イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アイカツスターズ!:第16話『ミラクル☆バトンタッチ』感想

今私達の空に手渡しの希望があるアニメーション、今週はわたし達をつなぐきらめくラインのお話し。
第10話でアイドルのスタートラインに立ったゆめが、ローラのピンチを代理で背負うことで、さらなる一歩を踏み出すお話でした。
一緒に歩いてきたからこそ判る輝きの重さと、それを引き受ける覚悟、受け渡す覚悟。
ローラとゆめの強い絆を描きつつ、また一つアイドルの天井に近づいた少女を巧く切り取るエピソードでした。

ファン目線で四ツ星学園に入ってきて、舞い上がってみたり妬まれてみたり、プレッシャーを感じたり本気で頑張ってみたり。
虹野ゆめのアイカツ(つまり"アイカツスターズ!"という作品)は、小さく着実な一歩を積み重ねることで描写されています。
第10話では初の大きな仕事に舞い上がり現実を見れなかったゆめですが、今回は最初から及び腰で代打の仕事に打ち込めない。
そこには当然、予期しない大舞台への恐怖もあるし、どうやっても二位どまりの自分の実力への不安もあるでしょう。

しかしそれは15話かけてアイドル活動の実際を、身体で体験したからこそ生まれる怯えであり、自分で言葉にしていたように、ローラがこの立場に来るまで積み上げたものの偉大さを、肌で感じているから生まれる感情でもあります。
第10話の浮かれた態度と今回の沈んだ表情を比べることで、この6話で夢が何を手に入れたのかは、非常にクリアに見えてくる。
学んで、体験して、痛みや悲しみも含めて人格の全てでアイドル活動に全力だったからこそ、今回ゆめはローラの代理を怖がって、電話越しのバトンタッチまでそれを拒絶し続ける。
それはゆめが桜庭ローラという人間をどれだけ尊敬し愛しているかの発露であると同時に、ローラと一緒に歩いてきたアイドル活動への敬意も表しています。
降って湧いたチャンスに喜ぶより、親友の不幸を悲しむゆめの姿をちゃんと捉えたのは、彼女の成長と優しさを見せる上で大事だったと思います。

ローラの思いを電話越しに受け取るバトンタッチと、魂を背負ってのリハーサルのシーンで、彼女が怯えを乗り越えて親友の思いを舞台に載せる『覚悟』が良く見えてきます。
カメラの故障に渋滞、電車の遅延と、不運に不運が重なって、舞台には間に合わないローラが、自分の無念と希望を託してバトンタッチを行うシーンは、彼女の健気さと強い思い、それを受け取るゆめの真摯さが響きあう、非常に叙情的なシーンでした。
その後のリハーサルも、ゆめが背負ったものを『アイドルの天井』としての確かな眼力で見抜き、言葉にすることで勇気を強めていくひめの凄みと優しさがよく出ていて、なかなか良いシーンだったと思います。
ローラの思いを受け継ぐだけではなく、それをひめが増幅するシーンを即座に挟むことで、ひめ・ローラ・ゆめ三人とも株が上がる構成になっているのは、とても巧妙ですね。

第10話との対比という意味では、あの時ゆめを妬んでローラに諭されていたクラスメイトたちが、ローラがいなくても横断幕を作っている描写に、ゆめがひめの代理ステージでどういう成功を掴んだかが具体的に反映されていました。
ゆめは第10話でも今回でも『誰かの代理』としてしかステージに立てない、現状ゆめ自身の魅力が薄いアイドルなわけですが、それでも彼女が懸命に積み重ねてきた実績は人を動かし、支持を引き寄せている。
そういう小さな積み重ねと変化、『普通』の成長こそがスターズ独特の魅力だと考えると、今回見えたクラスメイトとの関係の変化は、結構大事なのかなと思います。


ローラがスケジュールをダブル・ブッキングさせたのも、初めて掴んだ大きな仕事に報いようとするプロ意識からだし、舞台に来れないのも不運の結果。
ローラに非を背負わせない流れ自体は良かったですが、流石に偶然が3つ重なる展開はローラを表舞台から排除する物語的意図が透けすぎていて、彼女が展開の犠牲になる痛ましさが強調されてしまったかな、とも思います。
起こってしまった不幸を嘆かず、自分に出来る限りのことを尽くして、それでも足りないから一番信頼できる友に託す。

