イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない:第34話『7月15日(木) その4』感想

折り重なった運命のドミノもついにフィナーレ、ザッピングエピソードの最後を飾る四部アニメ第34話です。
背中で囁く"チープ・トリック"を珍道中の果て、まさかの伏線で綺麗に撃退し、ついに本性を抑えられなくなった吉良に、最強の一般人・早人が食らいつくエピソードでした。
目的地まで必死こいてたどり着こうと頑張る露伴ちゃんの笑い、ちょっと人間味を出してきた"チープ・トリック"との頭脳戦、そして『日常』に侵入し証拠もなく殺す吉良の不気味さ。
様々な感情を含んだジョジョらしい楽しさと、全てが『吉良吉影』に収束していくクライマックス感が同時に来て、非常に面白かったです。

というわけで、様々なエピソードを切って張ってして進んできた『7月15日』も、ついに最終日。
ラストを飾る敵は『言葉』を操る"チープ・トリック"であり、知略に知略で切り返す決着の付け方はこれまでのお話と同じく、『敵の土俵で勝つ』という原則に則っていました。
かつて露伴ちゃんを追い詰めた『振り返ってはいけない小路』を、今度は勝利の鍵として利用する展開は意外性と納得が同時に来て、非常に好きな決着です。
力の抜けた作画も多かったけど、おぞましい"チープ・トリック"がよりおぞましい存在にむしり取られる勝負のシーンは迫力をしっかり込めてくれて、非常に良かったです。

アニメになってみると、背中を見られないために悪戦苦闘する露伴ちゃんの面白ダンスがとにかく面白くて、命がけの戦いだからこそ生まれる笑いが良いスパイスになっていました。
アバンのやり取りのテンポとかどう考えてもコントなんだけども、露伴ちゃん的には命がけだからな……。
独立型スタンドである"チープ・トリック"は外見も異形で、能力も圧迫感が強く、自然と話はサスペンスフルなものになりがちです。
しかし強く圧力をかけているだけではクライマックスは生まれてこないわけで、露伴ちゃんの『汚れてもあまり心が痛まない』キャラを活かし、とぼけたコメディを殺し合いに混ぜてリズムを作るのは、巧いし楽しいなと思った。

そんな露伴ちゃんの救いの天使になった康一くんですが、かつて玉美に『言葉』を弄ばれ追い込まれた彼が、露伴ちゃんを一旦見限り帰ってくる流れは、ちょっと運命的なものを感じて面白い。
露伴ちゃんも声にスタンド能力を乗せて『信じてッ!!』と叫べれば、康一くんに袖にされることもなかったろうに……普段の行いが悪すぎるな……。
そんな露伴ちゃんでも見捨てず帰ってきて、絶体絶命の窮地をすくい上げてくれる康一くんは、魂の在り方が根本的にヒーローだなぁ、やっぱ。
知恵比べで"チープ・トリック"を上回り、見事な逆転を決めた露伴ちゃんの性格の悪さも含めて、キャラクターの根っこの部分がブレないというのは、シリーズを支える大事な土台なんでしょうね。

"スーパーフライ"に勝って"エニグマ"の情報を手に入れ、"エニグマ"を倒して康一くんを開放し、その康一くんの助力で"チープ・トリック"を突破して、露伴ちゃんが集めた写真が鈴美に届く。
アニメでストーリーを再構築し、勝利がクライマックスにつながっていく流れを分かりやすくまとめたことで、『日常』に潜む露伴を追い詰めていく盛り上がりが強くなったと思います。
それは刺客たちが強力でずる賢く邪悪だからこそ生まれる盛り上がりで、強敵を乗り越えたからこそ、手に入れた情報も輝いて見える。
特殊な状況で全力を尽くしたバトルを趣向を凝らして魅せつつ、次回のバトルへの期待を盛り上げる演出を随所に織り込んで最後まで走ったこの四連続エピソード、非常に良い構成だったと思います。
サブタイトルにもなった『8月15日』がどれだけ忙しなく、運命的な日であるかも強く感じられ、アニメ四部の『語り直す面白さ』をパワフルに振り回せた印象ですね。


再構築された物語のドミノは、全てラスボスである吉良に届かせるための奮闘なわけで、そこが行き着く先がどうなってるかがBパートで示されています。
川尻浩作としての『日常』を打ち捨て、『殺し』という業に帰還してしまった吉良の姿は、『やっぱこうなるな』という納得と、『日常』を侵食するおぞましさと、不思議なカタルシスが同居する展開でした。
なんど見ても"キラー・クイーン"による殺しはおぞましいし、『殺し』に性的快楽を覚えている吉良の邪悪さはとんでもないんだが、同時にその邪悪さを楽しんでもいるんだよな……こういう矛盾した興奮に全力で取り組むのは、娯楽においてはとても大事だと思います。
ミリミリっと伸びる爪はどう見てもそそり立つペニスだし、跪いて爪切らせてるシーンは今見ると擬似的にしゃぶらせてるからなぁ……ジャンプに乗っかるギリギリのラインで、巧く快楽殺人を暗喩したと思います。

