イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

シュルレアリスムと性

グザヴィエル・ゴーチエ、平凡社シュルレアリスム活動を女性解放論者としての視座から批判的に述べた論考。まず何より、豊かな美術書である。筆者の審美眼は鋭く、シュルレアリスム絵画の美しさを的確に抉り取ってくる。
そして、しかもその上で、筆者はブルジョア思想に対して激しい怒りとともに起こったマルクスフロイト革命に同調し、既存のブルジョア的芸術を破断するべく開始されたシュルレアリスムが、いかにブルジョア的であったか、という批評を冷静かつ的確な論旨で展開していく。
その両手に握られているのがセクシャリズムとフェミニズムの二本の刀であり、その刃は西洋智という砥石で磨かれ切れ味は鋭い。ブルトンやダリ、アルトーの中に潜む狂気や逸脱への恐怖、「淫婦か聖女」というあまりにブルジョア的な女性観という、シュルレアリスムの掲げた大看板を自ら裏切るファクター。それらを、実際の作品への鋭い読みと優れた感性で抉り出してくる。
また、感性と理性の豊かな融合という困難を、軽やかにこなしている文体は読みやすく、図版も豊富である。この可読性の高さはこの本の大きな魅力の一つだ。30年前に発行された本だが、現在でも強力な思考の爆弾として機能する名著だと思う。
J・B・ポンタリスによる序文があまりにも完璧で、いつもの分析を交えた感想をかく意義を一瞬見失ったのはまた別の話しとしてさておこう。