ヴィンランド・サガを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月13日
『戦手柄を立てたら、もう一度決闘してやる』
アシェラッドの言葉に導かれるように、トルフィンは殺しに慣れていく。父を殺した存在とおなじになっていく。
その髪を櫛る母の手を引き裂いて、少年は波に乗る。諦めの波。暴力の波。
さぁ、ヴァイキングが来るぞ。
というわけで、南ブリテン地獄旅、ヴァイキングの政治利用とトルフィンの堕落、二つの角笛が静かに響き渡るエピソードである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月13日
すんごい濃厚な地獄っぷりで、『このお話作ってる人頭良くて性格悪いな…最高だな』と思った。暴力の最悪を描くためには、最悪の暴力を描ききらないとダメなんだよッ!
短髪のトルフィンは死体の丘を遠くに見て、ショックを受ける。臓物に嘔吐するのは、めの前の死体を同じ人間としてみているからだ。サルトル的実存の嘔吐、というとわざとらしさが過ぎるな。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月13日
しかし吐いた腹には、飯を詰めねばならない。
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獣のように、肉を貪る存在としてのヴァイキングは何度も顔を出す演出だ。力に満ちて男性的で、粗野で凶暴な異物。遠い海からやって来る収奪者。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月13日
アイスランド人トルフィンは、デーン人の粗暴には染まらんとばかりに、胡桃を割って腹を満たす。この段階では、あくまで草食なのだ。
アシェラッドは食って殺す動物と距離を取りつつ、今後訪れるだろう政治の季節に自分をどう置くか、しっかりと立ち回る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月13日
暴力装置も軍団に組み込まれれば、法の手先に早変わり。殺戮に貴賤の上下なし、ごろつきも使い方次第。私兵団の頭にしては、政情とニヒリズムに長けている。
ブリテン南岸は既に発火していて、のんきに報酬相談している間にイングランド兵が長弓を撃ってくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月13日
殺し殺され、また殺す。修羅の巷のルールはトルフィンを巻き込み、生き死にの際で仇に命を助けられる。
というか、殺す巻き添えに生かされる。
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アシェラッドの刃は、トールズのように鞘には収まらない。敵を貫き、トルフィンの体も傷つけて、殺るか殺られるかの鉄火場で道を切り開く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月13日
この炎の中に流れ着いてしまえば、不殺と平穏はあまりに贅沢。トルフィンは生父であるトールズの生き方ではなく、仇たるアシェラッドの刃に守られていく。
天国の聖人より身近な極悪人ってわけで、トルフィンはアシェラッドを殺すために、トールズを殺したのと同じルール、アシェラッドのルールに染まっていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月13日
仇であり、保護者であり、生き方を教える”父”でもある存在。アシェラッドとトルフィン、遠くのトールズの綱引きは、殺戮の方角に惹かれていく。
先週は兎しか殺せなかった短刀は、ついに人間の体に食い込み、父の遺品は血に塗れる。その殺戮はかなりの生々しさでしっかり描かれる。そこボヤかしてスペクタクルにしちゃったら、作品の核になる問いもボケるからな…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月13日
死の理不尽を前に、少年は叫ぶ
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後に”母”を戦場に巻き込んで、トルフィンはこのときと同じように大きく息を吸い…叫ばない。それが虚しい木霊に終わって、何も帰ってこないことをもう知っているからだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月13日
それでも初めて殺したこの時は、胸の高鳴りを吠えるしかない。
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トルフィンにとっては初めてでも、アシェラッドにとっては見慣れた雑音で、ひどくつまらなそうに咆哮を見ている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月13日
イングランドに駐留する内、トルフィンは殺しに慣れていく。ただ守られるだけのガキから、アシェラッドの背中を守るところまで殺しの技術を高めていく。
それが”冬”に起こるのが、僕は凄く悲しい。イングランドの雪は、故地たるアイスランドほど分厚くはない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月13日
しかしそれは故郷と同じ白さであり、トールズが死を賭してでも遠ざけたかった赤に、あっという間に染まっていく。
そうやって踏みつけるものの尊さを、トルフィンは見ない。見れない。
かくして立派な殺戮者となったトルフィンを、未だ戦争から遠い人々が受け止める。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月13日
かーちゃんの政治情勢分析はかなり当たっていて、腐してたエゼルレッド二世の称号は『無思慮王』『無策王』である。
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洗濯して、飯を食わす。ベットで眠らせ、髪を櫛る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月13日
遠い故郷に置き去りにしていたはずの、当たり前の平穏。あるいは末っ子のジョンが死んで、ヒビが入った幸福。
そういうモノを一瞬交流させつつも、侵略者と被害者の間に言葉は通じない。デリラのように櫛っても、幼いサムソンの剛力は緩まないのだ
カーチャンは『良いキリスト教徒』であるか否かで、王を判断している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月13日
ヴァイキング国家には未だ浸透していない教会の倫理と論理は、豊かなるイングランドでは一つの文化インフラとして機能している。
しかし、その穏やかな倫理は迫る暴力を前に、あまりに無力だ。
おそらくアシェラッド兵団が村を蹂躙した後、金髪の娘は犯され、売られ、あるいは殺されたのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月13日
当たり前の子供ではなく、仇敵の尖兵としてトルフィンを殺していれば、終劇は防げたかも知れない。
しかし”母”は末っ子があっけなく死んだ世界に、当たり前の救いがあると信じたかったのだ。
もしアイスランド人とイングランド人の間に、より深く判り合える共通言語(リンガ・フランカとしてのキリスト教)があったのなら、惨劇は防げたのだろうか?
