イマワノキワ

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ツインエンジェルBREAK:第3話『月夜とハリネズミ』感想ツイートまとめ

デッドラインヒーローズRPG レビュー

デッドラインヒーローズRPGは長田崇とロンメルゲームズによる、ヒロイックRPGだ。
プレイヤーは様々なバックボーンを持つ超人を作成し、世界に蔓延る悪-ヴィラン-と戦うことになる。
取り回しが良く奥深い世界観、シンプルな判定システム、機能的なロールプレイ支援システムやシナリオ展開支援など、独特で優れた魅力が沢山有る、『遊べる』システムだ。

・リプレイパート
デッドラインヒーローズRPGは最近の富士見ドラゴンブック制ルールブックの例に漏れず、リプレイが付属している。
稲葉義明によるリプレイは読み物としても面白いが、TRPGをプレイする上での教本、ガイドとしても優れた部分が多い。
キャラメイクや判定方法、シナリオの進め方といったルール部分をテンポよく解説しているのもそうだし、実際にプレイした時気になるポイントを、実例を通して示唆しているのも見逃せない。

例えば、デッドラインヒーローズRPGの特徴として『リマーク』のルールがある。
これは自分のキャラクターを良く表現するロールプレイを申請し、PL共有のヒーローポイントを獲得するルールであり、円滑で面白いロールを通じてゲームを面白く、スムーズに進行させるルールだ。
ロールプレイ自体がそうであるように、PLのプレイスタイルと意欲にあわせ、様々な使い方がされるルールだといえる。

このリプレイでは
1 PLからGMに『リマークを獲得するため、演出を入れさせてほしい』と申請し、そのためのロールを準備する
2 流れの中でロールプレイを行い、後から『これは私のリマークだ』と宣言する
という二つの方法が提示されており、自由度が高い分運用に迷うこともある『リマーク』ルールの実用例として、優秀な示唆を与えている。
他にも世界観の中での代表的な立ち回り、敵・味方組織のポジション、世界設定とヒーロー・ヴィランのポジションなど、実際にTRPGをプレイする中で気になる要素が過不足なく説明されている。
ルールを読むだけでは頭に入ってこない部分も、実際のプレイ感に近いリプレイの流れの中で説明されることで、咀嚼しやすくなっていると思う。


GM/PLのプレイングに関しても示唆的で、様々な局面で自分が持っているイメージを分かりやすく外部化し、共有してもらうコール&レスポンスが見られる。
プレイ開始前に各キャラクターの初期立ち位置を説明する『エントリー』というルール自体が、GMが抱く『今回はこういう雰囲気のシナリオを、こういう役割分担で遊びたい』というイメージを共有するための、TRPG的な装置だといえる。
『エントリー』を選択することから始まったゲームの中で、PLもGMも自分の意志をロールプレイとメタ発言を組み合わせながら投げかけ、受け取り、応答する。
他者と卓という場所、遊ぶ時間を共有し、それぞれの楽しみと意図を相互理解しながら進んでいくTRPGという遊びにおいて、的確にさり気なく意図を投げかけ、また受け取るテクニックは様々な形をとる。

このリプレイには三人のキャラクターが参加しており、二人は様々な悩みに揺れ、一人はベテランヒーローとして揺るがないスタンスを取っている。
そういう住み分けを意識しながらキャラを作る時点で、既に意図の投げかけと受け取りは始まっているわけだが、『揺るがないベテランヒーロー』はモノローグを多用し、キャラクターの内面を他のPLには伝えている。
モノローグという方法を選んでいる意図も、PLの口からさらりと説明され共有されているわけだが、言葉と態度に出して悩む(ことが、キャラクターらしさのロールプレイになる)他キャラクターと住み分けつつ、『あのキャラクターが何を考えているのか分からない。レスポンスしづらい』という事態を避けるために、いわばメタ的にキャラクター性を伝達しているわけだ。

このような細かいテクニックはそこかしこにあって、P60でペインのPLが「すまないが突っ込んでくれるか?」という依頼を他PLに出していたり(そしてジンのPLがそれに即応してロールを返していたり)、スノウの設定を汲んでGMがシナリオ進行を変化させたりしている。
参加者が個人で抱え込んでいる願いや思い、楽しさをいかにして表現し、共有し、受け止めるかという、TRPGの根幹に位置するコミュニケーション・テクニックが、様々なやり取りの中に息づいているのだ。
これは脚注で『何を狙っての行動で、どこがテクニカルなのか』が時折解説され、リプレイ卓内だけではなく、リプレイを今楽しんでいる、そして読んだ後に別の誰かと卓を囲むであろう読者に対しても、テクニックの共有がなされている。
P42の脚注は、ヒロイックな世界観とキャラクターのスタンスを積極的に飲み込み、前向きにシナリオに参加しようというジンのプレイスタイルを切り取っているし、P32・P55の脚注は『問いかける』という方法がロールプレイを引き出す優秀な導線たり得ることを強調している。
ルールの運用手順だけではなく、『TRPGでは、こういうことが楽しい』『デッドラインヒーローズRPGは、こういう面白さがある』と実例で見せる意味で、非常に教本的だといえる。
そういう教本的なスタンスを特にひけらかさず、とにかくお話としてまずべらぼうに面白い腕力があることが、一番パワフルなのだが。

