イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

Go! プリンセスプリキュア:第43話『一番星のきらら! 夢きらめくステージへ!』感想

夢という言葉に込められた祝福と呪いの物語、今回はきららちゃんの集大成エピソード後編です。
前回自分を追いかける後輩を守るためモデルの夢を諦めた天ノ川きららが、いかにして自分を見つめなおし、自分の夢とそれを取り巻く世界に指切りしなおしたのか。
宇宙で一番ハンサムな女の子が、星の輝きを取り戻す見事なラスト個人回でした。

今回のお話は結構シンプルな構造になっていて、『前回の決断でモデルの夢にケジメをつけた(と思い込んでいる)きららに、はるかが夢のファッションショーを企画し見せることで気持ちを新たにするきっかけを与え、きららはボアンヌがくれたチャンスを掴む』というもの。
イベントの回数が少ない分、じっくりと感情の動きを見せるシーンが多く、台詞ではなく映像と表情で見せるプリプリらしい展開となりました。
軽薄とすら取れる明快さで覚悟の重たさを隠している序盤、雑誌の表紙を飾った自分に未練を残すファッションショー前のシーン、ショーを前にしてじわじわと変化していく心情、自分に憧れ自分が守ったりんりんの夢を見つめ過去の自分を思い出す仕草、夢を選びとった末の別れをはるかが前向きに捉えてくれた時の寂しさと喜びが混じった表情。
今回見せた表情と演技の細やかさは天ノ川きららという少女の多様で繊細な内面をしっかり捉え、前回の決断と挫折を受けて頑なになったきららの気持ちが、はるか達の働きでどう変化したのか、巧みに伝達してくる助けになっていました。
映像としての繊細さがしっかり心情を伝え、きららが一年かけて到達した境地がどのようなものか体験させてくれるというのは、やはり映像表現であるアニメーションにおいては非常に力強く、有り難いことだと思います。

天ノ川きららはどんな女の子なのか。
最後の個別回となる今週振り返られているのは、彼女の繊細なキャラクター性です。
ハードでタフな選択をしても、後悔や迷いを悟らせない毅然とした強さ。
過剰に明るく振る舞うことで、他人を暗い気持ちにさせない気遣い。
結果としてモデルの夢に砂をかけてしまったのならば、一度ゼロに戻さなければ気が済まない正しさ。
それははるかのメンターとして物語に登場し、背筋を伸ばし夢を歩く姿への憧れで主役を引っ張っていった彼女が持つ、星の輝きです。
彼女がモデルという夢に向かうしか無い天性を持っていると、圧倒的な説得力で示した復活のラウウンェイは、サクがカロリーの使い所を完全に把握した最高のシーンでした。

しかし彼女は哀しみも迷いもしない憧れの人形ではけしてなくて、柔らかい内面を誇り高く覆って、カッコいいと思える自分を決死の努力で維持している女の子でもある。
『自分が決めたことだから』と言い聞かせていても、まだ残る未練が彷徨う雑誌の表紙。
光を浴びて輝く立場から落ちて、モデルを見守る立場に追い込まれて初めて気づく、熾火のような夢への情熱。
自分が守った女の子が自分に憧れて辿り着いた、毅然とした立ち姿に思い出す、圧倒的な初期衝動。
親友が用意してくれた新たな夢のステージを前に、ゆっくりと自分の夢に向かい直す時の光と影。
言葉を使わない画面の言語は、台詞よりも雄弁にきららという少女の柔らかさを見せつけ、傷を背負い迷いもすればこそ尊い人間的な天ノ川きららを、じっくりと僕達に見せてくれます。
天ノ川きららについて個別に語る最後の機会に、こう言う豊かな見せ方をしてくれるのが、プリンセスプリキュアというアニメなわけです。


前回のお話と合わせて、今回のお話は天ノ川きららがどういう女の子であり、プリキュアとして友とふれあい他人を守る中で何を手に入れたのか、確認しながら進むお話です。
作中ではるかが言っていたように、しっかりと自分を持ち夢にむかって真っ直ぐ走れるきららは、物語に登場した時点で『強く』て『美しい』存在でした。
しかしそこに『優しさ』が少し欠けていたのは、序盤での我が道を行く(行き過ぎる)姿勢で強調された部分です。
一年間のプリキュア活動を経て、そんな彼女は後輩の夢を慮り誰かの為に戦う『優しさ』を手に入れた。
それは当然誇るべきものであり、その結果足蹴にしてしまったモデルの夢にケジメをつけるべく、休業という選択肢を毅然と選びとる姿は『強く』て『美しく』、天ノ川きらららしい在り方だといえます。

