法使いは巨乳のメソメソ女で、戦士は鈍重。
一応リーダーシップを取ってる僧侶も、ダメ人間集団を一気に戦士に変えてくれるほど優秀ではない。
成り行きで運命共同体になりはしたけども、生き死にの問題を共有してなお、本当に信頼できる関係が生まれているわけではない。
全てにおいて中途半端な、生々しい『僕たち』の異世界召喚が、この作品のコアにはあります。

『もう明日死ぬ!』という切迫した危機が背中を押すでもなく、英雄のように人生を切り開けるわけでもなく、不安定な状況の中で腰を落ち着けられる場所が仲間との人間関係の中にすらない、負け犬たちの一日。
これを異世界ファンタジーの第一話に持ってくるのは結構勝負だったと思うのですが、オイラの歪んだセンサーにはビンッビンに感ありのペーソスであり、すごく好きであります。
カメラを地べたに据え付け、等身大の青年たちのみすぼらしい日々をじっくり追いかけていくアングルは、アニメというよりは実写映画っぽい地道さを感じますね。

この穏やかなスケッチを飲み込ませるために、アニメーションの要素がフル動員されていました。
鉛筆線が残る水彩調の美術、素朴さの中に洗練を感じるキャラデザイン、穏やかで美しいBGMなど、『超ダルいな……最高だけどな! どんどん持ってきて!』という気持ちになれる映像が生まれていたのは、本当に素晴らしい。
特に金子英俊さんの美術は本当に独特で、水彩画の中に迷い込んだような独特のトリップ感が、ファンタジー世界に飲み込まれてしまった主人公たちの当惑と、書き込まれたリアリティがそこで生きていかなければいけない世知辛い現実感と、巧くリンクしていました。
やっぱ『ここではない世界』に視聴者を飛び込ませるには、背景大事だよなぁ……今期だと"ノルン+ノネット"とかも、そこら辺素敵ですね。

音響含めた芝居の付け方も全体的にスムーズかつ穏やかで、ジワッと進むストーリーとマッチした魅力を感じました。
いちいちカメラの据え方がヘンテコで、普通じゃない異世界召喚モノが、普通じゃない絵で迫ってくる気持ちよさが良い。
フツーなら沢山ぶっ殺して爽快感を出すべきゴブリンを、飯も食えば笑いもする『隣人』として描いてしまう作品世界の切り取り方とか、非常に独特で好きです。

キャラクターの描画もフェティシズムを感じるエロい絵になっていて、『マジでこのアニメ、好きなことしかやってねぇ!』って感じだった。
腰からお尻、ひかがみからふくらはぎにかけて流れるラインがすっごく滑らかで、『ホントスケベ(褒め言葉)だなこの絵描いたやつ!』って気持ちになった。
人体にフェティシズムがあるアニメーションは、良いアニメーション。(ぼんくら格言)
あと序盤のゴブリンバトルが異常に細かくて、クオリティで視聴者の興味をグリップする良い映像だった……木に矢が突き刺さったところの反動の作画、むっちゃ上手かったな……。


サブタイトルで"Wizardry"へのリスペクトを見せ、出だしの一話をでジワッとダメ人間の冒険者稼業(未満)を見せることに使いきったところを見ても、この話は超主人公のスーパー成り上がり伝説というわけではないでしょう。
このままダメ人間が明日もわからないまま異世界をウロウロし続けるダルーい(褒め言葉)話になるのか、はたまたなんか劇的なイベントが起きて物語が転がり始めるかは分かりませんが、ともあれ『俺はこういう話をやる。こういう話が好きなんだ』という猛烈なサインをピピっと受信できる、素晴らしい第一話だと思います。
尖った感性と『やっちゃる』という熱意をビンッビンに感じられたので、来週以降もこの空気を胸いっぱいに吸い込めるかと思うと、とっても感謝感激でありますな。

スピードのある魔球でまず俺的ストライクをがっちりもぎ取っていったこのアニメが、第2話でどういうコースを攻めてくるのか。
非常に期待度満点であり、次回の放送が本当に楽しみです。
まぁ来週辺りPTの誰か死ぬよね、オーソドックスな転がし方だと。(強めの預言をしておいて、実際に死人が出た時の衝撃を和らげるオタクテクニック)