イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

活撃/刀剣乱舞:第9話『元の主』感想

時逆の道は影小路、表に出れば歪み果てる。刀剣男士の宿命が軋む、活撃第九話です。
基本回を跨ぎテーマをじっくり煮込んで進めてきた活撃ですが、今回は投影から解決まで一話で終わる、シンプルで真っ直ぐなお話。
キャラクター描写も陸奥守を主役、坂本龍馬をヒロインにまとめ上げ、『元の主』と刀剣男士の難しい関係を、しっかり掘っていくお話となりました。
迷妄を振り払って終わったようでもあり、その光の中に暗雲を残しているようでもあり、なかなか複雑な味わいのあるエピソードでしたね。

というわけで、今回は俺達の陸奥守が主役。
ここまで展開してきた兼さんの迷い旅、の途中で支えたり突き放したり、大きな仕事を果たしてきた彼が主役となり、『自分』の話を一話やるのは、なかなか良いバランスだと思います。
主役として与えられた場面は慶應二年、寺田屋事件
坂本龍馬を活かすために、陰日向に伏見を走り回ることとなります。

今回のメインテーマはずばり、刀剣男士の超常性。
人間の姿を手に入れ、時間を飛び越える能力と使命を手に入れた彼らは、ただの刀剣でもなければ人間でもない、複雑怪奇な怪物です。
今回陸奥守は、坂本龍馬の差料たる『陸奥守吉行』でも、彼と対等に向かい合う『士』でもない、半端な存在として物語を駆けていきます。
物言わぬ守り刀として側にあり続けることも、同志として龍馬に寄り添うことも許されないまま、時間遡行軍の凶刃から歴史を守り続けなければいけない宿命。
龍馬と陸奥守に仮託して、刀剣男士のスタンダードを描く話だといえますか。

寺田屋から薩摩藩邸までの逃避行は、歴史に刻まれた史実です。
なので、龍馬のアクションは基本、人目のある大路で行われる。
これに対し、人目をはばかりながら小路で、あるいは屋根の上で、時間遡行軍を始末していく刀剣男士の戦いが、今回は非常に印象的でした。
兼さんと国広がコンビで切り捨てたシーンが、一番わかり易いかな。

今回に限らず、刀剣男士はよく屋根の上に登り、俯瞰で世界を見ます。
それは過去から未来に一方向に流れる歴史の川に逆らい、時間を遡行して歴史を守る刀剣男士の立場と、共通した視点です。
寺田屋事件では、坂本龍馬は死なずに逃げ延びる』という結果を既に知っていて、これを書き換えないため、時間遡行軍と戦う超越者。
同時に、敵を圧倒できるほど無敵でも、感情を切り捨てて器物に徹することが出来るほど非情でもない彼らは、人の営みに常に引き寄せられています。
高いところにいつつ、『命』の重力に支配された彼らが飛べる範囲は、せいぜい屋根の上まで、ということなのでしょう。


そういう少し遠く、暗い場所から歴史を守る刀剣男士には、一つの不文律があります。
元の主には接触しない。
それは審神者から矯正されたルールではなく、刀剣男子が戦いを続けるうちに生まれた、自主的な制約です。
ここら辺、先週第一部隊が己に課した『特別な一日』に通じるものがありますね。

何故そうなったか、というのは今週陸奥守が情感たっぷりに教えてくれるところで、運命を知り時を遡る刀剣男士の超常は、情一つで大きな破滅を呼んでしまうからです。
言葉を自由に発することも出来ない小路に追い込まれた後、その体温を感じられる距離で陸奥守は「どっか遠くへ、一緒に逃げようか」と口にする。
それは当然物理的な逃走ではなく、一年後に迫る確実な死から、運命を捻じ曲げて龍馬を救う旅路、ということである。
刀剣男士にはそういう超常的な力が備わっているし、もしそうしてしまえば、彼らは時間遡行軍になってしまいます。

結局陸奥守は歴史改変の誘惑に耐え、『主命』を守り死を約束された『生命』を守りきること、龍馬を表大路に開放することに成功します。
しかし、ただの器物ではもはやない(だから龍馬は、陸奥守の刃を見てもそれが愛刀だとは気づかない。未来からの遡行者である彼は、1913年の火災・再刃により『人相』が変わっている)刀剣男士には、力を行使し歴史を守る誘惑が、常に付きまとう。
それに抗うことが出来るかどうかは、単純に敵を倒す能力以上に、歴史の防人たる刀剣男士の重要な資質です。

例えば今回の事件が、『寺田屋事件』ではなく『近江屋事件』だったらどうか。
『龍馬の命を守りきれ』という使命は、『龍馬を見殺しにしろ』へと変わり、今回陸奥守がたどり着いた穏やかな諦観はやってきたのか。
今週も陸奥守は、龍馬の顔より先に流れる赤い血を視界に入れます。
目の前の『生命』を放っておけない、危うく純粋な想いが『使命』と衝突した時、陸奥守……のみならず、飯を食い息をして感情を揺らがせる刀剣男士たちは、危うい誘惑に晒されるわけです。
そういう危うさを承知の上で、一個人としての想いを縛り付けない審神者は優しいのか、甘いのか。
少し悩むところですね。


