イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

詳解 武装SS興亡史

ジョージ・H・スティン、学研。ゲッベルスの宣伝省と同等かそれ以上にヒトラー=ナチスの躍進に貢献したヒムラーのSS、その軍事組織である武装SSの学術研究所。冷静な本である。ナチスには何か、魔王のような黒い雲がかかっていて、それを扱うものは無批判な賞賛か無批判な非難に陥りがちである。ただの事件として、そして歴史的事件として、ナチス=ドイツという時代を扱うのはなかなかに難しい。
アーレントの「イェルサレムのアイヒマン」と比較するのは流石におこがましいが、この本はそんな困難に立ち向かっている真面目な本である。非常に錯綜した武装SSの設立と組織、戦時下のナチ党と軍部二つの頭を持つキメラのような混乱を、戦時下の資料とその後の証言を丁寧に扱いつつ、イデオロギー的記述に流されることなく書いている。
SSはかの悪名高いアウシュビッツのジェノサイドを指導した組織であり、武装SSはその下部組織である。だが、戦時下においては陸軍の指揮下にあったため、ファシズム的側面は少なかった、という論で擁護するものもいる。が、筆者は冷静な一次資料の提示と分析という学求の基本装備のみでそれを打ち砕く。ヒトラーナチスという人を不安にさせ、無批判な行動にはしらせがちな存在に対し、その記述は頼もしい。僕はクソッタレのミリオタだから、こういう真剣な本をしっかりと噛み締め、噛み千切らなければいけないのだと思う。黒く磨かれたブーツと一糸乱れぬ行軍の、表面的なかっこよさに流されないために。それは絶対に必要なことなのだ。それを思い知らされた。良著。