イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

フリップフラッパーズ:第11話『ピュアストレージ』感想

おお、我が母なる暗黒よ! その暗き洞穴、その甘き死の褥よ!! 歯の生えた子宮、クベレーの百の乳房よ!!!
そんな感じの詠唱が似合うフリフラ終盤戦は、Storageのサブタイトルがよく似合う、過去と現在が激しく交錯するエピソードとなりました。
ソルトとミミ、パピカナとココナ、そしてアスクレピオス
ピュアイリュージョンの超常の力を巡って複雑に絡み合った因縁を紐解きつつ、母は娘を永遠のゆりかごに誘惑し、傷ついた少女たちは決意を込めて空に飛び上がる。
黒き母性の凶暴さにおののきつつも、己の心のなかの真実に向き合い続けたこのアニメを信じ直せるような、最後の希望(Elpis)が輝くお話でした。


これまでこのお話の対照軸は『幻想/現実』だったわけですが、今回はこれにくわえ『過去/現在』が追加され、『母』という圧倒的な個人史的アドバンテージを持つミミと、歴史に足場を置けない『ぽっと出のポッと野郎』であるヤヤカ、その中間点にいるパピカが、ココナを巡って綱引きするような構造になっています。
"ミミの欠片"を集めきった結果生成されたミミは、最後の欠片を宿したココナと一体化し、永遠にそばにあり続け、娘の成長をけして認めない『永遠の母』として、同化圧力と支配をココナに及ぼします。
それは自分で食事を取れない赤ん坊を養う、圧倒的な善行であると同時に、娘が『冒険』を通じて変化していくことを許さず、切れないへその緒を通じて永遠に支配下に置こうとする、凶悪な鎖でもある。

何しろココナがアモルファスに乗せた祈りは『家族に会いたい』だったわけで、彼女は母親との再開を喜び、されるがまま母の膝枕で眠り、母の用意してくれる世界の中でまどろみ続けます。
しかし、同じ青い髪をしながら瞳の色の違う親子の間には、同質化と同じくらいの差異が当然あって、ココナとミミの求めるものは大きく異る。
ココナが母親に聞いてほしかったのは、『ピュアな自分』を受け止めてくれる人の不在にどれだけ傷ついたかだけではなく、自分の足で歩いて友達になった人々とか、その先にある『進路』のことだとか、現在と未来も含んでいます。
彼女はもう子宮から出てしまって、良くも悪くも母親の庇護下から離れつつある思春期の少女なわけです。

それと同時に、(たとえ閉じて歪んでいるとはいえ)思い合う二人はとても良く似ていて、外見のみならず行動もまた、運命的に過去をリフレインしていきます。
前回『自宅』で理不尽な暴力に踏みにじられそうになった所で、"アモルファス"の力を引き出して壁を壊し、己の意思を貫いたココナと同じ行動を、今回ミミも行っています。
『壁』に包まれた部屋の中で生きていた少女たちが、実は自分は強力な力を持っていて、己の欲望を制限する『壁』を簡単に破壊できると気付く。
その発見は暴力の発露であると同時に、悪意を強要してくる世界への抵抗力でもあって、一概に否定できるものではないのでしょう。
運命的な繰り返しという意味では、ピュアイリュージョンの奥にある『扉』を開けて先輩の過去に介入し、『変質』をもたらして怯えるココナの姿と、ソルトの父を『変質』させ現在まで続く因縁の引き金を引いたミミは、近しいものがあります。
ミミの行動は『過去』のものであり、結果や価値が既に不変のものとして決定しているのに対し、ココナと『先輩』の関係は未だ定かならぬ未来に向けて、無限に開かれているという非常に大きな差異も、そこには存在していますが。


