イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

灰と幻想のグリムガル:第6話『彼女の場合』感想

茫漠とした不安に押しつぶされながらゴブリンの命を奪うファンタジー・スロー・ライフ、今週はツンツン女攻略編。
前回エロい作画でユメとウフフした結果、なんか薄皮一枚向けたパーティーがゴブリンをぶっ殺しつつ、メリイさんとの距離をどうにかして詰めていく回でした。
このアニメらしいじわっとした距離感描写と、三歩進んで二歩下がる人的成長の見せ方が相変わらず気持ち良く、どこにも行けない彼らの小さな成長をじわっと見守りたい気持ちにさせられた。
ユメのホバー歩行とか作画方面で少し不安もあるが、自分たちの歩幅をよく分かった展開だったと思います。

今回は出だしのオモシロ漫才が非常に切れ味鋭くて、何かが起こりそうな期待と、楽しい気持ちがグイッと湧き上がる立ち上がりでした。
ランタのハイテンションまくし立て系ウザ芸がマジ面白くて、『よっしんマジ芸達者やー、最高やー』という気持ちになった。
マナトの死以来重苦しい空気が支配していたグリムガルですが、苦しいこともあれば楽しいこともある小さな人生にじわっと焦点を当てるアニメな以上、ずーっと葬式ムードというのも違うわけで。
コメディとしてシーンをしっかり笑えるように仕上げ、笑いで閉塞感をぶっ飛ばし空気を入れ替える仕事をしっかりさせてたのは、今後の展開に繋がるナイスな流れでした。

オモシロ漫才を面白くやるためには、お互いの個性を受け止める覚悟と余裕が必要であり、人間集団において大事なそれがなかったからこそ、マナトが死んでからのパーティーは機能不全に陥っていた。
ただ空気を入れ替えるだけではなく、少しだけど確かに前進するパーティーメンバーを予言するような意味合いが、アバンのかけあいには込められていました。
笑うということは楽しいことであり、視聴者にポジティブな印象をしっかり与えつつ、うっすらとエピソード全体をスケッチする筆は、このアニメらしい的確さでした。


その後はハルヒロの新米リーダー悪戦苦闘日記。
ユメとのぶつかり合いを経て、マナトの遺言(というか呪いというか)をようやく背負いリーダー稼業を頑張る気になったハルヒロですが、足らない人間力はすぐには埋まらない。
そもそもそういう所小器用に出来る『持ってる』やつなら、ダメ人間が雁首揃えているこのパーティーには入っていないわけで、向いていないのを分かっていながら、ジワジワと一進一退、でんぐり返りで進むしかない。
ここら辺のボヤキと確かな前進がじわっと描かれているのは、見ていて気持ちが良いところです。

このアニメ、焦ることのない芝居の間合いや、細やかな表情、身振り手振りの描写が気持ちいいので、今回ハルヒロがボヤいていたような地味ーで小さな人間関係のヤダ味とか、ちょっと後ろ向きな愚痴なんかも『ないわー』と拒絶するより、『分かるわー』と受け入れられる。
異常にフェティッシュな細やかさで異世界ファンタジーを分解していくのがこのアニメの視点だと思うわけですが、この親近感と共感てのは、そういう微細な分解能が生み出すこのアニメの特徴だと思います。
それを活かすべく、人間関係も一気に先に進むわけではなく、ジワジワと進みつ戻りつのペースを崩さない。

しかし愚痴とため息だけでは見ていて息苦しいので、小さく確かな成長も分かりやすく描写するのは忘れない。
かつてマナトが立っていたリーダーという高い位置は、背負うものも多くて面倒くさいけど、色んな物が見渡せる場所でもある。
ゴブリン殺しの最中に『モグゾーに兜買わなきゃな』とか『メリイはやり方が違うだけだな』などなど新しいことに気づき、それが『殺し』をスムーズにしていくポジティブなフィードバック・ループは、アバンのオモシロ漫才と同じように、重苦しい空気を入れ替える大事な足場です。
同時に、直接命が消える瞬間は描かないながらも、『殺し』の重たさを継続してじっくりイヤーな気分にさせる戦闘描写も揺らいでおらず、芯がブレねぇなと感じる。

