ヴィンランド・サガを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月3日
かつての王、未来の王の側仕えとして、生きて死ね。
不在なるアーサーを厩戸にて夢見る狂女の言葉が、アシェラッドに深く突き刺さる。
無様な裏切りと崩壊を経てなお、逆転を睨むふてぶてしさ。雪を赤く染め、迫るトルケルの軍勢。
地に伏した”父”の威容に、復讐者は吠える
そんな感じの、アシェラッド兵団最後の日である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月3日
部下は軒並み日和見、王子脱出は上手くいかない。全てが裏目に出た賭けの果て、膝に矢を受けて倒れ伏す。
アシェラッドは無様の中で、それでもやがて来る運命を待ち続ける。それは祝福か、はたまた呪いか。
アヴァロンより蘇り来る、我らが約束の王よ
冒頭、アッシェラッドの全てを規定した運命の瞬間が描かれる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月3日
ウェールズの貴種に生まれながら、厩戸に押し込められた狂える母。その口から漏れる”いつか”を待ち続けることが、愚鈍なるデーン人であることを耐え忍ぶことが、彼の全てとなった。
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林檎が常に咲き乱れる、常春の島。どこにあるとも知れない”どこか”を夢見ることが、腐敗と敗北に塗れた現実の中で、母にとって唯一の救いだった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月3日
ならば、その夢を諦めないことが、アシェラッドにとって母を活かし続けるたった一つの方法として突き刺さる。
遥かなるヴィンランド。平等と平和の島。
それを夢見るのは、トルフィンの専売特許ではない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月3日
理想と信じていた血縁が、現実の泥に塗れ倒れ伏す。それをどうにか贖うために、血に塗れた復讐者に落ちる。
父と母、その死に様は違うとは言え、お互い綺麗なものを追い求めて、ここまで流れ着いた。
血みどろの雪原、切羽詰まった現実の果てだ。
アシェラッドが”ヴァイキング”として、殺して奪って分け与えたのは、胸に秘めたとても綺麗なものを守り切るためだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月3日
そのためには、母以外の誰を犠牲にしても良い。
母の故郷、母の愛した夢、母が求めた約束の王。
アシェラッドはその理想を守るために、愚鈍なデーン人に落ちた。
結果、トルフィンのいちばん大事な存在たるトールズを殺し、仇と付け狙われる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月3日
理想のために、誰かの理想を踏みにじる。そこには、自分自身の夢も含まれている。武器を捨てた真の戦士として、威風堂々立ち回るトールズに、アシェラッドは母が語るアストゥリアスを見た。
だから頭に請うたわけだが、”ヴァイキング”に背を向け、暖かな家庭という自分だけの王冠をもう掴んでいたトールズは、殺戮を約束された道に今更戻るわけにもいかない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月3日
”ヴァイキング”に落ちたアシェラッドが用意できるのは、せいぜい覇道まで。ヴィンランド(あるいはアヴァロン)に至る王道は遠い。
ネズミと蝿が這い回る現実に、美しきアヴァロンの夢を引き寄せる。狂気ともいえる母の言葉を、現実に引き寄せるべくアシェラッドは、一番手軽な方法を選んだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月3日
殺して、奪って、分け与える。現実的な力で、誰かの理想を踏みつけにする。
そうやって生きてきたから、王たるべきモノを自分で殺すのだ。
間違った道を選んだツケは、必ずついてまわる。それはアシェラッドやトールズだけの宿命ではなく、トルフィンもおそらくそうなのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月3日
将来、己の血塗られた生き方を悔い改めようとしたとき、必ず彼が”ヴァイキング”であった事実が、牙を剥くことだろう。そういう物語である。
それは未来の話として、今はそれぞれの屍山血河である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月3日
アシェラッドは兵団の崩壊を目の当たりにして、デーン人への嫌悪を表に出す。
母の夢を現実にするために、嫌々順応した”ヴァイキング”。
智謀と暴力に才があったことが、彼の不幸か。
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アシェラッドは十重二十重の包囲を、英雄譚の主役のように斬り伏せながら、”いつか”を待ち続ける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月3日
王たるべきものが、ウェールズの虐げられた民を開放するために、常春の島から再臨する。