そんな彼女の身体を専有し、支配力を及ぼしているミミもまた、『ココナを産んだミミ』と『ココナを独占し、保護しようとするミミ』に分裂しています。
アスクレピオスの暴力によって己の命と自由、娘の運命が脅かされている極限状況において、ミミはピュアイリュージョンから生まれたもう一人の自分と取引をし、入れ替わり(FLIP-FLAP)ます。(第6話において幾度も入れ替わった『いろちゃん』の再演)
クローバーによる美しい殺戮を辞さず、ココナ以外の全てを切り捨てられる凶暴さを愛情と両立させる、猛る母としてのミミ。
最後の涙を夫に託し、娘の成長を穏やかに見守りたいと願った、健全な母としてのミミ。
二人は窮地を脱するために契約を果たした共犯者であり、相容れない願いを抱えた対立者であり、『ココナへの愛』という真実を共有した自分自身でもある、かなり複雑な関係です。

様々な矛盾や対立を大切に描いてきたこのアニメにとって、分裂した二人のミミ(もしくは『扉』を開いたことで『変質』してしまったソルトの父)、どちらかが本物でどちらかが偽物、というものではありません。
やがて巣立っていく娘を穏やかに見守る慈母も、己の子宮の中に永遠に閉じ込めて守ろうとする地母神も、成長し母となったミミの、相貌の真実なわけです。
しかし抑圧され暴走した願いは周囲を巻き込んで暴れまわり、本当は大切だったはずの人たちも、愛するべきものだったはずの世界も凶暴に書き換え、塗りつぶしていってしまう。
関係のない他者も、愛していた娘も、己自身をも捻じ曲げてしまう母性愛の暴走は、誰も幸せにしないが故に、正さねばいけないのでしょう。

ミミがピュアイリュージョンを暴力/抵抗力として獲得していく過程は、様々な示唆に満ちています。
閉ざされた部屋をぶち壊す鍵が『知恵の木の実』たるリンゴだったり、パンドラの箱に唯一残った『希望』を実験装置に名付けていたり、フリフラの衒学趣味も絶好調という感じですが、彼女の行使する暴力が、パピカナとソルトが教えてくれた『美しいもの』なのが、どうにも哀しい。
ピュアイリュージョン研究のための実験動物として、湖もクローバーも知らず、人間の名前で呼ばれることもなかったミミにとって、パピカナが見せてくれた新しい世界、ソルトが見せてくれた優しさはとても大切で、美しいものだったのでしょう。
それ故彼女のピュアイリュージョンは白詰草と湖で構成されているのですが、それはただ美しいだけで終わらず、人の命を奪い他人の意思を蹂躙する、凶悪な暴力になっている。

『私のものになって』
『私を思って』
『幸運』
『約束』
『復讐』
様々な意味を持つ白詰草花言葉そのままに、ミミは己を支えてくれた友や伴侶の思い出を使って、パピカやソルト本人を踏みつけにするわけです。
同時に、己の尊厳を踏みにじり続けたアスクレピオスに『復讐』する時ですら、ミミは『美しいもの』で世界を覆い尽くそうとする。
その延長線上に、『幻想』と『現実』の境界線を書き換え、娘の望む最初のピュアイリュージョンで世界を埋め尽くそうとする、悲しき母性があるのでしょう。
ここら辺の表現力は、どっしりと腰を落として『幻想』と向かい合い、その危険性も余さず描ききった前半の語り口そのままであり、話の潮目が変わったとしても、作品の根底に流れるものは同じだと教えてくれます。


ミミは己の欲望を一切偽らず、迷わないが故に、様々な真実を鋭く、シンプルに指摘していきます。
『幻想』の毒を最悪の形で浴びて、もはや狂信となってしまったアスクレピオスの祈りを一切無視し、白詰草の暴力で全てを壊滅させる。
ピュアイリュージョンの超常の力に取り憑かれた結果、人間の幸せや夢を無視し、暴力で色んな子供を捻じ曲げてきた連中に、ミミが与える容赦のない死は、乱暴ながら一分の理を宿しています。