こうして『持ってない』ハルヒロの身の丈にあった成長を描いたことで、メリイの小さな歩み寄りは唐突な感じがなく、むしろ確かな手応えと達成感を感じさせる。
このコンパクトな喜びの共有てのは、駄目人間達の生活にじっくり寄り添うこのアニメの筆にふさわしい、視聴の報酬だと思います。
ネームドモンスターをぶっ殺して名を上げたり、世界の危機を颯爽と救ったり、異世界美少女でハーレム作ったりは到底出来ないけど、気難しそうな新入りとの距離をジワジワ詰めて、だんだん仲良くなることは出来る。
『どこにも行けない僕達でも、出来ることはある』という小さな発見をお話しの気持ちよさに据えたのは、『彼ら』の話を『俺ら』の話に変える上でとても大きな役割を果たしていると思います。


『新入りの事情を知らない自分たちで閉じこもっていても事態は良くならないので、知ってる人に聞こう』という、当たり前ながら大事な発見をしたリーダーの提案で、パーティーはメリイの過去に分け入っていきます。
ハヤシさんの訥々とした語り(ここら辺は木内さんが超上手かった)から浮かび上がってくるのは、笑顔の絶えない癒やしてであり、ムードメーカーとしてパーティーの負担を抱え込みすぎるメリイの過去。
説明は一切ないのですが、視聴者は自然と『おいおい、マナトと同じだわ』という気になる過去話でした。

これは二話前に描写されたマナト周辺の丁寧な描写がよく効いている所で、無意味な傷をヒールしてMP切れになったり、浮かれ調子になった所を壊滅させられたり、共通点の多い過去を痛みとともに追体験させる作りになっている。
視聴者にもキャラクターにも結構な重たさでたたきつけられたマナトの死が記憶に残ればこそ、ハヤシさんの語る過去に『おんなじだ……』という感想を得て、いけ好かないクソ女だったはずのマリイもまた、傷を受けて自分を閉ざしてしまった存在なのだという共感が湧いてきます。
ここら辺の閉鎖と開放のバランス、手綱捌きはなかなか見事で、良いストレスとカタルシスの与え方だったと思います。

なんにも知らないままマナトに寄りかかりすぎて、マナトを死なせてしまったパーティーの中に、一人だけ生き残ってしまったマナトと同じ存在が、マナトの代わりにいる。
彼女の過去を知ることで、マリイとの距離を詰めるクエストはいつの間にか、パーティーが侵してしまった取り返しの付かない失敗を、別の形で償う可能性も見えてきた気がします。
ユメとぶつかり合うことでマナトの死をある程度ケアできたハルヒロですが、まだまだマナトの死を受け入れきれてはいないということは、その幻影と会話するシーンを見てもわかります。
マナトに似たマリイを受け入れ、より前向きな方向に一緒に歩き出すことで、失ってしまったマナトを取り戻すという、擬似的なグリーフケア
ハヤシさんの過去語りで見えてきたのは、そういうコンパクトで緻密な感情の流れなのかなぁとか思いました。

マナトを失ったことでリーダーに就任し、精神的に成長していくハルヒロの姿は、マナトの死の原因がマナトの死故に埋まっていくという、どうにも皮肉な人生模様を巧く切り取ってもいます。
今回ハルヒロが見せた広い視野とある程度の余裕があれば、多分マナトは死ななかったんだけど、ダメ人間たるハルヒロはマナトの死というイニシエーションがなければ、けしてこういう成長はできなかった。
気づいた時にはもう遅い、灰は幻想には戻ることのない、ハードで情け容赦のない不可逆性。
前向きで明るいエピソードの中にこういう苦味を挟むことで、作品が持っている身の丈がしっかり維持され、都合が良すぎない程度に話が引き締まる作用があるのは、目配せ効いててなかなか良いですね。


そんなわけで、長くて暗い雲がようやく抜けて、少し日差しが見えてくるような、人生劇場雨のち晴れでございました。
リアルで暗いところがある話ってのは『負の主人公補正』といいますか、露悪的な方向にゴロゴロ転がってしまうことが多々あるわけですが、今回見せた小さくて確かな変化の暖かさ、他人をよく知ろうと自分なりにできることをちゃんとやる誠実さは、リアルの落とし穴を華麗に避ける、このアニメの確かな目配りを感じさせ、なかなか嬉しかったです。
勿論このダメ人間ファンタジー劇場では良いことばっかりじゃなくて、イラッと来る生々しい苦味やら、殺し殺され稼業に付き物の痛みを伴う死だとか、ネガティブなことも沢山ある。
そこを切り捨てず、むしろ微細に分け入りつつも引き寄せられすぎずに、『こいつらの人生を、ジワッと見守りたい』という気持ちになるよう、小さくて確かな一歩を丁寧に描写する。
このアニメが持っている歩幅と眼差しを、しっかり確認できる、良いエピソードだったと思います。