それを別の言葉(キリストの再来、ヴァルキリーの祝福)で説く坊主が嫌いなのは、過去を知ると納得だ。
彼が行き着きたいのはアヴァロンであって、ヴィンランドではない。救ってほしいのは将軍アストゥリアスであって、キリストではない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月3日
願っているものの本質は同じなのに、歴史と地域と人種と神学で差別化されたその表層を、どうしても受け入れられない。救済にすら、人は断絶を埋め込む。
彼が真実NO1に、歴史の改変者になろうとしなかったのも、今は納得がいく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月3日
己の器を測れてしまう賢さってのもあるだろうけども、母はあくまで『やがて来る王の側仕え』を望んだ。王自身に我が子がなることは望まなかったのだ。
だから、それを忠実に果たそうとした。結果が、割りに合わないバクチだ。
クヌートこそが、己の約束の王足りうるか。自分の足で踏みつけにしてしまった、トールズの代用品足りうるか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月3日
残り時間は少ない。老いていく己を天秤にかけて、アシェラッドはクヌートに賭けた。臆病な素顔を見てなお、化ける可能性に賭けた。
それでやることがラグおじ抹殺なんだから、救いようがねぇ
でも、そういう”暴”に満ちたやり方しか、アシェラッドは知らない。我が子に背中で生きざまを見せて、暖かな日常で満たし道を教えるような真っ当な道は、厩には置いていない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月3日
ここら辺、ネグレクトが反射したファザーコンプレックスでもあるな、と思う。不在故に、父は支配するのだ。
殺し殺される生き方から抜けたトールズも、ヴァイキングの巨大な掟からは抜け出せず謀殺された。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月3日
父から継いだデーンの血を憎んだアシェラッドも、同じく”ヴァイキング”になる以外の方法を知らなかった。
どれだけ偉大な才を持っても、人の埒を超える運命に抗う手段は、なかなか掴めない。
将来的にヴィンランドを目指すだろう(何しろ”ヴィンランド・サガ”の主人公なんだし)トルフィンは、そんな巨大なものに対抗しうるのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月3日
今は無気力に流されるままのクヌートは、いかにして歴史に名を刻んでいくのか。
子供たちの物語は、まだ先の話である。今は”父”の死に様が真ん中にある。
ビョルンは不利な状況でも、アシェラッドへの感情を手放さない。忠義とも信頼とも愛情とも少し違う、その全てでもあるような熱量が、彼を奮い立たせる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月3日
その献身は、いかに報われるのだろうか。野ざらしに捨てられて、無価値なものになるのだろうか?
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そんな先のことは、当然分からない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月3日
ただ、アシェラッドは俺に預けた。彼の全てを賭けた、バクチの要を。だから守る。形だけの信頼であっても、それに答える。
見返りを求めない献身は、凶暴な暴力となって吹き荒れる。そういう発露しか出来ないところに、”ヴァイキング”の哀しさがある気がする。
トルフィンは死地を抜けて、アシェラッドの元へ帰る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月3日
俺が殺す前に、殺されちゃ堪らねぇ。
そこには偉大なる父を殺した卑劣漢が、無様な死に方をしては名誉が保てないという、複雑でシンプルな算数がある。
トルフィン>アシェラッド>トールズ(”>”は『殺して上回る』)
この数式が成り立たないことには、トルフィンの世界は崩壊してしまう。アシェラッドを”いつか”殺すことでしか、父の偉大さは維持できないのだ。(少なくとも、今のトルフィンにとっては)
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月3日
だから獣の顔で、思い切り走る。
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そこには烈火の如き復讐心があるばかりで、かつてアイスランドで己を温めた家族の温もりなど、望むべくもない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月3日
しかし、例え血で血を洗う不毛な日々だったとしても、肩を並べた時間が”何か”を生んでいる…と考えるのは、外野の感傷であろうか。
傷つき、膝をつく”父”など見たくない。
不遜に暴力的に、永遠に君臨し続けて欲しい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月3日
父殺しの”父”を殺す、殺意の赤い夢に溺れながら、トルフィンはそういう複合感情を、どこかに抱えているように思う。