プレイングに関しても、ジンの物語が『ヒーローネームの発見』というテーマを芯に展開するのは、デッドラインヒーローズRPGの醍醐味を感じさせる。
『問いかけ(クエリー)』がルールの中に組み込まれているシステムの中で、『自分は何者であるか』という問いに答えを持っていない少年が、事件を通じてそれを見つける。
オーソドックスで力強い成長物語を、『ヒーローネーム』をコアにして展開させているのは、ヒーローとヴィランのゲームである今作に相応しい展開だろう。
ジンだけではなく、破滅の未来を改変するべく立ち回るスノウの、落ち着いた信念(と少しの狂気)で若きヒーローを導くペインの物語も、『ヒーローとはいかなる存在か』というシステムの根本的問いにしっかり食い込み、答えを返している。
熱のあるストーリーだというだけではなく、『このゲームでは、こういうお話が楽しめるんだ』という示唆として、それぞれ別角度から陰影のあるアンサーが帰っていることが、ルールブック付属リプレイとしてとても良い部分だと思う。

人と人とが顔を合わせ、卓を同じくして楽しむTRPGというゲーム。
そこには意思を伝達し、意図を把握し、それに応答する楽しさと難しさが存在する。
それを助けるためのツールとして、ルールがあり、世界設定があり、データがあるわけなのだが、このリプレイもまた、ゲームの楽しみをより強く、より分かりやすく共有するための、強力なツールとして機能するはずだ。
ゲームを遊ぶ前に、そして遊んだ後にも、幾度も読みたくなるような、良いリプレイだと思った。


・ルールパート
リプレイの後には、具体的にゲームを遊ぶためのルールが記載されている。

01 このゲームは何か
前書きであり、所信表明でもあるパート。
書いてあること全てがパワフルで的確なのだが、このゲームがどういうもので、何が楽しくて、どういう意図を持って設計されているかが、2ページの中にみっしりと詰まっている。
ここに書いてあるマインドを念頭に置いてプレイすることで、確実にゲームが面白くなるという意味で、これはただの端書ではなく、実戦的な指南でもある。

リプレイでもそうであるが、デッドラインヒーローズRPGでは『今、ここでシナリオに参加している君たちだけが、世界の危機を救うことが出来る』というセッティングを大事にしている。
その卓に集ったキャラクターの唯一性を高めることは、PLとPCの当事者性を高め、『この話は俺の話なんだ』という実感と喜びを強くしてくれる。
セカンドカラミティによってヒーローの数が激減した世界観も、NPC組織が頼りないのも、オンリーワンの物語を作り上げ、共有するTRPGの醍醐味を加速させるための、一つの仕掛けだといえる。

また、キャラクターの内面をロールプレイを通じて表現し、共有することでゲームが完成するというスタンスも、重ねて強調される。
それは『ロールプレイをしなければゲームじゃない!』という強制的なものではなく、様々なシステムとルールを通じて、自然と製作者の考えるゲームの醍醐味がにじみ出てくるように、気を使い工夫されたものだ。
後に見る記述の中にも、『TRPGは自発性のゲームであり、強制はゲームの面白さを損なう。仕掛けは用意したけれども、自分たちが望むように使ってほしい』というスタンスが滲んでいる。
そういう意図を汲み上げて、システムが最大限のポテンシャルを発揮できるように遊んだ時、デッドラインヒーローズRPGにしか達成できない楽しさが、卓の中で共有されると思う。


02 ヒーローの想像
いわゆるキャラメイクルール。
このゲームのキャラメイクはシンプルかつ軽量で、6つある『オリジン』を選ぶと能力値決定テーブルが確定し、割り振れる技能レベルが決まり、選べるパワーも決まってしまう。
能力値には肉体・精神・環境の3つがあり、それぞれに対応した3つのHP(ライフ・サニティ・クレジット)と、15の技能がある。
能力値+技能値で判定パーセンテージが決まり、D100を振って成否を判定することになる。
4つのパワーを選択してデータはほぼ完成であり、初期作成で迷わないよう、オススメの特技も設定されている。

オリジンを選んだ時点で、キャラメイクの方向性はだいたい決まる。
ので、各オリジンの説明をしていく。

・サイオン
生まれついての超人、新たなる人類種。
既存のヒーローでいうと、(地球人としての)スーパーマンヘルボーイなどが近いだろうか。
能力値的には肉体が伸びやすく、精神と環境はそれなり。

パワーはシンプルに殴り、耐える能力が多め。
ターン消費が少なめ、かつ火力が伸びるパワーが多くあるため、メインアタッカーとしての仕事を十分果たせるだろう。
《ボーンエッジ》+《突撃》で殴り掛かるのが基本になるが、射程が優秀な《ライトニングラッシュ》でも良いだろう。
《サイコソード》《サイコウェブ》などで、念動力型のサイオンをやることも可能だ。
各種判定を強化する《ミリオンパワー》、何かと減少しがちなサニティを手番消費なしで回復できる《隠れ家》と、案外細かい動きもできる。


・エンハンス
何らかの理由で超人力に目覚め、旧人類ではなくなった存在。
既存のヒーローでいうと、スパイダーマン、ハルク、ウルヴァリンなどが近いか。
能力的には肉体と精神が高めで、環境はそれなり。

