イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

影鰐 -KAGEWANI- 承:第12話『決戦』感想

人と獣の光と影が、輝く螺旋を織りなすノワール・アクション、最終決戦の二回目。
4話以降タメにタメたスタイリッシュパワーを全開放した番場先生と、強気→弱気→強気という心の折れ線グラフを激しく描くナギちゃん、夢の共闘回でございます。
このまま影鰐倒せそうなムード漂ってましたが、『まだまだ盛り上げるぞッ!』とばかりに解説ばっかしてた木村が脱いで、番場先生と同じ選ばれし者に大変身。
光の影鰐マンと闇の影鰐マンのラグナロクに向け、すげー盛り上がる回でした。

ホラーとは怪物との距離によって成立するものです。
怪物の能力が解らず、正体も名前も知らず、見えない・分からない状態が維持されることが恐怖を生み出すのならば、怪物の素性や能力が知れ渡ってしまえばホラーは成り立たない。
番場先生と影鰐が融合した一期最終回の時点で、影鰐はそのジャンルを変えざるを得なくなりました。

この悩みを『番場を寝かせたまま、話に出さない』とか『木村を第三の主人公にして、その仲間づくりをホラーとして見せる』とか、色んな手管で回避しつつ影鰐二期は進んできました。
そうしてもう一つ、『真っ向勝負のスタイリッシュアクションとして、番場宗介主役の話をやる』という方向性から出てきたのが、二期のライバルにしてヒロインであるナギちゃん。
奇獣絶対殺すマシーンとして物語に顔を出した彼女は、第8話でその過去と動機を明らかにし、前回スタイリッシュに戦って打ちのめされ、今回追い込まれて番場の背中を見て立ち上がる。

怪物と同じで、怪物を狩る側もその距離によって強さを成立させています。
影鰐が番場に近づき、素性を明らかにして『一方的に殺してくる存在』から『倒せる存在』に姿を変えたように、母を奪われ復讐を誓ったナギの過去が番場と視聴者に共有されることで、ナギもまた『一方的に倒してくる存在』から『顔があり、血を流し、分かり合える存在』に姿を変えた。
今回彼女の顔を隠していた覆面が影鰐の攻撃によって剥がされ、怯える素顔が顕になった演出は、彼女もまたホラーから別のジャンルへと姿を変えたのだと視聴者に見せる、鋭い演出でした。

7話もタメた番場先生のダークヒーロー力も凄いことになっており、ヘタレたナギちゃんを背中にかばい、一度は萎えた闘志と希望に火をつける、見事な戦いっぷり。
一言も喋らずただ戦ってるだけなんだけど、その勇姿が何よりも雄弁にナギちゃんに勇気を与える姿は、あまりにも完璧なダークヒーローだった。
奇獣変化も禁じられた力を使うことで人間性が削られてるのがビジュアル的に分かりやすいし、何より二段階変身はカッコイイからな……ベタで美味しいところをきっちり拾う、影鰐の強さがよく出てたとも思います。


そして頼もしい味方として二期を支えてきた木村が、その本分に立ち返ってラスボス化。
番場先生が喋んないんでいまいち分かりにくい状況を実況解説したり、スタイリッシュな脱ぎっぷりを披露したり、影鰐の力を取り込むことで番場先生の敵対者としての資格を高めたり、今回も最高の動きでした。
敵対者だったナギちゃんが番場の背中を支え、番場を支えてきた木村が敵対者になる入れ替わりはまさにクライマックスって感じで、スタイリッシュアクションに舵を切り替え、簡勁に物語を積み上げてきた成果を強く感じた。

影鰐が呪的兵器として生まれた『悪しき技術の集合体』である以上、同じ『悪しき技術の集合体』である猿楽、そのトップである木村が影鰐と同化するのは必然通り越して運命ですらあります。
己の利益のために過剰な力を開発し、暴走させ、全てを滅ぼしてしまう人間の愚かさを、木村の高慢な演説はよく表しています。
自分だけは使いこなせる、自分だけは無関係な場所にいられる。
そういう意識があればこそ、影鰐が引き起こした惨状を認識してなおそれを『試練』だと言い切れるわけで、毎回力を暴走させかかってる(そしてなんとかそれを制御している)番場先生とは、やっぱり正反対なわけですね。
番場先生には、木村が持ち得なかった『敬虔な恐怖(ホラー)』)があると言い換えてもいいかもしれん。

力に溺れる運動はナギちゃんにも共通していて、『奇獣殺しの刀』という新しい力に思い上がり、自分の起源であり母との絆である音叉を投げ捨て、力及ばず心をおられる流れは、見事な踊りっぷりでした。
木村より一足先に、ナギちゃんは力への過信が何に結びつくのか、『恐怖(ホラー)の不在』が『恐怖(ホラー)に対応できず、恐怖(ホラー)に飲み込まれる』という実演してくれたわけです。
そして影鰐という閉鎖空間に蔓延する恐怖から立ち上がり、己の起源を思い出し戦士としての矜持を取り戻すキッカケになったのは、ホラーアニメの主人公を務めていた番場宗介でした。

いつ奇獣に(そして自分自身の力に)食われてもおかしくない立場にい続けた、弱い番場先生だからこそ。
力と恐怖に飲み込まれず、それをより良い方向に使いこなす方法を求め、彷徨ってきた男だからこそ、復讐だけを求め戦ってきた女に、何かを守る戦いを思いださせることが出来る。
こういう基本的な構図がしっかりしていればこそ、今回のナギ&番場の背中合わせの共闘はしっかりアツいわけです。
マジでなー、コッチが『こういうところに欲しいなぁ……』と思っている所、ぜってぇ外さないからな影鰐……よく出来たアニメだ。


というわけで、『人の弱さ』から生まれた怪物が、愚かな人間に吸い込まれ人が怪物となるまでのお話でした。
番場先生が体現し、ナギちゃんが取り戻した『人であることの強さ』もしっかり演出されていて、非常にストレートでストロングなヒーロー物語だった。
これまでしっかり木村を描写してきたので、彼が怪物になる(である?)のには納得がいくし、愛着も湧いているので少しの哀切も感じるという、最高の塩梅だしな……。

来週はラストバトル三部作、ラストのラストです。
ショートホラーアニメの……否、アニメの傑作として走り続けてきたこのお話が、どのような終りを迎えるのか。
次回予告ページのキャスト欄にある『本間丈二:木村昴』の文字に、期待がはちきれんばかりですね……来るのか『影鰐マンVS影鰐マンVS影鰐マン -地下遺跡三大決戦-』が……。