イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ルパン三世:第12話『イタリアの夢 後編』感想

リブートなったルパンも前半ラストエピソード、イタリアの夢の秘密が白日のもとに……晒されたと思ったらその裏に潜んでいた巨大な陰謀が見えてくるわ、ルパンは逮捕されるわでもう大変。
レベッカの虚飾を全て剥ぎ取り、過去の男を吹っ切らせて前半のお話をまとめると同時に、後半への大きな布石を張る展開でした。
こう言う感じでまとめつつ広げる手腕の巧みさは、いかにも2015っぽくて素敵だわ。

先週ルパン一味総出でワイワイしたお話だった分、今週はルパンとレベッカ、特にルパンから見たレベッカが主題となった、狭くて深いお話だったと思います。
スリルとアバンチュールを求めて繋がった仮初の結婚として始まったルパン&レベッカ夫妻ですが、幾度かの冒険を共にするうちに、心の奥底で繋がっていたというねじれが今回よく出ていました。
レベッカの心のなかにはずっと浦賀がいて、ルパンとの関係も『自由であれ』という浦賀の願い(もしくは呪い)の延長線上にある行動だったんですが、前回と今回でレベッカ周りの設定が全て公開され、ルパンが本腰を入れて解決に走り回ったおかげで、彼女を覆っていた虚飾は綺麗になくなりました。
化粧っ毛のない少女時代レベッカが今回公開されたのも、『浦賀が望んだように、自由で危険で軽やかでいなければいけない』という強迫観念からレベッカが開放されることを、ビジュアル的に先取りした演出だといえます。

クトゥルフ神話RPGのキーアイテムでもおかしくない超伝記アイテム『浦賀手稿』を解読することで、見るはずもない夢("ルパンVS複製人間"への華麗な目配せ!)を体験し、死人と話すルパン。
それは浦賀の記憶であると同時に、呪いを受ける前の少女レベッカの柔らかな姿でもあって、ルパンが撃たれ血を流し逮捕されてまで手に入れたかったお宝というのは、浦賀が死ぬ前の自然なレベッカそのものなわけです。
そしてその盗みは、『浦賀手稿』というヤバ過ぎるお宝をためらいもなく焼き払い、浦賀との約束を律儀に果たすことで成功する。
嘘の結婚から始まった関係はレベッカの過去を知り、死んだ恋敵の願いを誠実に果たすことで、レベッカが呪われていた過去を精算させ、今のルパンへと再出発させることになったわけです。


軽やかさのアイコンとして華麗にイタリアを走り回っていたルパンは、気付けば嘘の花嫁に本気になってロハで事件に首を突っ込み、暗号を解読し見ないはずの夢を見て、体を張って逮捕される。
そこにはもちろん『男は愛した女を体を張って守る』という記号論的なダンディズムに準じるスタイルがあるわけだけど、これまでのエピソードの中で騙したり騙されたり、守ったり敵になったりとドタバタしながら交流しあった、ルパンとレベッカの心の繋がりがある。
ルパンというスタイルの権化がその枠を踏み出し、血を流す一個人として事件に挑むのは稀有なことですから、一味は一歩引いてルパンの矜持と当事者性を守るわけですね。

ルパンは自分に課したルールに従ってワイフを守ると同時に、何がしかの繋がり(それが恋心なのか、泥棒同士の友情なのか判別しきれないのは豊かでよいです)に縋ってワリの合わないロハの仕事を完遂する。
そこに本音と建前の境界線は存在しないし、むしろ外見が内面と分離することのない一貫性こそが、ルパンのスタイルに血を通しているのだと、無様に逮捕されたルパンの姿は教えているように思います。
夢と夢が切れ目なく展開する『浦賀手稿』内部独特のつなぎ方は、夢から覚めてもずっと続いています。
それは多分、あくまでクールでスタイリッシュなルパン三世として事件を支配していたルパンが、今回に限っては血を流さざるをえない当事者性を持ってレベッカに相対したという事実、柔らかい中身を出さざるを得ないというか、スタイルを貫くことで内面が見えてくる切れ目のなさを、映像的に実感させる仕掛けだったように思うわけです。