パワーはダメージコントロール可能な《ガード》と、耐久性をあげる《憤怒の巨人》《再生能力》《死ねない苦しみ》など、ディフェンダー向きのものが多い。
単純な殴り性能も優秀で、回避不能な《パンチ》でボコにしてもよし、細かく取り回せる《マーシャルアーツ》で立ち回ってもよし、《ガンクレイジー》で遠距離射撃してもよしだ。
クロックアップ》で先手を取って、《ハンドクラップ》《誤射》+《識別コード》で雑魚を薙ぎ払うのも強い動きだろう。
このゲームの攻撃パワーは回避判定が発生する(代わりに火力や消費が優秀)ものと、発生しない(かわりに火力はそこまで出ない)もの、二つがある。
相手の回避能力を下げる[束縛]は火力と安定性を両立させるナイス支援なので、《エラスティックバインド》は非常に優秀だといえる。


・ミスティック
世界を支配する超常の理に触れ、それを操ることが可能になったもの。
既存のヒーローでいうと、ドクター・ストレンジやシャザム、ゴーストライダーなどが近いか。
能力的には精神のエキスパートで、肉体と環境はそれなり。

霊能軸でバンバン魔法を使うのが強く、《ビーム》から《インフェルノ》《アースクエイク》《サイクロン》まで、破壊魔術のエキスパートになれる。
面制圧能力が高いため、雑魚狩りに最適のオリジンといえるだろう。
支援役としても非常に優秀で、火力を伸ばす《スパイクドウェポン》、防御の《バリアー》、判定支援の《幸運のお守り》《ポルターガイスト》と、過不足なく揃っている。
ライフだけでなくサニティを攻める《マインドファイア》《断罪の瞳》などもあるが、敵のどこを削って勝ちに行くかは統一したほうが良いため、他PLと相談の上使ったほうが良いだろう。
《チェーンウィップ》《鬼の腕》で白兵殴りもやれる。暴力が俺の魔術だ!


・テクノマンサー
超常的なアイテムを使用することで、常人でありながら超人に匹敵するパワーを発揮するもの。
既存のヒーローでいうと、アイアンマンやアントマンが近いだろう。
能力的には環境のエキスパートであり、肉体や精神は控え目。

万国びっくり人間ショーな他のオリジンと違い、直接殴り能力があまり冴えない。
火力が頭打ちな《誘導弾》や取り回しが重い《フルファイア》、使用制限が厳しい《ガンマ砲》くらいしか手筋がないため、便利能力を活かして立ち回りたい。
《支援部隊》《護衛部隊》《戦術指揮》などは優秀なサポートだし、《医療施設》《エリクサー》《秘密基地》など回復パワーも優秀。
共通システムである[支援]は他者の判定をサポートできる為優秀だが、クレジットを消費する。
これを補える《大富豪》《不労取得》《資金調達》を駆使して、支援特化で立ち回っても存在感を示せるだろう。


ジャスティ
常人種でありながら、意思と技術と精神力によって超人に匹敵するパワーを発揮するもの。
既存のヒーローでいうと、バットマンやヒット・ガール、パニッシャーが近い。
能力的にはフラットに低いのだが、技能値による補正が非常に高い。
一芸特化で状況を制圧したり、得意分野を複数持って他キャラの穴を埋めたり出来るだろう。

常人のはずなのに殴り性能は非常に良く、取り回しの良い《スティンガーレイピア》、ターン消費の少ない《サブウェポン》、面制圧能力の高い《ブーステッドアロー》《爆弾》と、優秀なものが揃っている。
火力を伸ばす手段も《弱肉強食》《抜山蓋世》と揃っていて、アタッカーとしての適性は抜群だ。
能力値が低いためチャレンジ判定に穴が生まれがちだが、《粉骨砕身》《万能ベルト》などで補うことで、戦闘以外でも優秀さを示せる。
減ったリソースを《心機一転》で回復させたり、《応援》《臨機応変》で支援に回ったりと、実に万能なオリジンである。
このゲームはHPを減らし死亡チェックをくぐり抜けることで[臨死]となり、キャラクターが大幅に強化される。
死亡チェックを乗り越えられる可能性が上がる《ダイハード》は、タフネスと決定力を両立できる優秀なパワーだ。


ハービンジャー
宇宙や異世界など、この世ではない場所からやってきた来訪者たち。
既存のヒーローでいうと、ソーやシュマゴラス、(クリプトン星人としての)スーパーマンなどが該当するだろう。
オリジンは結構カブる部分もあるのだが、キャラクターのどの側面を強調したいかによって選ぶと良いのかな、と思う。
能力的には全体的に優秀だが、割り振る技能が一切なく、能力で押し切る形になる。
神に小細工など不要、ということだろうか。

スペック的には汎用的かつ万能で、様々な活躍が期待できる。
高火力・高命中の《ゴッズウェポン》で単体殴りしてよし、複数対象を取れる《神の雷》を落としてよし、攻防一体の《吸収》で生存性を重視してよし、殴り性能は高い。
《透視》でHPをチートしてから、《ネックスナップ・デス》で首コキャ即死させるコンボが面白そうだ。
《女神のガントレット》《コズミックヒーリング》で直接的に耐久力を稼いでもよし、《分身》《曲芸飛行》でテクニカルに立ち回ってもよし、防御面でも面白い。
《エクスチェンジ》《高速移動》など、移動にまつわるパワーが多いのも特徴。
[集中]で削れがちなサニティを補充し、火力も高める《異世界への興味》は非常に強い。