ココナが一番引っかかり、視聴者もまた強く気にしている『パピカはミミの残り香を求めているのか、ココナ自身を求めているのか』という問いも、あまりに強く正しいミミ以外には発せられない、真実への道だと思います。
これを聞いておかないと、ココナが物語に立ち向かうモチベーションも確認できないし、このお話において何が真実なのかが大きくブレるわけで、作中最大の疑問を形にして叩きつけるミミの仕事は、非常に大事。
ミミとココナが身体的に重なり合っており、『慈母のミミ』と『地母神のミミ』が分裂しつつ共存している複雑な状況において、パピカが誰を求めるのかは非常に複雑で、答えは簡単に出ません。
これまであとさき考えない直感で常に正解を掴んできたパピカが、クライマックス直前のこのタイミングで思い淀むのは、なかなか面白い対比だといえます。

このジレンマを打ち破るのは、既に己の選択に勝利し、何を守るべきかを真っ先に見据えた勝利者・ヤヤカ以外にはありえません。
ココナを守り、双子とニュニュの前に立ちふさがり、ソルトの願いをしっかり受け止めたヤヤカは、迷えるココナに真っ直ぐな言葉を叩きつける。
親の事情は関係ない、自分が何をしたいかという真実の願いに正直になることが、突破への道だと。
胸を張ってパピカに問いかけるヤヤカが、『ボロボロの状態からマント追加、おでこ半だしにバージョンアップ』というロボアニメ文法背負っている所、ケレン味あって好き。

ヤヤカ自身、アスクレピオスとココナの板挟みで命をかけ、悩みに悩んで真実を選び取ったヤヤカの気持ちは、実は『ココナが大大大好き!』というパピカの真実と同じであり、それはこれまで積み上げられてきた『冒険』、僕らが見守ってきた物語の中で幾度も確認され、生み出されてきた気持ちなわけです。
このように丁寧に手順を踏み、必要な逡巡を体験させた上で、物語が求めるたった一つの答えにしっかりたどり着いてくれることは、僕ら視聴者が見たいと願っているもの、見るべきだと感じているものをそのまま提出してくれた喜びに満ちていて、強いカタルシスがあります。
『あまりにも近すぎるがゆえに、危うい闇に落ちかけている二人を、関係の薄い他人だからこそ殴りつけ、引き上げることが出来る』という構図は、第5話で闇の百合に引きずり込まれかけたパピココをヤヤカが押しとどめたのと、ほぼ同じ構図ですね。
そして、『ココナが好き』という気持ちでパピカとヤヤカ、いがみ合ってばかりいた二人の気持ちが一つになったからこそ、ピュアイリュージョンへの扉が開いていくというのも、幾度も語られてきたこの作品世界のルールです。

パピカもまた、未だ明らかにされていない理由により『既に大人になったパピカナ』と、『ココナと同じ年頃のパピカ』に分裂しています。
二人のパピカが生まれた背景が、残りの話数で明かされるべき最後の謎なのかなとも思いますが、パピカナはミミの出産におそらく立ち会った二人目の母でもあり、ミミが力と引き換えに置いてきてしまった、娘の巣立ちを祝福できる『慈母』としての側面を担当しているように思います。
『あなたが必要としているのは、ミミなのかココナなのか。どちらのミミなのか』という問いかけには、凶暴な母性を振り回して立ちふさがる『地母神のミミ』引っくるめて、『全員』と応えるべきなのかもしれません。
人間が様々な顔を持っているということは、ミミやソルトの父のように凶猛な結果に繋がることもあれば、他人を拒絶する身勝手さも含めて、他者を許容出来る強さに繋がっているのでしょう。


無数に分裂する女たちに比べ、男たちはこれと思い込んだあり方に、ガッシリしがみついています。
『扉』を開けて真実に出会い、子供たちや女や世界を踏みにじって顧みなくなってしまったソルトの父は、白詰草を生やされ、長年願っていたピュアイリュージョンに拒絶される形で死を迎えます。
そんな父に憧れ、白衣が似合う大人に成長したはずのソルトは、父に執着するあまりミミへの優しさを欠いて、後悔の残る行動を取ってしまいました。

