Free!-Dive to the Future-を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月11日
さらば、幼き日々よ。
心地よい羊水を飛び出し、見たことのない風景を掴みに行った少年たち。彼らの新たなる春は、様々な場所で積み重なる。
新風に震え、出会いに惑い、思い出に揺らぐ。出立の季節の静かな波を、丁寧に編み上げていく第一話。
というわけでFree!三期である。内海監督から河浪監督へスタッフが変更され、ストーリー的にも作品全体の雰囲気としても、映画”ハイ☆スピード!”の影が色濃く伸びる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月11日
暖かな羊水の中で、男だけで微睡んでいた時代は終わり、胎児たちは公平な世界へと出産されていく。
ハルのモノローグと『オルぁ! ワシらは”水”が描けるアニメーションスタジオなんじゃ!!』と言わんばかりの水作画で、いきなり殴りかかってくる冒頭。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月11日
そこでは自分を甘いまどろみに包んでくれた”生きてる水”を、疑問視するハルが見れる。そういう生暖かいものに守られていた時代は、終わったのだ。
あのアバンから内海体制のFree!への決別宣言を見るのは、もちろん過剰な読みというやつだが、しかしTV一期・二期を支配していた過剰なクローズアップ、それを許す特別感(あるいは窒息性)は、意識して遠ざけられている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月11日
世界は当たり前に、主人公のためだけに作られているわけではなく、他者がいる。
映画でもそうだったが、この世界には女性がいる。名前のあるキレイな男たちを甘やかすだけではなく、あまり彼らに関わらない、ごくごく普通の女たち。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月11日
男だけの閉じた関係を見つめるなら、ノイズともなる女性モブを、三期は積極的に取り込む。
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流石にメインとなる(だろう)大学組は、男男の男力で徹底して煮込んでいるが、高校組には新しい女子マネジが名前アリで入る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月11日
不誠実や冒涜すら許容できてしまう、閉じたサークル。そこに溢れていた”生きた水”から、三期は距離を取るのだろう…か?
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とにもかくにも、ハルは色んな人がいる広い世界に漕ぎ出した。一見ん的確な社会性を獲得したように見えるが、生来の不器用さ、新しい景色に飛び出したゆえの不安が混在し、彼の足場は安定しない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月11日
泳ぐべきなのは個人の内面に溜まった水であり、その外側に広がる社会と他人の波だ。
冒頭、これまでの物語に別れを告げるように”生きた水”への思索を止めたハルは、己の天才性と成長を思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月11日
『20超えたらただの人』
しかしハルは、早く”ただの人”になりたかった、という。早く大きくなりたかったのか、はたまた孤独な才覚が重荷だったのか。
わざわざアタマにあの自問自答を持ってくるということは、三期は”成長と才能”が大きなテーマになる、ということだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月11日
競技の一線を退き、もう観客席でみまもるしかない真琴。肩を並べる才覚はあっても、遠く豪州に離れた凛。
色んな人の重さを背負って、それでもハルは最前線で泳ぎ続ける。
そこで泳ぎ続ける意味と価値、才能の不遜と孤独。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月11日
明るいムードで『こういうお話ですよ~』と語りかける第一話だが、ひっそりと将来の薄暗さを暗示するカットが、怜悧に光る。
赤信号、踏切、閉じる扉。
真琴との歩みは、離別と遮断に満ちている。
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ハルは真琴という親友であり母親でも存在、擬人化された”生きた水”との共犯から、離れて物語を泳ぐ必要がある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月11日
沢山の人の中で、ハルは所在投げに世界を見つめ、居場所を見つけられない自分に戸惑う。(この描写は喫茶店や会場でもリフレインする)
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旧友・旭に声をかけられ、ハルは”ただの人”の波から離れる。20を超えても、彼はどうやったって”神童”のままだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月11日
自分の背中をあんまり真っ直ぐにできない頼りなさも含めて、中学でリレーしてた時代からそこまで変わってはいない。高校時代のネトネトでしっかり鍛えられた部分もあるし、そこが好きだが
最初は明瞭な切断面で隔てられた二人は、共有する思い出を取り出して接近する。ハルが引いた線を、旭が歩み寄り乗り越える形でだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月11日
相変わらずコミュニケーション下手だな、ハル…。
それでも接近しよう、交流しようと思わせる魔力が天才にはある
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今回はあくまで、各キャラの初期立ち位置説明という趣だ。実際の物語が動き出すのは、郁弥と再開してくるだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月11日
感情ブラックホールの”圧”を、短い出番で出してきた黒髪の重力源。内向きに入った視線と関節が、超めんどくさい人格を予感させる。
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ハルの近くにいるものは、郁也のフリーが『ハルに魅せられたものだ』という。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月11日
郁弥を信奉するクソメガネは、遥の泳ぎを『郁也の劣化コピー』と罵る。
二人の天才が、お互い発する泳ぎの重力。未だ接触しないそれが、奇妙なレゾナンスを生み出している。
はたして、フリーの起源はどこにあるのか。
露骨に歪んでしまった感情が、一体どう衝突し、道を切り開くか。青春の産道を抜ける時の痛みは、いかほどか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月11日
競技会場へと向かう、長くて深い道。真琴はそこに立ち入る資格を、もう持っていない。それを問えるのは才覚ある競技者…郁弥であり、旭だ
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高校時代のネトネトを切り抜けたハルは、結構いいバランスで世界に立っている。隣りにいる競技者のことも、挑むべき競技のことも、しっかり見えている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月11日
その上で、存在しない第4レーンを幻視し、海を超えて凛と泳いだりもする。水泳やり込むと、エスパー能力目覚めるらしいな…こええな…。
しかし公明正大な競技を泳ぎ切るパワーは、薄暗く狭い場所からしか生まれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月11日
暗い内面を反映したロッカー、産道のような通路、あるいは思い出の中の向日葵迷宮。そこで圧力高く煮込まれた闇が、遥たちの動力となる。
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広く、明るく、正しく。そういう姿勢を大事にし、徹底的に配慮した絵を作りつつ、それを裏切る薄暗さ、特別さが顔を出す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月11日
人の波の中泳ぎ方を忘れていた遥は、郁弥を見つけた瞬間顔を上げる。真琴が去っていった今、物語のエンジンはそこにある。
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ハイスピであんだけ良い感じの友情を作っておいて、一期でそれを踏みつけることになる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月11日
作品内の時系列と、現実世界の制作順がズレた結果の歪みだが、三期は岩鳶中水泳部にねじ込まれた軋みと後悔を、回収していく物語になりそうだ。
激重男の巨大感情を吸い尽くすことでしか、生きていけない遥の性。オム・ファタル的な無垢なる危うさこそが、彼を魅力的にしている部分もある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月11日
なので新しいメンドクサ男とキャッキャする予感で引いたのは、むっちゃワクワクする。また地獄が見れるぞ~!!