・03 判定
基本的な判定方法についてのパート。
先述したように、判定は能力値+技能値を基準にD100振って行う形。
デフォルトそのままだと35-55くらいで不安定なのだが、サニティを払って自分の判定目標値を+10%出来る[集中]と、クレジットを払って他人の判定を+10%出来る[支援]が共通ルールとして用意されている。
これを駆使すること前提で判定周りの目標値が整えられている感じがあるので、ガンガン使っていくのが良いと思う。
当然サニティもクレジットもガンガン減るので、ここら辺を回復できる能力があることは判定周りが安定する基盤にもなる。強い。


・04 ゲームの準備
ゲームを始める前に、何を用意したら良いかが書いてあるパート。
必要な物資(人材含む)だけではなく、心構えの部分にもインストラクションがされている。
全体を通して思うのだが、既にTPRGをプレイしているユーザーだけではなく、デッドラインヒーローズRPGで初めてTRPGに触れる相手を強く意識して、文章が組み立てられているように思う。
TRPGはどのようなゲームで、何が面白く、それを共有するためには何を気をつけたら良いのか、鮮明な補助線が引かれていると感じるのだ。
そういう姿勢は文章に明瞭さを増し、システムに明瞭さと知性を与えてくれるので、既存のプレイヤーにとってもありがたい。
改めて言葉にされることで、気づいていなかった(もしくは忘れていた)部分に目が向くということもあるしね。


・05 ゲームの進め方
実際のプレイがどのように進んでいくのか、その手順を記してあるパート。
ゲームは『導入』『展開』『決戦』『余韻』の4つのパートに別れ、起承転結のドラマツルギーを取り込めるよう工夫されている。
実際、ゲームを均質に流していくとダレが生まれてしまうことがあり、各パートごとにシステム的な仕切りがあることで、緊張感を維持したままプレイできたりする。

リプレイでも提示されていたが、実際のプレイに入る前には『エントリー』という導入例が手渡され、GMは『今回のお話はこういう物語で、こういう立場があります』という意思を事前に提示し、PLと共有することが出来る。
いわゆるFEARゲーの『ハンドアウト』や『フェイズプロセッション』方式を採用した形になるが、これらのシステムが持っている安定性と表現力は、実際のプレイの中で証明済みだ。
使える武器はどんどん使っていく貪欲さは、とても良いと思う。


・06 イベント
特に展開パートで行われる、デッドラインヒーローズRPG特有の処理について記述したもの。
PCのロールプレイを促し、ヒーローポイントを獲得し、ゲームを加速させていく最大のエンジンとも言える部分で、デッドラインヒーローズRPGの特色といえるだろう。

イベントには『クエリー』『チャレンジ』『バトル』がある。
『クエリーイベント』はPCがどんなキャラクターなのか『問いかけ』るイベントで、GMの設定したシチュエーションを足場に、キャラクターを表現する場面だといえる。
ロールをひねり出さないとシーンが終わらないわけではなく、必要な要素をクリアしたらシーンを進め、ヒーローポイント(『グリット』と呼ぶ)を獲得できる。
強制ではないのでデータ的に処理しても良いし、ここぞとばかりにロールを頑張っても良いだろう。

クエリーがGMサイドからの問いかけだとすると、リマークはPLサイドから投げかける自発的ロールプレイの権利だ。
PLはシナリオに各員一回、自由にリマークを宣言してグリットを獲得することが出来る。
クエリーを宣言することで、PLが発言し、シナリオに介入するタイミングをシステム的に保証できる、ということだ。
その演出はPLに委ねられていて、任意のタイミングで自分のやりたい演出をやることが出来る。
『ロールプレイは難しいからやりたくない。グリットだけほしい』と主張する自由も認められていて、強制ではなく自発的で楽しいロールプレイ促進とすることが推奨されている。

グリットは非常に優秀な共有リソースで、一つ使用することで『判定振り直し』『デスチャートの振り直し』『判定の後に、成功率を+10%』『ダメージの増加』が可能になる。
グリットの獲得数がそのまま経験値にもなるので、このゲームではクエリーイベントを運用し、リマークを宣言し、キャラクターの内面を表現/共有するロールプレイを加速させることが、システム的に肯定されていることになる。
TRPGのセッションにおいて何が価値であり、何が楽しいかは、その卓を共有する仲間としか決定できないと思う。
ロールプレイを色濃く楽しむにしても、サラリと流すにしても、このゲームにおいてそれはグリットという形で評価され、保証される。
自分たちにあった形でグリットを獲得できるようプレイすれば、デッドラインヒーローズRPGは安定して楽しいゲームになると思う。


『チャレンジ』は複数回の判定を乗り越えることで、困難に立ち向かっていくイベントだ。
ヴィランの秘密基地に乗り込んだり、陰謀を打破したり、人々に襲いかかる災厄に立ち向かったり、様々なアクションを用意することが出来る。
チャレンジイベントで行う判定は、シナリオで定められた失敗可能回数があり、これを『リトライ』という。
リトライが規定回数を超えると、チャレンジ判定は途中で失敗し、ヴィランの野望を挫くことに失敗したことになる。
最後の戦闘は手痛い失敗を反映してより厳しく、ハードなものになるわけだ。

先述したとおりデフォルトの成功率は高くはないため、共有システムで成功率を稼いだり、グリットを活用して成功を拾いに行ったりする必要がある。
これが『ヒーローたちが大きな困難のために、必死に協力している感じ』を巧く醸し出してくれて、ヒーローRPGを遊んでいる感触を堪能することが出来る。
システムが想定しているムードが、具体的なシステムによって後押しされているのは、TRPGシステムにおいてはとても大事なことだと思う。


