イマワノキワ

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機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ:第30話『アーブラウ防衛軍発足式典』感想

有頂天に飛び上がった足元では常に破滅が口を開けているスペースヤクザ野望篇、今週は地球の青い地獄。
宇宙での綱渡りをなんとか成功させたのもつかの間、地球支部の危うい面々が凄い勢いで死地に吸い込まれていくお話でした。
視聴者≒神の視点から見れば、一手ずつ段階を踏んで事態が悪化する様子は明瞭でも、八方塞がりの子供たちにとっては打てる手がなく、なんとも歯がゆい展開。
しかしその泥沼こそが鉄華団の子供たちと鉄血世界そのものが腰まではまり込んでいる、無知と謀略の地獄なのだと思い出させるエピソードでもありました。

というわけで、第26話でチョロっと顔を見せた段階できな臭かった地球支部、地獄開始と言った塩梅のスタートとなりました。
学のねぇクソガキを補助するはずのラディーチェが最初から裏切っていて、そこを抑えられるチャドは即座に行動不能、火星との距離はあまりに長く、周囲を取り巻く陰謀はあまりに大きい。
『殺し』以外に方法を知らないガキどもは爆発寸前で、やれることもやるべきことも見えない中、ひたすらタカキとアストンが死亡フラグを積み上げていく展開でしたね。

今回の負の方向にトントン拍子な展開は、ネームドメンバー総力戦で綱渡りを成功させた前回までのお話の陰画と言えます。
宇宙では無茶苦茶を通すブースターになってくれた『家族』へのこだわりは、身内の裏切りを疑えない呪いに変わってしまっているし、急成長の源泉だったオルガの無鉄砲さはガキどもに感染して、事態の解決(というか生存)よりも兄貴分のオトシマエつけるこだわりを産んでいるし、マクギリスと同じように手を結んだ蒔苗との関係が、地獄に足を縛り付ける枷になっている。
脱出口を見つけられないまま、動き出した大きな事態に巻き込まれ死地が迫る状況は、イケイケで進んできた鉄華団が払うべき負債そのものとも言えるでしょう。

状況が凄い勢いで地すべりを起こしていく今回は、視聴者に様々な『もし』を思い起こさせる展開に満ちていて、運命的な悲劇が盛り上がるために必要な仮想を巧く盛り上げていました。
『もし』ビスケットが生きていたら、本物の『家族』としてラディーチェの代わりに頭脳労働を担当し、この窮地を切り抜けられたかもしれないし、そもそも裏切りが発生していないかもしれない。
『もし』初手でチャドが生死不明の状態に追い込まれていなければ、頼れる兄貴分が状況をまとめて、本部との連絡を的確につけて統制も維持できたかもしれない。
色んな『もし』が頭に浮かびますが、それは全て現実にはならず、一期最終話で鉄華団の勇名を高めたアーブラウはガキ共の運命を乗せた難破船に変わっていってしまう。
そういう残酷さは、歪さと危うさを強調されてきた鉄華団を描くには必要なバランスでもあるので、心を痛めつつある種の覚悟が決まる描写でもあったと思います。

チャドが舞台から退場し、いきなり地球編の主役とガキ共の生存を背負わされたタカキは、頼りないなりによりよい未来にたどり着こうとする希望と、それが巧く行かなさそうな予感を兼ね備えていて、いい具合に不安定でした。
ヒロインであるアストンがまた、鉄華団の学のなさと攻撃性を煮詰めたような幼い猛獣でして、『その生き方じゃ、畳の上じゃ死ねないよなぁ……』と思わせるのに充分でね……。
通信機器の扱いという『未来への投資』を怠った結果、情報を裏切り者に握り込まれ打開策が潰れていく様子は、飯を温めて食う余裕もないオルガの姿と呼応していて、どうにも不穏ですね。
完全に未来を閉ざすのではなく、クーデリア先生周りの描写で『未来への投資』の大切さ、そこにある希望の光は小さく描いているあたり、やるせなさを加速させる手腕がうまいなと思います。

周囲の状況はあっという間に悪化し、情報収集や根回しより先に『殺し』が出て来るチンピラ集団には荷が重すぎる地獄が見えてきていますが、明弘たちがたどり着くまで生き延びることは出来るのかなぁ……。
『三週間』というリミットが絶妙で、頑張れば生き残れそうでもあるし、無残にぶっ殺されてもおかしくはない時間で、サスペンスを強めていますね。
一期ラストでは『あ、死ぬわ、全滅だわ』と予感させておいて結構な数生き残ったこのアニメ、今感じている破滅の予兆が現実になるかは明言できませんが、全滅でもおかしくないなと思える状況は現状、巧く作っているように感じますね。


