イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

紅殻のパンドラ:第2話『大深度地下 -ジオフロント-』感想

テクノエイジの魔法少女物語、エピローグも終わりの第二話はほぼブエル攻略戦。
テクノなBGMが彩るふわっとしたアクション、ロボ少女が好き過ぎて頭がおかしい主人公少女、合間合間に挟まれるオールド・スクールなオーバーアクション。
かなりトンチキなかみ合わせをしつつも、なんだかとっても心地よい、ソリッドでソフトなサイバーアクション百合アニメであります。

先行劇場版上映はここまでだったらしく、確かに『世界平和の味方最初の事件』『愛しい人との出会いと、師匠との別れ』という、エピローグに必要な柱はしっかり回収している感じ。
やってることはドタバタと脂っこい六道ギャグを、アニメ独特の緩やかなテンポに落としこみつつ、合間合間で主人公がクラリオンLOVEを溢れあせているという、なんかゆるーい感じなんですけどね。
おそらく原作に存在するだろう強烈な主張を上手いとこ薄めて、独特の食べやすさとペースに書き換えているこの間合いは、なかなか面白い化学反応だと思います。

このゆるさは個人的感性にとても気持ちが良いんですが、エピローグの舞台になったジオフロントという閉鎖空間を出た後、主役になれない人たちが暮らす普通の世界が舞台になった時、どう描くかが気になる。
今ん所味の濃いトンチキ人間しかカメラに写ってないわけだけど、ブエルの大破壊が世界にどういう影響を及ぼしていて、それを『世界平和』を求めるネネとどうすり合わせていくかというところに、結構興味があります。
スーパー義体使いとして特権的な位置に置くのか、幸運にして自分は被害を免れた事件に当事者として関わっていくのか、結構シリアスさというか誠実さが問われるところだと思う。
ここら辺は今後の関心事項ですね。

サヘルの退場に関しては、クラリオンとネネを厳しい世間に追い出し、二人きりの特別な関係を強調するためにはまぁ打ってくる手だよね、と思いました。
あの人が生き残ってると、ちょっとアシスト過剰というか、『世界平和』を求める駆け出し義体使いとしてネネに振りかかるピンチが、弱まり過ぎちゃうわけで。
オマケにコード1つで行き方が切り替わっちゃうクラリオンにとって、マスター権限をネネ以外の人に握られてる状況は、主人公の唯一性から考えるとあんま美味しくないしね。
こういうふうに、クソレズがクソレズらしく振る舞えるよう話を転がしていくワリキリは、すっごい好き。


クソレズ言いましたけども、やっぱネネちゃんは男だ女だ以前に『新人類』でして、電脳義体技術によって人間の定義が変わり始めた時代の、人類定義を先んじる孤独な存在なわけです。
そんな彼女が初めてであった自分の同類が、偶然猫耳アンドロイドだったってだけでして、男と女が恋をし、セックスによって理解を深め世代を繋いでいくことが『ノーマル』な旧人類の価値観では、ちょっと判断しきれないセクシャル・アイデンティティを持ってるんじゃないかと思います。
幸か不幸か彼女は人類に同類がほぼおらず、しかし同時に灰白質にゴーストを宿した存在として半身を求め続ける乾きは人類と共通である。
この矛盾を埋めたのがネネの好みにどストライクな猫耳美少女だったというだけであり、この話で描かれている百合のスタイルって、相当にSFなんだと思います。
先行作で言うと、西UKOの"となりのロボット"が一番近いのかなぁ……もしくはタニス・リーの"銀色の恋人"やル=グィンの"闇の左手"といった、ジェンダーSFか。

根底に流れるシロマサ的SFマインドはさておき、料理の仕方はなかなかに今風でして、とにかく『クラリオンが好きッ!』という気持ちを包み隠さずドンドコぶつけ、土壇場にも飛び込んで行っちゃうネネくんの素直さは、見ていて気持ちが良いです。
クールなクラリオンがネネの『好き』に感化され、存在するはずのないプログラムを自分自身に付け加えていくところは、ピュグマリオン的というかピノキオ的というか、機械の幼い心が成長していく楽しさもあります。
彼女らはお互いの気持を電子の信号にして、余計な言葉≒ノイズを使わずとも直接交換できる初めての世代でもありまして、そういうスペシャルな恋愛模様をどう、オーソドックスな素直グイグイ×クールな恥ずかしがり屋のちょっと古臭い百合にすり合わせていくかってのも、個人的な興味の対象であります。

士郎正宗が想像した世界はこれまで、軍事や警察といった国家的暴力装置に組み込まれ、複層的価値観の間で悩んだり、強く自己主張したりするお話が多くアニメ化されてきました。
その複雑さが魅力でもあったわけですが、今回は単純な思考とそれが許される年齢の主人公が、シンプルな正義感でもって窮地を乗り越えていく、素直な『魔法少女レスキューもの』としてまとめられています。
ネネは超高度資本主義社会の矛盾をつきつけられたり、複数ある正義の間で自分の正義を見つけたりしなくても、『人命を助ける』『世界を平和にする』という単純で大事な目的に向かって、大好きなクラリオンと一緒に走っていく。
割りきったテーマ設定はしかし、これまで取られられなかったシロマサ世界のポジティブな楽観主義をお話しの真ん中に据えることを可能にする、面白い土台だと思います。
生半に『リアル』で『シリアス』な方向に引っ張っていくより、脳天気でゆるく楽しく、健気な女の子たちの新しい価値観発見を見守らせてもらえるこのアニメのスタンスは、新しくて『リアル』な何かを引っ張ってくるのかもなぁなどと、二話にして結構このアニメが好きになっている立場からは思いました。


そんなこんなで、初めての事件を解決して、猫耳美少女を手に入れ師匠的存在を失ったネネ。
五本足のクソコントロールユニットも手に入れたけどさ……あれ一応、グリモワールにおけるブエルの特徴を完璧に踏まえているところが最悪で最高だなって思います。
サヘルに託された『世界平和』を達成するために、ネネが今後どんな出会いを果たしていくのか。
毎回毎回猛スピードで叩きつけられる『クラリオンが好きッ!』という感情は、どこまで澄み渡って加速していくのか。
色々楽しみになる、七転福音最初の事件でした。