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月13日
仮定に意味はない。キリスト教徒同士でも殺し合う事実は、後の歴史が証明するところである。
しかしそれでも、”もし”を考えたくもなる。
荒れ狂う暴風のように、絶対的な真理のように全てを蹂躙していくヴァイキングも、100年も立たず封建国家の成立、キリスト教圏の確立に飲まれて消えていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月13日
そして同時に、その無軌道な暴力は圧倒的にリアルで、抗いようのない巨大な波としてイングランドとトルフィンに押し寄せていく。
遠く1000年を隔てた神様視線なら、いつか終わると無責任に言える時代の波は、その只中に揉まれる存在にとってはあまりに巨大で、凶暴に過ぎる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月13日
言葉も通じない一瞬のふれあいじゃ、お互いの生き方を変えていくにはあまりにも弱くて、それでも、確かに一瞬それはあった。
なかなかに無残な話である。”母”の周辺を動物で埋めて、そこに確かに命があること、何処か故郷と似た匂いがすることを静かに見せているのも、最高に性格が悪い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月13日
大事だったからこそ、奪われて復讐を誓った。そういうモノを、トルフィンは諦め顔で踏みにじっていくのだ。ホント、バカ野郎…。
安らかな日々は武装した兵士の影によって、静かに奪われていく。死の気配は常に暗く、長い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月13日
それに飲み込まれて、トルフィンは刃に手をかける。”母”は己の思い出と、キリスト教徒としての無垢な願いを込めて、嘘で少年を隠す。
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トルフィンは無邪気な少年ジョンからが、アシェラッド兵団の一員へと顔を変え、明るい光に背中を向ける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月13日
仇にして仲間たちが待つ海岸線に立ち、家に火をかける。かつて砕かれて己を足止めし、父を殺したものへ。
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烈火と燃え盛るものを、自分の一部として取り入れていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月13日
アイスランドにいれば、トールズの庇護に守られていれば知らなくてすんだものを、トルフィンは飲み込まなければいけない。
復讐、憎悪、諦観、殺戮。全て、戦鬼が背中を向け、捨て去ったものだ。アシェラッドが腰までハマる地獄だ。
トルフィンは戦士として、向かい来る敵を手にかける。故郷を守りたい兵士を殺し、修羅の顔で吠える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月13日
その顔が、一瞬ジョンに戻る。自分を見つめる”母”を見つけても、刃は止まらず、血は流れる。死の波が、闇から押し寄せてくる。
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光に背中を向け家に火をかけた時。軍馬から伸びる長い影に飲み込まれた時。トルフィンは幼年期に背中を向け、殺すもの(父を奪ったもの、己の敵)と同質化している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月13日
ヴァイキングは炎を焚かず、闇の中から死を携えて村へ迫る。
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自分が引き寄せた巨大な波に飲み込まれて、”母”はその消滅をリアルに描かれることなく、消えていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月13日
それは彼女の甘さの敗北を、トルフィンが当たり前の人間として救済される可能性の消失を意味するのだろうか。
戦鬼の子は、父が背中を向けた戦鬼の生き方に、流されるまま、そして己の意志で飲まれる
消えた母の残影に、トルフィンは故郷を思う。姉、母、父。笑顔と平和。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月13日
それはあまりにも遠い。大きく息を吸って、もう吠えない。こんなもんさと、諦めて顔を上げて、何も見えない無明の中に、暴力の一団として身を投じる。
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こうして少年の髪は伸び、目はすさみ、殺しの技術が跳ね上がって、櫛はへし折られた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月13日
”母”が手を入れて真っ直ぐになった髪が、殺戮の軍団に飲まれる中で再び乱れ、櫛が踏み折られているのはあまりに痛ましい。
まぁ、そんなもんさ。
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戦場に櫛は不要。飾り気のない殺し殺されのリアル、肉を食って女を犯す生き方だけが、トルフィンを待ち構えている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月13日
その無間から抜け出す道が、果たしてあるのか。安易に”ある”とはけして言えない、重たく苦しい幼年期の終わりであった。
確かに流されている。だが、それは選んだ道でもあるのだ。
お話は常に”振り出しに戻る”ものだから、トールズが示した生き様にトルフィンも帰還するのだと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月13日
しかし未だ序盤なのに、積み上げた罪が重すぎる。今後アシェラッドを殺すべく、隣りにいるために積み上げる死体の重さを考えると、この主人公戻ってこれるのか…?
そんな疑問も湧き、生き死にと時代の理不尽、重たさにどっしり向き合う腰の強さも感じられるエピソードだった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月13日
こんだけの罪科を殺したての”ジャブ”として打ってくる以上、トルフィンの復讐行は相当に重たく、厳しいものになっていくのだろう。見る側も覚悟がいるが、面白い。やったろうじゃねぇか。
デーン朝成立に繋がる歴史的潮流も描かれ、そこで船を操る才能がアシェラッドにあることも見えてきた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月13日
殺戮の波、歴史の波。血に濡れた大嵐が少年の未来を揺らす。振り落とされないためには、波と同質化し、黒い死そのものになるしか無い。
そうやって諦めて、何が残る? 復讐か、はたまた憎悪か?
トルフィンがどんどん空っぽになるしか無い未来を暗示しつつ、その空白に何が詰め込まれていくかも気になる展開でした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月13日
かくして少年の時代が終わり、青年となるだろう戦士。デーン侵略の舳先に立ち、意志なき暴力装置は暴れまわる。血と鉄の嵐の先に、何が待つのか。
来週も楽しみですね。