イマワノキワ

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うる星やつら:第41話『愛と勇気の花一輪』感想ツイートまとめ

 うる星やつら 第41話を見る。

 終わらない祝祭を彩ってくれた、色んなキャラの決着となりうるエピソードが続いている令和うる星第4クール。
 第31・32話で力を入れて描いた、しのぶと因幡くんの物語を完結させる、SFおとぎ話ラブコメの傑作回である。
 ”SFおとぎ話ラブコメ”とはつまりラムとあたるを主役にした、”うる星”そのものであるし、役者を変えて描かれるこのお話は、彼らの終わらない追いかけっこをどう終わらせるのか、その前駆でもあるのだろう。
 しかしそんなエピソードにおいて、あたるは極めて軽薄で薄情に、今まで通りしのぶに本気にならない。
 なれないし、なることを許されない。

 

 今回しのぶは延々ぶりぶり『選ばれないこと』に怒り続けていて、因幡くんは彼女を世界で唯一の存在として選べない自分に立ち向かえない。
 そんな二人の煮えきらない距離を煮込むべく、突拍子もない事が山盛り起こりつつ、極めてファンタジックでロマンティックでもある夢世界の旅が、真実の愛を試す。
 あたるがしのぶを選ばない、選べない存在として延々、テキトーな愛をささやきつつ場を賑やかす横で、しのぶと因幡くんは溺れかけボコボコに殴られ、苦難に満ちているからこそ嘘がない自分たちの気持ちに、ちょっとずつ気付いていく。
 そこら辺の手つきは、やっぱ終わりを前にしてのある種の詫び状みたいな、切なさと真剣さを感じる。

 僕はどうにでも好き勝手にヒネれるはずの創作物に、真剣に立ち向かってしまった結果否応なく”仕事”を任せてしまった存在に、創作者が作品でもって詫びる瞬間が好きだ。
 例えば”劇場版けいおん!!”はゆい達の青春に振り回され、学校にひとり取り残される中野梓への長い詫び状としてまず読んで、だから凄い好きなんだけども。
 お話がお話として成立するために発生する無茶を、『お前はこれをし続けろ』という押しつけを、開き直れずやりたいことも傷つく心もある”人間”として、最後のチャンスで向き直ろうとする創作者の姿勢が、凄く好きなのだ。
 ここ最近の令和うる星には、そういう匂いがあるかなと勝手に思っている。

 騒々しくも面白い、何でもありの終わらない狂騒。
 傷や痛みはすぐに癒やされ、どんだけ騒いでもシリアスになりきれない繰り返す物語を、その形のまま維持するためにはキャラクターに過度にマジになってもらっては困るわけで、幾重にもエピソードを積み重ねた結果焼き付いたキャラの属性は、重荷めいてその魂を縛る。
 そんなモラトリアムの檻が一つの終わりに辿り着こうとしているこのタイミングは、彼らを繰り返す世界の奉仕者から望みを抱えて前に進む存在へ開放できる好機だ。
 渚の登場を以て竜ちゃんの複雑なアイデンティティが変化する…契機を得たように、今回しのぶは因幡くんを鏡にすることで、『選ばれない女』から抜けていく。

 

 好色な主人公が鬼っ子エイリアンにビリビリされながら、ドタバタラブコメを繰り広げる座組を成り立たせる関係上、しのぶはあたるがモーションをかけ、ラムに嫉妬される壁役を担ってきた。
 軽薄なあたるの運命がラムにしかない以上、しのぶへのモーションは常にポーズでしかなく、三角関係未満のねじれは延々繰り返す日常に飲み込まれ、その繋がり方は大変にまったりした。
 ラムとあたるを取り合うでも、あたるの本気に向き合うでもなく、むしろ気のおけない女友達として、ぶっ飛ばしもギャグの一貫にしかならないコンフォート・ゾーン。
 そこが、三宅しのぶが”うる星”に存在する/”うる星”を存在させるための居場所だった。

 誰でもいいあたるは当然モテず、誰でも良くないシリアスさな地金を時折のぞかせつつも、騒がしい物語の中で生真面目な顔をあまり作らぬまま、今回極めて典型的にそう振る舞ったように、軽薄で移り気な、マジにならない/なれない若者としてしのぶに向き合う。
 それが”向き合う”というほど腰の入ったものではないことを、しのぶの怒りや悲しさを全然見ないで、最終的にノンキにお茶しばいている立ち位置が良く語っているけども、今回のエピソードは『しのぶが因幡くんに選ばれる』話であると同じくらい、『あたるがしのぶを選べない』話でもあろう。
 『じゃあ、誰なら選ぶの?』という問いが、気楽すぎる主人公の振る舞いからは起こる。

 この問いかけに答える時は、つまりあたるが何かを選ぶときであり、何も選ばなくてよかったモラトリアムが終わる時であり、”うる星”が描き続けてきた終わりのない狂騒が終わってしまう、そういう決定的なエピソードになる。
 なのでそれは最後の最後の後回し、今回はあたるの運命ではないしのぶが、どんだけ選ばれない存在であることに苛立ち、怒り、選んで欲しかったかを強く刻みながら、彼女のための王子様が本気になるまでを描く。
 『しのぶは選ばれませんでした』で終わって良いところを、不思議な魅力をたっぷりの命管理局という劇的空間、その住人である因幡くんをわざわざ造って『因幡くんはしのぶを選びました』にするのが、なかなかに素敵な贈り物だと、思ったりもする。