しかし『夢』をメインテーマに据えたこのお話において、自分自身でもある本当の夢は簡単に諦めきれないし、無理矢理に気持ちを押さえつければ輝きは失われていく。
それは星のシロという形でファンタジックに(そして分かりやすく)表現されているし、既に大きなエピソードを終えたはるかとカナタが、先行して示した法則でもあります。
となればきららもまた、モデルの夢=自分をしっかり掴み直し、再び輝かなければいけないわけですが、ここで彼女の『強さ』が邪魔をする。
中学1年生とは思えないほど高いプロ意識と目標、自分を律するストイックさを持ったきららは生半な説得では気持ちを変えないし、その『強さ』を失えば天ノ川きららは宇宙一ハンサムな女の子ではなくなってしまうくらい、彼女の根本を成しています。
いかに『天ノ川きらららしさ』を損なうことなく、取り戻すべきもう一つの夢に眼を向けさせるかというのが、今回のお話で大事なところです。


その仕事を担うのが春野はるかなのは主人公として当然ではあります。(ここでその仕事を譲ったら、主人公ってなんなのという話になってしまう)
しかし物語の始まりではきららに導かれる立場だった彼女が今回きららの蒙を啓く展開は、まさにシリーズアニメの醍醐味というべき成長と感慨に満ちていて、本当に素晴らしかった。
きららの真っ直ぐな『強さ』と『美しさ』に憧れ、手を引かれつつグランプリンセスという夢にむかって走り続けたはるかは、気付けばきらら自身の『強さ』と『美しさ』を思い出させ、その源泉であるモデルへの憧れにもう一度目を向けさせる存在へと成長していたわけです。

しっかり企画を立て、学園長や学園の仲間を巻き込んでサプライズイベントを成立させる確かな手腕。
自分の領域だったはずのショーをあえて外部から見守らせることで、きららが夢と向かい合うために最高の舞台を整える発想力。
強い言葉で説得するのではなく、きらら自身の気持ちが夢に向き合うために全力でサポートし、それをきららに気づかせない優しさ。
なによりも、『プリキュア』として守ってきた人たちの夢を『モデル』というもう一つの夢に寄り添わせ、きららが思い悩んだ二つの夢が、お互いを支えあって輝いてきた二つ星であることを、言葉以上の形で思い知らせる説得力。
今回のお話は天ノ川きららの到達点を見せる話であると同時に、ドジで未完成な凡人としてプリンセスの道を歩んできた春野はるかが、きららの『強さ』『美しさ』に導かれて辿り着いた高みを確認する回でもあります。

頑固(という言い方もできるし、強い責任感を持ち確固たる自己を維持しているとも言える。それは特質であって、長所と短所を内包した一人の人間のあり方そのものです。それが夢に結びつき、この作品が『夢は自分自身である』と言い切っている以上、その資質は変えてはいけない)なきららが自分の道を見つけるために、優しい滑走路を引いたきっかけははるかですが、彼女一人がきららに魅せられたわけではない。
きららが『何回でも繰り返すし、そこに後悔はない』と毅然と言い放ったプリキュアの夢は、こんなに沢山の人を引き寄せ、守ってきた。
そう確認できる過去エピソードのゲストキャラ総出演は、お話がクライマックスに差し掛かったこのタイミングだからこそ、最高に嬉しい展開でした。
特に一瞬の出番で視聴者の印象に突き刺さるらん子先輩と、きららに新しい道を直接用意するボワンヌの再登場は、個人的に嬉しいサプライズだったなぁ。

