イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

歴史学と精神分析

ピーター・ゲイ、岩波書店歴史学フロイト精神分析学の融合の可能性について述べた本。まず重要なのは、この本はなによりも強烈なフロイトへの「読み」であり、その正確さ、的確さ、誠実さこそがこの本の最重要点である、ということだ。筆者は比較思想史を専門とする歴史家であり、同時に博識と有し、自らの立場を冷静に分析し、政治的な意図を排除した誠実な発言を行う論者である。
その、西洋智の完成形ともいえる非常に腰の落ち着いた記述が、的確にフロイトを読みほぐしていく。丁寧かつ可読性の高い、スマートな文体。深い歴史学精神分析学への理解。それらは、フロイトの受容のされ加減、そして受容のされ「なさ」加減への分析を支え、いかにして歴史学という領域に精神分析学を応用するか、についての非常に堅牢な提案を可能にしている。
学際、という現象は中途半端に終わりがちだが、筆者の博識と誠実な姿勢は徹頭徹尾深遠な読みと資料へのあたりこみの身を己の基盤とし、常に批判的な姿勢を崩さない。そしてそれこそが、この本を学際という難易度の高い行為として完成させているのだ。
この本は「岩波モダンクラシックス」というレーベルから発行されており、オリジナルは1985年発行である。1980.90年代の著作は非常に鋭いものが多いのだが、知識をファッションとして消費する傾向の中で、正当な評価を与えられずに埋もれているものも何冊かある。僕も恥ずかしながら、この本はいわゆる「名前だけなら聞いたことがあるけど」という本だった。このような形で発刊され、読む機会を得ることが出来たのは幸福である。傑作。