イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

僕だけがいない街:第7話『暴走』感想

時をかける正義の物語、今回は三度目の運命、二度目のリバイバル。
どん詰まりに追いつめられた現在からリバイバルが発動し、勝負の三周目に挑んだ悟は新しい仲間を手に入れ、より大胆でクリティカルな解決策に打って出る。
現代を放浪したことで手に入れた知識と覚悟を片手に、それでも読み切れない犯人の魔手相手に一体何が出来るのか。
わからないまま必死にあがく、体は10歳頭は29歳の勝負開始でございました。

正直な話、リバイバルを使ったやり直しはもう少し回数を踏むのかと思っていたのですが、二回で打ち止めってのはなかなかストイックだなと思います。
しかしこういうループもので回数を重ねるのは、努力しても努力しても妙手が打てず惨劇が防げない絶望から、倫理が摩耗し主人公を追い詰める展開に厚みを増すため。
既に十分以上に追いつめられた悟にとっては、回数ではなくそこに込められた覚悟こそ大事なのかもしれません。

回数を重ねなくても悟の倫理は一度加速し切り、自分が一番憎んでいたはずの犯人と同じ赤い目で、雛月の母親を殺そうとする。
これを止めてくれるのがケンヤでして、正義が不正義に堕落するのをしっかり止めてくれる辺り、仲間というのはありがたいものです。
腹を割って話しあい、頼れる相棒を得たのは相談できる相手がいるとか、手駒が増えるとか、知恵が借りられるといった実際的な手助けだけではなく、心理的に追い詰められ道を踏み外すのを止めてくれる、ストッパーとしての仕事が大事なのだろうなぁ。
新しい周回に入るなり『仲間』という前の周回ではなかった要素を登場させ、すぐさま活躍させる話運びは、無駄がなくて楽しいですね。

ケンヤという大人びていながらも、子供らしい実直さを残す少年が仲間になったことで、悟が抱え込んでいる正義の共感者が生まれ、自分たちの行動の是非を考えるシーンが多くなったのは、この集会の特長だと思います。
母殺しを止め雛月の悲劇を回避しようと戦う悟は立派な志を秘めた英雄なのですが、同時にその異能を人に言うことは出来ず、彼の正義を共有してくれる人はなかなか少なかった。
だからこそお母さんや愛梨といった理解者の存在が嬉しいわけですが、そこにケンヤという一緒に行動し、目的や事情を共有できる相棒が生まれた。
ケンヤは相棒であると同時に、悟に憧れる未成熟な英雄でもあるわけで、お互い支え支えられ、憧れ憧れられる間柄だからこそ、真正面から正義について語ることも出来る。
今後事件に勢いが増し、作品に緊張が目立ってくるとこういう話もしづらくなると思うので、このタイミングで悟が実行するべき正義がどういうものなのか、『雛月母の殺害』という不正義にあわや触れかけたことも含めて描写しに行ったのは、なかなか良かったです。


ケンヤという助力者が素早く合流してくれたおかげで、前回とはまた異なる展開が加速し、悟は雛月を『誘拐』することになる。
実質的には殺人犯からの保護を意味するこの行為を、『誘拐』と表現するセンスは、10歳の無力の中での必死のあがきを巧く表現していて、とても好きです。
『誘拐』の内実がどんなものなのか、秘密基地のワクワク感と温かいカップラーメンを美味く使って見せる演出が切れ味鋭く、これも良かった。
今回もエピソード内部での視聴者の気持ちの上げ下げが的確にコントロールされていて、『リバイバル発動→ケンヤ合流(上げ)→雛月母殺害未遂(下げ)→誘拐(上げ)→何者かの接触(下げ)』と、視聴者の心電図が激しく折れ曲がる良いサスペンスが展開されていました。
ここら辺はユウキさんとの会話シーンで刃物がクローズアップされたり、殺人未遂をしでかす悟の目が赤かったり、映像面での緊迫感の作り方と、セリフ含めた音の迫力が美味く相まって生まれていると思います。

というか、三話ぶりに摂取する幸せそうな雛月成分が脳みそにガツン!と効いて、幸せな気分になると同時に『ああ……悟がんばらんとイカン、このこ守るためにがんばらんと……』という気持ちになった。
やっぱ雛月は圧倒的なヒロイン力を秘めた良いキャラクターで、誘拐の時のリアクションも健気だし、秘密基地での暖かい感じもグッドだ。
あそこのババ抜きでジョーカーを美味く外し、キッチリ上がり切る演出は、『何かうまく行きそうだ、行ってくれ!』という期待感を煽る仕事をしっかりしていて、こういう暗喩の使い方が巧いアニメだということを思い出させてくれます。

そしてそういう気持ちを高めておいてからの、温かい秘密基地の空気をぶち破る不穏な存在の登場でヒキ。
真犯人の介入なのか、無関係な通りすがりなのか、はたまたお母さんに代表される協力者の登場なのか、色んなパターンで頭のなかがグルグルするように演出を組み合わせてあるからこそ、サスペンスとして機能するシーンだよなぁ。
元々感のいいお母さんがなんとなーく秘密基地に感づいてる気配をしっかり出していたり、抜け目がないね。
あと『雛月が登校していない』という情報を聞いた時の、先生のリアクションに漂う意味深な間な……わりとヒントの出し方が露骨だけど、アニメでミステリやるときはこんくらいの方がいいと思う。

というわけで、色々変化がありつつも、それが決定的なのか否かは判別しかねる、いいラスト・リバイバルの滑り出しでした。
色々納得しつつももどかしく、のめり込みつつも考えこんでしまう。
こういう矛盾した感覚を楽しみに変換できるのは、サスペンスとして仕上がってる証拠だなぁと思います。
久々に見た雛月はやっぱり素敵な子だったので、色々大変だろうが、どうにか幸せな結末にたどり着かせてあげて欲しい……。
サスペンスを盛り上げるテクニックに感心し、感情を揺さぶる手練手管に驚きつつも、やっぱりそういう『気持ち』に落ち着く熱を持っているところが、このアニメの強いところと思います。
良いアニメやな、本当に。