バトル・イベントは戦闘であり、物語の最後を飾るヒーローとヴィランの激突だ。
基本的には決戦フェイズで行われる。(展開フェイズでの戦闘は、チャレンジで処理するのが良いだろう。リプレイ参照)

戦闘は1から20までのターンカウンターと、彼我の距離を表現するエリアマップを併用して行われる。
各パワーや行動ごとに設定されたターンを消費することで、敵を殴ったり、移動したり、味方を癒やしたりすることが出来るわけだ。(既存のゲームだと、セブン=フォートレスシリーズが近いか)
最初の行動値は1D6で決定され、早いものが先に動く。(同値の場合はPL優先)
例えば行動値1と3のキャラがいたとして、1が優先的に動いてターン消費10の行動を取れば、ターンカウンターは11まで落ちる。
結果、行動値3のキャラに優先権が移り、ターンを消費して……という具合に行動していくわけだ。

行動カウントが21以上になると、そのターンでキャラクターは行動できなくなる。
ターン消費の大きい大技を最後に持ってくることで、ターンリソースを踏み倒す経済的な行動が出来るわけだ。
面制圧系は基本的にターン消費20(=ぶっ放したら行動終了)なので、手早く雑魚狩りして被弾を減らすか、細かくターンを使って最後に持って来るかは悩ましい。
回避が案外面倒なゲーム(そもそも回避自体が行えないことも多々ある)なので、個人的にはとっととパなして、場を平らに安定させたいところ。

ダメージは基本ライフを減少させていき、0以下になるとデスチャートを振ることになる。
HPに入っているマイナスが修正になるため、デカいダメージが入れば入るほど、死は近づく。
デスチャートをなんとか生き延びると[臨死]となり、判定とダメージに大きなボーナスが入る。
デフォルトの性能が控え目なため、このボーナスは非常に大きい。
しかし安易にボーナス狙いで死ににいくとコロッとくたばるため、ダメージを受けるか否か、どうHPを調整するかの判断は案外難しい。
生死の境目でハードな判断を要求され、それを楽しめるシステムデザインは"デッドライン"ヒーローズRPGに相応しいものだ。
なお、ヴィランデスチャートを振らず、[臨死]になることもない(生死の臨海を経験し、限界を超えるドラマはヒーロ専用、ということだ)

いわゆるバッドステータスに当たる状態異常は、思いの外解除する手段に乏しい。
特に移動と回避に大きな制限を与える[束縛]が強くて、これを入れて回避可能な高火力パワーで押すか、入れずに回避不能なパワーで安定させていくかは、戦術選択として結構大きい気がする。
[狼狽]が相当にエゲツない効果なのだが、基本攻撃はパワーではないため仕様が可能である。
間合いや行動封鎖などで『詰み』に近い状態に追い込まれても、案外基本攻撃の取り回しが良く、本当に一歩も動けない状況というのは案外ない。
まぁ当然、パワー使えたほうが勝ち筋は近づくんだけどさ。


・07 キャラクターの成長
いわゆる経験点の獲得基準と使用方法、キャラロストへの対応について書いてあるパート。
バトルイベントを乗り越え、余韻フェイズを堪能したら、お楽しみの成長タイムである。
先述したとおり、経験点(≒システムサイドがデザインする、『このゲームを遊んだ報酬』)はグリットに比例するため、ガンガングリットを稼ぎ、ガンガン経験点を貰うのが良いだろう。
リマークやクエリーの回数に厳密な縛りがあるため、モンティ・ホールにはなっていないのが良い。

デフォルトの絶妙なへっぽこ加減、それを補うために削られていくリソース、[臨死]状態の強さ。
様々なデザインが『死』にキャラクターを追い込んでいる以上、このゲームのキャラは思いの外死ぬと思う。
ルールブックにも『PCが死ぬかもしれないという不安は、ゲームの緊張感を保つため必要な要素』と書かれているわけで、過剰にロストを恐れるよりも、思い切って死線に踏み込み、英雄的な死と生を楽しむことを想定しているのだろう。
その発想は、死の瞬間に無条件に強力な一撃をぶち込める[フラッシュ]のルールや、ロストしても新キャラクターに経験点を持ち込めるルールに反映されている。
セッションの一つの結果としての『死』を尊重し、かつ過度のストレスを避ける工夫がされているのは、ゲームがヌルくなりすぎないいい加減だと思います。


・08 ヴィラン
ヒーローに敵対する凶悪な連中が顔を連ねるパート。
このゲームはヴィランがどういう悪事をしていて、それにヒーローがどう立ち向かい、何を悩むか考えるとシナリオの大枠は出来ると思う。
なので、ヴィランの設定がヴィジュアル面込みで豊かなのは、シナリオフックとしても大事なところだろう。

そんな憎たらしいヴィランの顔ぶれは
・最大最悪の犯罪組織『フォーセイクン・ファクトリー』
・享楽の殺人サーカス『ザ・カーニバル』
・陰謀と呪術に長けた『メイヘム』
・妖怪变化の百鬼夜行『百鬼夜會』
・赤い砂漠の暴力集団『地獄兵団』
と、キャラの立った連中ばかり。

すぐ使えるデータが用意され、イメージを加速させるイラストもちゃんと付いているのが、シナリオで実際使える設定としての切れ味を感じさせる。
各組織・ヴィランごとに特色が濃くあるので、それを拡大させればシナリオが形になっていくのが、とても良い。
やっぱTRPGの設定は、実プレイに直結してナンボだからね。
イラストやデータはないが、他にも質の悪い連中が顔を連ねていて、敵=シナリオの拡張性は高いと思う。
とりあえず地獄兵団が街を占拠し、荒野を爆走しながら脱出する『デッドライン -怒りのデスロード-』をすぐさま作らなきゃ……。