吉良が『日常』に背中を向けラスボスに帰還する今回は、『殺し』に至るまでの流れが非常に巧妙です。
公共の場でギャーギャー喚くバカ女は非常にありふれた光景で、視聴者も『あー、あるわー』と吉良のイライラに思わず共感してしまう。
視聴者の感情を背負った吉良はしかし、注意するとかキレるとか『日常的』反応を返すのではなく、迷いなく彼氏を爆殺し、女も弄んだ末に殺す。
視聴者の共感を完全に拒絶するのではなく、身近に納得できる要素をうまく使えばこそ、倒すべき『悪』の相容れなさが強調されるという、巧みな運び方ですね。

身近に想像できるからこそ、吉良の『殺し』への嫌悪感と恐怖が強くなるというのもあって、電車という公的空間から自宅という私的空間に移行する瞬間に、ズルリと滑り込んでくる吉良の姿は、なんとも言えない負の共感を生みます。
『あ、こういう風に自分の領域を侵されて、あっという間に殺されてしまうことも、もしかするとあるかもしれない』という自然さが、息をするように殺し苛む吉良にはあって、『街』を舞台にしたラスボスに相応しい邪悪さを再確認させられました。
吉良のおぞましさは『日常』に潜み、『日常』に滑り込む皮膚感覚的な部分にあるんだろうな、やっぱ。


家族という『日常』に滑り込まれ、父親と入れ替わられた早人の恐怖も、今回は強く伝わってきました。
本来なら心温まるはずの家族のお風呂シーンなんですが、早人はガタガタ震えているし、吉良は『普通のサラリーマン』ではありえない筋肉を披露してくるしで、一切油断できない。
扉を跨いで異物が侵入してくる恐怖は、その前に起こった殺人と全く同じであり、凶器でもある"キラー・クイーン"の影が一瞬映るのも、異常さを強調する良い演出です。

そういう恐怖と並列して、思わず笑ってしまうユーモアが配置されているのがずるいところで、ショタチン丸出しの状況はどうあがいても笑う。
笑うんだが状況は異常だし命がけだし、笑ってる場合ではないのに笑ってしまう不思議さが面白いというのは、露伴ちゃんの面白ダンスと同じですね。
素っ裸で守るものが何もない無防備さを笑っていたら、そこに逆転の決意を秘めていた早人のかっこよさが不意打ちで殴ってくる所含めて、緊張と弛緩が巧妙に配置されたいい造りだと思います。
『無様だからこそかっこいい』というのは、弱さを乗り越えて反撃を選んだ噴上裕也や、私欲に塗れつつ家族を守るために戦ったしげちーにも通じるところで、ジョジョの肝とも言える大事な描写ですね。
まァ、フルチンはフルチンなんだけどさ……露伴ちゃんの背中がバックリ行くのはNGで、ショタチンモロ出しはOKなんだな。

犠牲者の自宅、川尻家のバスルーム。
吉良によって行われた、二つの『日常への侵入』が連続して演出されることで、吉良のおぞましさだけではなく、それに反撃する『正義』の力強さも上手く強調されたと思います。
承太郎が確実に殺人の痕跡を捕らえ追い詰めている描写と合わせて、どれだけおぞましい殺人鬼だろうと屈することなく、闘うことの大切さが、早人の反撃にはあったと思います。
まぁこっから『悪』も一手二手と緩みのない一撃を加えてきて、一切油断できないのがジョジョではあるんだが。
『正義』の尊さ、『日常』を守る戦いの苛烈さを描くためには、『悪』のしぶとさ、『非日常』の凶悪さをしっかり描かなきゃいけないし、逆もまた真なりってことでしょうかね。

 

というわけで、長く続いたザッピングエピソードを締めくくり、それが行き着く吉良の凶行を印象的に描くエピソードでした。
お話が連続して繋がることで、繰り返し出てくる要素、ジョジョというシリーズが大切にしたい核を再確認することも出来て、非常に面白い見せ方だったと思います。
流石に3クールやっていると、順繰りにエピソードを消化していく安定した運び方にも飽きが出てくるわけで、明確な意図を込め要素を繋ぎながら、楽しく興味深く挑戦してくれたのは、凄く良かった。

刺客たちとの激闘の中で、そして鮮烈な復活を果たした吉良の『悪』を確認することで、物語は『ヤツ』にたどり着かなければ終わらないことが、強靭に伝わってきます。
最も近くにいればこそ、犠牲者にも抵抗者にもなれる早人には、スタンドという『非日常』の力がありません。
そんな彼が、何を武器に吉良に立ち向かうのか。
食い殺そうとした『日常』に手を噛まれた吉良が、いかなる反撃を見せるのか。
クライマックスの足音が近づくジョジョ四部アニメ、とんでもなくアツいですね。