ボワンヌが干されたきららに寄り添って道を用意する展開は下手に描くとご都合主義ですが、プロのデザイナーがホレ込むモデルとしての才覚をランウェイのシーンで説得的に示したことにより、非常に飲み込みやすく描かれていました。
ボワンヌはきららが持っている才能の『美しさ』、一度決めたことを簡単には曲げない『強さ』と『正しさ』に可能性を感じたからこそ、自分の『夢』をきららに見て手を差し伸べる。
そこには利己と利他の健全なバランスがちゃんとあって、その均衡こそこのアニメが何度も伝えてきた、夢の物語を語るスタンスなわけです。
きららの毅然とした決意をしっかり見据え、一度身を引くシーンがあったことも、お話を落着させる救世主が真実を見抜く眼の持ち主であると示していて、良い演出でした。

プリキュアとして共に戦ってきた仲間も穏やかにきららを支えていましたが、まだ自分の個別回を残しているみなみさんは、視界という特権的な立場で夢のなさを隠していました。
ランウェイでさらけ出せる夢がまだ形になっていない彼女の話は次回以降にクライマックスを迎えるわけですが、今回のキララエピソードの収め方を見るだに、素晴らしい物が飛び出してくるでしょう。
ルームメイトであるトワ様はきららが離れた後即座に追いかけ、ナイーブな領域に踏み込む特権を見せつけると同時に、復活のドレスという最高の贈り物を仕上げてどっしり待つ、信頼の強さも見せてくれました。
今回のエピソードはりんりんというゲストキャラが鏡になってくれたおかげで、圧倒的に強いきららの弱い部分に、唯一踏み込むことを許されたトワ様の圧倒的きらトワ力を確認できる意味でも、最高すぎる話でしたね。
無論みんなきららにとって大事な存在ではあるんだけど、『夜』という秘密の時間を共有できるルームメイト、マジ別格。


『天ノ川きららは、天ノ川きららである』
一見トートロジーにも聞こえるこの言葉にたどり着くことで、きららの物語は収まります。
『夢は自分自身だから、譲れない』というはるかの物語の結論を、今回のエピソードも共有していることを考えれば、モデルという夢に立ち戻る今回のお話が、ここに戻ってくるしか無いことは自明です。
第4話で天をまっすぐに指さし、『天ノ川きらら、ここにあり』と全宇宙に喝破したハンサムな女の子のお話が、その時は十分育っていなかった『優しさ』を抱えて戻ってくる。
非常に気持の良い収まり方だったと思います。

そしてこのアニメが夢を語るとき、夢の輝きだけではなく陰りもまた描く以上、『留学による離別』という結論が約束されたのは、とても真摯なことだと思います。
『夢はお前を孤独にする』とはクローズさんの呪いですが、今回きららが見せた決断の鮮やかさと、別れの予感を哀しみではなく戦いの決意で受け止めるはるかの表情を見ていると、その裏側にある祝福を感じざるを得ません。
頑固なきららが自分の夢に、自分自身に、秘められた真実に辿りつけたのは、一年間育んだ友情と、大切な自分を維持しつつ他人の夢のために戦った結果手に入れた『優しさ』があればこそです。
それは単純に物理的な距離が近ければ手に入るというものでもないし、離れてしまえば失われるものでもない。

『常に一緒にいる』というシンプルで癒着した答えから一歩、さらに踏み込んだ人間関係がラストの応答には込められていました。
この踏み込みもまたこのアニメが様々な局面で、様々な問に対して行ってきたものなわけで、集大成となるこの後半で更なる一歩を見せてくれたのは、本当に嬉しい。
ただ綺麗事として『離れても友達だよ』とか『夢のために離れていくことは喜ぶべきだよ』とか題目を並べるのではなく、離れるきららも残されるはるかも、離別の哀しみを胸に抱えつつ、笑顔を作って別れに備えている。
『傷つき倒れる弱い人間が決死に強がるからこそ、綺麗事はただの言葉を超えて物語の中で胸に届く』という描き方は、今回含めた天ノ川きららだけではなく、このアニメ全体を貫く人間理解だと思います。

というわけで、天ノ川きららの一年間を総決算する、見事なエピソードでした。
最高にかっこいい女の子が、かっこいいまま最高に優しい女の子にもなる。
このアニメの中できららが積み上げきたものを丁寧にまとめ上げた前後編であり、ほんとうに感謝しかない。
来週以降のみなみさんの結末、そしてこのアニメ自体の結末にも大きな期待と希望を抱く、最高で最後の個別回でした。