・09 世界
いわゆるワールドパート。
シナリオの舞台となる世界の歴史、価値観、日常について描いてあり、キャラクターがゲーム世界の中でどう振る舞えばいいか、指針となる情報が乗っている。
その世界の中でどう振る舞うのが一般的なのか、ヒーローはどういう存在なのかを把握するのに必要十分な記述で、色々妄想が膨らむ要素も多い。

ヴィランに比べ、味方サイドのNPC記述は弱いが、それはこの世界の正義はPCが担当するからだろう。
他人任せではなく、自分の決断と意思でヒーローであることを選択する。
そういう存在が力を合わせ、悪を打ち破って正義を示す。
そこで大事なのは鏡としての『悪』だ、ということかもしれない。

顔や名前のあるNPCはいないが、類型としてどのようなキャラクターを用意し、ゲーム内部でどういう仕事をさせるかに関して、2Pの記述がある。
NPCの設定と響き合わせることで、PCのキャラクター性を豊かにしたいと考えるプレイヤーは、ここを参考にするといいだろう。
『想像力は無限に羽ばたかせていいが、ちゃんとGMの許可を取れ』という記述もあるので、PLの妄想が暴走するストッパーは用意されている。


・10 シナリオ
実際に遊ぶためのシナリオであり、ゲームがどう機能するかを示す実例とも言える。
みんな遊ぶだろうからネタバレは避けるが、各イベントがどのようになったら終わるかをチェックできる『エンドチェック』のルールはマジで発明。
TRPGの場面は『どう始まるか』と同じくらい(もしくはそれ以上に)『どう終わるか』が大事であり、シナリオ段階でそのイメージを確認でき、実際にチェックして処理も行えるエンドチェックは、非常に機能的だ。
イベントの目的を明確化することで、終わりだけではなく途中の運用やロールプレイにも、緊張感が生まれてメリハリが出来る。
ぶっちゃけ、他のゲームでもパクりたい、っつうかパクる。


以上、デッドラインヒーローズRPGのレビューでした。
ゲームが目的とするものを明瞭に伝える適切な記述、野心的ながら簡勁なルーリング。
圧倒的に良く出来ていて、何よりも見終われば『遊びたい……ッ!』という気持ちがメラメラと燃え上がってくる、良いルールブックです。
ゲームをたくさん遊んでいるプレイヤーだけではなく、この本からゲームに入っていったり、馴染んでいったりするプレイヤーへの配慮も十分以上になされていて、高いポテンシャルを感じます。
モチーフとなっているアメコミに興味がある方だけではなく、TRPGを、ゲームを愛するすべての人に読んでほしい。
そういう本です。
お前ら全員買って、今すぐ遊べ!!

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アイドルタイムプリパラ:第3話『ゆめかわ! メイキングドラマ!』感想

アイドルの白地図に描け夢色スケッチ、新天地に降り立ったピルグリム・ファーザーズのアイドル開拓記、今週はメイキングドラマ。
プリパラのステージングに欠かせない要素であるメイキングドラマを作る過程の中で、ゆいが何故ステージに立つのか、そのための障害になるもの、助けになるものを描いていくお話となりました。
成果物として新メイキングドラマはしっかりあるんですけども、むしろ夢見がち過ぎるゆいが『何か』を見つけていく過程、らぁらが先輩アイドルとしてそれを導いていく道のり自体が、とても魅力的でした。
新主人公が夢に向き合う喜びを全力で加速させつつ、らぁらがこれまで学んできたこと、シリーズが積み上げてきたものもけしてないがしろにはしない。
新シリーズとして、良いポジションを確保しながら進んでいると思います。


というわけで、メイキングドラマを探して右往左往する今回。
実は結論はちゃんと頭で出ていて、『沢山の女の子を、プリパラに導く。『夢が叶う』『可愛くなれる』という希望を『みんな』と共有する』というイメージから、今回のお話は始まります。
アイドルがアイドルとしてショーアップされ、特別な時間を手に入れるのは、観客と自分自身に夢を与えるため。
そういう公益性をゆいはちゃんと持っているわけですが、それに自覚的なわけではありません。

アコヤ貝か深海魚のような、虹色夢見がち目をギラギラ言わせる時、ゆいの妄想は自己中心的です。
ゆいが主人公である以上、アイドルタイムは自分が頑張って自分が掴み取るシンデレラ・サクセス・ストーリーになるわけですが、それではステージにわざわざ立つアイドルにはならない。
プリパラはアイドルという自己表現をテーマにしていて、王子様に抱きとめてもらって幸せになれるシンデレラが、理想の形ではない。
むしろ自分の魅力に気づいていない女の子たちをステージに惹きつけ、精一杯の歌と踊りを見せることで『私もああなりたい!』『私もああなれる!』という気持ちを盛り上げることこそ、成功の鍵となります。

ゆいが今回たどり着くメイキングドラマは、『魔法が使える自分』で視線を止めるのではなく、その先にあるステージと観客、『魔法を受けて、いくらでも夢を叶えられるあなた』にまで広がっています。
三期アイドルをやってきたらぁらのように、明瞭な言葉で伝えられるわけではないですが、ゆいは今回メイキングドラマに悩むことで、『自分が何故アイドルをするのか』『アイドルとはどういう特別な豊かさを持っているのか』について、一つの答えを手に入れました。
お話の結論が空から急に降ってくるわけではなく、最初から自分の中にあって、しかし見えにくくなっているものを、他者のアドバイスや自己洞察を経てたどり着く形なのは、良いなぁと思いました。