そんな風に地球のネズミたちを追い込んでいる陰謀は、結構複層的な構造になっています。
火星との連絡、情報と方針の握り込みをラディーチェが担当しつつ、その裏にはガモンがいて、一切傷を負わない位置からラスタルが陰謀を張り巡らせているという絵は、いきなり混乱に投げ込まれた鉄華団たちが読み切るには、ちと複雑すぎますね。
火星側は『家族』の絆と才覚、善意の大人達を寄せ集めてギリギリ泳げている『嫉心』の波が、スケールを上げて体制の整わない地球支部に襲い掛かってきた感じというか。
こういう汚れた絵を書き直せる蒔苗も、チャドと一緒に舞台からおろしているあたり、制作サイドの『奴ら、とことん追い込む』というドス黒い意志を感じられて、容赦ないなと思います。

鉄華団の『家族』主義に従うふりをして、(おそらく)私欲のために動き回るラディーチェですが、裏にいるガモンとラスタルに良いように利用されて死にそうなオーラがムンムン出ており、鉄華団とどっちが先かな、というレベルです。
反抗的なアーブラウに一発入れつつ、調停役をマクギリスに押し付けて失点を稼ぎ、彼の協力者である鉄華団の壊滅もにらみつつ、マッチポンプで旧来のギャラルホルン支配の必要性を強調できる。
ラスタルが舞台裏から打った手は一石で何鳥も落とせる妙手であり、しかもそこで実際に血を流すのは鉄華団含めたアーブラウとSAUであり、自分の懐は痛まないあたり、腐敗したギャラルホルンで最大派閥を率いるだけある、流石の指し手ですね。

これに逆撃をぶち込むためには、『家族』の呪いを乗り越えて状況を把握し、血気にはやる鉄華団のガキ共の殺意を押さえ込みつつラディーチェを確保し、学の足りないメンツで情報をまとめて、ガモンからラスタルまで線を引いて、それを的確な手段で世界の公表する必要があるわけか……。
主力は火星にある状況で、国家間戦争を生き残りながら完走しなければいけないわけで、相当にキツいなぁコレ……やっぱ俺のビスケが死んだ時点で、相当に詰んでたな鉄華団


陰謀を張り巡らせつつ、もう一つの『家族』として複雑な顔を見せてきたのがアリアンロッド
一期ラストのマッキー大勝利体制に見事な横殴りを入れてきて、対抗勢力としての主張は充分、という感じです。
何かとイオクを挑発するジュリエッタの幼さと忠誠心は、ドブみたいな環境から引き上げてくれた過去が強く後を引いているわけで、ある意味鉄華団のガキの影とも言えるんでしょうね……頭の悪さひっくるめて。

そんなアリアンロッドに紛れ込んだ『新しい血』たるヴィダールさんは、もとの毛並みの良さを想像させるのんきな立ち姿でした。
アインくんよろしく人間性を喪失しているかと思ったけども、思いの外冷静かつ思慮深い感じがして、逆に今後どう動くのか読めなくなってきた。
マクギリスと直接対峙したときにキャラが大きく動くと思うけど、しばらくはアリアンロッド漫才に付き合う感じなのかねぇ。


というわけで、栄光の影に潜む破滅が牙をむき出しにしてくる、地獄開始回でした。
元々危うい綱渡りなので落ちていくのは当然とも思えるし、凶獣めいたガキ共が精一杯希望を探している様子も巧く描かれているし、光と影、謀略と愚昧、栄光と死がうまい具合に交錯し、サスペンスを高めてくれる回だったと思います。
火星と地球との距離、そこを埋める時間的制約、混乱する状況と不自由な情報、頼れるメンバーを表舞台から飛ばす手腕と、歯がゆさをどんどん積み上げる劇作が、なかなかに巧妙でしたね。

薄汚い大人の知略に巻き込まれ、動物のように爪と牙で足掻くしかない少年たち。
その未来に何が待っているのか、一切の楽観視を許さないハードな状況が今回描かれました。
待ち構えるのは希望が潰える絶滅の悲劇なのか、窮地が成長を促しての逆転劇なのか。
鉄血のオルフェンズ、いい具合に話を転がしてきたと思います。