イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ガッチャマンクラウズ インサイト:第8話『cluster』感想

一週間のお休みを経て、帰ってきました日本の新時代。
八話目の今回は神様の優しい玉座と、交じり合わない色の扱い。
燎原の火のように日本国民の心の隙間に忍び込んだ『くう様』は、同時に『喰う様』でもあり、自分を甘く腐らせていく山彦に耳を貸さないマゾヒスト共は強制的に排除する存在だったよ、というお話でした。
いやー、ロクでもねぇホント……。


ゲルサドラ・システムによる人間的民主政治システムが破綻し、その空白を縫うようにやって来たのが究極のカウンセリングシステム『くう様』。
性別も過去もない彼らは常に対手を肯定し、認めてくれる優しい存在です。
ある意味、胎内回帰願望へのベストソリューションといいますか、あの日本はこれから確実に出生率が垂直落下するだろうなという感じがします。
一度改変された後の『C』の日本みてー(監督繋がりの感想)

彼らの言葉に耳を傾けてみると、非常に適切に人の抱えている傷を見つけ、それを癒やす対応を使ってきます。
ゲルサドラという感情・判断集積システムがベースになっていること、『吹き出し様』という自我の表出から出現したこと、多数の名前がありながら自分自身を知らないことから考えると、『くう様』は対手自身であり、彼らの甘い言葉は究極の自己肯定だと言えるでしょう。
『一つになる』ことを強調してきたゲルサドラ=ツバサ側の行き着く先として、自分が一番良く知っている自分の傷を理解して、肯定してくれる他人が飛び出してきたのは、非常に納得がいく結末です。

『くう様』が肯定してくれる言葉が中身の無い山彦である以上、自分自身と現状を変化せようという心的エネルギー、茶化した言葉で言えば『高い意識』は、どんどん水平化されていきます。
今のままでいいし、問題は掘り下げなくて良いし、なんとなく気持ちよくて一つな感じがすればオールオッケー。
あっという間に日本を塗りつぶした『くう様』の理想世界が、非常にツバサ(ゲルサドラではなく)の心的光景に似ているのは、ちょっと恐ろしい感じがします。
騒動の起因であるゲルサドラ自身は『くう様』に食われかけているのに、ツバサは座ってすらいないですしね。

頑張っていればいるほど、社会に対してツッパっていればいるほど隠した傷は深くなるわけで、累が速攻で落とされていたのも、ある意味しょうがないかと思います。
あんだけ人類の理想を高く追い求め、傷付きながら走ってきたるいるいがダメダメになってる姿は見てられませんが、同時にそりゃ癒やされたくもなるよねという感慨もある。
『コイツが落ちたらヤベェ!』という危機感と、『まぁコイツは落ちるよね』という納得感が両立するのが、るいるいだったのかな、というチョイスでしょうか。
しばらくゆっくりしたら、また人類の改革者として走りだしてほしい所ですが、難しいかなぁ、あの悪魔の装置から抜け出すの。


理詰夢の予言通りあっという間に猿化した日本ですが、自己肯定の甘い檻を嫌悪するマゾヒストも、少数ながら存在します。
ガチャマン達もそうですし、梅田さんやダーツバーのマスターなど、異能を持たない人たちも、『くう様』日本に抵抗していました。
そういう奴ら相手には『くう様』は『喰う様』になって、少数派を殺すことで強引に一つにするという、独裁政治の常套手段を切ってきました。
やっぱロクでもなかったね、あのイキモノ。

一つ重要だなと思うのは、『喰う様』の少数派排斥もまた、自己肯定と同じように人間が望んだものをゲルサドラが吸い上げ、集積し反映した結果行われたということです。
気持ち悪ーいLOVE-Tシャツ来た連中が、自分たちに同化しない少数派に呟いた「消えちゃえばいいのに」という欲求を引っ張りあげたからこそ、『くう様』は『喰う様』になった。
善悪の区別なく、かたっぱしから対手の欲望を拡大していく無批判ぶりは、オリジナルであるゲルサドラとそっくりですね、『くう様』。

ゲルサドラはオリジナルではあっても、コントロールセンターではなく、『くう様』が引き起こしている騒動(もしくは虐殺)は中枢を離れ、ゲルサドラに制御不可能な現象なんだと思います。
オリジナルであるゲルサドラが『くう様』に食われている(ということは、ゲルサドラにも癒してほしい隠した傷がある)ことから見ても、『喰う様』の行動は止まらない。
対処可能だったかもしれないクラウズは廃案にしちゃったし、そもそも多数派の意見の排泄物として少数派の虐殺が行われている以上、問題にすらならないかもしれない。
『くう様』が隣にいる日本は、相当気持ち悪く、相当危険な状況です。


そこに切り込んでいけるのが、孤独なヒーローであるガッチャマン……という構図なんでしょうが、まずパイマンは終わってるとして。
あのオッサン、とっとと地球人の保護観察官辞めて、地球から開放されたいだけなんじゃねぇかな……。
お前んところで預かってる子供も、一つになりたくないって思った瞬間に食われる世界になっちゃったぞ。

さておき、前回に引き続きはじめはゲルサドラ=ツバサシステムに対話を試みていました。
恐ろしい母であるツバサが対話を切り上げさせたけど、前回よりは長く話せた感じです。
凡人ツバサが感情に任せて安易に断ち切ろうとしているチャンネルを切らず、常に研鑚と批判を怠らず、自分の目と足で真実を探し続けるツバサは、やっぱ超人的精神の持ち主であり、エリート中のエリートという感じがします。
そういう彼女が「ツバサちゃんこそ、僕より全然ガッチャマンなんすケドね」と呟いた言葉の裏には、賢すぎる自分への屈折みたいのが、少し見えました。
何も考えずに走れる凡人への憧れと賞賛は少しイヤミだけど、はじめちゃんの偽らざる心境なんだろうなぁ。
状況がここまでグッズグズになってなお、ツバサの良いところをちゃんと認識してる辺り、ほんとブレねぇなはじめちゃん。

世界に唯一残った哲人として、はじめちゃんは『くう様』の正体探しもやっていました。
平行してガチャマン内部での意思統一とかもやってんだけど、事態がガッチャマンの対応を三歩ほど先に行く形で進んでいくので、対応が追いつかんね。
ガッチャマンが個人(もしくは少数派の小集団)として対応できる限界に超えた問題という意味ではケーブルカー事故や立川事変の終盤に近いんだけど、解決可能なクラウズは破綻しちゃったし、『これは悪いことで、みんなで解決しなきゃいけない』と思えたカッツェの侵略とは、善意で窒息させてくる『くう様』真逆だしな。
殴れば終わりではない、悪意がない、大多数にとっての短期的利益になっていると、『正義のヒーロー』としては相撲の取りにくい相手だというのが、今回よく見えました。

しかし喰われて消えた人は事実なわけで、ゲルサドラが引き起こしツバサが助長し『喰う様』が実行した今回の『悪』の『悪』たる側面が、ようやく表に出た回だと言えます。
目の前でダチを喰われたジョーさんは、グダグダ言ってないでヒーローっぽく飛べるのか。
他のガッチャマン達は、適切な対抗策を思いつくのか。
るいるいは来週も、サル顔Wゲルピースなのか。
まさに風雲急を告げ、来週が楽しみになる回でした。