そういう視点で見ると、ゆいの妄想の中でらぁらがネズミの御者であり、王子様でもあるのはとても意味深です。
一つには、ゆいが非常に強く自分を持っていて、自分の人生の主役は間違いなく自分である(らぁらはあくまでサポートであり、主役にはなりえない)という自負を持っていること。
アイドルとして高いステージに立ち、自己を表現する以上、自分を強く持っていることはとても大事です。
そういう強さは優しさと対立するものではなく、むしろ叶えたい夢を自分で引き受けているからこそ、それをサポートしてくれる相棒への感謝も言葉にできたりするのでしょう。
狂気渦巻くプリパラ時空、主役が埋もれないためにはぶっ飛んだキャラ付けだけではなく、『アイドルである理由』『私でなければいけない理由』を明確に意識した、意志の強い女の子であることが求められるわけだし。

同時に、ゆいのシンデレラ・ストーリーはらぁらがいなければ始まらなかったし、夢のゴールに先乗りしている神アイドルとして、らぁらをかなり重要視しているのも見て取れます。
実際、何も知らないからこそエンジン全開で夢に突っ走っていくゆいの道を、らぁらは巧く舗装し、導いている。
過剰な妄想に浸りそうな時は正気に戻し、迷った時はアドバイスし、何をすればいいか分からない時は自分の経験から助け舟を出す。
アイドルタイムの主役として、自分の物語だけを全力疾走しているように見えて、ゆいはらぁらによって支えられ、導かれている自分の物語を、かなり客観視出来ているように思えます。
この『出過ぎないけど存在感があり、その立ち位置に納得がいく』先代主人公っぷりはなかなかレアで、上手い場所に据えたな、と思っています。

アイドルタイムのらぁらは無印の『お姉さんたちに取り囲まれた、特別な子供』という立ち位置ではなく、『同年代の子供達と対等な距離で、周囲に影響を及ぼしていく英才』というポジションにいます。
目立たないようにゆいを支え、パパラ宿のプリパラをゼロから盛り上げていくらぁらの姿は、『みんな』が最初からあった無印時代には、なかなか見れないものでした。
男子プリパラに押され、在るべき『みんな』がいないところから物語が始まったアイドルタイムにおいて、らぁらは『みんな』を再獲得する物語を歩いている、と言えるでしょう。
それは『みんなトモダチ、みんなアイドル』というモットーに支えられ、縛られていた無印とは別の角度から『みんな』を捉えていく物語で、同時に核となる部分では無印と同じ、とても大切なものを視野に入れている。
こういう冷静なテーマ性の再確認、自分たちが何を描いてきて何を描いていないのかの把握、新しいものを描くためには何を用意するべきかの手際が、らぁらのポジショニングからは見える気がします。


三期分の経験に支えられ、『正解』が最初から分かっているらぁらに対し、ゆいは何も知らない愚者として、愚者だからこそ可能な熱気と速度で物語を牽引していきます。
ゆいがとにかくプリパラに、アイドルに夢をたくさん持っていて、情熱があること。
そしてアイドルタイムに魔法をかけられ、ステージで夢が叶う喜びを素直に表現することが、このお話に勢いをつけているのは間違いありません。
補強されたトンネル、形になったメイキングドラマ、だんだん増えていく人間の観客、新しく建造されたカフェと、ゆいの情熱(とらぁらの導き)がちょっとずつ形になり、努力の手応えがあることも大きいでしょう。

今回ゆいが悪戦苦闘していたメイキングドラマ造りは、漠然としたアイデアが観客に伝わる表現になるまでを、コミカルに追いかけたものと言えます。
ゆいが妄想していた魔法はシンデレラからの借り物で、短い時間でスパッと観客の心をつかむ簡勁さに欠けていました。
らぁらの言葉からアイドルの存在意義を学び、『三分』『鳩時計』『三日月』という三題噺にアイデアをまとめることで、漠然とした『妄想』ではなく、他人を感動させもう一度プリパラに足を運ばせる『夢』が生まれる。
そしてその土台は、三歳の頃からたっぷり積み上げたノート(に具体化した、山盛りの熱意)が支えている。
ドタバタ楽しいコメディの中に、『いかにして少女は表現者になるのか』という物語が芯を入れていて、見ごたえのある話でした。

今回の話しに限りませんが、ゆめがアイドル一年生としていろんなことを学ぶ中で、らぁらが常に隣りにいて、一緒に汗をかいてくれる描写が細かくあるのは、とてもいいと思います。
アボガド学園は現状締め付けがキツいので、それに反逆しながら二人だけの思い出を作っている感じが、なんだか懐かしくも羨ましい。
一緒に妄想したり、トンネル掘ったり、キグルミ着たり、ラーメンとおにぎり食べたり。
起こっていることはアニメ的でトンチキなんですが、その一つ一つが特別な出来事で、それを共有することで友誼が深まっていく実感が伝わるのが、凄く良い。
プリパラ不毛の地を開拓していく奮戦記としてだけではなく、見知らぬ地で少女と少女が出会い、絆を深めていくお話としても、アイドルタイムは凄く切れ味が鋭いと思うのです。

