イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

甘々と稲妻:第5話『お休みの日のとくべつドーナッツ』感想

日常ときどきメシ系アニメ、今週は不審者とドーナツとプリクラ。
出だしからしてしのぶちゃんとデートしてたり、目付きは悪いが人はいい八木さんが登場したり、外側に広がっていく話でした。
そのまま拡散していくのかなと思っていたら、ドーナツ作りは三人でやっていて、心地良い『日曜日の秘密基地』感覚は維持。
ここら辺のバランスが見事なお話でした。
あとつむぎの幼児っぷりが相変わらず愛おしい、棒みたいな足とか。

Aパートの主役を貼っていた八木さんは、小料理屋仲間にはいないタイプの、ぶっきらぼうで目付きの悪いオジサン。
しかしつむぎや先生を気にかけてくれている姿勢はことりちゃんと変わりがなくて、それは『コンビニのお菓子をつむぎに与える』という行動で表現されています。
公園でバクバク食べるシーンは、このお話が手間ひまかけた愛情家庭料理最優先主義ではなく、『気持ちがあればコンビニお菓子でも、特別なドーナツでも両方美味しいよ!』というラディカルな姿勢をとっているのが見て取れて、個人的には好きなシーンだ。

ことりは見知らぬ八木さんを警戒していますが、彼が一種の『異物』であることは、個人的には救いだなと思いました。
過去の事情を共有しておらず、歳も性別も異なることりちゃんには、つむぎを見て『どんどん大きくなるな』とも『母親に似てくるな』とも言うことは出来ない。
ことりにとっては一種のタブーである『母/妻の死』を八木さんはひょいと乗り越えて、別の角度から犬塚家と関わっていて、それは二人にとって必要で大事な関係でもあります。

おとさんが『ハメを外せ』ないように、どれだけ温かい関係であっても一人で担当できる領域というのは限られていて、それは神ならぬ人間の身には当然のことです。
だから色んな人が各々出来る範囲でお互いを支えあい、お互いの出来ることをしながら生き延びていくことが大事なのでしょう。
色んな人がいて、色んな繋がり方があるから、色んな感情を見せることが出来るありがたさ。
八木さんという『一緒に食事は作らない』友人が今回出てきたのは、そういう補い合いをサラッと見せてくれているようで、なかなか嬉しいものでした。

単純に、おとさんがタメ語で喋れる気楽な仲間がいてくれて嬉しかった、というのもある。
自虐混じりに本人が言っていたように、犬塚先生は誠実で真面目でハメの外し方がわからない男で、それはそれでありがたく尊いあり方なんだけども、見ていると『それだけじゃ疲れちまうだろう』と余計な心配もしてしまう。
つむぎを媒に、八木さんと先生が手を繋ぐシーンは『先生と生徒』であることりにはなかなか出来ないことであり、そういう相手がおとさんにも未だいると確認できたのは、なんだか気が楽になりました。


Bパートは毎度おなじみ小料理屋仲間の、まったり料理タイム。
発酵だけで二時間かける贅沢な時間の使い方で、自家製ドーナツを作って食べておりました。
Aパートでヤギさんとコンビニお菓子のありがたさを描いたので、Bパートはことりちゃんととくべつドーナツの価値を描くという、どっちかを貶めることのない共存共栄の見せ方が好き。
人間関係は誰かと手を繋いだら、もう一方の手を離さなければいけないゼロサム・ゲームではないわけで、開けた公園にも閉じた小料理屋にも両方良いところがあるという姿勢は、余裕があって好きです。

第1話から続く料理修行描写としてみると、一汁一菜をマスターし、変則的な料理もうまく行ったのでお菓子&揚げ物という、なかなかスマートな発達段階を踏んでいます。
これまで順当に巧く行ってたのが『失敗』するのも大事な要素で、例えばおとさんとつむぎの関係に見えるように、人間間違いもするけどそれを取り戻すことも出来るってのが、このアニメの基本的なスタンス。
ドーナツを揚げ残っても、二回目で成功すればいいし、そもそもみんなでやってれば失敗も楽しめる余裕がある。
一歩ずつ一歩ずつ、着実に人生の階段を登り下がりする様子を丁寧に描いているアニメで、『失敗』を肯定的に描けたのはとても良かったと思います。

ドーナツは手間がかかる割に腹にはたまらない、しかし心を強く潤す『甘いお菓子』です。
命を繋いでいくだけなら必要はないけれども、栄養摂取の外側にあるコミュニケーションと、人と人とのつながりを強烈に促す『料理という媒介』をメインに描いているこのお話を、一番良く表す食材かもしれません。
つむぎと先生とことりの関係も、幼児と先生と学生という形式だけを生きていくなら不必要なものかもしれないけど、そこに血潮を通し、健全に心を受け止め合う余裕を作りたければ、絶対に必要な『甘いお菓子』なのでしょう。

そうして考えると、つむぎが『難しい』と考えていたドーナツの位置づけを今回整えられたのは、母の死以来余裕のなかった犬塚家が小料理屋での憩いを経て、ようやく何らかの居場所を手に入れられた証明なのかもしれんね。
つむぎは頭が良くて優しい幼女なので、子供なりに状況を見て『あれはしちゃダメ』『これは我慢をしなきゃダメ』と自分を抑圧し続けているわけですが、それは同時に個性や欲求を抑えこむことでもあります。
料理を媒介に皆が繋がることで心に余裕が出来、少しずつ抑圧を外して『自分らしさ』をどこまで出して良いのか探ってきたつむぎが、心理的・社会的なコンフォータブル・ゾーンを見つけられた結果が、『ドーナツは特別なお菓子』という定義なのかなぁとか、今週は思った。

つむぎを抑えているタガが外れると、種々様々な幼児アーツが見られるので、幼児アーツ愛好家としては嬉しい限りだしな。
今週もインチキ瞑想とか、ぴぃぷぴぃぷうるさいアヒル靴とか、ぶっきらぼうな八木さんの優しい本質をしっかりわかって懐いているところとか、つむぎ描写が最高に最高でした。
おとさんの自虐にガッツリ噛みつくことりちゃんとか、八木さん相手に見せるおとさんの表情とか、毎回キャラクターの見知らぬ顔が見れるのは、このアニメを見る喜びの一つだね。


そんなわけで、要らないかもしれない手間をわざわざかけて、一つの体験を共有するお話でした。
効率よく人生を泳いでいくだけなら『甘いお菓子』はいらないんでしょうし、炭水化物と糖質と脂質の塊は体に良くないんでしょうが、『そういうのが美味しいし楽しいんだからしょうがねぇだろ!』という叫びがよく見える回でした。
そういう『甘くて特別なもの』を積み重ねて、犬塚親子と彼らを取り巻く人達がどういう日々を送るのか。
来週も、とっても楽しみです。