イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ロンドン 炎が生んだ世界都市

見市雅俊、講談社選書メチエ。1666年のロンドン火災を、サブタイトルにもなっている「大火・ペスト・反カソリック」という三つの視座から読む本。
選書という紙幅の限られた題材だが、都市史、病理史、宗教史という三つの意欲的な切り口で一つの事件を切り取るという冒険的な書物である。当時のロンドンに暮らした二人の人物、イーヴリンとピープスの日記を丁寧に読解し、各章の視点に基づいて当時のロンドンの情勢を読みほぐしている。プロテスタントカトリック絶対王政と議会、中世と近代という対立項が混じりあう時代の結節点。それが当時のロンドンであったようだ。
現代の書物も含めて資料を丁寧に読み、説明も読みやすい。なかなかに意欲的な形式だが、各章・各視点が別の書物のようにくっきりした輪郭を持っていて、非常に骨格がしっかりした読み物になっている。
選書という形式にこうも横幅の広い視座を盛り込めば、説明不足になってしまいがちだ。だが、ロンドン大火という一見政治・宗教・文化の絡まない事件を丁寧に読み解き、17世紀のイギリスの独自性、大陸の影響とそれへの反発などを絡めて語っている、豊かな書物である。さまざまに政治形態が入れ替わり、燃料革命により工業的にも近代に足をかけたロンドンの様子を、わかりやすく丁寧に書いている。良著。