らぁらがアイドルの先輩としてゆいをよく見て、よく支えている善さは先程指摘しましたが、ブッチギリ妄想族のように見えるゆいが思いの外、らぁらに感謝とリスペクトを示すのも、見ていて気持ちがいいです。
プリパラの物語かららぁらが学び取った結論を、惜しげなく与えてくれることにちゃんと『ありがとう』というし、『やっぱ神アイドルなんだね!』と尊敬もしてくれるし、コメディに忙しい展開の中で、そういう真心の描写が蔑ろにされないのは、プリパラらしいなと思います。
らぁら自身が見つけ出した結論も、パラ宿で出会ったお姉さんたちに教えてもらったもので、それが場所を変えてゆいに繋がっていく展開も、善意と敬意の連鎖を感じて、なんだか良かったです。
『なんか良いこと言う、ちょっと偉そうな年上』のロールモデルとして、みれぃが即座に出てくるところが最高……みれぃ好きかよコイツマジ……。


少女二人の挑戦を輝かせるためには、適切な試練が必要。
というわけで今回は、檻でありシェルターでもあるアボガド学園の描写が濃くありました。
地獄耳子による監視体制、高乃麗フルスロットルなサイレン、総回診っていうがガサ入れなど、かなりのディストピア監獄学園っぷりを見せつけていましたが、そういう圧力を跳ね除けるからこそ、『プリパラ開拓は偉業なんだ!』という作品内部の価値観がクッキリ見えるわけで。
たっぷり笑いを交えつつ、主人公たちが戦うべき抑圧を明瞭に描いているのは、良い作りだと思います。

ババリア校長がWITHに夢中なところを見ても、『いつか』はアボガド学園も管理体制を緩め、自由に夢を追いかけられる場所に変わっていくのでしょう。
しかしそれは今ではないし、主人公の働き方が簡単に実ってしまっては、その輝きを試す場所としての機能も薄れてしまいます。
しばらく学園は『都合の悪い場所』でなければいけないわけで、そこがドタバタトンチキで面白い場所なのは、話が重くなりすぎず、軽くなりすぎずのいい塩梅だと思います。
抑圧代表である地獄耳このキャラがまた濃くてなぁ……鈴をつけることで、音で登場予告をやってシーンの空気を一気に染められるの、マジ発明だと思う。

監視の目を盗んで夜を明かす中で、将来的に運命の仲間となるにのちゃんと邂逅するシーンもありました。
こうやってチマチマ接触があると期待も高まっていきますが、にのちゃんもまた『深夜のランニング』をひっそりとやる、アウトサイダーの仲間であるのはとても良い。
プリパラは子供の身勝手さや猥雑さを否定せず、むしろ積極的に取り込んでいく姿勢が魅力であり、特徴でもあると思います。
主役サイドに『悪い子』が山盛りいて、そんな子たちが生み出すドラマがどれだけ話を盛り上げてくれたのは、ドロシーやらガァルマゲやらまほちゃんやら思い出せば一発ですが、抑圧と戦う小さな仲間としてにのちゃんとゆい&らぁらが接触したのは、そういう面白さが失われていないんだな、という感触をくれました。

問題児だから無条件でリアリティが生まれるわけではないし、綺麗事で作品世界を埋め尽くす方法論にはまた別の苦労があるわけですが、プリパラの『悪い子』の使い方は相変わらず冴えていて、こっからまた面白い転がり方をするんだろうな、という期待感。
今回描写された監獄学園っぷりを見ていると、そういうものが膨らみます。
アウトサイダーなんだけども、魂の芯の部分には善なるものがちゃんと育ってると判る描写が細かくあるのも、お話の強さだね。

そして学園とはまた別の方向から、無茶苦茶な抑圧をかけてくるプリパラシステム。
『筐体の方でも都合があんだからよ、とっととGP成立するぐらいには場所育てろや』と言わんばかりの、キッツい圧力が押し付けられていました。
『ゆいとらぁら、二人三脚で頑張れば結果は必ず出る。学校のルールだって出し抜ける』と示したあとで、別角度からぶん殴ってくるのは面白いなぁ。
いい塩梅にメンターしてたらぁらが予想外の事態に焦ったところで、みれぃが大阪から乗り込んでくる状況作るのもね。


というわけで、メイキングドラマを追いかける中で、新旧二人の主人公がどんなキャラクターで、どんな関係で、アイドルとステージを通じて何を表現していくのか、確認する回でした。
メイキングドラマ制作というイベントを楽しく取り回しつつ、キャラやテーマの芯の部分にしっかり切り込んでいるのが、とても良い。
壁となって立ちはだかることで、物語に波風を生み出してくれる学園の描写もたくさんあって、ゆいとパパラ宿のことがよりよく分かるエピソードだったと思います。

誰もが可愛くなって、夢を叶えられる魔法の時間。
今回確認したアイドルタイムの意味は、今後物語が進展し、キャラクターが増えていく中でまた別の角度から掘り下げられるでしょう。
それは作品のテーマに繋がりつつも個別の表情を持った『別の話』であり、同じ舞台、同じ作品としてのアイデンティティを共有する『同じ話』でもあります。
そういう差異性と合同性を今後どう広げていくか楽しみになるのは、今回ゆいが『妄想』を『夢』に変えていく過程がシャープで楽しい、いいアニメとしてしっかり描かれていたからだと思います。
アイドルタイムプリパラ、今後が楽しみですね。

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