イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

観覧車物語

福井優子平凡社。シンプルなタイトルどおり、観覧車の本。なのだが、筆者は別に学者というわけではなく、アメリカのニューズレター「観覧車通信」二人目の編集者であり、共同通信の編集者が本業である。
ならばアマチュア仕事にありがちな、詰めの甘い本かと言うとそうではない。この本はとにかく観覧車の誕生から現代までを調べに調べ上げた本であり、同時にその調べる過程を丁寧に書き記したドキュメントでもある。資料分析の仕方、研究視点の置き方に鋭いものがあり、丁寧で解りやすい研究に仕上がっている。
筆者は簡潔でありながら情の入った、インテリジェントな文章を書く人で、観覧車研究のために図書館を巡ったり、資料館に連絡をしたり、また旅の途中で観覧車についての情報を探ったりといった、観覧車研究の合い間合い間の文章が、非常に上質な紀行文に仕上がっている。なんとはなしに、気品とペーソスが匂う文体であり、かといって観覧車の歴史を洋の東西問わず丁寧に追いかける本筋に悪い影響を及ぼしているわけではない。
むしろ、なじみの薄い(というかこの本で取り組むほど、本腰を入れてみてこなかった)観覧車という題材と読者の距離をちじめるのに、筆者の持つ馴染みやすい文体という武器は非常に強力で、清潔感のある装丁、大量の図版、読みやすい段組と相まって、非常に上質な本に仕上がっている。
正しくアマチュアイズムに満ちた研究書であり、非常に気持ちよく読めた。傑作。