イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

脳の時計、ゲノムの時計

ロバート・ポラック、早川書房分子生物学者が書いた医療倫理学の本。このような越境の本は、足場が固めきれず論点がずれるか、豊富な資料を専門知識で読みぬき、適切な意見を建設するかのどちらかであることが多い。この本は後者である。
自身ががんになった経験をあくまで冷静かつ厳粛に受け止め、その視座からさまざまな分子生物学的発見を紹介し、底から導き出されるさまざまな見解、立場を分析していく。筆者の専門智としなやかな論理展開が相まって、デリケートな問題を丁寧に、そして読みやすく論じてある。死の排斥から生まれる医療の荒廃に注目し、新たな立場と死点を捜し求める筆者の言葉は、わかりやすく、そして重たい。良著。