イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

プリパラ:第74話『紫京院ひびきの華麗なる日常』感想

性自認性役割に柔らかい仕草で切り込んでいく女児向けアニメ、今回はレオナとひびきメインのお話。
『肉体的性と反対の性的外見を選びとっている』という共通点を持つ二人の、何が同じで何が異なるかを追いかけることで、ひびきの掘り下げを行う回でした。
そふぃシオの天才コンビにモーションがかかったり、ふわりとの断絶が深まったり、メイン以外のお話も進む、かなりキッチリしたエピソードになりました。

男なのに女の格好をしているレオナを、このアニメは茶化さず進んできました。
レオナの性自認と振る舞いはそういうものとしてあるのであって、『それが普通』だとか『男なら』『女なら』という社会的スタンダードを押し付けたり、『普通』ではないレオナを飾り立てて笑いを取ったりとかは、一度もしていません。
そういう柔らかい扱いが僕はとても好きなのですが、今回のお話しの中で見せたレオナの立ち居振る舞いにも、その姿勢は継続されていました。

自分と似ているけど違う存在であるひびきのことを、レオナがより深く知りたくなるのは当然ですし、それはひびきをクローズアップするというお話しのタイミングにも合致している。
ひびきは『ただの嫌な悪役』からもう一歩踏み込んだ、顔と深みあるキャラクターとして掘り下げなければならず、そのためのツールとしてレオナの共感を使っていくのは、良い話運びだと思います。
そうしてひびきの内面に分け入った時強調されるのは、実は性自認と外見のねじれという共通点ではなく、むしろ差異点でした。

ドタバタと話が進んで、衣装と台本(両方社会によって強要される偽物)を与えられた二人は舞台に立つ。
リハーサルが進むうちに、まずひびきが台本を投げ捨て、レオナもそれに答える一連の流れは、二人が建前を捨てて本音で語るシーンなのだと分かりやすく示していて、キャラの素顔が見れる瞬間です。
『あるがまま』女の装いを選んでいるレオナに対し、ひびきは『世界はすべてが嘘と偽り』と嘯き、男の装いもまた作り上げた虚像でしかないことを告白する。
そこには自然さへの正反対の態度が横たわっていて、キャラ属性の共通点とは相反する、魂の色合いの違いが見て取れます。

ひびきが歪んだ虚偽性に支配された人格を持っているというのはふわりとの対話でも見えていて、ひびきはかつてふわりが憧れた完璧な王子をあえて演じてから、それが遊戯に過ぎなかったと投げ捨てる。
ふわりの真心を踏みにじるドン・ファンぶりはなかなかに憎らしいですが、ここでもひびきは自然であることを憎悪すらしていて、女心を弄ぶ王子という役割を演じているわけです。
王子・怪盗・アイドルと沢山の仮面を持っているひびきですが、そのどれも仮初のものでしかなく、彼女の本心がどこにあるのかは未だ見えないところです。
彼女が仮面をかぶる根源は即ち彼女自身の根源なので、分かってしまえば後は解決するだけとなるため、この段階で見えないのはむしろお話の運びが順調な証拠ですが。


ふわりの初恋を踏みにじった態度を見ていると、前回語り今回そふぃとシオンを惹きつけていたひびきの理想もまた、遊びでしか無い仮初のものかと疑いたくもなります。
しかしこれまでの行動を考えると、革命という彼女の目的とそこに掛ける思いはどうにも本物のようで、他の部分をどれだけ偽物で飾り立てていても、プリパラへの愛だけは自然なものだと思います。
というか、その前提がないとらぁら達と競い合う真剣味が一気に瓦解し、ひびきを相手取って展開してきた2期の物語全てが破綻するので、そこは本気でなければいけないでしょう。
つまりひびきの全てが偽物というわけではなく、自然で素直な核を虚飾で覆っている状態なのではないかというのが、今回までのエピソードを統合し、推測できるところです。

これまでの話の中でひびきの演技に生じた罅を見てみると、彼女は全てを相対化するシニカルな態度を取りつつ、その実真実性、自然さ、ナチュラルなものに惹かれていることが分かります。
ふわりにプリンセスの輝きを見てパルプスから釣れだしたのも、彼女のナチュラルさに惹かれてですし、『天才』にこだわり『努力の凡人』を嫌うのも、彼女の眼には努力が後付の虚栄に映るからでしょう。
語尾に弱いキャラ付けも、プリパラらしいネタ要素に満ちてはいますが、『普通なら』そんなことはしない不自然な要素を心底嫌っている表現なのかもしれません。
『あるがまま』であることをあざ笑い『世界はすべてが嘘と偽り』と嘯いた彼女はその実、猛烈に偽物を嫌っている。
となれば、何枚もの仮面を付け替えて世界を欺いている自分自身が、ひびきは一番嫌いなのかもしれません。
そう考えると、他のメンバーに比べ幼いからこそ偽りがなく、『あるがまま』の自分を常に表現しているらぁらを最大の敵と認めたのは、かなり論理的な帰結なのでしょう。

そんな捻れた魂の在り方に踏み込む権利が一番あるのは、やはり自分の『あるがまま』を信じて外付けのプリンセス・ロードを拒絶したふわりだと思います。
今回は手弱女のように寝込んでいましたが、持ち前のワイルドさを取り戻し、ひびきの仮面を全部ぶっ壊すロックな展開を期待せざるを得ません。
というか、このままだとまほちゃん絶対幸せじゃないので、ふわりには頑張っていただきたい。
ヴィクトリア朝の貴婦人よろしく、おとなしく寝てるようなタマじゃねぇだろアンタ……。


というわけで、レオナとふわりを鏡にしてひびきの内面が一つ見えてくる、良い掘り下げ回でした。
ふわりに見せたあくどさの仮面と同時に、彼女が主張する『選ばれた者達のステージ』の魅力もまた、シオンとそふぃのリアクションから見えました。
『敵に思えた存在が感性の鋭い味方を惹きつけることで、相手が持っているロジックと価値が身近に思えてくる』という話の構造、『ショービジネスにおける大衆性と唯一性の対立(と融和)』という焦点。
双方とも実はシンデレラガールズ二期で常務を使って見せようとしたテーマに大きく被っており、アイドルアニメというジャンルが自然発生させたシンクロニシティを、強く感じます。

プリパラポリスも解散しすっかり無罪放免となったまほちゃんですが、まだまだ明かされていない側面は多いです。
シオンとそふぃ、二人の天才が彼女の何に、何故引き寄せられるのかを次回掘り下げていくことで、彼女の持つ人格と物語は更に面白くなっていくでしょう。
ひびきにクローズアップし始めてからのプリパラは、物語的な軸が非常にはっきりしてきて、とても魅力的ですね。
……今回の収め方を見るだに、あじみ先生マジで賑やかしだったな……ただの賑やかしにしては毒がありすぎる、ステージ上のピエール瀧みたいな女だけどさ。