 

 

 

 

 

画像は”うる星やつら”第41話より引用

 しのぶはあたるの誰でもいい軽薄も、因幡くんの誰でも大事な公平さも望んではいな い。
 お話が続く限りそこに閉じ込められる、誰も自分を選んでくれない便利なポジションから、自分を引きずりあげて特別にしてくれる狭い愛を、強く強く求めている。
 しのぶがそういう気持ちを抱えたまま、ワイワイ騒がしいまったり距離感に甘んじていたかと思うと、ここまでの物語もまた味わいが変わってくるが、とにかく彼女は怒っている。
 怒っているのだと、改めて僕らに教えてくれるステージを用意して、煮えきらない因幡くんをズルズル引きずり回しながら、泣いたり笑ったり忙しい。

 しのぶの涙も笑顔も、因幡くんの決意がこもった微笑み、美しい花畑も。
 楽しくも騒がしい”いつものうる星”では描けない熱があって、しかしそういう嘘のない気持ちを持ってるキャラだからこそ、ここまでの大騒動は元気で楽しかった。
 三宅しのぶはこういう表情をする子だったと、繰り返しの中でいつの間にか忘れていた僕らに、そんな事実を思い出させて、すまなかったと思わせる回でもある。
 いやホント、今回のしのぶは『可愛いしのぶを、世界一可愛く描くぞッ!』という気合に満ちていて、大変良かった。
 この可愛さが、因幡くんの本気に説得力を与えもする。
 こんだけ可愛い子に涙ながら本気の気持ちぶつけられたら、そらー本気にもなるだろ……。

 本当はしのぶともう一度会いたかっただけなのに、『誰でもいい』なんて照れ隠しで本心を覆い隠して、そこが地雷なしのぶをぶりぶり怒らせて。
 今回の不思議な旅はしのぶが特別な誰かに見つけてもらうお話であり、因幡くんがしのぶを特別に思う自分を、ボッコボコに殴られながら見つけるお話でもある。
 どんなに回り道でも厄介でも、この人と一緒なら進んでいけると思えるような、特別な誰かが自分の中にいる。
 そんな因幡くんの発見は、心の中を飛び出してしのぶに届き、特別なたった一人にずっとなりたくて、そうはなれない定めに縛られてきた女の子に、欲しかった花束を手渡す。
 それが、終わりを前にした”うる星”からの餞だ。

 

 顔面ボッコボコにされる戦いとか、危険がいっぱいの冒険とか、厄介なものと戦えばこそ真実が見えてくる今回のお話。
 この構図を、ぶっ飛ばされたからこそ”弱点”が見える笑いで照らす所に、この作品のコメディとしての非凡さも見えるわけだが、しのぶと因幡くんが辿った困難で実りの多い旅路を、あたるとラムが走ることは(まだ)許されない。
 元来そうであるように、だからこそこの長い物語を楽しく彩り得た、人間としての譲れぬシリアスさ、傷つく身体。
 そういうモノがあたる達に開放されるのは、もうちょっとだけ先の話だ。

 壊されたものが治り、傷はすぐさま癒え、見つけた宝物は見失われ、延々繰り返すモラトリアム。
 そんな”うる星”が今回のお話、三宅しのぶの最終回では、大きく崩れている。
 ベコベコにされた因幡くんの顔が、友引町の世界法則に反して傷ついたままなのは、”いつものうる星”が終わりつつあるからこそ描ける、不可逆の決意と覚悟の現れだ。

 痛いからこそ意味があり、意義ある変化を刻めるシリアスさを、遠ざけていたからこそ成立していたスラップスティックの内側に、子どもたちを閉じ込めていては拓けていけない、彼らの未来。
 何かが決定的に変わってしまいそうで、でもそれを描いても相変わらず”うる星”なエピソード達は、友引町からの卒業証書、物語の共犯者からの感謝状のように、数多連なっていく。
 負け知らずだった竜ちゃんが”男”に負けて泣いたのも、その一幕かなと今回見て、あらためて思った。

 

 

 軽薄で相手の顔を見ない、誰かを特別に選ばない諸星あたるでは、望む特別を手渡してゴールに一緒に進み出れなかった三宅しのぶが、彼女のために傷だらけになってくれる素敵な男の子から、花束を手渡されるまでのお話でした。
 とても良かったです。
 おめでとう、ありがとう、三宅しのぶ。
 キミがワーワー騒いで怪力で暴れまくったこのお話は、とても楽しかった。

 さぁて、今回賑やかしの脇役に、きわめて”うる星”的に徹していた主役たちは、どんな花束を集めて駆け抜けていくのか。
 このアニメが、それをどう描ききるのか。
 4クールに渡った長い物語、傑作への愛情に満ちた新たなるアンソロジーが、そろそろ終わる。
 とても楽しみです。