全てが終わった後も結果を嘆かず、軽口混じりにゆめを祝福してくれるローラの健気さに、近いうちに良いエピソードを回して報いてあげてほしいなと強く思いました。
ほんとなー、恨んだり悲しんだりしても全然おかしくない状況なのに、まっすぐ顔を上げ続けるローラは強いし優しいよ。
代理で一位を取ったことでゆめのアイドル活動はさらなる加速度を手に入れるんだろうけど、それをローラから奪ったとは見えないように、巧くフォローアップして欲しいところですね。

渋滞で足が止まった時、一瞬『ヘリとか来るのかな?』とかも思いましたが、スターズは物語的豪腕で理屈を蹴っ飛ばす方向には話を転がさず、『普通』に時間切れにさせていました。
あそこで静かに現状を受け入れ、ゆめにバトンタッチするべく携帯電話を取るのが、スターズが持つリアリティのラインなのであり、そうすることで語れる物語がやはりあるのだと、今回は強く思いました。
『リアリティラインを比較的低めに設定して、『普通』の物語を展開するぞ』というサインは第1話から的確に出されていたし、そういう線でしか描けない物語の強さも要所要所で発揮できていると思うので、いい加減前作の呪縛から解き放たれても良いんじゃないかなぁと、次回を込めつつ思ったりもします。

どこの組が勝つのかという勝負論的楽しみ自体は、3Dステージが持てるか持てないかという明確な区分が引かれてしまっているので、あまり機能はしていませんでした。
まぁそもそもにおいて、美組と歌組に重点的にドラマを割り振り、キャラクターを掘り下げていく場所としての側面が強いので、勝敗どうでもいいちゃどうでもいいんですが。
しかし人数の多さを捌ききれていない感じは相変わらずで、歌組と劇組の扱いの悪さには少し悲しくもなってくる……アコとゆずパイセンは、早いとこ仕上がりの良い個別エピソード渡してあげないと、存在意義が蒸発するぞ。
ここら辺は『アイドルの天井』の仕事をS4に分散した結果なので、一概に悪いとは言い切れないんだけどさ。

学園長が少年漫画ノリで同じ髪の色の少女に意味深なこと呟いて続いていましたが、『ピンチをチャンスに変える力』というまとめ方は、ちょっと首をひねりました。
ゆめのピンチをゆめ自身がチャンスに変えるなら違和感はないんですが、今回ピンチになったのはローラであり、いかにバトンタッチされたとはいえ、舞台に立てなかった無念も痛みもローラのものです。
『ピンチをチャンスに変える力』とまとめてしまうと、ゆめが悪運を引き寄せて自分の引き立て役に使ったような誤った印象を強めてしまうようで、個人的にはあんま頷ける表現ではないなぁと感じました。
アイドルに必要な巡り合わせを、今回ゆめが『持って』てローラが『持ってない』のは、確かにその通りなんですけどね。
意志の力や仲間との連帯と同じくらい、運や流れを『アイドルの天井』に近づくための重要要素として見てるのは、スターズらしい面白さだと思いますね。


というわけで、本気だからこそ諦めるのではなく託し、受け取るのではなく背負う、ガールパワーに満ちた信頼のお話でした。
親友でありライバルでもあり、支え合う仲間でもある二人の関係、そしてそれを高い所から見守り引っ張り上げるひめの凄みがしっかり描写された、良いエピソードだったと思います。
第10話でスタートラインに立ったゆめがどこまで進んだかも的確に描かれていて、スターズらしい『普通』が積み重なることでどういう手触りの物語が生まれるか、確認できるお話だったな。

香澄姉妹にゆめロラひめと、色んな人の熱いエモーションを掘り下げた夏フェスも一段落。
来週はビストロM4に一年生チームが挑むっぽい話ですが、ようやくアコちゃんにスポット当たるのかねぇ。
どうにもエピソードに恵まれないというか、感情の勢いで一点突破できる掘り下げがまだ来ていない印象のアコが、果たしてどんな物語を背負うのか。
来週が楽しみです。