憎悪も愛着もひっくるめで、トルフィンの中のアシェラッドは、巨大に過ぎる”父”だ。アシェラッドにとってのアストゥリアスに似てるか。
不在なる”父”への複雑な感情を柱に、意地を貫けるのは特別な生き方だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月3日
凡人は安楽な平和を求め、英雄に矢を向ける。武器を手放し、暴力に腹を向ける。
トルケルにとって、それは余りに面白くない。
死に惜しんでないで、とっとと戦士として死ね。
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トルケル戦士団を鋼のように貫く、旧きヴァイキングの価値観。財も命も投げ売って、合戦相手所望仕る死狂い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月3日
その価値観は、貨幣経済が一般化した”ヴァイキング”にとっては余りに苛烈で、もはやついて行けない狂気だ。
だからこそ、その狂った理想に身を焼いた同士だけが、トルケル戦士団には集う。
圧倒的な虐殺を押し付け、死を踊る彼らはそれでも、滅びゆく種族だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月3日
王権の確立、キリスト教の伝播…様々な要因が、100年立たずに”ヴァイキング”を滅ぼしていく。
そんな時代の風をどこかで感じているからこそ、颯爽と死にたいバカが、トルケルの周囲に集まるのかも知れない。
トルケルは日和見主義の凡人に、斧を押し付ける。死それ自体として迫り、心をぶち壊す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月3日
普通の人間は、トルケルが身を投げた狂気を受け止めきれない。投降するにしても、敵対するにしても。最低限の資質を要求されるのが厳しいところだ。
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むしろ殺意むき出しの強敵こそが、トルケルの心を震わせる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月3日
馬一匹宙に浮かせる、豪腕の挨拶。強敵に向き合える喜びに、旧きヴァイキングは心を震わせる。マジインチキなんだがアイツ…。
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トルフィンは自分の世界を成り立たせる、命と名誉の算術を守るために巨人に挑む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月3日
ここでアシェラッドが死んだら、アイツに殺された父上の名誉が泥に塗れる。だから命がけで守って、”いつか”殺す日を待つ。
無茶苦茶であるが、そのぐらいの狂気でないとトルケル戦士団には通じない。
お頭が生きるか死ぬかなのに、凡人を虐殺し”勝ってる”ときより楽しそうなのが、トルケル戦士団の狂気であり、強さだな、と思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月3日
王子を差し出して、栄達と命を手のひらに掴む。そういう当たり前の計算よりも、より苛烈に生きたり死んだりする一瞬を、ただただ求めるのだ。
そう考えると、キノコでブーストしないと狂えないビョルンは、あんま”ヴァイキング”の資質がないんだな、とも思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月3日
いやこのクッソ不利な状況で、アシェラッドへの感情だけを手放さず走り続けてる時点で、むっちゃ狂ってるとも言えるけど。好きなものは好きだからしょうがない!!
遥かな幼年期に刻まれた、アヴァロンの夢。それを守るために殺し、奪い、分け与えた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月3日
俗極まるアシェラッドの生き方の、地盤たる呪い。それがトールズの殺害を呼び、トルフィンの復讐心を呼び込んだ。
皆が愛という狂気に駆られて、雪原を赤く染めていくのだ。
ここで気になるのは、人形のように無反応なクヌートである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月3日
アシェラッドが己の夢、『約束の王』を賭けると見込んだ少年は、ラグナルの死、残酷な現実に打ちのめされて動きがない。
しかし後の年表は、彼の奮起を約束している。デーン朝初代だもんね…。
クヌートが起き上がり、歴史に名を刻むに足りる狂気。この窮地を乗り越えるに足りる超越は、どこからやってくるのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月3日
そこが、次回大事なところかなー、と思ったりもする。さてはて、どうなることやら。
トルフィンの巨人殺しも、なかなか読みきれないんだよなー。面白い。
強いものに屈服し、生き延びる。そういう凡人の結末は、トルケルによって粉砕された。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月3日
狂気渦巻く死地を生き延びるには、正気ではなくさらなる狂気。その源泉にあるのは、失われたものへの愛。
愛憎渦を巻くカルマを超えて、物語はどこにたどり着くか。来週も楽しみ。