ルパンにとってレベッカとの夫婦生活は高級な遊戯であって、分かっていて騙される小粋な夢なのだけれども、それは気付けば嘘や夢でありつつも譲ることの出来ない現実と化していた。
今回『浦賀手稿』というオカルティックな夢の内部で展開されていた不思議な空間は、同時にこれまで11話見せてくれた余裕のあるルパンが、切れ目なくいつの間にか本気になっている今回の展開そのものと重なり合っているように、僕には思えます。
世界最高の道化が泥棒芝居を維持しつつ、女のためにちらりほらりと仮面の下を見せる。
『お宝』のためでも『カワイコチャン』のためでもなく、『ルパンがルパンである』というトートロジーを維持するためでもなく、ただ少女のためにルパンが逮捕される。
1クール目の〆となる今回のエピソードに、そういう血肉の通ったお話を持ってきたのは、とても良かったと思います。


晴れて浦賀の呪いから開放されたレベッカですが、ただ現在に立ち戻ったのではなく、未来を感じさせる収め方だったのは彼女のファンとして嬉しい限りです。
ワインを巡る会話で彼女を縛り付ける記憶を表現しつつ、ルパンの無心の行動の結果そこから開放されたことを示すエンディングは、開放感があってとても良かった。
しかし彼女がそこにたどり着くためにルパンが支払った代償は大きいし、それを無視できるほどルパンとの関係が遊戯的なままではいられないということは、ルパンとの別れの時に見せた情の篭った貌からも分かります。
浦賀への恋からも、ルパンとの偽りの婚姻からも開放された彼女が、今回受けた恩義と新しく芽生えた恋心を第2クールで返してくれたら、本当に素晴らしいなぁ。

ニクス先生は『家族に手を出した奴絶対にぶっ殺すマシーン』と化し、しつこくルパンとレベッカに脅威を与えてくれました。
超聴覚に加えて完全記憶と心拍加速まで積んで、なかなかのインチキ性能が公開されていたわけですが、MI6に撃たれて一時退場……だよね?
ニクス先生はターミネーター役として説得力があるだけではなく、可愛げも人間味もあるいい敵役だと思うので、ここで退場ではなく第2クールでも顔を見せて欲しいものです。
MI6がモロに影人間の一部っぽいので、十分出番はあると思うけどね。

第1クールを引っ張った『イタリアの夢』の謎は全て公開されることはなく、その可能性と危険性、裏にいる影人間の存在を公開してまだまだ続く感じです。
浦賀手稿』内部の演出が不気味でサイケデリックに仕上がっていて、そのヤバさをいい具合に印象づけてくれたのは、とても良かったですね。
あの人智を超えた力は確かにヤバい連中が欲しがるだろうし、そういう大きな敵が動き出すことで、主人公ルパンが立ち向かうドラマの巨大さも胸躍る形で立ち上がってくるしね。
これまで見せてきた要素を収束させると同時に、新要素を拡大させた今回の話運びは、掛け値無しに素晴らしかったと思います。

最後の最後でとっつぁんが顔を出して、一応の決着をつける展開もペーソスがあってナイス。
護送されるパトカーの中での会話は、今回ルパンが奔走し敗北(?)した物語が何をテーマにしていたのか、短勁にまとめてくれていました。
ああいう会話が許されるのはやはり銭形とだけだろうし、敵であると同時に世界で一番執着し尊敬もしているルパンを、銭形がどう考えているかもよく分かる動きだった。
2015のとっつぁんはコミック・リリーフ的な仕事が少なく、かなりの敏腕捜査官として描かれているので、手早く推理をまとめMI6との取引も完遂してしまう手際の良さが、凄くかっこ良く見えたなぁ。
キャラの描き方がブレないってのは良いことだ。

というわけで、真相を暴いたら謎が広がり、追いかけっこは終わったけど敵は生き延び、女の子の愛は守ったけど逮捕されちゃったという、面白い第1クールラストエピソードでした。
話の折り返しとして満足度と期待感を両立させ、シリーズゲストであるレベッカの物語もしっかり完結させた、良い折り返しだったと思います。
僕はこのアニメでは特にレベッカを好きになっているので、彼女の物語にルパンが本気で向き合ってくれた今回のお話、凄く嬉しかったなぁ。

ルパン逮捕されちゃったけど、とっつぁんが付きっ切りで見てくれるらしいから安心やね……ホントとっつぁんはルパンが好きだな。
というわけで第2シリーズはルパン・イン・ジェイルなお話から開始ですが、どういう見せ方をしてくれるのか。
すげー楽しみであります……"脱獄のチャンスは一度"へのオマージュになるのかなぁ(ワクワク)。