吉田正紀、小学館。サンデーで好評連載中の異能力者必殺仕事人漫画。個人的に、現在サンデー最大の注目株。とにもかくにも、背骨の太い漫画。お話の安定感、キャラクターの存在感が図抜けて安定しているし、絵も巧い。漫画が漫画として持っているべき部分で強い、非常にいい漫画だと僕は思っています。
まず、キャラクターが太い。主な登場人物は四人しかいないわけですが、そのうち二人がコンビ打ち。二人とも人体実験の犠牲者で、感情が高ぶると周囲全てを燃やすクールな男ユウ君と、感情が冷え込むと全てを凍りつかせる元気娘ニナミちゃん。ユウ君の炎を凍らせられるのはニナミちゃんだけで、ニナミちゃんを溶かすことが出来るのはユウ君だけ。異能力設定と、生き死にとか恨みとかがどろどろ渦巻く話の展開の中で、それでも信愛し合う二人の関係を巧みに交錯させています。
まぁ僕は仲良し漫画が好きなので、この二人の設定と動きだけで相当高評価なのですが。ラブを前面に押し出して人殺しの業をファッションにするでもなし、重苦しい空気で辛気臭くやるだけでもない。非常にバランスよく、ヌキと入りが互いを引き立てるように生き生きした漫画です。ニナミちゃんの「普段の元気ぶりは、周囲を殺さないための一種の造り」っていう設定が特に秀逸で、一見いかにも漫画漫画している動きの奥に、悲哀がにじんでいます。
人殺し集団所属の主人公二人+現場監督&保護者であるマスター+集団の支部長の胡散臭いヤツと、人殺し集団"咎人会"に関わるろくでもない人殺ししかいないこの漫画ですが。昨今の週間少年漫画にしては非常に珍しく、人殺しも異能力もあんまいい事として書かれていません。ユウ君の力もニナミちゃんの力も、発現すれば人をむごたらしく殺す以外何も出来ない、どうしようもない力です。"死んでもしょうがないヤツ"でも、殺すことはろくでもなく書かれています。殺す人も殺しを依頼する人も殺される人も、誰もスッキリしない。その、説教臭さを極力抜き、物語として突きつけられた苦さ、重苦しさは僕にはむしろ好感と取れました。
僕自身もろくでもなく人が死んだり殺されたりする漫画や小説をたくさん読みます。でも、だからこそ。ろくでもなく人を殺すことはろくでもない。その力もろくでもない。そういうことに自覚的で、真摯に向かい合っている漫画というのは、貴重だし面白いし、何より重要だと。そう思うわけです。ぜひこの真っ直ぐさを維持したままつづけて欲しいです。ニナミちゃん可愛いし。