クソ親父はぶっ壊れたまま帰ってこなかったからまぁ良いとして(良くねぇけど。ココナは孫やで、オイ)、ソルトは土壇場で過去と現在の間に裂け目を作り、正しい行動に向き直る可塑性を持っています。
とんでもない惨劇に終わったとは言え、『四人』で手に手を繋いで広い世界に向かって『冒険』しようとした過去。
暴走する母性に決着を着けるべく抜いた銃を、妻にはどうしても撃てなかった現在。
それは迷いに満ちて情けない行動かもしれないけれども、同時に自分の中の真実に背かず、守るべき愛をちゃんと見据えた、勇気のある行動です。

そんなソルトが、これまでのふんぞり返った態度をすべて捨てて、ヤヤカに土下座してパピカの守護を乞い願う場面は、負けていると同時に勝っている、圧倒的にフリフラらしいシーンでした。
上司として優位に立っていたヒダカやサユリの前で、全てを放り捨てていちばん大事なものを掴みに行くのは、ヤヤカが第9話で果たした決断にも似た強さを感じました。
あの時は"アモルファス"を捨ててココナの手を掴んだのですが、今回は存在するはずのない最後の"ミミの欠片"を託されたからこそ、その願いをヤヤカに託す選択が出来るという対比が、鋭くて好きです。
過去シーン見てると、ソルトにとってもパピカ=パピカナは大切な存在で、悪しき父の呪縛を乗り越えて広い世界に巣立とうと決心する時、大きな理由になった人だと思うんだよね。
だから『パピカを助けてやってくれ』なんじゃないかな、と。

アモルファスが壊滅し、三人の子供たちもまた『居場所』を失いました。
終盤に入ってから、子供たちへのケアの仕方で、一気にヒダカが株を上げてる感じしますね。
ニュニュはあっという間にヒダカと打ち解けたんであんま心配ないのですが、双子がどういう決断をして、ココナを廻る綱引きに絡んでくるかが気になる。
あの子らもまた『家族以外は必要ない』という血の檻にとらわれていて、それは同時に愛情であり救いでもあるのだけども、最終決戦にどう関わってくるのかなぁ……。

第9話でココナと防衛トラップに閉じ込められた時、ココナが二人の名前を聞いて、実験体ではなく人間として接しようとしている優しさが、突破口になってくれると良いなぁと思っています。
尊厳無きモノとして扱われている存在が『名前』を呼ばれ、優しさに包まれて人間性を取り戻していく描写は過去と現在で幾度も繰り返されているんだけど、今のところ双子はココナの優しさに、悪意を反響させている段階だからなぁ。
そこを乗り越えても世界は残酷に暴力を押し付けてきて、人間の様々な顔が浮かび上がってくるってのもミミの過去で描いているわけだけども、双子は差し出された優しさを暴力には変換せず、より善いものに繋がる変化にたどり着いてほしいと、彼らが好きな視聴者として願うところです。
それが多分、双子が踏み込むべき『冒険』だから。


というわけで、様々な記憶が復活し、響き合い、支配と変化を生み出していく回でした。
過去に込められた願い、歪んでしまった現在、未来に続く希望。
キャラクターだけではなく、彼らが生きる世界、そこで展開される物語もまた様々な表情を見せる、非常にタフなエピソードだったと思います。

母なる暗黒の堅牢な支配、絡みに絡んだ因縁の重さを描いた回ではあったんですが、それを断ち切る少女の決意もまた、しっかり挟み込まれています。
決戦の場所は、少女と少女が初めて飛び込んだ、雪色の『幻想』となりそうです。
全てを覆い尽くす白い闇の果てに、どんな光が待っているのか。
本当に楽しみです。