とはいうものの、それが顔を出すまで大量に積み上げられた光の描写は、アリバイ工作ではない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月11日
広いこと。光っていること。清潔であること。
そういうものに満ちた世界と、薄暗く狭い内面をどう融和させ、対比させ、疑問と答えを導いていくか。物語とキャラの、内外バランスをどうとるか。
そこが三期の眼目であり、結構成長したとは言えやっぱフラフラ頼りないハルちゃんのドラマになるのだと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月11日
ここまでの蓄積を無駄にせず、しかし積み上げたゆえの新たな問題、成長しても変化しない人格の根本も大事にする。結構いい感じのスタンスだと思います。
二期までの物語は、キャラクターが身をおいていた狭い街から飛び出すことを求めた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月11日
なので、舞台は東京・岩鳶・オーストラリアと分割して進む。かなり忙しい展開なのだが、カットの選択と繋ぎがリッチなので、スムーズに食えた。
岩鳶高校はメンバーを入れ替え、可愛い新マネジも混ぜ込み、明るく楽しい部活絵巻に。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月11日
まぁ昔の思い出引きずって、新入りの顔面に砂ブッかけるようなクソ部活にはナラナサそうで良かったよ…(唐突に怜推し特有の薄暗い顔になるマン)
宗介は傷の痛みと向き合いつつ、いまだ岩鳶という子宮、実家という産道から出れないままだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月11日
そんな彼にも隣り合ってくれる人がいて、私室に閉じこもったままを許さない。光に歩く途中でも、道は開けている。
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この第1話、誰かが孤立している描写が極端に少なくて、揺らいでいるキャラでもなんらか他者への接点がある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月11日
そういう公平性の渦の中で、一人闇の中体育座りする特権を許されてる郁弥は、やっぱお話のエンジン、めんどくさい重力源なんだろうな。
まぁいつものよーに、遥がわりーよ多分。
というわけで、爽やかな春の光の中変化した部分、いまだ引きずってる部分を丁寧に見せていく、良いプロローグでした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月11日
やや引いたカメラで風景と人間を共存させるレイアウトが悪魔的に良くて、『京都アニメーションッ!』って感じだった。最高
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画面の中の直線で何を仕切り、何を配置するか。その絵画的な美しさにどんな意味をもたせ、表現した内面をどうドラマに組み込んでいくか。”動く絵”であるアニメーションの演出を、どうクオリティで支えるか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月11日
静かながらも確かな鼓動のあるプロローグを見ていると、そういう制作姿勢も感じられ良かった
分割された舞台の多彩さをどう活かし、離れている難しさをどう制御するのか、とか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月11日
広さと狭さの中間地点に立ち、まだ迷い続けている遥にどういう道を歩ませるのか、とか。
くっそ面倒くさそうな郁弥とクソメガネを、どう活かすか、とか。
旭がチラチラ魅せてる爆弾、どう炸裂させるか、とか。
色んな所に、今後物語が伸びていく予感がたっぷりとあり、それを育む土壌もしっかり耕してあると見せてくれる第一話でした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月11日
舞台が分割されたことで、より群像劇的な味わいが強くなった気もします。誰か一人のための特別な世界ではなく、みんなそれぞれが主役な物語。
三期がそういう物語になるなら、そら一期・二期とは全く別のお話になります。僕はそれで良いし、それが良いと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月11日
人が変われば、時間が流れれば、当然全ては変わっていく。時間の流れを泳ぎつつも、それでも変わらない輝きがどこにあるのか。作品内部とメタ領域が、不思議なシンクロを見せ始めた。
幼年期の思い出と傷を抱え、選ばれた才覚として泳ぐ遥。彼の物語を追う中で、ライバルや仲間、後輩たちの物語も個別に掘り下げられていくでしょう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月11日
そのうねりが集まり、競い、隣り合い、手を繋ぐことの意味もまた、新しい輝きを放つでしょう。
Free!三期、非常に力強い立ち上がりです。次回も楽しみ
追記 さらば、内海監督謹製ゲイポルノ……。(ゲイ・セクシュアリティを保持する方々を揶揄する発言ではありません)
Free追記
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月11日
EDが男男の男祭りではなく、各キャラクターをバランス良く配置し、色んな奴らがいる楽しさ、踊る側だけでなく見る側にも気を配った作りになったのが、三期の変化を一番象徴しているかな、と思った。
男の肉だけじゃなく、子持ちの女も写すんだぞっつー、ある種の宣戦布告よな。