すべての事件が終わった後、黎明の伏見で龍馬と陸奥守は別れます。
龍馬の行く末は近江屋での暗殺、薄暗い闇が広がる方向へと進む背中を、穏やかに受け入れる陸奥守。
時間の流れから解き放たれ、超常の戦いをまだまだ続けなければいけない刀剣男士たちは、歴史の宿命に一旦背中を向け、光の方へと歩み出す。
しかし刀剣男子としての経験が浅い堀川は、闇の宿命をどうしても飲み込むことが出来ず、立ちすくむ。

その時彼は、『もし任務が箱館戦争であったら』を想像していたのだと思います。
もし今回の陸奥守と同じ立場で、『元の主』である土方歳三の死を前にした時、誘惑に勝てるのかという疑念が、国広の前には広がった。
主への強い思い、歴史に刻まれた逸話があればこそ、刀剣男士は人の姿を手に入れ、人間のとり方など相手にしないほどの超越的暴力を確保できている。
しかしそれは文字通りの諸刃の刃であり、想いが暴走し力の振るいどころを誤れば、歴史を踏みつけに想いを果たす怪物……時間遡行軍と同じ存在に成り果ててしまう。

思いと思いのぶつかり合いは、言い換えれば『元の主』と『今の主』との綱引きだともいえます。
『刀剣』としての過去生と、それを超越し『刀剣男士』となった今の生き様、どちらが重いのか。
陸奥守はもはや『坂本龍馬の佩刀』ではない自分を受け入れ、同時に『元の主』から『自分』を預かる一瞬の夢を果たし、『使命』を受け入れられました。
しかし、全ての刀剣男士がそうなのか。
船の上での作戦会議で見上げた空にも、任務を果たして広がる朝焼けにも、薄っすらと雲の立ち込める絵を持ってきている所を見ると、なかんか苦い余韻を残す話でもあった気がします。

陸奥守が過去の自分を思いきれたのは、最初の思いを翻し、龍馬と真っ向から語り合ったからでしょう。
流れる血をせき止め、『もう剣は握れない。やっとうは時代遅れと思っていたが、そうなってみれば半身をもがれた心地だ』という言葉をもらったことで、龍馬からの思い、龍馬への思いを確認する。
影から歴史を守る宿命だけを任じていれば、いつしか押さえつけた想いが誘惑に負け、道を過つのだとしたら。
ときには歴史の面に飛び出し、節度を持って刃と言葉を振るうことも、刀剣男士には必要なのかもしれません。
人でありながら、同時に器物でもある。
そういう矛盾した生き様をどう貫いていくかを、コンパクトに纏めたエピソードでした。


そんなわけでメインは陸奥守と龍馬の時を越えた純愛でしたが、第二部隊復帰戦としても面白かったと思います。
ここまで何もかも順当には行かず、色々曲がりくねった道を歩んできた第二部隊ですが、今回は兼さんの読みが外されることも、部隊内部でギクシャクすることも、勿論怪我人もなく任務を果たし終えました。
第6話・第8話で本丸に帰ってきて、刃を収めて色々悩んだ後の戦いなので、スムーズに終わってくれると迷った甲斐もあるものです。
兼さんが陸奥守を信じてゴールでどっしり待つ信頼感とか、敵の攻撃をすり上げ、あるいは懐に入って短刀の間合いで刺す薬研くんとか、なかなか良かった。
様々な苦闘を経て、第二部隊もチームとして、戦士個人として鍛えられているのだ、ということが、今回の(比較的)順調なミッション運営から見える感じですね。

仲間との対比という意味では、次回予告の鶴丸も興味深かったです。
坂本龍馬の佩刀』という一点で思いが固定されている陸奥守に対し、鶴丸国永は主を転々とし、それ故濃厚な思いを『元の主』には懐きにくい付喪神
そんな彼が陸奥守を『羨ましい』というのは、時間を超え人型を為した刀剣男士特有の感情のうねりで、興味深かったです。
ただただよく斬れるから刀剣男士なのではなく、己にないものを羨む複雑な感情を宿せるからこそ、刀剣男士なんだな、とか。
龍馬が『俺の半身』と断言するほど強い思いを受けたからこそ、付喪神になったんだろうな、とかね。

光と闇、流れる河、赤い血、俯瞰風景と、ここまで使ってきた演出言語が再話されているのも面白い。
統一したモチーフを幾度も使うことで、シリーズ全体に連続性が生まれ、奥行きも出てくると思います。
演出言語が共通していることで、描くものの軸がブレず、一つの強力なまとまりで持って各話を束ねることも可能になるわけだし。
そういう目線で見ると、やっぱ第7話の文法がかなり特殊で、いいアクセントになってんだな。


というわけで、陸奥守が主役を貰い、過去の因縁と今の使命、両方を堂々飲み込むお話でした。
僕は第2話で彼が『命を見捨てられない男なのだ』と鮮明に演出されて、物語に前のめりになった感じもあるので、主演を見事に果たしてくれて、とても良かったです。
ナイーブで優しい陸奥守が、龍馬への思いを戦いの中で昇華し、刀剣男士として『自分なりの答え』に近づけたことは、やっぱ良いことだと思います。
その先にまた、歴史の超越者としての重たい使命、割り切れない想いが立ちふさがるとしても。

寺田屋事件』という大きな波を乗り越え、頼もしい勇姿を見せてくれた第二部隊。
彼らを待ち受ける次の任務は何なのか、そこでは何が試され、鍛え上げられていくのか。
来週も非常に楽しみです。